バカ次元ゲイムネプテューヌ   作:浮雲

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前回の続きです!ゲイムギョウ界の一陣の風ことあいちゃんが登場してツッコミキャラが増えました。よかったね明久。少しは苦労が減るね。
そして今回、再びあのおばさんが……!?最後はなんと……!?
いろいろありますが、とりあえずウチの明久が早く主人公やれることを僕も祈ってます。頑張れバカ。


第6話 スカートとおばさんと召喚獣

「へぇ~、その武器、カタールって言うんだ」

「そっ。まぁ一種の暗器ね。わたしが長年愛用してきた一品物よ」

「ふ~ん。じゃあそのケータイホルダは?」

「ぜんぶにケータイが入ってるですか?」

 

 女の子が持つには物騒な物の名前を教えてくれたアイエフに、僕とコンパが、さらに質問を重ねる。

 クモ型モンスターの脅威から無事助かった僕らは今、新しい(といっても一時的な)仲間、アイエフと一緒に洞窟内を進み、道中、せっかくのことだし、お互いに気になったことを質問している最中だったりする。

 けど、さすがにいっぺんに聞き過ぎたみたいで、ピッとアイエフは手を伸ばして遮る。

 

「はい、一回ストップ。あんたたちばっかり質問するなんて、フェアじゃないでしょ。わたしからも質問させなさいよ」

「あ、ごめん」

 

 ごもっともな意見に、自分の行いが過ぎたことだと自覚する。

 

「ご、ごめんなさいです。あいちゃんさん。いきなりズケズケいろいろ聞いちゃって」

 

 コンパもペコリと頭を下げて謝った。

 

「その『あいちゃんさん』ってのも、どう考えても変だからやめて。……これは後でまたキッチリ話すしかないわね。それで、質問いい?」

「うん。どうぞ」

 

 隠すことなんて僕らにはない。これも何かの縁だし、なんだって答えるつもりだ。

 

「じゃ、遠慮なく。……アンタはどうしてスカート穿いてるの?」

「……………」

「アッキー、とっても似合ってるですよ?」

「「……………」」

 

 ……なぜ、なぜスカートを穿いているかって? どうして男の僕が女の子御用達のスカートを身に付けているか? あえてそこを聴くんですね。僕たちがこの洞窟に来る前には何をしていたとか、そういうのじゃなく、前置きも何もなくズバッとくるんですね。

 

「冒頭から何もないみたいに進めてたけど、ぶっちゃっけ、わたしからしたら着替えて歩き出してからずーっと関わり合いたくないのに気になってたんだけど」

 

 でしょうね。僕なんか着替えた瞬間から違和感の塊を感じずにはいられなかったぐらいなんだから。

 

「アッキーのズボン、さっきのモンスターさんに襲われたときに、お尻の方が破けちゃったんです。だから、こんな事もあろうかと予備に持ってたスカートを貸してあげたんです」

 

 ええハイ、ホントに用意周到なコンパには頭が下がりますよ。そして僕のズボンが破けたからって、スカートを普通に手渡すあなたの純粋な笑顔が僕には恐怖でしかなかったよ。

 

「お尻が破けただけでスカート着る? 普通?」

「仕方ないですよ。お尻が破けちゃったなんて、恥ずかしいですし」

「スカート穿く方がよっぽど恥ずかしいと思うんだけど……」

 

 僕が悟りに入りかけている横で、コンパがボケ、アイエフがツッコミをすると、ようやくこっちでできた常識人であるゲイムギョウ界の一陣の風さんが僕に助け舟をくれる。

 

「あんたも流されてないで、なんか言ったら? このままじゃあんた、その格好で今日を過ごすのよ? というか、一緒にいるわたしが嫌だからなんとかして」

 

 助け舟というか、さらに追い込んでいる気がするけど、確かにここできちんと言っとかないと、今後の彼女たちとの関係に差支えが起きそうだ。

 よし! ならばここは男らしく一言!

