「おおっ! なんか凄く大都会! ねぇねぇ、ここなんて街なの?」
「ここは4つある大陸の中の一つ、女神パープルハート様が守護するプラネテューヌです」
「へぇ…プラネテューヌって言うんだぁ。なんか親近感ある名前って感じだね」
「ねぷねぷの名前と似てるです」
あはははは~。ほら~見てごらん、秀吉。この子が僕と君の赤ちゃんさ。秀吉そっくりの可愛い女の子だ~。
「で、ねぷねぷ。後ろのアッキーはどうするですか? さっきからしきりに幸せそうに僕らの天使が~、なんて言っているですけど……」
「う~ん、わたしの経験上、ああなっているアッキーは揺さ振っても全然だからなー…。よし! ちょっと叩いてみよう!」
「ええッ? そんな壊れたテレビみたいに直るですか?」
「やってみなければわからない! わたしはこの黄金の右手を信じる!」
はっはっはっはっ。見なよ秀吉。僕らの子供達と愛犬が浜辺で戯れているよ。ああ、わかっているさ。これからもこの幸せの中で一緒に生きて行こう。僕はもう、幸せすぎてもうなにもいらないよ。そうさ。たとえこれから何があろうとも、僕はこの幸せな家庭を守って―――
「角度は60度! 秘儀! ねっぷねぷチョップー!」
「どへぶっ!?」
「わわ! つむじ部分から思いっきりいったです……」
はっ!? 僕はいったい今まで何を!?
「ようやく目が覚めたみたいだね」
「ね、ネプテューヌ? ぼ、僕はいったい何を……」
「大丈夫。
まさか、また混乱していたってのか……。我ながら意識を異世界に飛ばす自分の危機防衛本能が恐ろしい……。
「大丈夫ですか、アッキー?」
「あ、ああ、うん…。前回の最後でちょっと容量オーバーしちゃったから……」
「ちょ、ちょっとですか……」
ネプテューヌの助けがなかったら危なかった。下手をしたら、僕はあのまま秀吉と成長した娘の結婚式について和風か洋風かで討論をする場面にまで行ってしまうところだった。幸せは幸せのままで終わらせておくべきだろう。
「よくわからないですけど、まだアッキーは混乱しているように思えるです…」
「もう一発、ねっぷねぷチョップ、いっとく?」
「ねぷねぷ。たぶんそれ以上は逆効果だと思うです。もう一度やったら、ホントに壊れたテレビみたいにピーガーって言うかもです」
「ん~…それはそれで見てみたかも、なんて!」
「もう、ねぷねぷは~」
「「あはははは~」」」
「いやっ! あはははは~じゃないよ!?」
こちらが気を静めているのに、何を楽しく愉快そうにお話タイムしてるのさ! こっちは混乱して―――! そうだよ混乱した原因だよ! 原因!
「コンパ! さっきなんて言った!?」
「え? さっきって……ああっ。だからもう一度やったら、ホントに壊れたテレビみたいにポーピーって言うかもですって言ったです」
「違う! 僕の求めてるリピートはそれじゃない! しかもさっきと微妙に違うし!」
「おお、混乱してたのにアッキー、ちゃんと聞いてたんだね」
「すごいです。よだれを垂らしてお空を見上げていたのに、きちんと会話ができるなんて」
「ええい! 話がそれるから二人ともちょっと静かに! 僕が訊きたいのはそういうことじゃなくて! ここって地球じゃないの!?」
コンパからのサラッと発した爆弾発言で意識が遠い世界に行ってしまった要因。それはここが、この世界が、僕のまったく知らない『ゲイムギョウ界』とかいう場所だからだ。
「はいです。ここはゲイムギョウ界にあるの大陸の一つ、プラネテューヌです。日本とか、アメリカとかじゃないですよ」
「……マジで……?」
「マジで、です」
ニッコリ満点笑顔を崩さず言うコンパに呆気にとられて、改めて周りの街並みを見て、また呆気にとられる。
目に映る世界は、まさしく近未来都市って感じの大都会。一際どデカいタワーを中心に大きな建物が連なり、見たこともないデジタル機器があちこちに溢れている。どうこをどう見ても、こんなアニメやゲームに出てくるような街は僕の世界にはなかった。
つ、つまり……ここは間違いなく、
「僕のいた世界とは、まったく別の世界……!?」
にわかに信じがたい出来事だ。それこそアニメや漫画でもないのに、ある日突然別世界に飛ばされました、なんてありえなさ過ぎて混乱が一周して冷静さに薄志を駆けるぐらいだ。
だけど、モンスターとかおばさん達に襲われた世界よりも、なんというかより現実味のある感じがして、夢を見ているんじゃないんだと、これは現実なんだと、素直に呑みこもうとしている自分がいた。
「その割には見事にパニクってたよね」
ネプテューヌ、僕の心の声を聞いて会話しない。
しかしおばさんに襲われたとき、ゲートを潜り抜けて無事に帰れるとはいかなくとも、道筋が見えるんじゃないかと思っていたけど、まさかあの延長線だったなんて……。
「ね、ねえコンパ? 4つの大陸とかなんとかって言ってたけど、この……ゲイムギョウ界だっけ? って、いったいどういう世界なの?」
パニックになる事はなくなったけど未だその余韻が残っていて、恐る恐るといった体でさらに質問してみる。と、とにかく落ち着こう……。こういう時は情報収集だってばっちゃんが言ってたし……。
「ゲイムギョウ界がどういう世界って言われても……。ゲイムギョウ界は女神様のいる天界と、わたしたち人間たちが住む下界でできてるです。4つの大陸は浮いていて、ここプラネテューヌ以外に、ラステイション。リーンボックス。ルウィーがあって、それぞれ違う女神様に守護してもらっているんです」
ごめんばっちゃん。情報を収集しても意味がわからないんじゃ意味ないよ。女神? 天界? 下界って? 守護ってなに?
