バカ次元ゲイムネプテューヌ   作:浮雲

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以前宣伝?的な事をしたヤツです!まだ八月だからギリセーフ!もう八月終わりそうだけどセーフセーフ!
ということでつまらない駄文ですがよろしくお願いします!


第1話 バカと文月学園と記憶喪失の少女

 それは、不思議な夢だったのかもしれない。

 

―――ゲイムギョウ世界

 

 どこまでも続く青空に、白い雲と混じって無数の島が空中に浮き、虹が島と島の間に渡り、神秘な光景が広がっている。

 そんなはてしない空間の、さらに一つの島を中心に、四つの光が輝いていた。

 

―――ここは、4人の守護女神という存在が大陸を司り、その元にメーカーキャラが集う、現実とは異なる世界の一つ

 

 頭の奥底に流れ込んでくるのはどこか別の異空間。一際大きい大陸が東西南北に別れて浮遊し、燦然とする光を放っていた。

 

―――このゲイムギョウ界は、下界と呼ばれる人々の住む4つの大陸と、その遥か空の彼方にある女神の住む天界によって構成されていました

 

 次に浮かび上がってきたイメージは、四人の女の子と、背後に映る四つの巨大な大陸。

 

―――女神ブラックハートが守護を司る“重厚なる黒の大地ラステイション”

―――女神ホワイトハートが守護を司る“夢見る白の大地ルウィー”

―――女神グリーンハートが守護を司る“雄大なる緑の大地リーンボックス”

 

―――そして、女神パープルハートが守護を司る“革新する紫の大地プラネテューヌ”

 

 よりくっきりとした姿を目にすると、あの輝いていた四つの光の正体が鮮明になり、彼女たちが―――戦っていることがわかった。

 

―――4つの大陸を守護する守護女神たちは、このゲイムギョウ界の統一を巡り、終わりのない闘争に身を焼かれながら戦い続けました

 

 空を飛翔して何度もぶつかり合い、手にする剣を振るい、槍を穿ち、斧を叩きつける。武器と武器がぶつかっては周囲に衝撃波をまき散らし、雲を裂きながら旋回して再び激しく交差する。

 

―――それが後に守護女神戦争(ハード戦争)と呼ばれる、終わりのない戦いの歴史です

 

 戦いは一瞬という時間の中で何度も何度も死とすれすれの距離を縮めていく。

 一見すれば、青空の下を舞う天使にも見える実態には、およそどこからそんな力が出せるのかわからない華奢な体から放たれる力を持って死闘を繰り広げている。

 そして、そんな戦いはいつまでも続くと思われた―――直後だった。

 突如、三つの光の攻撃が一つの、紫の光に集中し始め、均衡していたパワーバランスが一気に崩れ出した。

 綺麗な紫色の髪をした彼女は瞬く間に追い詰められて、武器を弾かれ、丸腰となったところを一人の少女の強烈な一撃で突かれてしまった。

 眩い閃光が走り、勢いよく吹き飛ばされた彼女は島から突き放され、意識を失くしたのかそのまま落ちていく。

 すると彼女の身体が突然光だし、次に光から姿を現した時は美しさがあった女性はそこにはおらず、別人のような少女の姿となり、そのままその子は真っ白な雲の梅へと消えていった。

 

 

 そこで、僕は目を覚ましたんだ―――。

 

                            ☆

 

 文月学園は世間で注目を集めている、《試験召喚システム》という新改革を試している実験校でもあり、進学校でもある学園だ。

 科学とオカルトと偶然によって作られた『試験召喚システム』は、テストの点数によって強さが決められた召喚獣を喚び出すことができるもので、文月学園はそれを使って生徒の勉強に対するモチベーションを上げさせる試みを行っている。さらにはその召喚獣を使った試験召喚戦争なんていう制度もあって、召喚獣を戦わせてクラスの設備を奪い合う戦争が取り組まれていた。

 かくいい、僕が所属する成績が最底辺の集まりであるFクラスも、試験召喚戦争で成績最上位の人達が集うAクラスを目指している。その為に皆、それぞれの努力をしていて、そういった意味ではモチベーション効果は成功しているのかもしれない。

 

 まぁそれが辛うじて残るこの学園の光であって、実際の文月学園の中身なんて、ちょっと変わり者が多いだけで普通の高等学校と少ししか変わらない。あ、いや、ごめんなさい、嘘つきました。僕が見た限りじゃクラスメイト同士での幸福の邪魔なんてザラであり、一部の人間に限ってはもう人として超えてはならない一線を越えてしまって妖怪化やら鉄人化しちゃった人もいたり、僕や僕の周り関しては臨死体験をしない日が一か月の間で数日しかないという奇想天外な学校生活を送っている。

 けど、二年生になってからそんな生活をしていた所為か、サバイバル知識やら読唇術。気配の殺し方から、さまざまな闘争(あと逃走)術をマスターし、必要とあらば釘バットの錬成、スタンガンの有効活用歩を見出し、強いては関節の外し方からハメ方、綺麗なまでの完璧なスライディング土下座までも得とくできるようになった。………………………それらは学校という学び舎では覚えないだろとかって言うツッコミは今さらでしょうか?

 

 とっ、とにかくっ! 日頃から騒がしい仲間や友達に振るりまわされた所為か、ちょっとやそっとのハプニングには落ち着いて対応できるようにはなった。

 だから今日も平和ながら殺伐とした学園生活が僕を待っていると、いつも賑やかで騒がしい友達や仲間が迎えてくれると、朝日を浴びながら僕は文月学園へといつも通りに登校したんだ。

 

「なのに……!」

 

 旧校舎から渡り廊下を抜けて新校舎に走りながら移り、これでここは何度通っただろうかと悟ってしまいそうになる。

 僕が学園中を走り回るのなんて一週間の間、平均して13回ぐらいだから、別段それに関しておかしいとは思わない。これまでだって窓を割り、壁を壊し、教頭の部屋を花火で壊したんだ。今さらおかしいと思う方がおかしい。

