暗殺メイドと希望の教室   作:暦月

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暗殺の時間②

 

 

 

「ねえ空。私達、本当にこんな所にいて良いのかな。もし万が一暗殺に成功したら人殺しになっちゃうんだよ?」

 

「それがここの流儀みたいですから。郷に入っては郷に傅けが私たち姉妹のモットーです。それに歌舞谷さんだって地球が無くなるのは嫌でしょう」

 

「それはそうだけど…」

 

「大丈夫です。依頼には最良の結果で応えるのがメイドの務めですから」

 

 

 

 渋る歌舞谷さんを宥めながら、先程回収した大袋と紅茶が乗ったトレーを持って職員室に入室します。

 

 中にはパソコンのキーボードを叩く烏間先生と、お菓子にティースタンドまで用意して出迎える殺せんせーがいました。

 

 

「殺せんせー。何度も言いましたように私の仕事を取るのは止めて下さい。生徒の自主性を重んじるのが貴方の教育モットーではなかったのですか」

 

「にゅや。そう言われましても、手入れとおもてなしは先生のアイデンティティと言うか…」

 

「はあ、分かりましたから席についてください」

 

 

 何故かお世話しようとする商売敵(ターゲット)に再三の苦言を呈しますが、相変わらずの煮え切らない返答に言っても無駄だなと自然と溜息が漏れます。

 それを見て殺せんせーがあたふたしますが、努めて無視を決め込みます。私の仕事を奪っているのは紛れもない事実なので。

 

 

「殺せんせーも大変ねぇ。この子こう見えて意外と頑固だから大変でしょう」

 

「いえいえ。ここまで自分の仕事に誇りを持てるのは大人でもそういません。空さんのような生徒を持てるのは教師として幸せな事です。勿論、歌舞谷さんも」

 

「そ、ありがと。社交辞令として受け取っておくわ」

 

「ヌルフフフフ。君もその年で達観してますねぇ」

 

 

 テーブルクロスを敷き、カップに紅茶を注ぎます。時間、温度、角度……うん、誤差は無しです。全員分を淹れ終わってからそれぞれにお出しし、それから壁まで下がって皆さんが飲み終わるのを待ちます。

 

 

「う~~ん」

 

「どうしたそんなに唸って」

 

「いえね、生徒にお茶を頂くのは未だしも、空さんが立っていて私だけ座っている状況がどうにも落ち着かないと言うか。こういうのに慣れてなくて」

 

「慣れろ。俺だって同じ気持ちなのを我慢してるんだ」

 

 

 これは困りました。経験が浅い故、こういった不満に対する模範的な対応というが分かりません。今までお仕えしてきた方々はそれを当然と受け止めていたので、その辺の配慮にまで頭が回りませんでした。

 

 どうしましょう。こういう時姉さんなら…

 

 

「おや。そんなことを言ってたら全部飲み干してしまいました。空さん、お代わりを頂けますか」

 

「…――あ、はい。少々お待ちを」

 

「その割にはこの状況を楽しんでるよね」

 

「全くだ」

 

 

 煩くない程度に行動を急ぎ、ティーポットを持って標的に近付きます。

 右手でお茶を淹れ、左手に持ったトレーの下から銃口を覗かせて、撃つ。至近距離から発射された弾丸はフォークの先端部分に突き刺さり、殺せんせーを暗殺から守ります。………え?

 

 

「おやおや、反応が鈍いですねぇ。先生の言葉に一瞬迷ったでしょう。再び声を掛けた時、咄嗟とはいえ銃に目線をやったのは悪手でした」

 

「くっ…!」

 

「しかしそれ以外はパーフェクト! 殺気の消し方から音の出ない取り出し方までその殆どが高水準。たった数日でここまで来れたのは貴女が初めてです」

 

 

 気付かれ(バレ)た、失敗した! つまらないミスで暗殺の機会を逃した。メイドとして恥ずべき失態、姉さんなら絶対に間違えなかったのに。姉さんなら……

 

 

「まだだよ空! こうなったら私も覚悟決めるんだからね!」

「まだ君が残してくれた仕掛けがある。気は抜くな!」

 

「歌舞谷さん、烏間先生……」

 

 

 歌舞谷さんが椅子の横に置いていた大袋の中身をひっくり返し、対先生用の特殊弾を床にばら撒きます。

 烏間先生も懐からスイッチを取り出すと、それを勢いよく押しました。すると窓の上からシャッターが下りてくるのと同時に、入り口の扉がガチャリと音を立てて閉まります。

 

 

「成る程、逃げ道を絶たれましたか。校舎を手入れしながら暗殺の舞台まで作ってしまうとは先生驚きです」

 