「あ、アッキー。頭から煙出てるよ? もしかしてオーバーヒートしちゃった?」
「すごいです。アッキーはいろんな特技を持っているんですね」
そしてこの子達は呑気に笑っているよばっちゃん。
ああもう……いったいどこからどうなってこうなったんだッ? 全然わけがわからん! せめてあの天の声にもう一度会えれば……!
「って、そうだよ! 僕らの落ちた所(?)に行けば、もしかしたらあの天の声に会えるかもしれない!」
「ねぷねぷ、アッキーが天の声とかって言いだしたです! やっぱりまだ混乱してるかもです!」
「よーし! なら早速、もう一度ねっぷねぷチョップー!」
それなら急いで向かわない手はない! さあ早く―――って、はい? ねっぷねぷチョップ?
ドスッ!
☆
「い、いや~。ごめんごめん。頭にやろうとしたら、こっち向くんだもん」
「顔面に綺麗に入ったですね」
「……………」
ええまあ、おかげでチョップの跡がくっきり残りましたとも。でも、おかげでいくらか落ち着きましたよ、ええハイ。
「とにかくっ! 僕らの落ちた場所に行こう。思っていた以上に、もしかしたら大変な状況みたいだし」
混乱するのもパニックになるのも秀吉との家庭作りももう充分にやった。今は冷静にいることが大事だろう。下手したら僕、1日や2日で家に帰れるわけじゃなさそうだし。それに、ねっぷねぷチョップ、3度目はくらいたくないし。地味にジンジンして痛い。
「アッキーやる気まんまんだね! ところで、これから行くところってどんなとこなの? なんか持ってった方がいいかな?」
「街からちょっと離れたところにある自然公園ですから大丈夫ですよ」
「ほんと! よかったぁ、荷物とか重い物って疲れるから苦手なんだぁ。あ、そうだ」
唐突に何かを思い出したような声を上げてネプテューヌは駆け出し、近くのアパートのゴミ置き場でゴソゴソと何かを探し出し始めた。
「ネプテューヌ? 何やってるの?」
「お洋服汚れちゃうですよ?」
「ちょっと待ってー」
僕にコンパが問いかけるが、ネプテューヌは熱心に何かを探す。そしてお目当てのものを見つけたらしく、手に持った木刀を振りたくって―――木刀?
「見て見て二人とも! 木刀見つけちゃった!」
「木刀って、よくあったねそんな物」
「アパートの住人の誰かが中学校の修学旅行の旅先で自分用のお土産として買った物だよ、きっと!」
悲しきかな。中二病を堪えきれなかったアパートの住人よ。恐らく家に帰って見つめ直して、どうして買ってしまったんだろうと思いつめながら捨てたんだろう。僕もそうだったから。
「けど、そんなもの何に使うですか?」
「えーっと…ロマン?」
そしてここにも一人、大きくなった後に恥ずかし思いをしそうな少女がいた。
「ねぷねぷも、中学生と一緒ですね…って、あれ? アッキー? 何しているですか? ゴミ置き場なんかで?」
「えっ!? あ、いや……その、もう一本……ないかなって…思って……」
「アッキーも、一緒だったですね……」
「あ、これは貸さないよ。わたしのだからね」
忘れることのできない少年の心には僕も勝てなかったよ。……ネプテューヌには後でプリンをエサに貸してもらおう。
☆
そんなこんなもあって、コンパを先導にRPGゲームみたいなファンタジー世界に圧倒されながら歩き、たどり着いた場所は緑がいっぱいの自然公園。
「へ~結構いい場所だね」
「もしかしてここが、わたしにアッキーがねぷ神家の一族の水死体の如く突き刺さってた場所?」
「ねぷ神家? え? なに、僕ってそんな感じで木に刺さってたの?」
「それはもっとこの先なんですが…」
「「ですが?」」
「いつの間にかモンスターさんでいっぱいですぅ」
モ、モンスター!? え? この世界にもモンスターいるの!? またモンスター軍団との鬼ごっこなんて僕はイヤだよっ?
