Ace Combat ~INFINITE STRATOS~ 作:QAAM_M1911
実験飛行隊と言う単語は、ユージアでは2つの部隊を意味する。一つが、第68実験飛行隊“ソル”。シラージ王家の世継ぎであった“ミハイ・ア・シラージ”、TACネーム“アルカンジュ”が隊長を務め、彼の無人機の機動データを収集している。アルカンジュが老齢である為、実戦のスクランブルに出る事はほぼない……が、その腕前は未だにユージアのパイロット上位5位に入るほど。
そして、もう一つの実験飛行隊。それが第0特殊技術実験飛行隊“マスケット”。データ収集をするのが目的であるこの部隊に所属するのは、たった2人。テストパイロット“アルベルト・シュナイダー”、TACネーム“フリューゲル”。今年23になるが、設立当初は19という若手も若手だった。誰よりも空に憧れ、ただ一直線に突き進んだ男だ。
そしてチーフメカニック、“篠ノ之束”。ISの生みの親であるからして、皆知るところとあって特にいう事はない。何故ここに居るか……と言えば、要するにISを戦場に投入する世界に嫌気が差したらしい。そんな中、戦力としてはISを欲さないユージアに下るのは当然の理だろう。現にユージアはISを使用し、宇宙開発用の宇宙ステーション“アークバード”を建造している。
嫌気が差した後の行動は本当に早かった。裏世界の長だったが、ISという特異点を読み切れなかった“
『……待て、ここの空気抵抗を減らせばもっと早く』
『あちょちょ!!アル!それ以上やると旋回で主翼折れるんだって!!』
脱走して基地内を散策している。そんな中で言葉の応酬がハンガーから聞こえて来た時、束はついつい見に行ってしまった。何せ戦闘機を飛ばす為に主翼を折る結果など、笑いのタネにしかならない。冷やかしの為に、鎮座しているMIG-31の方へと歩いて行った。
『死んでも良いってのか!?』
『あぁ。構わん。』
そんな言葉が聞こえた時。束は息を呑んだ。死んでもいいなんて言う人間は、基本的に鬱の患者か大馬鹿野郎かの二択だ。
『どうして死んで良いって思うのかな?』
分かり切ったそれを探る為に、何時の間にか束は声を出していた。驚くメカニックと対照的に、飄々としていた彼は、さも当たり前かの様に言葉を発した。
『誰も見たことがない、到達したことのない景色が見たい。ただそれだけだ。』
『前人未到の速度に挑戦出来るんだ、死んでもおかしくはない。けど、だからこそ面白いじゃないか?』
多少の違いこそあれど、目標は同じだった。探索領域外か、それともプランはあろうとも前人未到の領域に達したいというだけか。たったそれだけだ。
束は、感じた。彼は大馬鹿野郎だ。それも、今までで一番。自分にも匹敵する程の大馬鹿野郎だと。旧友と
―面白い。
『分かった!じゃあ私がその景色を見せて進ぜよう!』
『そうか!よろしくな!』
いつの間にか、意気投合していた。
『あー……マジでどう報告しようこれ……』
元チーフメカニックは、仕事を失ったついでに始末書を書いた。まぁ優秀だからすぐ別のところに引っこ抜かれたが。
「で、ナハトライアーの改良はどうだ?」
「うんうん!順調順調!けどやっぱ装甲紙だねー!シールドエネルギー付けちゃおうかな!」
「速くなるか?」
「自重を支えるだけで良くなるから……うん!装甲はもう酷いことになるけど今のと比較して10%くらい速くなるね!」
束がユージアにて行った技術提供はいくつかあるが、特に大きいのは“
因みに通常ミサイルの価格は頭ミサイルカーニバルである“ファーロン・ダイナミクス”の趣味手により50分の1ほどに抑えられた。誘導性能や威力は低くなったが、継戦能力が爆増したのでほぼ無問題。
そして、燃料問題。ISに搭載されている動力は生産の目途が立っていないという事で新型ジェットエンジンを開発。ジェットエンジンには変わらないが、航空燃料と併用して水素も使うハイブリッド方式に変換。ここに束さん特製技術をほいと混ぜればあら不思議、と言うわけだ。戦闘機の燃料コストが低くなった。
因みに燃料問題は数年前から言われていた事であり、一時期は燃料の節約の為、無線充電が可能なレシプロUAVを開発していた事もある。弱すぎて話にもならなかったが。とは言え、それがジェットエンジンになればそれはもう強い。TLSと水素燃料特化型エンジンを開発してUAVに載せる予定だ。これを戦闘機に随伴させてミサイルなどを迎撃させるなど、多様な能力を発揮するシステムを開発中だ。
「ミサイルは何発入る?」
「うーん……58発が限度かなぁ。一応特殊兵装を乗せるスペースを食いつぶせばその倍は入るかな?」
「そうか。」
とは言え、58発でも十分過ぎる量のミサイルだ。特にこの機体のミサイルは全て