 

「こんぱ!」

「なんですか、アッキー?」

「いくら僕が何度もスカートを穿いているからいいものの、このスカートはあくまでコンパのでしょ! 世界には女の子のスカートを穿いて『間接スカート』って喜ぶ変態がいるんだから気をつけなさい!」

「ツッコムのところが全然違うでしょ! っていうか何度も穿いてるって何!?」

 

 まったくコンパは……。良い子なんだけど、天然なのがあれだよね。真摯かつ騎士道精神を兼ね備えた僕だったから良かったものの、これがもしFクラスの連中だったら狂気乱舞で即ポリス沙汰になっていたところだ。

 

「ちなみにコンパ。このスカートは履いたことのあるやつなの?」

「はいです。それは何度か使ってるやつです」

「……………(ダバダバダバダバ)」

「ぎゃーっ!? ちょっ、鼻血!? 鼻血ッ!? 滝みたいに流れ出てるわよ!?」

「あ、間違えたです。それは昨日買ったばかりで、まだ一回も穿いてないです。似たのだったので、間違っちゃったです」

「………………(ピタッ)」

「って、止まったぁっ!? あんたの身体はどうなってんのよ!?」

 

 本当に、これが僕みたいな清き心の持ち主だから大惨事にはならないけど、欲望に忠実な変態たちじゃどうなっていたことか。さすがはキング・オブ・ナイトと呼ばれる僕だからこそだね。

 

「なんであんたは鼻血も拭き取らないで、決め顔でいんのよ……。スカート姿だから余計変質者……ていうか、バカっぽいわよ……」

 

 明らかに侮蔑を交えた視線をヒシヒシと感じるが、今の僕は己の中にあるいろいろな葛藤によって勃発した戦国時代の未来を見守るのに忙しく、ただひたすら今の自分の姿から眼を背けていた。

 それゆえにか、背後が御留守だったようで、背中に突然圧し掛かってきた気配にまったく気付くことができなかった。

 

「はいはーい! わたしをのけ者にして盛り上がるのはそこまでだー! てか、わたしも交ぜろー!」

「うわっ。いきなり背中に乗ったら危ないよ、ネプテューヌ」

「わたしをのけ者にするからいけないのー! わたしは五秒間ほっとかれたら死んじゃう病なんだから、気をつけてくれないとなー」

「別にのけ者にしてたわけじゃないよ。ネプテューヌがどっか行ってたんじゃん」

 

 むしろ他人にこんな痴態をさせた張本人のくせにどこ行っていたと言いたいぐらいだ。

 

「そんなことはどうでもよくって、」

 

 あ、横に置かれた。

 

「ねぇねぇ、あいちゃん。なんかこんなの拾ったんだけどさ」

「だからちゃん付けはやめてって言ってんでしょ……って、何それ? ディスクのようだけど……、こんなのどこで拾ってきたのよ?」

「なんかあっちの壁に飾られてたよ」

 

 ピョンと背中から降りて、指を指すネプテューヌが見せてきたのは、DVDや、ゲームソフトなどでよく見る形のディスク。機械的かつ真新しいそれは、自然の一つである洞窟には不釣り合いで、僕ら全員の視線がネプテューヌに向く。

 

「…飾られてた? このディスクが? …本当かしら」

 

 指さす方向を確認しても、飾られてたっぽいところはありはしたけど、アイエフは疑り深く訊く。けれどそれがネプテューヌの中の青春スイッチを入れちゃう合言葉だったみたいで、

 

「ねぷっ!? 酷いよあいちゃん! このわたしを疑うの!? 今まで長年連れ添ってきた仲間のわたしを……」

 

 怒って泣いてと、忙しく振る舞いだす。それがさらに連鎖を呼び、

 

「ねぷねぷを疑うなんて、あいちゃん酷いですぅ」

 