別世界に飛ばされたのも驚きだけど、ここはモンスターなんてのもいるらしい。ますますゲームっぽい世界観だ。
「モンスターってあの、水色のプルプルしたイヌみたいな耳と尻尾がついてるやつ?」
「ん? 水色のプルプルで…イヌみたいな―――って、ああああーーーーーーー!?」
「ねぷっ!? ど、どしたのアッキー?」
「な、なんですか? いきなり声を上げて…」
「あのモンスター、僕を襲ってきた奴そっくり! てかまんまアイツらだ!」
指を指しながら言ってたネプテューヌの視線の先を見たら、そこには学園で大量発生していたあのモンスターたちが存在した。
「なんであいつらがここに!? てかアイツらってもしかして、この世界のモンスター!?」
「ねぇねぇこんぱ。世界観的にこの世界には普通にモンスターがウヨウヨいるんだよね?」
「昔はゲイムギョウ界にモンスターさんなんていなかったです。けど、数年前突然現れていろんなところで悪さをしはじめたんです」
「突然現れた? いったいどこからっ?」
「それがわからないんです。ほんとに突然、どこからともなくやってきたんです」
「ということは!? 世界のどこかに、そのモンスターを生み出すボスがいるんだね?」
「確かに…そういうボスみたいなのはいるかも知れないです。でも、誰も知らないですし、見た人もいないです」
原因不明の出所不明のモンスターか……。なんでそのモンスター達があの空間にいたんだ? おばさんは確か、辺鄙な空間なんチャラとか言ってたけど……。
「じゃあさ、せっかくだしモンスター退治しながらわたしたちの落下ポイントに行こっか?」
「え? 退治って、戦うの?」
「急にどうしたんです?」
「いやぁ、なんてーの? 主人公としての血が騒いじゃってさー。困ってる人は見逃せないってやつ?」
あ、主人公とられた。別にいいすっけど。
「気持ちは嬉しいんですが、戦えるんですか?」
「見た目は弱そうでも仮にもモンスターでしょ? 大丈夫なの?」
「余裕余裕! 直感と、この木刀を信じて戦えば敗北はない!」
「直感と木刀って、いくらなんでも……」
確かに数も学園の時に比べれば少ないし見た目も強そうに思えない。悪さをしていろんな人が困っているのだとしたら、それはむしろ良い行いだとも思う。けど、だからって僕らみたいな子供が戦えるのか、とも思うわけで……。
「ちょっと不安ですけど…ねぷねぷががんばるなら、わたしも頑張るです! よいしょっ、と」
「え? ちょっ、コンパも賛成なのっ?」
僕は危険だと止めようとたのに、コンパまでなんだかやる気を見せちゃって、もう止められなさそうな空気。しかも、そんなコンパはどこからともなく、
「って! なにそのビッグな注射器!? そんな物どこに持ってたの!?」
普通の注射器よりも何倍も大きい注射器を取りだし驚かせるコンパ。おばさんといい物量的にどうやって持ってたんだ!?
「モンスターさんに襲われた時のためにいつも持ち歩いている護身用の注射器です。どこに持っていたかは……乙女の秘密です」
「乙女の秘密って……。そもそも注射器に護身用とかってなに……?」
「細かいことは気にしたら負けですよ、アッキー。さぁ、モンスターさん退治をしながらどんどん進むですよー」
細かいことなのかなぁ……? てか、ホントに戦うの? むしろ戦えんのこのパーティーで?
