暗殺メイドと希望の教室   作:暦月

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 今日この後にもう一本投稿する予定なので、そちらもお楽しみに。




(元)電脳少女はエンドのE組に希望の夢を見るか
暗殺の時間①


 

 

 

 それは突然だった。

 

 ある日、月の七割が消し飛んだ。

 

 

 その日は本当に何でもない一日で、今日も今日とて代わり映えのない生活を送るのだと誰しもが思っていた。

 それが突如として崩れ去り、テレビを中心に『もう三日月しか見られない』なんて文言が世界各地で飛び交い大混乱に陥った。

 

 だけど僕等が真の意味で事件に遭ったのは、それから程無くしてだった。

 

 

「初めまして。私が月を()った犯人です。君達の担任になったのでどうぞよろしく」

 

 

 先ず5,6か所ツッコませろ!! クラス全員がそう思った。

 

 政府の人間に銃を突き付けられながら教室に入ってきたのは、全身黄色で触手を何本も生やしたタコのような宇宙人だった。

 

 

「失礼な! 生まれも育ちも地球ですよ!」

 

 

 とは本人の弁だ。どこまでが真実かは分からないけど、その担任を名乗る不審者は来年には地球も()る予定だと言った。ふざけんな。

 

「防衛省の烏間だ。先ずはここからの話は国家機密だと理解頂きたい」

 

 色々と混乱に陥った僕等だったけど、謎生物の隣にいた男性がそう前置きしたことでクラスの大半が大事に巻き込まれたことを察した。

 

 

「単刀直入に言う。この生物を君たちに殺して欲しい!」

 

 

 そこから語られるのは嘘としか思えない荒唐無稽な話の数々。

 

 曰く、その触手から繰り出される最高速度は実にマッハ20。本気で逃げられたら世界各国の力を募ろうが何しようが、文字通り手も足も出ない。

 おまけに満月を三日月にしたパワーも健在らしく、その力を行使されたら地球と一緒に破滅の運命を辿るのだという。

 

 

「この事が知られたら世界中がパニックになる。そうなる前に秘密裏にコイツを殺さなければならない」

 

 

 つまりは――暗殺だ。

 

 

「だがコイツはとにかく速い。殺すどころか眉毛の手入れをされてる始末だ! 丁寧にな!」

 

 

 その言葉と共にナイフで斬り掛かるが、ターゲットは焦るどころか自前のエチケットセットまで使って烏間先生を軽くあしらった。

 その動きを誰一人として捉えられず、偶に残像が通り過ぎるのを眼で追うのもやっと。僕らはそこで漸く事の重大さと真実味を実感したんだ。

 

 

「ま、それでは面白くないのでね。私から国にある提案をしたのです」

「殺されるのはゴメンですが、椚ヶ丘(くぬぎがおか)中学校3年E組の担任ならやっていいと」

 

 何で!?

 

 またしてもクラス全員の声が揃ったのを横目に、烏間先生が流れに乗っかる形でそのまま話を引き継いだ。

 

 

「こいつの狙いは正直分からん。だが政府は君たち生徒に絶対危害を加えないことを条件にやむなく承諾した」

 

「理由は2つ。教師として毎日教室に来るのなら監視が出来るし、何より30人もの人間が至近距離からコイツを殺すチャンスを得られるのだ。これを利用しない手はない」

 

 

 こうして僕ら3ーEを巻き込んだ壮大な暗殺計画は、先生(ターゲット)生徒(殺し屋)という歪な二重関係を構築してのスタートとなった。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

「とは言ったものの、未だ攻略(暗殺)の糸口すら掴めないんだもんな~。いい加減何かあっても良いと思うんだけど」

 

「ま、そう簡単に行くわけ無いよね。そんなのあったら俺らが知るより先に国のトップが独占してるはずだもん。あ、でも渚君のノートなら一見の余地はあるかもね」

 

「あ、カルマ君」

 

 

 

 赤羽業。暴力事件を起こしこのE組へと落とされた生徒で、停学処分が明けて最近この暗殺教室へと加わってきた。

 僕とは3年間同じクラスで他の皆より一緒にいる時間こそ長かったが、何やかんやあり今では普通のクラスメイトという関係に落ち着いている。

 

 そんな彼が赤い髪を弾ませて僕と杉野の横から話に入り込んできた。

 

 

「カルマぁ、お前もBB弾集めるの手伝えよ。これ一時限目始まるまでに掃除しないといけないんだからな」

「ん~~良いよ。足の踏み場が出来たらね」

「それ片付け終わってるやつじゃん!」

 

 

 文句を垂れながら教室を片していくが、如何せん量が多くて進まない。

 床に散らばった対殺せんせー用の特殊弾の回収もそうだけど、それ以外にも予め避難させておいた物品を元の位置に戻したり、それでも被害を免れなかった掲示板のポスターや窓ガラスの修繕なんかを行わないといけない。

 

 

 

「大体今更クラスでの一斉射撃が通じるかっての。それ前にもやって失敗したじゃん」

「悪かったわねその時居なくて。でも本当に生物があんな速度で避けると思わないじゃない」

「それに今ので分かったこともあります。なので無駄にはしません、絶対に」

「おわッ、聞いてたのかよ歌舞谷! それに空…さん」

 

 

 

 予期せぬ返答に後ろを振り返ると、そこには腰に手を当てて呆れる眼鏡の少女と、大量の玉が入った袋を持つ白髪のクラスメイトがいた。

 

 

「へえ…具体的に何がどう分かったの?」

 

「殺せんせーはマッハ20を謳っていますが、先程のは精々が500~600㎞と本来の1/10にも達していません。私達や校舎が壊れないように敢えて抑えているのでしょうけど、であれば教室内での暗殺の成功率は外に比べてずっと高いように思われます」