 コンパまでも参戦。あーあ……、下手なこと言うから……。

 

「あいちゃんの癖にわたしへの愛が足りないよ! もっと愛をチョウダイよ! 略して“愛ちょ”だよー!」

 

 なんで略すのだろうか。響き的に妹のアレを思い出すから割と際どい。いろんな意味を含めて際どい。

 

「……ちょっと、これ、どういう流れよ?」

 

 と、諦観に回る僕にアイエフが応援を要請してきた。

 

「アンタたちとはさっき出会ったばかりなはずなんだけど……」

「えっと…僕に振られても。ほら、見てますよ。ネプテューヌがキラッキラで見てます。答えてあ上げて、そしたら多分終わるから」

「アンタはアンタで諦めてんのね…」

 

 ボケと天然って、交ぜたら危険ってことは彼女たちと過ごして一日目でよーくわかった。さわらぬ神に祟りなしっていうけど、この二人の漫才に触れすぎるとちょっと疲れる。

 そんな僕の気持ちが通じたのか、はたまた、既に彼女たちの持つパワーの片鱗を感づいたのか、諦めた様子のアイエフはネプテューヌたちに応えた。

 

「……はぁ。分かったわよ、信じてあげるわ」

「さっすがあいちゃん! あいちゃんの“あい”はきっと“愛”の“あい”だね!」

「じゃあ、これからは“あいちゃんさん”じゃなくて、英語でラブちゃんさんって呼ぶです」

「いいねいいね、“ラブちゃん”! あ、けど“ラブちゃん”より“ラヴちゃん”の方が文字的には可愛いかも!」

「ちょ、ちょっと二人共、やめなさいって! 人をからかわないの! って、オイ! アンタはアンタで笑ってないで何とかするの手伝えよ!」

「いや、クールなキャラでラヴちゃんなんて、ギャップがあっていいんじゃない……ぷぷ……!」

「スカート姿のアンタにだけは笑われたくないわよ!」

「……………」

「あ、凹んだです」

「気にしてるっちゃ気にしてたのね…」

「わーい、ラヴちゃん、ラヴちゃんー! 照れてやんのー!」

「アンタもいい加減にしなさいって、小学生か! あと、だからちゃん付けはナシって言ってんでしょうが!」

「え? じゃあラブでいいの?」

「そういう意味じゃないわよ、この変質者!」

「……………」

「あ、また凹んだです」

「だーっ! いちいちめんどくさいっての! ちょっとあんたらそこに並びなさーい!」

 

 あっちで阿鼻叫喚。こっちで阿鼻叫喚。只でさえ騒がしかった僕らのパーティーに更に一人が加わって、騒がしさも一押し。アイエフのツッコミが飛ぶこと飛ぶこと。

 ネプテューヌが見た目相応の茶化し方をして逃げ回って、アイエフがお母さんみたいに怒りながら追いかけ、僕は僕で今の自分に敗けて地面に倒れ込み、コンパはそんな僕に優しく大丈夫かと聞いてくれたり、それぞれのポジションが若干見えつつあると、不意にネプテューヌが持ってきたディスクが突然、激しく振動し、光を放ち始めた。

 

「ねぷっ!? なにごと!?」

「な、何が起こっているんですか!?」

「わからない……わからないわ! 全員ディスクから離れて!」

 

 ただならぬ気配を察知した三人が反応を起こし、ディスクから離れる。かくいう、僕も急いで距離を取ろうとして、コケタ。

 

「しまった! スカートが石に引かかった!?」

「お前もう家に帰れよ!」

 

 いや、そんな、寂しいこと言わないでよ……。僕だって別に好きでこんな格好して、好きでこんな目にあってるわけじゃないんだから……。

 

「またまた凹んじゃったです」

「あーあ、あいちゃんが酷いこと言うからー。いけないんだー」

「だから小学生かって! 助ければいんでしょ! 助ければ!」

 