常にハイテンションなネプテューヌに天然のコンパ。そして丸腰の僕。…………どうしよう、どうしても不安がぬぐえない…。
「おーい、アッキー! どうしたのー! 早く行こうよー!」
「どうしたんですかー?」
「って、いつのまにか勝手に進んでるし……」
こちらに手を振る二人は、気づけばかなり前へと進んでいた。とりあえず、急いで追いかけてネプテューヌたちに並ぶけど、やっぱり不安は抜け落ちないわけで、
「遅いよアッキー。時はわたしたちを待ってくれないんだよ!」
「いや……あのね……。戦うのは……まぁ百歩譲っていいとするよ。けど、二人は武器があるからいいとして、僕は丸腰なんだよ? ネプテューヌみたいに木刀があるわけじゃないし、コンパみたいに護身用?で注射器もないし」
「そういえば、アッキーは武器になるような持っていないですね。これじゃあモンスターさんと戦うとき危ないです」
「う~ん……わたしが木刀で、こんぱが注射器なんだから……。それじゃアッキーは素手で行くスタイルってどう! そうすれば全員違う職業っぽくてよくない!」
「いや、普通に死ぬわ」
モンスターはモンスター。この世界の人がどうかは知らないけど、僕は普通の人間なんだ。素手であんなもの殴って倒せる自信はない。てか、あの水色ヤロウはぬるぬるしてそうだしできれば武器が欲しいです。
「ん~…じゃあしょうがない。アッキーは今んとこベンチってことで」
「え? 僕は戦わないの?」
「だって武器ないし。それにほら、最近は女の子が戦って男の子を守る系もあるし! こういう需要はアリだと思うんだ! だから気にしなくていいよ! このねぷえもんがカッコよく守ってあげるから!」
そう言ってえっへんと胸を張りドヤ顔を決めるネプテューヌ。これは僕を気遣ってのこの子なりの優しさなんだろうか。武器もないし、申し出自体はすっごくありがたいんだけど、僕としては男の癖にこんな女の子達に戦わせて自分だけ後ろで守ってもらうってのはどうも受け入れがたい。
そんな顔が表に出ていたんだろう。コンパも気にした様子もなく笑顔で続ける。
「ねぷねぷの言うとおりです。武器がないんじゃしょうがないですよ。大丈夫です。アッキーはわたしたちがきちんと守るです!」
「う、う~ん……。そう言ってくれるのは嬉しいけど……はぁ、仕方ないか……。じゃあお願いするね」
「オッケー!」
「はいです!」
意気込んで返事をする彼女たちを前に折れたのは僕の方。今の僕じゃ何にもできないのは事実だし、ここは二人に任せるしかない。
二人に任せるしか……
「さぁわたしの剣が世界を救っちゃうぞー!」
「ねぷねぷ、それは剣じゃなくて木刀ですよ―――ひゃわっ!?」
「こんぱ!?」
「うぅ…転んじゃったです……」
「あらら、石にでも躓いちゃったんだね。大丈夫?」
「大丈夫、です…! これぐらい、これからモンスターさんと戦うのに比べたらへっちゃらです!」
「そうそう! その調子だよこんぱ! 美味しいプリンがあるこの世界をモンスターなんかにめちゃめちゃになんかさせないんだから!」
「はいです!」
……………途中でなんか木刀に近い物でも拾えればいいな。
☆
…………で!
「ぬら~…(たぶんやられた~って言ってる)」
「だいしょーり! いやぁ、こんなこともあろうかと木刀を拾ってきてよかったよ」
「どうです? モンスターさんとの戦いは慣れましたか?」
「ぼちぼち、ってとこかな。まだよくわからないことたくさんあるしねー」
「ここには他にモンスターさんたちもいるみたいなので、ゆっくり慣れていくです」
「だね!」
「だね! じゃないーーーーーーー! こっちにめっちゃモンスターが来てんですけどーーーーー!?」
「「……あ……」」
モンスターを二人が見事に退治していく傍らで、なぜか必要に狙われる僕は逃げ回ったりして大変な目にあったりもしたけど、順調に目的の場所に進み、苦労の末にようやく目的地に到着した。
「到着です。ここにねぷねぷとアッキーが突き刺さっていたです」
説明しながらコンパが指差す方向には、ネプテューヌが突き刺さっていたであろう穴の開いた地面に、近くには僕が突き刺さっていただろう穴の開いた木があった。
「おおっ! 我ながら見事な穴が開いてるよー」
「ホントだ。綺麗に穴ができてる」
それぞれが刺さっていた場所に歩みより、触ったり穴を除いたりして確かめる。信じてなかった訳じゃないけど、こうして自分の目で見るとまた何とも言えない。てか、こんな目に遭ったのにこの程度の傷で済んだのね……。これは自分が凄いんでいいのか…?