 そして僕が走り、後ろに追いかけてくる影もいつも通りだ。

 追いかけてくるだいたいが生活指導の鬼と呼ばれ、生徒達から恐れられている西村宗一、通称鉄人か。僕の友達の一人(♀)に恋焦がれるドリルツインテールの人間離れしてしまった女の子か。僕の幸せを望まない大変クズ野郎の集まりであるクラスメイトになる。

 

「はずっ、なのに……!」

 

 どたどたと駆け回っては周りから『またか』という目で見られながら学園内の走り回り、賑やかな一日を送る。僕の学園での過ごし方は、だいたいそんな感じだ。

 騒々しい音が学園中で響き渡り、いつもと変わらない光景が作られる―――。

 

「だってのに……!」

 

 ―――そう僕は思っていた。

 走りながら背後に目をやり、何度目かの恐怖を味わい、早さを上げていく。

 

「いったい……!」

 

 僕を追いかけてくる影。それは人ではない。ましてや学園い迷い込んできたノラ犬でもなければ、野良ケンプ◯ァーでもない。

 “そいつら”はこれまで見たことのない、青い……あれよ……。あの、ぐにょぐにょしてる……某ドラんクエんストなんチャラに最初に出てくるような姿に犬耳みたいなものを付けた―――そう、この世の生物とは違う、まさに―――

 

 

 

「なんで学校にス◯イムの大群がいるんだーーーーーー!!?」

 

 そんなモンスターが僕を追いかけていた。しかも数百位の大群で。

 

                          ☆

 

「うぎゃあああああーーーーーー! いったいなんなんだーーーーー!?」

 

 なにっ!? なんだ!? マジでなんなんの!? アレ!? スラ◯ム!? スライ◯だよね!? 某ドラ◯エさまの一番最初に倒される◯ライムだよね!? なんで!? いやッなんでッ!? イヤッ! てか、あれスラ◯ムっぽいけど耳付いてる!? 犬みたいな耳とか鼻とか尻尾とか付いてる!? イヤッ! なんでっ!!?

 ハプニングに体性があるとかないとか、もうそんなこと関係ない。というか誰だってこうなると思うんだよ、うん。というか本当になにッ!? あの◯ライム軍団ッ!? いつまで追いかけて来る気だよ!? もうかれこれ一時間ぐらい走り回ってるよ!? しつこいにも程がるでしょうが!?

 

「というかなんでスライム◯がこんなに、しかも学校にいるんだって話だ―――どぅわぁっ!?」

 

 とにかくパニック状態になってしまった所為でもはや伏字すら忘れてしまうと、嫌な気配を感じて跳び退る。一拍置いて、僕の走っていた場所に無数の犬っぽいスライ◯が押し寄せてきた。あっ、あぶなっ!? もう少しで捕まるところだッた!

 危機一髪とはこのことだろう。それでも止まっていることもできず、僕はともかく走る。走るったら走る。

 

「てかっ! なんで襲ってくるんだよ! 他の皆もいないし―――! いったい何が起きてるんだッ!?」

 

 二階から一階に下り、職員室前を走りぬけて僕はさっきから何度も同じことを叫んでいた。

 この訳の分からない唐突に始まった逃走劇。

 でも、本当にこの状況に陥ったのは唐突だった。

 記憶に残っているのは昨日、家で徹夜で最近発売されたばかりのRPGゲーム二本とギャルゲー一本の消化に励み、夢中になり過ぎて眠らずに朝を迎えてしまい、姉さんにこっ酷く怒られたのちキスを迫られて慌てて学校に逃げてきところまで。

 だけどその後の記憶がすっぽりと抜け落ちていて、一種の記憶喪失状態になって僕は誰もいない文月学園の自分の教室に寝ていた。それから学園の様子がおかしいと思って教室を出たら、この始末。

 

「ダメだ……意味がわからない。というか話が急すぎる! こんなもん誰もがポカーンものだわ! イヤ! 僕はポカーンしたらアウトだけどもね!」

 

 展開を呑みこめないでテンションがおかしくなっていたんだろう。セルフボケにセルフツッコミを一人でかまして、だけども走る脚を止められず逃げ回る。

 

「誰かー! 誰かいないのッー!? いたら返事―――というかたっけてーーーー!」

 

 これも何度目かの行いだけど、やっぱり返事はどこからも返ってこない。

 一年以上通い見慣れたこの学園にはどうやら人間は僕一人しかいないらしく、一時間ぐらい逃げながらいろんな場所を探しても人っ子ひとり見つけられない。今のところここにいるのは僕と、後ろから追いかけてくる犬っぽい◯ライムだけ。

 だからって素直に諦めるなんてこともできず、何回も叫ぶんだけど……。

 

「くそ! なんで誰もいないんだ!? 皆どこに行っちゃたんだよ!?」

 

 吐き捨てながら『もしかして』と犬型スラ◯ムを見る。まさか、もう皆あいつらに……! ―――い、いや! そんなわけない! あの根性は腐っても腕は確かな殺人集団が、それに仮にも人類最終兵器の一つと数えても十分な鉄人がいるんだ! そんなことありえない!

 ―――だったら皆はどこにいるのか。そんな問答を繰り返し、拭いきれない可能性に身を震わせながら僕は走っては希望を持って友達を探す、そんな、駆けている中だった。

 

「って!? かっ、壁っ!? ぶつかるッ!」

 

 目の前に突然、半透明のカーテンのようにヒラヒラと舞う壁が現れ、止まろうとする前に僕はそのまま勢いよく壁に衝突―――することなく、突き抜けていった。

 

「あべしっ!?」

 

 いきなりの事で脚がもつれて派手に前へと転ぶ。いっ、いっで~ッ!! は、鼻打った……ッ! もう最悪だ……!