 憤りを見せるも急ぎ早に駆け寄ってきてくれるアイエフは本当に良い人だ。これがFクラスの連中だったなら、嬉々として僕を見捨てて逃げ去っていただろう。なにせ良心という人として大事な部分をどこかで落としてきたクズな奴らばかりなんだから。

 いや……ホント、久々の人の優しさにウルッとくるな……。

 

「ほら! そんな捨てられた子犬みたいな目で見ないでよ! 早く手に掴まっ――」

 

 軽く元いた世界での環境下を思いだし、どうせならこのままこっちの世界にいてもいいんじゃないかって、アイエフの伸ばした手を掴もうとした瞬間、ディスクはより一層輝きを増し、光がどんどん形として変化すると、

 

「モ、モンスター!?」

「うそでしょ!? まさかあのディスクから出てきたっていうの!?」

 

 見たことのあるモンスターに、まだ見たこともないモンスターの夥しい軍団が出現。僕もアイエフも互いのアクションを一時停止して、こちらを睨むモンスターに身構えた。

 

「く、来るです!」

「わわわわーっ! 敵手だー!?」

「この……! やるしかないわ!」

 

 コンパが注射器を取り出すと同じ時期に、ネプテューヌが慌てて木刀を握り、アイエフが先攻して戦闘を開始する。

 カタールが一体を斬れば、足技を使ってアイエフの攻撃は突風のように付きぬける。

 だけど、モンスターは強さこそそれほどではないにしろ、数が圧倒的に多い。僕らが遭遇してきた群れで一番の規模と言ってもいい。そんな数をアイエフだけで捌ききれるわけはもちろんなく、別のモンスターの塊が迫ってきた。

 

「ちょちょちょちょっ!? たあっ、タンマぁっ! 僕、動けな……スカートが引かかって……!」

 

 ご丁寧に動けない僕に標的を定めたモンスター達が、一斉に襲い掛かってくる。って、ちょっ!? マジで勘弁して! なんで僕ばっか狙われんの!? 確かに格好の的かもしれないけど僕なんか襲ってもお金も素材も落とさないから! 襲うならもっと上位モンスターとか金持ちジェントルマンとかが――――

 

『ぶるりゃぁぁああああーーーーーーーーー!』←めっちゃ怒ってるどっかで見た花モンスター

『ぶおらぁあああーーーーーーーーーーーーーー!』←明らかに怒ってる見覚えのある花モンスター

『ぶるぅっしゃぁぁああああああーーーーーーーーーーーーー!』←まごうことなき怒りをあらわにするどうしようもないほど懐かしい花モンスター

 

 

 

「って、お前らかよっ!!?」

 

 いつこっちに戻ってきた!? つかまだ怒ってたのか!? どんだけ未練たらたらの下心満載なんだお前ら!

 ここまで来るとこいつら、絶対にFクラスの皆と仲良くやっていける。というか、僕がヤバい状況が変わらずどころかよりデンジャーになっている。

 逃げたいけど、逃げられない。必死にスカート部分を引き千切る勢いで動かそうとして、モンスターの影が僕を覆うと、

 

「こらー! 集中攻撃とか、卑怯だよ!」

「男なら正々堂々と戦うです!」

 

 横から割って入る二つの武器が、荒れ狂うモンスター達をなぎ倒す。

 

「ネプテューヌ! コンパ!」

アッキー(ヒロイン)を守るのがわたし(主人公)の役目なんだから!」

「わたしもアッキー(ヒロイン)を守るために頑張るです!」

「ありがとう二人ともこんちくしょうッ!!」

 

 なんだかもうどっちが男らしいと聞かれたら間違いなく背中を向けるこの二人だと言い切れるぐらい、頼もしい仲間達が武器を手にモンスターに挑んでいく。

 くっ、くそ! これじゃ本当に僕はただの役立たずどころか足手まといだ! というか誰がヒロインだ! こうなったら……!