 

 

 懐からスマホを取り出し、皆に見せる。画面には570㎞と表示されており、それが殺せんせーの叩き出した速度であることは前の台詞から何となく察した。

 

 

「ふ~ん。ちなみにその数値って正確なの? まさか無料アプリとかじゃないよね」

「それは間違いなく。確かな腕を持つ人に依頼しましたから」

「それも『バイト』とやらで得た人脈? まあ信用できるなら何でも良いけど」

 

 

 凄いなあ。これがあの浅野君も重宝したっていうメイド仕込みの行動力か。僕等とは見ている世界が違い過ぎる。

 

 

「私はこの結果を烏間先生に報告してきます。行きましょう、歌舞谷さん」

「もう待って空。半分持つよ」

「あっ、掃除……って全部終わってるか」

 

 

 気付けばここ以外の掃除は綺麗さっぱり終わっていた。僕らE組の校舎は本校舎と比ぶべくもない程ボロボロなのに、教室の角には塵一つ落ちてない。

 それが目を離した数秒の内に出来てしまうのだから、実は殺せんせーの関係者じゃないかとクラスの間で実しやかに囁かれているとか、いないとか。

 

 

「ねえ渚。あの空って子、もしかして今年希望ヶ峰学園に入学した平良茜さんの…」

「うん…妹だよ。多分茅野以外は皆知ってるんじゃないかな。本校舎にいる時から有名だったしね、彼女」

「やっぱり! 私ファンなんだよね!」

 

 

 茅野が一人盛り上がるが、実は僕も……いやクラスの殆どが同じ気持ちではないだろうか。

 

 希望ヶ峰学園。それは全国からあらゆる分野の超一流高校生を集めた政府公認の超特権的な学園で、各界――いや国の将来を担う〝希望〟を育て上げることを目的に創られた。

 この椚ヶ丘(くぬぎがおか)も中高一貫の学園の中では全国的な知名度を誇るが、希望ヶ峰学園はその比でなく、一部では希望ヶ峰学園を卒業すれば人生において成功したも同然…と語られるほど高いブランド力を持つ。

 

 

「料理、家事、掃除、経営に始まりあらゆるメイド業務で最高の域に達しているのは有名な話だよね。一度でいいからお世話されてみたいな~!」

 

 

 平良茜は、そこに『超高校級のメイド』として入学した新入生の一人だ。人好きする容姿と明るい性格も相まって、財閥間では神格化されているとの噂もある。

 そんなビッグネームの入学もあり、今年の希望ヶ峰学園新入生を紹介する特集では『超高校級のサッカー選手』と並んで他の入学生の倍近い反応が寄せられていた。

 

 

「あ、でも本人にその話はしない方がいいかも。2年の後半から度々電話で言い争ってる所を見たって人もいるし」

 

「そうなの? もしかしてE組(ここ)に落ちたのもそれが関係してるんじゃ」

 

 

 確かに。姉が優秀なのは勿論だけど、空さんも十分持っている(・・・・)側だ。

 

 僕らE組は、学校から差別を受けている。本校舎から離れた教室に隔離され、食堂も冷房すらない劣悪な環境がそれを物語っている。

 

 そんな差別を象徴するような旧校舎は、彼女が来てから変わった。

 

 元々殺せんせーが手入れしてたのを更に改良し、時代遅れの木造廊下は古臭い雰囲気を一変。木の温かさを残したままレトロな内装に仕上げ、照明すらなかった教室の天井にはLEDライトが取り付けられた。

 他にもトイレが和式から洋式に代わっていたり、何もなかった空き部屋が売店として利用され、彼女手製の――プロも顔負け――パンなんかが普通に売られていたりする。

 

 そんな大それたことをやってのける生徒が、特別な理由も無く落ちこぼれ扱いされるとは思えない。

 

 

「いや、多分歌舞谷さんを追って来ただけでしょ。あの二人、よく百合の花を咲かせてたとかで有名だったし」

「そうなのかカルマ!?」

「うわっ! 岡島君聞いてたの!?」

「アハハ、凄い喰いつきだったね」

 

 

 でも凄いなあ。友達を追ってE組(ここ)まで来ちゃうんだもん。

 

『エンドのE組』に落とされるのは、学校側から矯正が必要だと判断された生徒が大半を占める。そして、この進学校で落ちこぼれ(E組)認定を受けるとはつまり差別を受けるという事。

 それは次第に落ちた者の自己肯定感を薄れさせ、中にはカルマ君みたいに成績が優秀でも素行不良が問題で落とされた人が救済措置を掴めずE組に留まってた辺り、復帰条件を満たすのは容易なんてものじゃない。まあ彼の場合は戻らないだけだけど…。

 

 そして彼女もカルマ君同様、自分に向けられる差別や不利益を何とも思っていないんだろう。だって救済の手すら掴めない負い目を彼女からは感じない。

 

 しかし何故だろう。僕らが感じているものとは異なる負の感情……負い目とは別に、切羽詰まった様子が時々彼女から感じるのは。

 

 

 

 

 






 平良(たいら)(そら)

本作の主人公。椚ヶ丘中学校3-E 出席番号15
元A組の生徒で、生徒会長の浅野学秀を補佐していたが、親友の歌舞谷夜子がE組に落とされたのをきっかけに自身もE組へと転入した。
孤児院を抜け出して姉の平良茜と暮らしていたところ、空ろと再会。
その際に前世の記憶である“天啓”を授かってからは二人と距離を置いており、メイドで生計を立てながら現在は暗殺と学生も兼業して技術を磨いている。

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