 起き上がって鼻を擦りながら涙目でぼやく。けど、怪我の方がまだマシだと思える、もっと最悪なことが僕に降りかかっていた。

 

「……あれ? ここ……どこ…?」

 

 気がつけば、僕がいるのは文月学園とは全く異なる、工場地帯の一角らしき場所に変わっていた。あれ…? さっきまで僕、文月学園で犬ス◯イムと鬼ごっこしてたはずじゃ……。

 

「……というか、雨って。結構強し、こりゃ早く雨宿りできそうな場所を探そう。ここがどこなのか、そんなもの後だ」

 

 どしゃ降り、ってわけじゃないけど充分に強く降る雨粒はみるみる僕の黒のブレザーに打ち付けられていく。これじゃ考えるどころか風邪ひいて倒れてしまう。バカは風邪ひかないとか、もうそんな迷信は古いのだ。古いのだ! ←ここ重要。

 犬スライムの危機から助かったからか、訳がわからな過ぎて一周して落ち着いたのか、きっとその両方もあって、冷水ならぬ冷雨に当たって頭も冷え、当面の危険がなくなって冷静になったんだろう。もっと言っちゃえば、結局は現実逃避だ。僕は近くで雨宿りできる場所を探すことだけを考えて、他のことを一度振り払おうとしたんだ。

 

「おっ、あそこの小屋とか最適そう」

 

 ぐるりと見渡した先に雨をしのげそうな、丁度良さそうな小屋を発見。

 雨を避けながら小走りで近づき、錆びついたドアノブを捻り、中へと入る。

 

「ちょっとお邪魔しまーす。雨宿りさせてくださーい」

 

 念のため声をかけるけど人気の無い場所では意味もなく、シーンとする部屋の中は薄暗くて綺麗とは言い難かったけど、広さはあるし雨宿りには不自由しないものだった。とりあえず雨はこれでしのげるだろう。

 と、制服に付いた水滴を手で払って中を物色していると、不意に横からタオルを手渡された。

 

「あ、どうも」

 

 渡されたタオルはありがたく使わせてもらおう。押し返すのもなんだしね。

 にしても酷い雨だなぁ。朝の天気予報じゃ今日はずっと晴れって言ってたのに。しっかりしてほしいよ。天気予報のお姉さんの双肩にはお洗濯をする者達の希望がかかってるんだから。

 

「あ、タオルありがとうございました。大変ですね、お互いにこんな急に雨に降られて」

 

 天気予報にさらなる頑張りを求めながら、タオルを貸してくれた人に顔を向ける。ここで大事なのは笑顔だ。仮にも僕は人の恩恵を受け取った身。彼or彼女さんには感謝の意も込めて笑顔で対応するというのが筋だろう。それが人として大事なことだと僕は思う。うん。良いこと言った、僕。さて、とっびきりのイケメンスマイルを見よ! まだ見ぬ恩人よ! …………て、あれ? でもさっき、声かけたけど返事なかったような?

 

 

「……………(コクコク)」←差し出したタオルを笑顔(?)で受け取る花みたいな姿をした、どんな角度で見ても人ではない何かがホントに『困っちゃうわね~』的に頷く音。

 

 

 

 ―――と、人だと思ってタオルを借りて笑顔で返そうとしたら実は人間とは別の生物でしかも割かしコミュニケ―ションを取ってくれて驚きを隠せないでござるの巻。

 

「うっ、うわっ!? ここにもモンスター!?」

 

 思わず跳んで距離を取る。それと同時にあっちもスイッチが入ったようにいきなり攻撃態勢になり、しかもどこに隠れていたのか、同じような花の姿をしたモンスターがわんさか飛び出してきた。くッ…! ようやく鬼ごっこから解放されたと思ったのに! まさかここにもいるなんて……!

 雨水を拭いていたタオルを投げ、瞬時に身構えて出口に駆けだす。その瞬間、タオルをくれたであろう花モンスターが跳躍して、身体全体で突進してきた。

 

「危なっ!? そんな……! 君まで僕を襲うのかい!? 君だけは……! 君だけは僕の味方だと思ったのに!」

 

 あの数秒間という僅かながらもほんの一時に見せてくれた君の優しさは嘘だったのか! 僕は……! 僕は信じていたのに! モンスターって知ってたらすぐ逃げだしてたかもだけどね!

 敵しかいない危険地帯だとわかったのならいつまでもこんな小屋になんていられない。花モンスター達のタックルやら◯ケモンのつるの◯チみたいな技をかわし、扉を蹴って外に逃げ出すと、

 

「わ~外にも沢山いる~―――って、マジか!?」

 

 さっきまでは影も形もなかった筈なのに!? いつのまに!?

 驚くのもつかの間。花モンスター達は一気に攻撃を開始。中の奴らと結託して僕一人を襲いかかってくる。こっの……! そう易々とやられて堪るかッ! 僕だって幾重もの死線を乗り越えてきたんだ! 見せてやる! 百戦錬磨の秘儀を……!

 

 

「―――あーっ! 可愛い女の子のチューリップのスカートがめくれてる!」

 

 …………いや、違うんです。なんていうか、違うんです。混乱してたんです。訳わかんなくて、パニクってたんです。思いつたことがこれだったんです。

 我ながら幾重もの死線を乗り越えてきた自分の脳みそが恐ろしい。いや、本当に恐ろしい……。というか、こんな作戦じゃいくらなんでもこんな奴らからは逃げられな―――

 

『『『………………ッ!!!!』』』←一人残らず僕が指差した方向を熱心に見ている花モンスター達

 

 ―――いこともないようだ。バカだ。こいつら。どうしようもないバカだ。

 男としてその気持ちがわかるからこそ、そしてどこか自分の通う学校にいる生徒達に似ているところが余計に空しさを懐かせる。なんか、わかんないけど今のうちかな。恨むなら僕じゃなくてスケベな自分達を恨んでね。

 そう言い残して、僕は花モンスター達の群れから外れる。直後、またも半透明の壁が僕に向かって迫ってきて、避けることも間に合わず壁を突き抜けた先は、

 

「今度は森? 本当に、なんなんだ……これ?」

 

 見渡す限りジャングルみたいな緑生い茂る深い森が眼前に広がる。少なくとも僕の住む街の近くにこんな森は見たことも聞いたこともない。そして案の定、大樹やら茂みから、今度は怪鳥みたいなモンスターがうじゃうじゃと現れ、すぐにでも襲い掛かりそうに僕を睨んでくる。

 

「………逃げるが正解ッ!」

 

 学園で鍛えた逃げ足をすぐにフル稼働。走りづらいジャングルの道なき道を躓かないよう、膝をいつもより上げて前へと駆ける。怪鳥の群れも雄叫びを上げてすぐに追いかけてきた。

 そうして僕の逃走劇はいつ終わるんだって思うぐらいに続き、

 

 

 

「なんかあっというまに種類豊富になってるーーーーーー!?!?」

 

 いつのまにか、今まで会った犬◯ライムだったり花モンスター(大半がマジギレしてるご様子)だったり、他にも見たことのない化け物まで加わって、目も当てられない鬼ごっこにスケールアップしていた。

 もうなんなんこの状況!? もうなんなん!? なんなんなの!? なんなんなんだかわけがわかないなんなんだ! ってもうバカ! 自分でなに言ってのかわかなくなってくるよ! バカ!

