Ace Combat ~INFINITE STRATOS~ 作:QAAM_M1911
「ケストレルが、沈みます……」
「……負け続けの私だが、今度は私の勝ちだ。」
「……え?」
「見たまえ、彼らは無事に飛び立った。それが私の勝利だ。彼らが空中にある限り、私の負けはない。そして、彼らならやってのけるだろう。」
洋上の救命ボートで、アンダーセン艦長はそう言い放った。アメリカとロシアの間に渦巻く陰謀。それを阻止するために、官邸へと飛んだ両国の首相。東へと飛んだ4機の戦闘機。潜水艦からの攻撃を受け、沈みゆくケストレルは、確かに役目を果たしたのだ。
「……あれから、5年。世界は、変わってしまいましたよ。アンダーセン艦長。」
墓石に花束を手向けに来た男が、そう愚痴を溢した。
インフィニットストラトス。通称IS。このパワーローダーが発表されてから、世界は変わってしまった。軍事的価値を白騎士事件から見出した各国がこぞってISを欲する様になり、それを嫌った開発者・篠ノ之束は雲隠れした。
表立った戦闘はないものの、ISにより機甲師団、空軍、歩兵隊……戦場のすべてが変わった。全世界を巻き込んだ様な冷戦が続く。いつも通り腹の探り合いをしてるだけ、まだマシとでも言おうか。
勿論災害やテロの救出活動という分野にはISは向かない為、そちらの方面は衰退はしていない。だが、銃火器、戦闘機、戦車、装甲車両……ほとんどの既存兵器の更新が行われていない。たまにあってもマイナーチェンジに留まる。最強でアップデートの出来るM1エイブラムスも4年前の更新が最後、制式採用が予定されていたXM5アサルトライフルの開発も予算を持って行かれて滞っている始末だ。
「……それで、あなたはどうしたいのですか?」
「勿論、この状況をなんとか打破したいものだ。」
「あなたなら、今でも影響があると思いますがね。ハーリング元大統領。」
三人が座るテーブルで、カップを置いたハーリングが首を横に振る。大統領任期が終わっても、第二の冷戦を未然に防いだハーリング、そしてロシアの元首相ニカノール両名の人気と名声は依然として高い。
これが如何に異常であるかは、今の世間を取り巻く世論が証明しているであろう。そもそも、インフィニットストラトスというパワーローダーは女性にしか扱えない。その代わりに全ての兵器の概念をひっくり返す様な機動力、耐久力を有する。また、人型であるのも感覚拡張で慣熟したパイロットの技量を青天井にするという有益性を持つ。故に今の世間では女尊男卑の風潮が蔓延っている。そんな世情の中で、2人の男が大国で支持を受けているのだ。
「今や国連は女性連合に骨抜き、というより急速に拡大した
「しかし、環太平洋紛争の英雄であるあなたであれば……いえ、もう既に、ですか。」
「ジュネット君、オーストラリアの紛争も経て読みが鋭くなったじゃないか。そう、既に戦闘機や戦車の時代は終わってしまったのだよ。」
そう言うのは、禿げあがった頭に目の行くおやじさん……と言うのは通称で、ピーター・N・ビーグル。御年46歳だ。環太平洋紛争で“彼ら”と共にアメリカ軍を一時脱出、アンダーセン艦長と共に紛争を未然に防ぐ力添えをしたのだ。本名はウォルフガング・ブフナー。冷戦の一環で東西ドイツで争った通称“ベルカ内戦”に従軍。東ドイツに与したベルカという党の貴族の息子……だったのだが、核投下の命令を拒否。そのまま亡命してアメリカへと渡った。
「では、彼らも……」
「彼らも、表の英雄である
「ISの絶対性。」
「そうだ。私はね、直ぐに第三次世界大戦が開幕すると考えているよ。」
「……そうですね。ユージア連合の事もあります。」
ユージア連合。太平洋のド真ん中に位置するユージア大陸にて発足した多数の小国がエルジア王国を中心として発足した国。エルジアの王家は存続しているが、基本的に政治は行わない……日本の天皇の様な役割を担っている。また、集結した小国の中にも王国はいくつか存在している。それらは纏めて“ユージア王族分家”の一つとして皇族の中へと統合された。無論、王位継承権はエルジア本家が一位だ。
そして、この国についてもう一つ説明せねばならない事がある。散々ISが有利だとか、現代兵器とは一線を画すと言ったものの……ISが現代兵器に敗れた事例がいくつかある。それらすべてが、ユージアの手により撃墜されているのだ。
「ジュネット君、一度ユージアに飛んでみないかね?」
「ユージアに、ですか?」
「何故彼らはISを持たないのか、実のところ退役軍人である私にも分かっていない。無論、セキュリティ関連は承知しているとも。だがセキュリティが危ういのは他国とて同じだ。寧ろそれまでの被害と、不明瞭な動力からして、自爆による影響なども考えれば導入してもおかしくはないはずだ。」
「彼らには類稀なる技術開発力がある、と言えばそれまでではあるが……ジュネット君、私は一度ユージアに訪問した事があるのは知っているね?」
「えぇ。環太平洋紛争の復興への感謝訪問でしたね。」
「IS関連のゴタゴタで様々なスケジュール調整が必要だったのを思い出すよ。それは置いておいて……そこで私は、異常に気付いたんだよ。」