特殊兵装もまた特徴的だ。
「しかし、ISのシステムとは素晴らしいな。出来る事が増える。」
「モチのロンだよ!」
「つまり速くなる、素晴らしい事だ。」
「……ホントにこれより速くするの??」
イカレ野郎の頭から出てくるアイディアは実現できるメカニックが居ると手が付けられなくなるらしい。束関連の実験記録を隠蔽している
『ソル1、こちらソル2。今回の演習相手が空域に近付いてきています。』
「了解した。」
X-02と呼ばれる海軍で運用される機体の、陸軍仕様であるX-02Sに火が入れられる。
“天界の王”がまた、空に上がる。
相手は演習終了後、皆一様にこう言うのだ。「怖かった」、と。中々撃ってこない、必中を狙った……原初の本能を呼び覚まされる、捕食者の様な戦いに、誰もが恐れ戦き演習相手は途切れて行った。
それこそソル隊の様なミハイを慕うシラージ生まれの若者や、空に魅せられた大馬鹿野郎位しか演習を申し込む者は居なくなった。彼の思い通りに飛べる時間は増えた……が、戦争の匂いが立ち込めてくれば、彼らも前線へと向かっていく。同時に血のたぎる時間も少なくなった。老齢故に、長時間の飛行がキツイのもあり、慣れた感覚を受け入れるしかなくなっていった。
だが、今日は初めての相手。それも、噂に聞くマスケット隊だ。ソル隊に様々な支援を行っているDr.シュローデルが、耐Gスーツの性能が上がったのも彼らのお陰だと言っていた事を、身体にのしかかる重圧でミハイは思い出した。
確かに、軽い。現役同然に、戦える。そう彼は確信していた。戦場の臭いが感じられない、フルCGである事は残念だが……それでも、とても心は晴れやかであった。
『聞こえるか、こちらマスケット1。』
「こちらはソル1。感度は良好だ。」
『初めまして、アルカンジュ。良い一戦にしよう。』
「あぁ……久々に心が踊るよ。」
二つの機体が交差した瞬間、双方共に反転した。機銃弾を叩き込もうとフリューゲルが機体を向けるが、アルカンジュは一気に加速して機銃弾を躱す。それを追い掛けるようにXF-44E「ナハトライアー」がA/Bを焚く。
加速力、最高速度がナハトライアーの方が上と判断したか。アルカンジュが急上昇し、ナハトライアーからのQAAMを回避。ミサイルの赤外線センサを太陽を使って狂わせたのだ。そのまま下降しつつナハトライアーにロックオン。発射するが圧倒的な速度にミサイルが追い付かない。
「なるほど、この兵装では落とせないか。」
『舐めるなよ、
「機体も兵装も私の身体だ。それで落とせないなら全霊を注ごう。」
機体下部のパイロンからレールガンが露出する。チャージは終わっている、直ぐに発射した。
『おっと!?』
「外したか。」
バレルロールによってレールガンの照準から一瞬で外れるナハトライアー。後部座席のAIに誤差を修正させようとするが、最早そんな隙はない。全ての補正を解除、EMLを手動照準に変更。畳まれていた主翼を展開してドッグファイトを仕掛ける。後退翼と前進翼が織り交ざったそれは、さながら翼竜のような運動性を持たせる。
『今度はこっちの番だ、簡単に堕ちてくれるなよ!?』
「楽しませて貰おう。」
ナハトライアーの機動性は低速域でも中々のものだ。ワイバーンには及ばずとも振り切れない程度には厄介だ。
『FOX1、FOX1。』
「スラッシュ。」
後方から迫るミサイルにチャフとフレアを浴びせる。そのままクルビットをすると照準の重なった一瞬でEMLを発射。CGの白煙がコックピット横を掠める。
『ウッソだろおい!?』
ナハトライアーが撃墜判定。この模擬戦はアルカンジュの勝ちだ。そう誰もが思ったが……
「……良い腕をしている。」
同時にミハイの撃墜判定も出た。ミサイルの近接信管が作動してエンジンの破損判定が出たのだ。実戦であれば双方共にバラバラになっていただろう……決着付かず、と言う訳だ。
『あのまま離脱してりゃ……いやレールガン辺りにやられるか?背中を向けて外すとは思えないしな……』
『ソル1、マスケット1。演習を終了、着陸を許可します。』
「……いや、面白い。少し教導しよう。まだ行けるな?」
『俺は構わんが、タワーは?』
『キングの仰せのままに。』
「……よしてくれ。」
エルジアに吸収されたとはいえ、この王国はまだ続いている。彼の生活は質素で、欲も少ない。民に優しく、隣人のよう……いや、真に隣人と言えよう。
そんな彼の、たった一つの望みを叶えてあげようとするものは多い。
自由な空を、天界の王へ献上する。
国民の手の届かない領域こそ、彼の“王国”であった。
それを誰もが理解していたから……この王国は未だに続いている。
空に曳かれる二本の螺旋は、日が落ちるまで形を変え続けていた。