 

「こなくそ! ここでやらなきゃ男がすたる! やってやる!」

 

 コンパには悪いと思いつつ、スカートを思いっきり破り、ネプテューヌ達に続いて僕も脚を使ってモンスターを相手にする。

 数はいるし、武器も持ってはいないけど、守られてばかりじゃ男として情けない。スカート穿いている時点で十二分に情けないとか、ネプテューヌに気にするなと言われても、それでもここまで守られてばっかじゃ自分自身がイヤになる。

 だから、こんな迷惑ばっかかける僕に優しくしてくれる皆の少しでも役に立ちたい。お世話になった分、僕も戦わなきゃいけない。そんな想いを乗せた蹴りでの一撃を、モンスターに放つ。直後、

 

「ああ! アッキー! 見えてる見えてる! サービスが出てる!」

「あ…アッキー! その、まだお日様が上ってるからダメです!」

 

 二人が僕の想いを凄く残念な方向からへし折ってきた。

 ロケットみたいに跳び付かれて、そのまま押し倒される。

 

「無料サービスはダメだよアッキー! 大きいお友達(腐った&ガチな人)たちが歓喜するだけだから!」

「そ、そうです! もっと自分の体は大切にしてくださいです!」

「………なんだろう。二人の優しさに涙が出るよ」

 

 そしてアバラ部分がとてつもなく痛いです。跳び付くならもっとソフトに、そしてできれば真正面からの方が救われた感があったのに……。

 

「何してんのよアンタら! 遊んでないで戦いなさいよ! あと、スカート野郎は邪魔だから下がってなさい!」

 

 さらに追い打ちですか、アイエフさん……。

 こうなると誰が味方で誰が敵なのかわからなくなってくる。アイエフの中では、もはや僕の名称が『スカート野郎』になっているのも驚きだ。

 

「てやぁっ!」

「えいですっ!」

「覚悟なさいっ!」

 

 自分の居場所ってなんだっけと、現実からの辛い経験によって自問自答を繰り返す僕の傍らで、いつのまにかモンスターを総出で倒しきった三人の声が揃って聞こえたが、ただ僕は膝を付くことしかできなかった。僕っていったい……僕っていったい……。

 

「ふぅ、これで全部ね」

「び、びっくりしたぁ。この世界のモンスターってディスクから生まれるんだね。それならそうと早く言ってよ」

「そんなわけないでしょ。モンスターの出処なんて未だに判明してな……」

「? どったのあいちゃん? 急に黙っちゃって?」

「そうよ! モンスターの出処が分からなかったのはそのせいだったのよ!」

「これは大発見です!」

「? どういうこと?」

「だから……! って、話す前に地面にめり込みそうなほど落ち込んでるアレをなんとかしないとね……」

「「? アレ? アレって……あ、アッキー!」」

 

 僕っていったい……僕っていったい……僕っていったい……。

 

「アッキー、しっかりー! どっか具合ワルイの? 誰がこんな酷いこと!」

「モンスターさんにやられたんですか!? 許せないです!」

「いや、多分この原因はアンタらよ……」

 

 プラス君もね、アイエフ。

 

「げっ、元気出すですよアッキー! スカートならまた新しいのを用意すれば大丈夫です! 今度はアッキーの好みも聞いてあげるです!」

「確かにスカートは悪かったけどこれ以上僕にスカートを穿かせようとするのはやめようコンパ」

 

 何故、彼女はどこまでもスカートという呪いを僕に付けようとしているのだろうか。これが天然じゃないのだとしたらこれから彼女との付き合い方に僕は真摯に考える必要が出てくる。

 

「うぅ……またも役立てずに終わってしまった……」

「ま、まぁまぁアッキー。大丈夫だって、気にしない気にしない」

 