ハーリングの鞄から出されるタブレット。スライドされる写真にはシークレットサービスも何も言わない。彼らは全てハーリングの腹心である。盲目的な信仰ではなく、普段から腹を割って話す様な友人たちだ。互いに互いを支え合う、理想的な上下関係である……と評価できる。
「……これは凄い。」
「
「日本のものは完成していなかったのではなかったかな?だとするとどこから輸入したのか……いや、ラプターもターミネーターも輸出などしていない筈だね。」
「我が国ではラプターの撃破は確認されていない。つまり、どこからか情報が漏れているか……完全にフィーリングによる製作か。もし後者であれば、末恐ろしい事だ。」
各国戦闘機のフィーリングによる模作……特にASF-Xという未だ開発されている戦闘機がロールアウトしている事が事実だとすれば、ほぼ現代兵器のすべてが彼らによって“模倣”される。これが知れ渡っているのだとしたら、益々IS産業は活発になる事だろう。
「何せ、彼らに今足りていないものは兵士とIS。ISは彼らが欲していないから良いとして、兵士不足は重大な事だよ。」
「ISは兵器として換算するのなら戦闘機が十機居てお釣りが来るレベルです。“彼ら”でも同じ数を相手にするのは手こずるでしょうな。」
「……質で劣るなら、数でカバーする。」
「そう。兵士が居なければそれが出来ないのだよ。故にユージアは兵力を拡大したい。だが急に兵力を拡大すれば他国から睨まれる。半端な数の徴兵では太刀打ちなど出来ないだろうな。」
「ですが、現状ユージアは徴兵を活発にしています。その為アメリカのみならずロシア、イギリス、日本も睨みをきかせている状況です。何か策でも……?」
「それを調べて来てほしい、と言うのが私からのお願いだよ。」
「……無茶を仰る。」
「無論、危なくなったら逃げて来たまえ。だが……この一文を見たまえ。」
ユージアの発信する徴兵の案内がタブレットに表示される。スクリーンショットなので、今編集されている可能性はあるが……大きな内容変更はないだろう。そう思って、画面の端から目を通し始めるジュネット。
「えっ……“入国審査さえ通れば国籍年齢は問わない”!?」
「気付いたかな?」
「いやこれ……どう考えても各国の退役軍人を引き抜こうとしてますよね。」
「そうだね。困った事に、これに目もくれていないのが委員会だよ。」
「……権力に胡坐をかきすぎて自力で立てなくなってませんか?」
「そうだと思うよ。」
飲み干したコーヒーの匂いが漂い、おやじさんの携帯が鳴った。アラームだった様で、直ぐに音を消す。
「……自分の家を少し修繕するのならぼちぼちやっていけばいいのだがね。雨漏りも度が過ぎれば暮らせなくなってしまう。困ったものですな。」
「おやじさん?」
「行こうかジュネット君、ユージアへ。」
「え……は?はい!?」
「頑張りたまえ。私は内側から崩れない様に支えさせていただこう。」
その日、世界中の国々が驚愕した。各国の退役軍人がこぞってユージア連合へと飛び立ったのだ。暇を持て余し、薄給、犯罪者とすら思える様な冷遇。不満が世界各国で噴出したのも当然である。
「……上手くいきましたな。」
「その様でなによりだ。全く、上の連中も面倒事を押し付けてくれる……」
「仕方ないだろう。我々にはISがない上に通ずるものも一欠片たりともない。そんな輩の後ろ盾になる者は最早ここしかない。世界の裏は亡国機業に乗っ取られてしまった。命の保証があるだけマシと思え。」
かつてISが台頭する前。ベルカ内戦に敗戦した事でベルカ一党は弱体化を余儀なくされる。が、頭の良い彼らは復権を求め、世界の裏で暗躍する。環太平洋紛争の始まりも彼ら“
だが、ISが台頭してからは風向きが一気に変わった。グレイメンはISという特異点についていけなかった……と言うよりは、兵器として見る事が出来なかった。ある意味正しい見方をしているのだろうが、それでも風読みを違え、主導権を失ったのだから負けは負けだ。彼らは直ぐに、志を失わない為にユージア連合に助けを求めた。
「しかし、こうも簡単に後ろ盾が得られるとは。」
「最も、その盾から銃口が覗いているのは事実だが……我々にとっては慣れたものだ。」
「徴兵が上手く行った暁には我々の議席が待っている。各空軍基地及び空港に伝達、護衛の飛行部隊を動かし、警戒レベルを引き上げろ。」
「既に。」
こんな簡単な仕事で点数が稼げるのは、グレイメンとして格好の餌でしかない。かつての我々の栄華を再び……という訳にはいかないだろうが、権力があればかなりやれる事は多くなる。
「……ドクターは何をしている?」
「お前知らんのか。色んなもんの開発に携わっておるぞ。」
「それは知っている。あのテストパイロットとお熱という噂があるじゃないか。」
「流石に人の恋路に踏み込める訳がないだろう?それもあの天災の、だぞ。」
「違いない……がそのお陰でユージアの国益になっている。おかげで手引きした我々は座っているだけでも点数が入る。微々たるものだがな。」
グレイメンの陰謀は終わらない。だが、その前にやる事があった。それが、競合相手の排除。故にISとは線引きをしているユージア連合についた。時期が来れば縁を切る、そんな関係ではあるが……連合が対策していない筈がない。時期を見極める為、今は仕事に励む彼らの姿が、そこにあった。