 

「このままじゃ捕まる! どうにかしないと……!」

 

 焦る頭の隅々まで総動員して何か良い策はないか考える。このまま逃げ回ってもアイツらはいつまでも追いかけてくる。しかも時間が経てば経つほど数は増えていくし、反比例してこっちの体力が限界に近づく。ならば逃げなければいいのでは。それすなわち、アイツらと戦うということ!

 

「そうさ! 逃げるなんて男らしくない! 男一匹! 喧嘩はかってやらぁ!」

 

 さあ来い化け物ども! 僕のコスモを感じる聖拳によって朽ち果てるが―――

 

『ぶるゃああああああああああああああああああ!』←キレてる花モンスターの叫び声

『ぶるぁあああああああああああああああああああああああ!』←かなりキレてる花モンスターの雄叫び

『ぶりゃごあらゃぁぁあああああああああああああああああああッッ!!!!』←怒髪天を衝く花モンスターの怒りの咆哮

『わ、ワン………』←花モンスター達を見てかなり引いている犬スラ◯ムの鳴き声

『ギャ、ギャアー……』←同じく引き気味かつ微妙にこちらを憐れむような眼で見る怪鳥の鳴き声

 

 ―――こりゃマズイ。逃げよう。男とて命に代えられるほどのプライドは僕は持ち合わせていない。みんなも命は大切に。

 ということで逃げる。逃げるったら逃げる。主に花モンスターから逃げる。出ないと彼らの夢と希望を弄んだことになっているであろう僕の命が大変なことになる。いやね、気持ちはわかるから、なんとも言えない……。

 

「ととっ! あの壁は! しめたぞ!」

 

 怒り狂う花モンスターとその他から逃げること数分、危うく見過ごしてしまいそうになったけど、視界の端にあの半透明の壁を発見。普通なら見つけても通り抜けるワープポイントだけど、今の僕からしたらドロップ率が限りなく低い素材を手に入れた時と同じくらいに嬉しいピンチに降り立った希望の星だ。

 僕は迷わず壁にまっしぐらと進み、壁に飛び込むようにしてジャンプする。

 世界は一転。景色を瞬時に変化して、転がりながら次に到着した場所はなんと、僕が目覚めたFクラスの教室だった。

 

「も、戻ってきた……?」

「ハーハッハッハッハッハ! 私が戻してやったのさ」

「へ……?」

 

 まるで時代錯誤したような笑い声が響き、僕はとっさに振り返った。これって……人の声!? じゃあ僕以外にもここに人が!?

 ようやく見つけた、ようやく耳にすることができた。自分以外の人の存在を感じることがようやくできた。気がつけば誰もいない、見慣れた校舎には友達も仲間もクラスメイトや先生達すらおらず、代わりに訳の分からないモンスター達がのさばり、変てこな壁を通り抜けると全然知らない場所に飛ばされ、そこでもモンスターに狙われ、逃げて逃げて、とにかく逃げるしかなかったこの空間で、もうダメなんじゃなんて考えも浮かんでいたそんな時、ようやく人と出会えた。そのことが嬉しくて、感激で、感極まって涙が零れそうになるけど、声からして初対面の人に泣き顔で顔を合わせるのはマズイと涙は我慢して、僕は声の主の顔を見る―――。

 

「……うわっ、ケッバイおばさん」

「誰がケッバイおばさんだッ!」

 

 しまった! 人に会えてつい嬉しくて、それなのに出会ったのが悪趣味なメイクをするおばさんだったという落差のあまり本音が!

 

 すぐに口を押さえても手遅れ。口は災いのもとって言うけど、本当に口というのは危険だ。でも僕が思わずそう言ってしまうほど、そんな絵に描いたような女の人が立っていた。

 全体的に黒と紫でまとめられている衣装は、お世辞にも地味とは言えないデザインだ。被っているとんがり帽子には紫のバラとなんかの黒い鳥の羽が乗せられ、胸元が開いた肩だしドレスにトゲトゲが付いてる革ベルト。先が反り返ってるブーツなんか、まさにRPGゲームにでも出てきそうな悪の魔女の服装そのもので、いかにもこれからお姫様に毒りんご届けに行きそうな雰囲気だ。

 と、とりあえず今は謝らないと! せっかく出会えた数少ない人間なんだ!

 

「ごっ! ごめんなさい! ちょっと人に会えて嬉しかった分、反動で本当のこと言っちゃって!」

「貴様は謝っているのか? それとも私の怒りをさらに買おうとしているのか?」

「え? や、やだな。そんなのもちろん謝ってるに決まってるじゃないですか! それにしてもおばさん、すごい服装ですね。恥ずかしくないんですか?」

「やはり貴様は謝っていないな? フランクに会話を弾ませようとしていて、中身は私にケンカを売っているんだな?」

 

 おや、おかしい。軽い感じでいったほうが親しくなれると思ったんだけど反応がよろしくない? う~ん…なんだろうか、この人を見ていると誰かを思い出してついつい口を滑らしてしまう。

 

「すいません。一つ質問してい良いですか? 貴方が僕の知っている誰かと似ているんですけど、心当たりありませんか?」

「質問に対して良いともなんとも答えていないうえに、初対面の私が貴様の交友関係などしるか!」

「じゃあ思い出してもらってもいいですか?」

「どうやってだ!」

 

 う~ん……誰だろう。この人を見ると、なんだかイライラするというか、内に秘める怒りが湧きたつというか……! あっ! わかった!