「……この程度は当然です。何時いかなる時も最高のおもてなしを提供するのが、私の理想とするメイドそのもの」

 

「素晴らしい! 自分の得意な分野で勝負する。暗殺者にとって基本中の基本です」

 

 

 抱きついて身動きを制限しようと試みますが、その前にテーブルの上に逃げられてしまいました。……ちゃっかりスタンドやテーブルクロスを片付けてから避難しているのを見るにまだ余裕があるのでしょう。

 

 

「それで…ここからどうしますか? 行儀は悪いですがテーブルの上でも先生は逃げきれちゃいます。もたもたしてたら授業に遅れてしまうので多少強引な手も厭いませんよ」

 

「ええ分かっています。ここはHRの反省も踏まえ、私と歌舞谷さんで更に逃げ道を塞ぎます」

 

 

 殺せんせーは先程、自分に向けられた弾幕の隙間を通って避けました。

 

 これで全員が先生を狙っていたのでは狙いが一点に絞られてしまい逆に避けやすくなると気付いた私は、お茶を淹れて下がったタイミングで烏間先生にメールを送り、急遽撃ち方の変更を通達したのです。

 

 

「君たちは奴の両サイドを狙ってくれ。後は俺がナイフで仕留める」

「成程、実に合理的だ。でもそれで私を追い込んだつもりですか烏間先生」

「……戯言に付き合うつもりは無い。いくぞ二人とも」

 

 

 黄色と緑の横縞模様。あれは確かナメている時の顔でしたっけ。一体どうやったらそんな風に顔の模様を変えられるのか凄く気になりますが、今は目の前のターゲットに集中しましょう。

 

 

「さあ、大詰めですよ」

「う、うん…」

 

「俺のタイミングに合わせてくれ。1,2の……さんッ!」

 

 

パン! パン!パン!

 パン!

 

 

(――ッ、発射ズレた)

(ヤバっ、ミスった!)

 

「上出来だ。後は任せろ」

 

 

 

 殺せんせーの右側を塞ぐ歌舞谷さんの銃弾が遅れて発射された。ですが烏間先生は音でそれをキャッチすると、0.1秒にも満たない時間の中微妙な進路変更を重ね、遂にターゲットの懐まで潜ることに成功します。

 後は手に持ったナイフを振り上げればいいだけ。私ですら眼で追うのもやっとの一撃を繰り出し、殺せんせーの注意を烏間先生一人に集めることに成功します。

 

 ようやくだ。ようやくここまで来た。

 

 

(後は頼みましたよ殺し屋さん(マスター))

 

 パシュッ

 

 接触の直前、乾いた音が天井(・・)から発せられた。今回の依頼主様は完璧なお膳立てを所望されたため、それに応えるべくこのようなシチュエーションをセッティングしました。

 

 ターゲットを机に乗せ天上との距離を限りなく近くし、尚且つ簡単には地面に戻れない環境を整えた上で前方に注意を引き付ける。

 部屋を密室にしたのは逃げられなくする他に、私達以外の第三者による奇襲から思考を遠ざける心理誘導を掛けたかったから。

 

 

 そして現に今、私は依頼通りの環境を作り殺せんせー暗殺の任を見事果たしたn「残念惜しかったですねぇ」……え?

 

 

「これだけ密室の状況を作れば先生だけでなく皆さんにも制限は課される。例えば生徒を巻き込まないために平面上からの射撃は出来ない、とかね」

 

「あ――ッ、私のトレー。いつの間に」

 

「素敵なお盆ですね。君のプロとしてのこだわりが十分感じられます」

 

 

 そんな、まさか自前の道具で防がれるなんて。それよりも今の口ぶりからだと天井からの奇襲が分かっていたように聞こえる。一体どこで見抜かれたッ

 

 

「お前気付いていたのか…!」

 

「ヌルフフフフ。正面から挑んできた時点でナイフ以外(・・・・・)のあらゆる暗殺を警戒してましたよ。私に聞こえるように指示を出したのも、本当は裏に隠れている殺し屋への合図だったのでしょう」

 

 

 触手に捕まった烏間先生を解放しながら目の前の教師は今回の暗殺を合格と評しました。よく言いますね。何もかもお見通しだったくせに。

 

 

「ささ、歌舞谷さんは早く戻って授業の準備を。空さんも上の方と話したらすぐ授業に参加してください」

「は、はい。ほら行こ、空」

「……分かりました」

 

 

 結局のところ依頼(暗殺)は達成できず、私のE組での初仕事は苦い結果に終わりました。

 ですがマスターは私を責めることなく、逆に此方を労ってくれました。……なぜ?