 肩をガクンと落とす僕にネプテューヌはポンポンと背中を叩く。女の子に守られたあげく、その女の子にスカート姿で励まされる。もの凄く情けなすぎて笑いすらこみあげてきそうな絵図らだ。

 

「よくわかんないけど、人には得手不得手があるんだし、あんまり落ち込まない方が良いんじゃない?」

「そうです。アッキーが落ち込んでると、わたしたちも悲しくなっちゃうです」

「三人とも…ありがとう…」

 

 励ましてくれる皆にこれ以上迷惑をかけないためにも、とりあえず立ち上がってお礼を言う。

 でも、ネプテューヌ達の言うとおり、いつまでも落ち込んでいたら、それこそ男として情けない。ここはちょっと強がりでも、ど根性精神を発揮するべきだ。

 そっ、そうだ! 敗けるな明久! 弱気になるなって! 僕ならできる! 今度から頑張ればいいんだから! 次こそは男として勇敢に戦ってみせようじゃないか!

 

「ま、スカート穿いてモンスター達にみっともなく逃げ回って、女の子に守られたんじゃ、男として恥ずかしいどころか自殺レベルよね。私なら考えられないわ」

 

 …………………確かブレザーのポケットにカッターがあったかな?

 

「わー! アッキー落ち着いて! それはダメだって! この小説R-18になっちゃう!」

「おおおお、落ち着くです! だっ、大丈夫です! アッキーさっき、大きなクモさんのときカッコよかったですから!」

「拝啓お母様、お父様。そしてお姉さま。先立つ不孝をお許しください」

「わわわわ! 遺言の残しちゃダメですよ!」

「あいちゃんもアッキー止めて! あいちゃんがあんなこと言うからアッキーのトラウマスイッチONになっちゃったじゃん!!」

「えっ!? ちょっ……!? わ、わたしの所為ッ!? いや、そのッ……ちょっとした冗談よ! 冗談! 本気にしないでいいから! だからカッターやめなさい!」

「うわーん! 放せー! 死んでやるー! 首切って死んでやるー!」

「ダメだってアッキー! マ◯ったらそれこそ某魔法少女みたいにこれから超重量級のシリアス展開しか出来なくなっちゃうよ!」

「ええい! こうなったら……! おりゃ!」

「ぐふっ!?」

「あ、あいちゃんさんのチョップがアッキーの首元に」

「アッキー!?」

「ぐっ、ぐふ……。ね、ネプテューヌ……いるかい…?」

「どうしたのアッキー!? わたしならここにいるよ!」

「最後に、君に伝えておかないといけないことがある……」

「そんな……最後なんて言わないでよ! まだゲームで言うところのチャプター1なんだよ! いくらなんでも早すぎるよ!」

「ああ、自分でもそう思う……。けど、僕はもうダメだ……」

「そっ、そんな……!」

「だから、最後に……どうしてもネプテューヌ。君に言わなきゃダメなんだ。心許せる友である君に……」

「なに! なんなのアッキー!」

「…もし、僕が…いなくなっても……僕のことを…忘れないでいてほしい…」

「忘れるわけないよ! アッキーはわたしたちの大切な友達なんだよ!」

「そっか……そう言ってくれて………嬉し…いよ……それと……もう一つ……」

「なに! なんでも言って!」

「じゃあ聴くけど、昨日僕のプリン食ったのネプテューヌだよね?」

「………………はて? なんのことでしょう?」

 

 やっぱり君だったか。痕跡からしてそうだと思ったよ。てかやるの君ぐらいだし。

 

「……何この茶番」

「感動的です……グスン……」

「えええ!? 泣くところあった!? 明らか最後の方、友情に亀裂の入るオチだったわよね!?」

 

 まあ今朝のゲームで勝ち取ったプリンで許すけど。

 なんて、僕らの寸劇が佳境に向かっていたその時。

 

「ハーハッハッハッハッハッハ!!!」

 

 どこか懐かしい笑い声が耳に入ってきた。んんん? なんだこの声? 凄く聞き覚えがあるぞ?