 

「クソババァ!」

「貴様やはり喧嘩しか売ってないだろッ!」

 

 喉元につっかえていた疑問が解消されて清々しい気持ちが胸いっぱいに広がる。

 いや~思い出した思い出した。そうだよ、この人誰かと似てるなぁ~っと思ったら、雰囲気がクソババァとそっくりなんだ。よかったよかった。あ~すっきり。

 

「たかだが何の力も持たない人間の分際でこの私をコケにしおって……!」

 

 って、あれ? どうしたんだろうおばさん? 急に俯いたりして? 身体も震えてるし、やっぱりおばさんもこの空間で滅入っちゃってるのかな? そう言えば、なんでこのおばさんはこんな格好しているんだろう?もしかして趣味? にしては悪趣味すぎるし……何か理由があるとか? でも、こんなキッツイ格好しなくちゃいけない理由って……ハッ! まっ、まさかコスプレしなくちゃいけない、身体を張るしかないどうしようもない理由ってもしかして!?

 

「おばさんダメだ! いくら旦那さんに見捨てられてコスプレ喫茶で働くしかお金がなくても、その方法だとおばさんの歳的に悲惨な人生しか待っていないよ!」

「貴様は私に何か恨みでもあるのかっ!?」

 

 傷心した精神で真面じゃないからと言って、いくらなんでも歳がキツイよ! お金を稼ぎたいならもっと堅実的なパートなり仕事を探せばいいのに! イヤ、それほどまでに追いつめられているというのか……!? クソ! なんて可哀そうな人なんだ! 旦那さん! 貴方が見捨てた所為で一人の女性が道を踏み外しかけてしまったんだぞ! 男として恥ずかしいと思え!

 

「おばさん。きっとこれから良いことがあるよ。諦めちゃダメだよ。いくら旦那さんに捨てられ、傷つき、正常な判断ができずにコスプレに走ってしまって見た目が酷い有様になったとしても、気をしっかり持つんだ。大丈夫。僕がいい腕を持った先生を紹介してあげるから」

「キッ、貴様ぁ……! いい加減にしろッ!!」

 

 そう叫びながら、おばさんがメモも出さずに僕に何かを突きつけてきた。

 

「って、槍!?」

 

 どこに持っていたのか、おばさんは身丈ほどの大きな槍(杖?にも見える物)を握っている。しかもあろうことか、突然おばさんは襲い掛かってきた。

 

「うわっ!? ちょちょ! 危ないって!?」

 

 寸止めじゃなくて、完全にやる気で振り切られる槍に驚きながら横に跳んで避ける。

 

「ちょっと!? 何するんですかいきなり!?」

「散々人を馬鹿にして今更言うかい!」

「え? 馬鹿にって、別に僕はおばさんを思っていい病院をと……」

「潰すッ! 今ここで完膚なきまでに潰すッ!」

 

 なんだかヤバい雰囲気。もしかして精神がすり減ってキチンとした思考回路まで失ってしまったのだろうか。別にありえない話ではない。僕もあまりにも恐ろしい関節技を前に意識を自ら切り離して身を守ったことが多々ある。この人の場合、精神が自動的に心を守るためにそうしているのかも。ならばこの行動原理も頷ける。

 

「やめるんだ! こんな事をしてもあなたは幸せにはなれない! まずはコスプレをやめて僕と一緒に病院に行きましょう! 大丈夫! 僕ができる限りにあなたの力になりますから!」

「うるさいッ! 人を馬鹿にするのもいい加減にしろ! その口を永遠に開けなくするぞ!」

「…………!?」

 

 落ち着かせるために近付いたのが仇になった。さっきより間合いに入ってしまった所為で、咆哮と共に放たれた一撃をかわせず吹き飛ばされる。

 いくつもの卓袱台を弾いて教室の黒板に叩き付けられ、背中に酷い痛みを感じながら、僕は眼をむいた。こ、この人……! 本気でやりに来てる……!?

 

「が…はっ……! なっ、何を……!?」

「何を? なんだいその信じられないものを見る目は? まさか本気で私が遊びでもしていると思ったのか? ハッ! だとしたら相当めでたい頭をしているな」

 

 怒りと嘲笑を吐きだしながら倒れる僕を見下ろしておばさんは槍をこちらに向ける。

 

「……こんな辺鄙な空間で見知った顔にあったと思ったら、こんな馬鹿に出会うなんてな……! 来なければよかった……!」

 

 ギロッとしたヘビような眼でこちらを睨みつけながら、おばさんは意味不明な言葉を口々に零していく。な、なんだ? 辺鄙な空間……?

 どこか中二病をこじらせたような台詞のようだけど、僕が体験して来たこともあってか、その言葉を何故か聞き逃すことはできなかった。

 これまでの疑問の答えがそこにあると、無意識に僕はむせ返る呼吸に咳きこみながらおばさんに向かって尋ねていた。

 

「お、おばさん…! ここが何か知っているの!?」

「ああ、知っているさ。ここがどういう場所で、貴様が知りたがっている事、全てな!」

「なっ、なら……!」

 

 教えてとこちらが言い切る前に、口元に笑みを浮かべたおばさんはまた槍を振るう。直後に、猛烈な突風―――衝撃波がこちら目掛けて飛んできた。

 

「うわぁああああーーーーーーー!」

 

 まだ背中の方が痛んで上手く動けなかった僕は驚きながらも跳び退くけど、ギリギリのラインで衝撃波に吹き飛ばされ、教室の隅に転がる。

 

「今の貴様の状況を教えてやる。―――死だ」

「…………ッ!?」

 

 肌にビリビリと伝わってくる殺気。一触即発の気配に、おばさんの眼が本気なのを感じとり冗談で言っているんじゃないと直感的に解る。

 全身に襲う死線に汗が背中を伝っていき唇を噛む。衝撃波の実態を不思議に思っている余裕もなく、緊張の糸が張り詰め、後ずさりながら教室の隅で相手の出方を見る。すると、おばさんは落ち着いた足取りで僕に歩み寄ってきた。

 

「私の怒りを買ったことを悔やみながら殺してやる……! 楽に死ねると思うなよ!」

 

 身体中から殺意そのものを生み出し、槍をギュっと握る。様子からして、逃げるってのは簡単に行かなさそうだ。衝撃波なんてものを出すし、こっちはさっきまで鬼ごっこをして体力があまりない状態だ。それに加えてあっちはこの世界のことを知っているようだし、地理的な部分でも僕の方が不利と考えた方がいいかもしれない。つまり、この場合取るべき残された手段は一つ―――!