「ねぷねぷもアッキーも何か思い出しましたか?」
「僕はまぁ、ちょっとは」
元々僕はあの空間からここまでのことは憶えている。わからないのは、何であの空間にいたことだけだ。
「……………」
「…ねぷねぷ?」
ネプテューヌの反応がない。まるで屍のようだ。死んでないけど。
「…むむっ…。むむむむむぅっ……あー! だめー! 全然思い出せない! ねぇこんぱ、ほんとにここにわたしが突き刺さってたの?」
「はいです。ねぷねぷたちは、夜空から流星の如く降ってきて、ここに突き刺さったです」
「改めて聞くととんでもない状況だね」
「まさしく、流星、夜を切り裂いてーって感じだね」
「何がまさしくなのかわからないけどね」
結構好きなBGMではあるのは確かだけど。
「そうです!」
「どうしたの、こんぱ? 突然大きい声出したりして?」
「もしかしたら、近くにねぷねぷたちの手がかりになるものが落ちているかもしれないです。何かなくなっているものはないですか? 学生手帳でも、保険証でもなんでもいいです」
「いやぁー。いくらわたしでも記憶喪失じゃ何がなくなってるとかわかるはず……あ! あったあった! なくなってるものあったよ!」
「ホントですか!? それで、それはなんですか?」
「………………」
ここはあえて口を挟まないようにしてみよう。なんとなくだけど、ネプテューヌが言いそうなこと、わかるし。
「うん。それはもちろん…」
「もちろん?」
「………………」
いっぱい溜めて溜めて―――
「わたしの記憶だよ!」
でしょうね。だってあなた“記憶”喪失なんだし。
「「……………」」
「…………あ、あれ? もしかして、滑っちゃった?」
「…ねぷねぷ。こういう時にそういう冗談は良くないと思うです…」
「え、えぇ!? アレって、こんぱからのボケろってパスじゃなかったの!?」
「どうやら違ったみたいだね。残念、ネプテューヌ」
まあ記憶喪失のネプテューヌになくなった物はないかって尋ねてるんじゃ、そう思ってもしょうがないよね。
「ねぷねぷのボケは置いておいて、とにかく手がかりが落ちてないかを探すです」
「そうだね。ネプテューヌが記憶喪失じゃ、いつまでも身元がわからないし」
「? アッキーのは探さなくてもいいんですか?」
「ところどころ記憶は曖昧だし、わからない事もいっぱいだけど、僕はネプテューヌみたいな記憶喪失じゃないからね。とりあえずネプテューヌの方を手伝ってからゆっくり探すよ」
「ちょっとちょっと! 二人ともわたしをほったらかしにしないでよ! ボケはほっとかれるのが一番キツイんだよ!」
後ろでネプテューヌが何か言っているけど、僕らに遊んでる暇はない。ネプテューヌは記憶喪失だし、僕は異世界から来たってことになるし、そうじゃなくとも調べることは山ほどある。さあさあ手を動かしましょう。
と、何か手がかりがないかと探そうとした時、ふと耳にピシっと何か亀裂の入るような変な音が聞こえてきた。
「この音、なんです?」
「あー…なんだろう、嫌な予感がする…」
「あははは…なに言ってるのさ、ネプテューヌ。嫌な予感も何も、ここは自然公園というモンスターがいるけど公園なんて場所なんだから、そんないきなり、例えばだけど地面に穴が開いて落っこちる~なんてベタベタなめにあうわけが……」
我ながらフラグです。本当にありがとうございます。
と、フラグ回収が如く、地面がいきなり陥没してしまった。
「ねぷぅー!? 足元が崩れたー!? アッキーのフラグのせいでー!」
「えっ!? 僕の所為っ!?」
「落ちるですぅー!? アッキーのフラグのせいでー!」
「えっ!? 僕ですか!? って! ホントに落ちるーっ!?」
瞬時に消えた大地が作った大きな穴に僕らは重力に従って真っ逆さま。みるみる青空は遠のいて行き、気がつくつとそこは薄暗い洞窟の中だった。
「いたたたたぁ…まさかこんな短い間にもう一回落ちるなんて…。リメイクだと思って油断したよ……」
「リメイク云々はいいとして、僕ももう一回落ちるなんて思いもよらなかったよ……」
「そうだよね…。降ってくる系ヒロインブームの再来はもう少し心の準備ができてからにしてほしいよ…」
「心の準備とかでどうなるもんでもないかと思うけどね……」
「ところでアッキー、どこにいるの? 声はするのに姿が見えないよ? はっ!? もしかして……もうアッキーは……!」
「死んでないからね? 死んで幽霊とかに化けてないから」
「それじゃどこにいるの? なんだか下の方から声が聞こえるけど……って、ねぷっ!? アッキー、わたしのお尻の下で何してるの!? そういう趣味っ!?」
「…………この短い期間でもう一度ネプテューヌに下敷きにされるとは僕も思ってなかったよ」
あと、誰もそんなMな趣味は持ち合わせていないって。