 

「ガーディアンの反応が消滅したから何事かと思って来てみたが……。まさかここで二つの探し物を同時に見つけるとはな!」

「誰!? この時代遅れの笑い声は!」

 

 うん? 時代遅れ? なんだろう? ここ最近にも、時代遅れの、丁度この声と似た声をどっかで聞いたような……。

 

「時代遅れは余計だ! …だが、人をおちょくる意地の悪さも相変わらずのようだな、ネプテューヌ」

 

 声のした方に全員が一斉に振り向く。するとそこには、悪趣味なトンガリ帽子、悪趣味なドレス、悪趣味なブーツと、加えて悪趣味なメイクをした―――

 

「って、あああああーーーーーーーーーっ!!!? あのときのコスプレおばさん!?」

「誰がコスプレおばさんだ!」

 

 見間違いようがない、独特かつ不気味ないでたちは僕がこの世界に来る前に、変な空間で出会った可哀そうなあのおばさんそのもの。まさか、本物!? あそこからこっちに来てたのか!

 

「僕を追いかけてきたのか!? 僕にそんな趣味はないのに!?」

「誰も貴様を追いかけてきたわけでは―――おいちょっとマテ」

「誤解される前に言っておくけど、ちょっとおばさんが可哀想だから優しくしただけだ! 僕は何もおばさんみたいな奇妙奇天烈な人と交際する気はまったくないよ!」

「貴様なんてこちらから願い下げだ―――って、だからマテ」

「はっ……! まさか、あのときの続きをしようってのか!? くそ! なら今度こそ負けないぞ!」

「……………おいコラ待てそこのバカ」

「………………」

「………………」

「……………何か不都合な点でも?」

「……貴様のそのスカート姿そのものが不都合以外の何物でもないだろうが」

 

 トンガリ帽子に手を当てて呆れる悪趣味オンパレードおばさん。隣りでコンパが真顔で『可愛いですよ?』と呟いてアイエフがツッコミをしている声が聞こえたけど、僕は何も聞こえていません。本当に何にも聞こえてないったら聞こえない!

 

「バカだとは思っていたが、まさかそんな趣味まで持っていたとはな……。貴様、救いようがないな……」

「ち、違う! このスカートは僕の持ち物じゃない! ここにいるコンパのだ!」

「貴様は他の女のスカートを借りて穿いているのか!?」

 

 しっ、しまったぁ! 言葉の選択ミスを…! これでは僕はどしがたい変態のままじゃないか!

 

「これは仕方ないんだ! ズボンが破けて……! そうだよ! ズボンが破けてスカートを穿くなんて誰だって一度はあることじゃないか!」

「あったとしても許されるのは女だけだろう!?」

 

 困った。このままではあんな悪趣味なおばさんに同類と思われてしまう。それだけは絶対にお断りしたい。

 

 

『アッキー、似合ってると思うんですけど……』

『だよねー。生まれてくる性別間違ったんじゃない?』

『………正直、一理あるわね』

 

 

 なんか後ろの三人の会話がとっても不穏だ。

 

「はぁ……もういい。貴様の相手は本当に疲れる…。これ以上話してるとバカがうつりそうだ…」

 

 僕は病原菌かなにかなのかなのだろうか。

 

「ねぇねぇ。あの悪趣味なメイクのおばさん、アッキーの知りあい?」

「えっ!? 違う違う! ほら、前にネプテューヌたちに話した世界で襲ってきたおばさんだよ!」

「ええ!? じゃああれが旦那さんに捨てられてコスプレ喫茶で働いてるキッツイおばさん!?」

「貴様は何を教えているんだ!?」

「おかしくなって病院にも行けないんですよね……。うぅぅ……可哀想なおばさんです……」

「やめろ! 人をそんな可哀そうな物を見る目で見るな!」

「ねぇ、なんの話?」

「あ、そっか、アイエフには言ってなかったね。あの人、旦那さんに捨てられて路頭に迷った挙句、コスプレに走ちゃったおばさんなんだ」

「………………」

「オイ貴様! 声にならないような声で『うわぁ……』みたいな顔でこっちを見るんじゃない!」

 