 

「ん? なんだ、戦おうというのか、この私相手に」

「でなきゃ、やられそうだしね……!」

 

 おばさんの嘲笑を前に僕も笑う。と言ってもコッチは引きつった笑みで、余裕なんて微塵ともない。

 なんてたって僕は普通の人間なのに、対するおばさんは人間業とは思えない衝撃波を打ちだしてくるんだ。常識的に考えて勝敗は決まっている。

 けど、だからって大人しくハイハイって言ってやられるような、生温い根性でFクラスをすごしてきたわけじゃない。

 ギリッと奥歯を噛んで、フラフラとする身体で立ち上がり、辺りを探る。

 衝撃波を飛ばすような異能の力は僕にはないけど、せめて武器を調達する必要がある。丸腰じゃあ勝ち目は薄いだろうし、気休め程度には役立つはず。何よりここはFクラス。人は見つからなくとも、処刑用具から異端者討伐専用武器だってあるはずだ。

 そう思って僕の立つ廊下側とは正反対の窓側の教卓横にあるロッカーを見て、あっと思い出す。確かあの中には釘バットや鎌やナイフもあったはず! なら―――!

 

「っ! 何する気か知らないが、動くな!」

「動くなって言われて、動かない奴なんていないでしょ!」

 

 ダッと駆けだすと同時、おばさんは槍を振るって衝撃波を放つ。だけど伊達に僕も鉄人やFクラスで揉まれてきたわけじゃない。痛む体で跳び、すんでんのところで身を屈めて回避に成功。チッとかすった音にと冷や汗を垂らしながら、そのままロッカーに手を伸ばす。

 

「大人しく殺されろッ!」

 

 一気に間合いを詰めながらおばさんは叫び、射程内に僕を入れたところで槍を横薙ぎにしてくる。けれども、

 

「嫌だっ!」

 

 おばさんの下を潜り抜けるようにステップした僕にその攻撃は紙一重で届かない。そして目の前には槍を振り切って無防備なおばさんの身体がある。隙だらけだ。

 このタイミングを逃さず、僕は手に入れたネズミ獲りでおばさんを―――

 

「って、なんでよりによってネズミ獲りを取ったんだ僕はこのバカぁっ!」

 

 思わずネズミ獲りを床に叩き付けて、僕自身も床に膝から崩れ落ちる。なんで……! なんでこんなときに限って一番使用用途が難しい物を選んでしまったんだ、僕は……!

 

「貴様……。バカなんだな……」

 

 おばさんの憐みの視線がもの凄く痛い。違うんだ! これは慌てたから間違っちゃっただけなんだ! だからそんな目で僕を見ないで!

 

「はぁ……もう貴様の茶番劇に付き合うきはない―――そうだな……貴様の力も、頂くか!」

「へ?」

 

 微かに聞こえたおばさんの不可思議な言葉と消えた姿に目を点にする。そして呆然とする僕の眼前に、おばさんはいきなり現れて僕の首を掴み、驚くことに身体を持ち上げてきた。

 

「あ…がぁ……!?」

「さて、バカの『召喚獣』の力がどれほどのものか、確かめさせてもらおうか」

「な、な…に……ッ!?」

 

 召喚獣の力ってなんだ? というかこのおばさん、僕になにする気!?

 首元を強烈に絞められて呼吸を阻害され、身体の自由まで奪われ抵抗もできず、頭に酸素がまわらない中、不意におばさんの掴んだ手の辺りから何かが吸いだされる。

 よくわからない不快感が全身に降りそそぎ、次の瞬間には異常なまでの脱力感でどんどん人体から力が抜けていく。まるで僕の中にある何かをこのおばさんに吸い取られている、そんな感じだった。

 

「うっ、ぐ……! 力が……奪われていく……!?」

「そうだ。お前の持つ召喚獣の力。私が貰ってやる!」

「うっ、がっ……うわあぁぁあああああああーーーーーーーーーっ!」

 

 深い海の中に沈んでいくような喪失感と、手の甲から足のつま先までに走る激痛に耐えきれず、僕は苦悶の声を叫びに変えながら、おばさんの手を掴んで抗う。だけどそんな些細な抵抗も気にした様子も表さず、おばさんの首を掴む力が強まり、さらに僕の中の何かを抽出するスピードを上げてきた。

 なんだかわからないけど、すごくヤバい。死期を感じるとか、殺意の度合いが桁違いいだとか、そういう方向性とは違う、言葉にできない恐怖が背筋を凍らせる。さっきから頭の中では危機レベルマックスとなってアラームがけたたましく轟き、どうにかしないといけない焦燥感が募っていく。

 けど、どうするッ!? この状況で……、でもどうにかしないと! このままじゃ―――!

 

 

 

『唱えてください!』

 

 突然警報アラームをかき消す鈴を転がすような声が頭の中に響き渡り、僕は『えっ』と目を見開いた。な、なんだ……? 今の、声……?

 いきなりの事に一瞬痛みや気だるさも忘れ、今の声が何だったのか考えて、幻聴か聞き間違いかだと思ってると、

 

『唱えてください!』

 

 またあの声が脳の奥にまで届いてきた。僕はわけがわからず、すぐに再び感じ出した激痛に脱力感にさいなまれて、どうして直接頭に声が聞こえるのかも疑問に思わず、心の中で質問を投げかけていた。

 

(だっ、誰!? 唱えてって、いったいなにを唱えろっていうの!?)

『私が言わなくとも、あなたになら解るはずです!』

(いや!? そんな超次元な遊◯王のアニメじゃないんだから教えてもらわないとわかんないよ!? 説明をプリーズ!)