「いいから早くどいてよ。起き上がれないから」
「あ、ごめんごめん」
「まったく……。ネプテューヌは一度、下をキチンと見るってことを覚えた方が……」
「あっ! そういえばこんぱは!? こんぱー! どこにいるのー? 大丈夫ー!」
「聞こうよ」
さっき無視した仕返しかなとも思ったけど、コンパが心配なのは同じ。僕も急いでネプテューヌを追いかけて歩き出すと、少し離れた所に尻餅をついて涙目になっていたコンパの姿を見つけることができた。
「は、はぃぃ…。なんとか、大丈夫です」
「よかったぁ。落ちた衝撃でこんぱまで記憶喪失になったらどうしようかと思ったよー」
メンバーの三分の二が記憶喪失ってとんでもなくカオスだ。あ、僕も半分は記憶喪失みたいなもんだし、正確には三分の二・五ぐらいか。
「大丈夫、コンパ? 手を掴んで」
「ありがとうです、アッキー」
「どこなんろうね、ここ?」
手を掴んでくれたコンパを起こして、ネプテューヌがお尻に付いた砂埃を掃いながら、僕ら全員が思っていた疑問を投げかける。
「たぶんですけど、さっきまでいた森の地下にある洞窟だと思うです。けど、こんなところに洞窟があるなんて初耳です」
「未開の洞窟ってことか…。にしては明るいなぁ……」
コンパの言うことは嘘ではないんだろうけど、洞窟はその言葉と裏腹に舗装されている部分もあり、橋なんかもある。明るさだってそうだ。薄暗いちゃ薄暗いけど、穴の開いたところから日の光が差し込んで来てるだけなのに、こんなに周辺を目視できるのはおかしい。何より奥の方に祭壇?みたいな人工的な物もあって明らかに人の手が及んでいるとしか思えない。
「うぅー…、なんか凄く不気味な感じがするよ…」
「オバケさんとか出てきそうです…」
僕が洞窟内を観察していたら、そんな怯えた台詞を溢して、二人が身体を摺り寄せてきた。あははは…。モンスターとか倒すのに、なんだかんだ言ってやっぱり女の子か。
「ん? あれ? なんだろうコレ?」
ちょっと動きづらくとも周りを見回していたら、ふと、丁度さっき目にした祭壇近くに光る何かを捕らえて拾ってみる。
「どうしたのアッキー?」
「なんかこんなの落ちてた。なんだろう?」
「なんでしょう? 見たこともない形です」
形容しがたい、何かのパーツ(?)みたいなそれは、こっちの世界の人でも珍しい物らしく、コンパにもこの物体の正体は知らないようだ。本当になんだろ、これ?
「わかった! RPGお約束の換金アイテムだよ、きっと! お店に売ったら何個くらいプリン買えるかなー!」
ポケ◯ンでいう金の玉ってか? 僕はオジサンから貰いたくないです(真剣)。
「まあまず売り物になるかどうかだよね」
買い取りセンターに行っても三秒で突きかえされそうだ。もしくは良くて三十円での買い取りが妥当だろうね。
などと思っていながら辺りをさらに詳しく調べていると、突然、耳をつんざく獣みたいな咆哮が洞窟内に轟いた。
「ねぷっ!? な、何このいかにもな唸り声!?」
「さ、さっきみたいなモンスターじゃなさそうだけど……!」
「あ、あそこです! 大きなモンスターさがいるですぅ!」
狼狽える僕とネプテューヌは叫ぶコンパの指さす方向に視線を移す。
暗さにも慣れた目で捉えたのは、ここまでのモンスターが可愛く思える岩壁に這う巨大なモンスターの姿だった。
「ク、クモの化け物!?」
現れたのは巨大なクモに近い姿をしたバケモノ。蜘蛛としての胴体に人に近い形をした上半身がくっ付いた、馬に乗った騎士にも見えなくもないそいつは、剣を持っていて、明らかにこちらを標的としている感じでいる。
「や、やばい! 逃げよう!」
「ら、ラジャー!」
「はっ、はいで―――きゃー!」
ああ! なんていとも容易くに捕まってしまったのでしょうコンパ! 逃げる初動もできないで見事に捕まったよあの子!
「た、助けてほしいですぅ…!」
「あーっ! こんぱがモンスターに捕まって、あんなことやこんなことされちゃってるよっ!?」
「なにーっ!? モンスターめ! なんて羨ま……じゃなくて! なんて羨ましいことをコンパにするんだ!」
「うわっ! アッキー言い切った!?」
あのたわわな果実が弄ばれるのなんて男として許しちゃおけない! 僕の友であり、
「あんなこともこんなこともされてないです! 変な実況しないでくださいですぅ!?」
「ごめんごめん。わたし的にはファンサービスのつもりだったんだけど、やっぱ嘘はいけないよね」
「なん……だと……。う、ウソ…だったんだ……。い、いや……いいんだ……嘘であって……良かったよ………うん…」
「あ、ここに裏切られたファンが」
「いいから助けてくださいですぅっ!」
おっと! そうだった! 今はいやらしいことは後だ! 速くコンパを助けなくちゃ!