 

 

「嬢ちゃん、アンタこの仕事(暗殺)初めてだろ」

 

「そうですが」

 

「それでこんだけ出来たら完璧だ。素人のサポートを雇った時は自分でも血迷ったと思ったが、あそこまでお膳立てされて対象を殺せないんじゃ自分の腕を疑うしかねえ」

 

 

 結構……いやかなりショックだったぜ。暗殺稼業を始めて八年、培ってきたプライドがズタズタだ。

 

 

「私も……」

 

「おっと勘違いするなよ? 確かに仕事を失敗したのもそうだが、俺がショックを受けたのはアンタにだぜ。嫉妬してると言ってもいい」

 

「え…?」

 

 

 なぜ自分に…。彼は殺し屋で私はメイド。そもそも立っている場所が違う。

 

 

「これまでの暗殺人数(スコア)は35人。それも全員一撃でだ。自慢じゃねえが俺のスコープに標的に血が映らなかったことはねえ」

 

 いや…ここでそれを持ち出すあたり無意識に驕ってたのかもな。

 

「とにかく、そんな俺が仕事のクオリティで負けたんだ。一回りも年下の嬢ちゃんにだぞ。暗殺者として未熟なのを痛感させられちまった」

 

 

 そんな事はない。未熟なのは私だ。『超高校級のメイド』の才能を有していながら、それを十全に発揮できない我が身をどうして非才だと思えるのでしょうか。

 

 

「あまり思い悩むなよ。仕事も良いが青春を疎かにしちゃいけねえ。今が一番楽しい時期だろうしな」

 

 

 焦るなと言われたって無理です。ここがダンガンロンパの世界である以上、殺せんせーを暗殺できたとしても物語は終わらない。

 

 黒幕が、『超高校級の絶望』が世界を終わりへと導くでしょう。その中には唯一の肉親である姉も加担している。

 あの人を絶望に落とす訳には行かない。コロシアイの首謀者なんかにさせてなるものか。

 

 だから、そうなる前に私が――平良茜を殺さないと

 

 

「それじゃあな。近いうちにまた会おうぜ」

 

 

 そう言ってマスターは私との契約を終え、ただの殺し屋と学生の関係に戻った。力無くも何か吹っ切れたような背中を見送った後、私は頭を整理しながらゆっくり時間をかけて教室へと向かう。

 

 

「トータルリザルトは良。加算されたSP(スキルポイント)は8点。新たに得たスキルは無しと。やはり最初の暗殺でもたついたのが大きいのか。でも一回のサポートでここまでSPが上がる事なんて今までなかった。という事はこれもイベント扱いということですか…」

 

「こらこら。考えながら歩いてると危ないですよ」

 

「……殺せんせー、授業はもう始まってますよね。サボりですか」

 

「お迎えに上がりました。烏間先生が雇ったとは言え、彼も暗殺者ですからねぇ。それと…教室に分身を置いてあるのでサボりではありません」

 

 

 それにしてもE組(うち)の先生はよく分からない。見た目宇宙人ですし、そのくせ教師をやっているとか意味が分かりません。何より存在が規格外です。

 原作にこんなのはいなかった筈ですが、もしや前世での死後に続編でも出たのでしょうか。それにしてもジャンルが変わり過ぎてるような……

 

 

「それと空さん、最後に一つだけ」

 

「……何でしょうか」

 

「君の仕事は素晴らしいものでした。先生は今後この校舎には一切手を加えませんので、思う存分腕を振る(改造しちゃ)ってください。勿論、壊れない範囲でね」

 

「……それが依頼とあらば、謹んでお受けします」

 

 

 でもまあ、嫌な感じはしないので暫くは様子見ですね。この謎生物こと殺せんせーは、どうやら殺意さえも受け止めてくれるようですし。

 

 

「殺せんせー。いずれ『超高校級のメイド(この才能)』を使いこなせるようになって貴方を殺しますから、それまで待っててくださいね」

 

「ヌルフフフフ。出来ると良いですねぇ、卒業までに」

 

 

 私はメイド…兼暗殺者。標的(ターゲット)は先生。

 

 日常を告げる始業のベルが、今日も鳴る。

 

 

 

 






 E—15 平良空

〇誕生日……8月15日
〇身長………167㎝
〇体重………48㎏
〇得意科目…家庭科、社会(日本史を除く)
〇苦手科目…保健
〇趣味特技…家事全般、骨董品鑑賞
〇将来の夢…来年に文明が残ってたら考える。

〇イメージカラー………透明
〇百億円獲得出来たら…いつもと変わらない。


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