『そ、そうですね。すみません。ですが、私はそちらの世界の事情は詳しくはありません。言えることは、ここでならあなたの持つ力は発揮され、あなたは今までどうやって戦ってきたか、としか』

(た、戦ってきたって……僕はそんな漫画やゲームの主人公じゃないんだ! 戦うなんて―――ッ!)

 

 そこまで言って、『戦ってきた』の意味を理解した。

 ……そうだ。僕は戦ってきたじゃないか。マンガやゲームの主人公みたいにカッコよくはないけど、僕はこれまで何度も仲間達と一緒になって戦ってきたんだ。

 そしてそんな戦うときいつも一緒だったのはなんだ? 今まさにおばさんが奪おうとしている物はなんだ?

 時に女子風呂を覗くために。時に学校の壁を壊すために。時に大好きな子の為に、戦うためにいつも僕の力となってくれたのは―――

 

「さあ! 貴様の全て! 我が物にしてやる!」

「うっぐ……! ごっんの……!」

 

 抜けていく力。今にも呼吸行動すら止まってしまいそうになるほど、『力』というものを奪われる。それでも、僕は自分の手に精一杯の力を入れ、おばさんの手をガシッと強く握ってみせた。

 そして、残された力を振り絞って僕はその合言葉を教室中に響かせた。

 

 

試獣召喚(サモン)ッ!!!」

 

 

 キーワードが教室の中でこだまし、反響し、自分の耳に戻ってくる。すると身体からおばさんの冷たいのとはまた違う、優しく抽出される感覚を感じると、足元に浮かび上がる魔法陣のような幾何学模様。そして傍らに現れる改造学ランに木刀を装備してデフォルトされたもう一人の僕。三頭身程度の姿は相変わらずだけど、これが文月学園の造りだした《試験召喚システム》から生まれた召喚獣。

 ―――そして頼もしい僕の力だ!

 

「いっけぇえええーーーーーーーーーーーーーーーー!」

「なにっ!?」

 

 喚び出した召喚獣にすかさず木刀でおばさんに攻撃させる。愛嬌満点の姿をしても、その腕力は凶悪なほどに強い。召喚者の点数によって変わるけど、成績上最も低い僕程度の点数でも成人男性の何倍もの強さを持っている。そんな召喚獣の攻撃を不意を突かれた形でくらえば、いくらなんでもおばさんだってただじゃ済まない。

 わき腹に鋭く入った一撃によって僕の首を掴んでいたおばさんの手は放され、ようやく不愉快な感覚から解放された。

 

「ゲホッ! ゲホッ! がはっ……ほ、本当に召喚獣が出た……!?」

「おっ、おのれぇッ……!!」

 

 こちらがせき込みながら尻餅をつけば、あっちは腹を抱えて膝を付いている。しかし今の僕は召喚獣が現れたことの驚きが優先していた。

 本来、召喚獣は教師の立会いの下、召喚フィールドというのを張ってもらって初めて召喚できる。なのに教師もフィールドもない場所で召喚獣を召喚できた。難しい事とかはわからないけど、いったいどういう原理なのか疑問なる。

 

『考えるのは後です!』

 

 再び聞こえてきた声のもっともな意見でハッとして、おばさんの方を確かめる。おばさんは油断してのダメージだったのか、思った以上に傷を負った様子で膝を付いている。逃げるなら今だろう。けど、どこに逃げれば……! 逃げ場所なんてないぞ!

 ここは理解不能の世界。半透明の壁が突然出現しては、それを通り抜けると別の場所に出てしまう。下手に動き回ればまたモンスターにも出くわすだろうし、どうしたら……!?

 

『彼女の後ろにあるゲートに飛び込んでください!』

「え? ゲート?」

 

 オウム返しで訊きながらおばさんの後ろに、今までの半透明の壁とは違う、円形状の輝く何かを確認できた。いつからあったのか、最初からだとしたら人に出会えた喜びやら、いきなり襲われたりで気づかなかったのだろう。

 逃げ口を見つけた。とっさに走ろうとして、ふと、身体が止まる。

 声の言うとおり、あのゲートに飛び込んだ方がいいのだろうか。実態もわからない、訳の分からない声にこのまま従っていいのだろうか。そんな疑問が脳裏をよぎってしまったんだ。

 それを察してか、声は少しだけ落ち着いた、それでいて優しく言う。

 

『私の言うことを信じてください―――とはすぐには無理でしょうけど、今あなたが助かるにはそのゲートを通るしかありません! だから……! どうかお願いします! 私を信じてください!』

 

 必死に願うような、真摯に訴えかける言葉を脳髄の奥に受け止めて、僕の中にある疑問は吹っ切れた。

 言葉としては足りない事ばかりだ。もっと聞きたい事もあるし、言いたい事もある。けれど僕は何だかこの声の人を信じてもいいと、それこそ訳の変わらない理屈も根拠もない単なる勘という、不安定な理由で信じようと思った。何より今、ここで僕が生き延びるには、どっちにしろアレしかない気がする。なら僕はこの声を信じるしかない!

 

「なっ!? 貴様……まさか!? 逃がすものか!」

 

 急に走りだし、その方角がゲートだとわかった途端おばさんが手を伸ばして邪魔をしてくる。でも、一歩行動に移るが遅かった。

 手が届くか届かないか、そんなギリギリのところで、僕と僕の召喚獣の姿は光り輝くゲートに消えていた。

 視界の全てが真っ白に変わり、僕の意識が遠く離れていくのが、最後にわかった。

 

                                ☆

 

 ううぅ……身体が重い……。

 気がつくと、すぐに全身に気だるさが襲い声を呻らせる。

 もう何度目になるだろうか。こうして倒れるのは。

 今日一日で奇想天外の奇行が目まぐるしく起きて、しかも最後の方なんて衝撃波とかで飛ばされるわで身体が酷く疲れている。それでも日頃から嫌々鍛えられてる所為で意識の半分が覚醒していない今の状態でも、起きようと思えば起きれないこともなかった。けど、やっと落ち着いたんだ。なんだか今寝ている場所も気持ちがいいし、もう少しこうしていよう。