「待っててコンパ! 助けるから! てやー!」
僕が妄想空間から帰還すると同時に、ネプテューヌは木刀をクモのモンスター目がけて振り下ろした。
『ネプテューヌさんの攻撃』
バシッバシッ!
『しかし、効果はないようです』
「どうしよう全然効いてないよ!」
「いやっ! それ以前に今の謎解説でしょっ!? 何っ!? 誰!?」
どっかで聞き覚えのある声だったような気がするんだけど……。って、この声は!?
『すみません。脅かすつもりはなかったんですがつい……』
「やっぱり夢の中の天の声さんだ! ちょっと天の声さん! コレってどういう事なの!? あのゲート潜れば助かるんじゃなかったの!? もろ別世界に来ちゃったんだけど!」
「どうしたのアッキー、いきなり怒鳴って? この声、どこかで聞いたことがあるような気がするんだけど…アッキーのお知り合いなの?」
『わたしは史書イストワール。昨日、ネプテューヌさんたちの夢の中でお話させていただきました』
「あー! そうそう思いだしよ。夢の中に出てきた天の声さんだ。てか、あれってやっぱり夢じゃなかったの!?」
「そんな事より天の声さん! 僕を早く元の世界に戻してよ! これじゃおばさんに逃げきれても意味ないって!」
『落ち着いてください。今はそれどころじゃありません』
「ねぷねぷぅー! アッキぃー! お話してないで助けてくださいですぅ!」
「「おおっ! そうだ、コンパ(こんぱ)を助けなきゃいけないんだった!」」
すっかり忘れるところだった!
「この変態グモ! さっさとコンパを放せ!」
「あっ、アッキー!」
急いで駆け出し、手短にあった石ころを拾い上げてすぐに投げつける。でもクモのモンスターはビクともせず、こちらに見向きもしない。この野郎……! 無視しやがって……!
「おらー! 変態グモー! こっちだこっちー! こっち向け!」
手当たり次第に石を投げ、時に蹴りつけて、少しでもこちらに気を引こうとする。それでもこちらを向かなければと、後ろに回り込み、思い切ってモンスターの背中に飛び乗り、人型の方の顔に思いっきり拾っておいた石で殴りつける。
『ガャアアアアアーーーー!』
「うわっ!?」
「きぁゃっ!」
「こんぱ!? アッキー!?」
今までとは段違いの効果を発揮して、モンスターは雄叫びを上げて暴れまわり、その拍子に僕は振り落されてコンパも変態グモからの束縛から解放された。
でも、怒り心頭のモンスターはより荒々しくなって、標的を僕に変え襲い掛かってきた。
風を切る轟音を鳴り響かせてモンスターは剣を上段から振り下ろしてくる。
「どわっ!? 危な!?」
「アッキー!? 逃げてくださいです!」
危機一髪で一撃目は避けることができたけど、追撃は止まない。今度は横薙ぎにして剣を振るってきて、かわそうと横に転がり込む。頭上すれすれで剣は通り過ぎ、急いで距離を取ろうとするも、頭に血が上っていたモンスターは振りたくった姿勢から無理やり攻撃に転じてきて、態勢を崩しながら全身で突撃してきた。って、うっそ!?
「うぐぅッ……!?」
回避することができずに激しく壁に打ち付けられて、苦悶の声が漏れる。
遠くでコンパの叫び声や、ネプテューヌの慌てた声が聞こえるけど、もうそんなのしっかり聞いている余裕はない。
モンスターも即座に姿勢を戻して、再び攻撃を仕掛けてきた。
なんとかそれを跳んでかわそうとするけど、さっきのでおばさんの時の傷の痛みが再発。しかも痛みはより強くなって、身体に行動制限をかけてしまう。
案の定というか、瞬時に予想出来たとおりに、モンスターの攻撃をかわしきれず僕は上空へと派手に吹き飛ばされてしまう。眼に入る世界が何回もグルグルと周り、回転し続けていた視界が一気に安定し、平衡感覚を取り戻した時には僕の身体は地面に叩き付けられていた。
「ぐっ…かは……っ!?」
ただでさえ怪我をしていた身体に負担はデカく、視界がブラックアウトしていくのがわかる。こ、これは……やばいかも……!