 

「くらーい。…ってかまっくら? ここどこ?」

 

 ああ……気持ちいいなぁ~。ベットの上にいるみたいで、なんだか天国にいる気分だよ~。ここまでの流れ的に縁起でもないけど。

 

「……っていうか、もしもーし! 誰かいませんかー! いないなら勝手に歩き回っちゃうけど、初回仕様のパッケとか踏んでも知らないよー!」

 

 そういや僕、昨日寝ないで徹夜ゲームしていたから睡眠不足でもあったんだ……。ふわぁ……通りであちこち痛いのに眠いわけだ……。丁度いいや。ちょっと寝てもいいかな。新作のゲームはまた後でやればいいわけだし…。

 

「けど、こんなわけもわからないところじゃ、何が落ちていても不思議じゃないよね」

 

 ホント、今日はわけがわからない所に飛ばされてばかりだよ。モンスターは出るわ、変てこコスプレおばさんには殺されかけるわで、う~ん……これ、作家さんにプレゼンして言い値で買ってくれないかな? あ、いや、こんなパターンの奴もう何個か見たな。ワンパターンって言われて弾き返されちゃうのがオチか~。

 

「飲みかけのー…とか、食べかけのー…とか、変なもの踏んじゃったらどうしよう! やっぱり、ジッと字送りを待つ方が無難かも!?」

 

 いやしかし、今思い返すとあのおばさんの攻撃、雄二や美波のパンチや関節技並に痛かったか。いや~痛かった。死ぬかと思ったよ。だいたいいつものことだけどね! あっははははは~。…………はぁぁぁ……。あ、でも美波の技の方が上かな。美波のは意識を保たせるからな~。そういう意味じゃあのおばさんはまだまだだったな~。あ、いや、そしたら一番はやっぱり姫路さんのポイズンクッキングかな……。あれは人類には早すぎた開拓だね、間違いなく……。

 

「あーもうわけわかんないよ! ここどこ! ねー、ほんとに誰も居ないのー! 歩き回っちゃうよー」

 

 ………………にしても、やけにうるさいな。誰だ? 人がようやく手に入れた安息の地で心地よい眠りについているのに、邪魔をするのは? 秀吉みたいに可愛い女の子だったら許すけど、これがエロに生きるムッツリーニとかだったら殺す……

 

「ふぎゃっ」

「ねぷっ!? なんか踏んだ!? ぐにゃっとしたなにこれ、飲みかけのジュース!? それともポテチ!?」

「だ、誰が飲みかけのジュースにポテチだ……。人のほっぺを踏んどいて……」

「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!? ジュースにポテチが喋ったーーーーー!?」

 

 だから僕はジュースでもなければポテチでもないっての!

 安眠を邪魔され、挙句にはほっぺまで踏まれて飲みかけのジュースやらポテチと言われて、いい加減我慢できずに僕は未だほっぺの上に乗る脚をどかさないままガバッと起き上がった。

 

「足を乗せるなーーーーー! って、うわっ!?」

「ねぷっ!?」

 

 もちろん僕がそうやって起き上がれば、足を乗せていた誰かは反動でよろめき、倒れるだろう。ちょっと意地悪だけど、こっちだって眠りを妨げられて怒っていたんだ。

 普通にどいてと言っておけば、それで終わるはずだったのに。

 勢いよく起き上がりすぎた僕の身体は、疲労やらダメージやらが蓄積されすぎて真面に立てずよろめいてしまう。しかも変な鳴き声を出す足を乗せていた人も、倒れそうになってとっさに取った行動らしく、僕の制服を掴んできた。なし崩し的に僕は僕を引っ張るその人の方へと力なく倒れてしまい、なにか柔らかい物体を押し潰してしまった。

 

「い、いたたた……。もうなんなのさ…僕は怪我人なのに……」

「うぅ……なになにー!? ジュースとポテチの反撃か何か!? というか、誰?」

 

 互いに痛がって起き上がる。そこでお互いに相手の顔が見れるようになって、お互いに自分がいったいどんな立場でいるのか、ようやくわかった。

 

「「……あ……」」

 

 目の前にあるのは、大きな紫色をしたくりくりの瞳。小さくも整った鼻筋に、可愛らしいさくらんぼのような口。

 一言で言うなら、可愛い女の子の顔が、僕の顔のすぐ目の前にあった。めっちゃ近い、あと数センチ動けばお口とお口が接触してしまいそうなぐらいの距離に……へ……? って、………へ? あ、あれ……? な、なんか今……柔らかいものが………って!?

 

「うわぁああーーーーーーーーーーー!?」

「ねぷーーーーーーーーーーーーーー!?」

 

 驚いて声を上げて、慌てて飛び退く。相手も、僕と同じように変な声を大して跳び起きた。

 

「だっ、誰!? 君!?」

「そっちこそ誰!? いきなりわたしを押したおしたりして!? この作品は対象年齢かけてないのに18禁にしちゃうき!?」

「なんか変な誤解生まれてる!? ちょっと! 別に押し倒そうとした訳じゃないよ! そっちが足を僕の頬に乗せるから!」

「ええええーーーーー!? じゃあ君は飲みかけのジュースの精か食べかけのポテチの精!?」

「なんでそうなるの!? ジュースとかポテチから一回離れようよ!?」

 

 なんなんだこの子!? いきなり人の頬を踏んだと思ったら、人をどんだけ飲みかけのジュースやら食べかけのポテチにしたがるんだ!

 

「だいたい君は誰なの!?」

「え? わたし? わたしはネプテューヌ! どこにでもいる普通の美少女だよ! あ、あと趣味はゲーム! それでそれで! ……それで、あれ? そういえば……わたしってどうしてここにいるんだろ? ここまでの記憶がないや」

「……………はい?」

 

 もう、本当に何度目になるだろうか。

 気がつけばモンスター達に襲われ、おばさんに襲われ、そしてもう一度目が覚めると、記憶喪失となっている女の子と出会っている。

 ホントに、何度も言うけど、もうわけがわからない。




二話に続く―――のか!?
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