☆
「わーっ!? アッキーがまたねぷ神家みたいに突き刺さって大変なことに!?」
「アッキー! 逃げてくださいです! モンスターさんが来てるです!」
「い、いや……ちょっ、まった……! えっ!? コレってもしかして、また穴に突き刺さってる!?」
突き刺さってる突き刺さってる! 見事なまでに突き刺さっちゃってるよアッキー! しかもモンスターまで迫っちゃってるよ!
「天の声さん! あいつの弱点とか知らない!? 速くしないと今度はアッキーがあんなことやこんなことになっちゃうよ!」
見た感じ、アッキーはすっぽり穴にはまっちゃったみたいで抜け出せそうになさそう。このままほっといたら、ほんとにアッキーが一部の女子歓喜のシュチエーションでモンスターにあんなことやこんなことをされちゃう!
『弱点はわかりません。ですが、いつものネプテューヌさんなら女神化して戦えばすぐに倒せるはずです』
「メガ身化…? ごめん、天の声さん。わたし記憶喪失だから一から説明してくれるかな?」
『…夢の中から妙に会話が噛み合わないと思っていましたが、まさかネプテューヌさんが記憶喪失だなんて……』
「困ったことにそうなんだ。けど、そのメガ身化ってのを使えばアッキーを助けることができるんだよね!」
『ですが、記憶喪失のネプテューヌさんに女神化ができるのでしょうか…』
不安そうにそんな事を言う天の声さん。そう思うっちゃうのはたぶん仕方ないし、しょうがないんだろうけど!
「記憶喪失だからって諦められないよ! 無理を通して、道理を蹴飛ばす! それが主人公ってもんでしょ!」
「主人公がまたとられた!? いやっ! てか、これマジで抜けね!? ヤバ! 頭に血が上ってきた!」
アッキー、静かに。今こっちで熱く盛り上がってる展開だから。
「だからお願い、力を貸して。友達を…こんぱを、アッキーを助けたいの!」
『…わかりました。わたしの力でネプテューヌさんを強制的に女神化させます。それで感覚を掴んでください』
「おっけー!」
意気込んで元気に返事! 天の声さんも応えるように、不思議と力が溢れる言葉を呟いた。
「ネプテューヌさん。あなたに、力を―――」
その声を聞いた瞬間、胸の奥からカァーッと熱くなる、そこに閉じ込められてるパワー? エネルギー? チャクラ? 波紋? ―――自分でもどう表現していいかわからない何かが解放され、わたしの全身に満ちていく。
この感覚を、わたしはどこかで覚えてる。気を抜くと、その感覚に呑まれて意識をもってかれちゃいそうになるのをぐっとこらえていると、ある時突然、すーっと頭の中がクリアになってくる。
次に来るのが体の変化。視界が急に高くなり、世界の見え方が少しだけ変わる。
自分で言うのもなんだけど、控えめだった胸は形良く膨らみ、腰は滑らかにくびれ、同時に体中の筋肉がぎゅっと引き締まるのがわかる。
ざわざわっとした違和感が首筋に走ったかと思うと、まるで二本の螺旋を描くように、編み込んだ後ろ髪が腰の辺りまで伸びてくる。
それまで着ていた服が光る粒子になって消え去り、代わりに全身を包み込むのは、体全体に張り付くようにぴっちりとフィットした黒と紫のコスチューム。
そして……光はどこまでも強く輝き……。
「ま、眩しいです!?」
「…これが…わたし……!?」
『はい、それがネプテューヌさんの真の姿です』
180度変わった自分の姿を見て驚くわたしに、天の声は諭すように教える。
これが……女神化した、わたしの真の姿……。
「な、なに!? 何が起きてるの!? 今僕の見えてないところで何が起きてるの!?」
「ね、ねぷねぷの姿が変わったです! 凄いです! 変身です!」
「姿が変わったっ!? 変身!? わけわからんよ!?」
遠くでこんぱにアッキーの驚愕の声などが聞こえてくる。
わたしは自身の頑丈な手甲に包まれた掌を見つめて、ギュっと拳を握る。
「凄い…体の中から力が溢れてくる……! これなら負ける気がしないわ!」
漲るエネルギーは確かにわたしをより強い存在に変えた。そしてそこから次いで溢れかえる自信は力と共にわたしの足先から指先まで浸透していくように流れていき、
「待ってて、アッキー! 今助けるわ!」
握っていた木刀が変化した刀剣を構え、わたしはモンスターに向かって飛び込んでいった。大切な友達を助けるために!
四話に続く―――ことを信じて次回の作品をお楽しみに!(嘘です。次回の作品なんてありまへん)