 さすがのアイエフもクールな表情を崩さずにはいられなかったようだ。うんうん。やっぱりそういうリアクションになるよね。僕も最初はドン引きものだったよ。

 

「ネプテューヌといい貴様といい……どいつもこいつも私を馬鹿にしおって……!」

 

 ん? ネプテューヌ? そういえばこのおばさんなんでネプテューヌの名前知ってるんだ?

 

「ネプテューヌはこの人と知り合い? あっちは、なんか知ってるみたいだけど」

「まっさかー。さすがのわたしでも、こんな悪趣味なメイクなおばさんと知り合いなわけないってー」

「それはよかったです。わたし、ちょっとだけ、ねぷねぷの人付きあいを疑っちゃったです」

「それもそうね。ネプ子とはいえ、あんな人と知り合いだったら私でもドン引きだわ」

「ネプ子ってわたしのこと!?」

「ネプテューヌだと呼びづらいし、あんたみたいな小さいのはネプ子の方が似合ってるわ」

「どんどんネプテューヌの名前の原型崩れるね」

「ねぷねぷのは言いづらくて大変です……」

「いっそのこと“ねぷ”だけでいいんじゃないかしら?」

「ええっ!? わたしの名前全否定!?」

「…なんか今のネプテューヌ、僕の知り合いと同じ境遇な気がする」

 

 あだ名ってか、汚名ってか、別名ばかりが浸透しすぎて名前が忘れられかけているムッツリスケベとかと。

 

「き、貴様らァ……! 好き勝手言いっておいて、私を無視するとは……! 四人まとめて葬ってやる!」

 

 ついにおばさんの顔を真っ赤にして激昂し始めた。まぁ、当然だよね。

 

「あーあ。明久が余計なことばかり言うから怒らせちゃったじゃないの」

 

 そして僕に火の粉が飛んでくるのも当然なのだろうか。てか僕の所為!?

 

「いーけないんだー、いーけないんだー! 先生に言っちゃおー!」

「ねぷねぷ。先生ってなに先生に言うですか?」

「コンパ、そのツッコミ方おかしい」

「う~んと、絶◯先生!」

「ギリアウト! ギリギリアウトだよネプテューヌっ!?」

「―――みんな伏せて!」

「「「へ………?」」」

 

 アイエフの突然の叫びに、いきなり世界が上下逆さまになった。僕らが注視を逸らしている間に、おばさんの衝撃波が襲ってきたんだ。ガードも何もできなかった僕らは一枚の紙のように簡単に空を舞う。く……っ! 油断した……!

 

「……貴様に決めたぞ」

 

 体制を崩した僕らを一瞥して、おばさんは手にしてる杖みたいな槍を振るい、衝撃波を飛ばす。狙いは―――

 

「コンパっ! 避けて!」

「へっ? ―――きゃぁああああああ!?」

「こんぱ!?」

 

 忠告も空しく、コンパが衝撃波の餌食となって吹っ飛んでいく。

 

「うっ、うぅぅ……わたし…まだお嫁にだって行ってないですぅ……」

 

 地面に倒れて目を回すコンパ。ダメか! まにわなかった!

 

「どんどん行くぞ!」

「っ!? 気をつけて! 次来るわよ!」

 

 おばさんがコンパを狙った分、僕とネプテューヌ、アイエフが無事に地面に着地。けれど衝撃波の流星群が降りそそぎ、休む暇もなく全員が走り出す。

 

「あばばばばばばッ!? 何コレ何これ艦◯れ!? チートすぎでしょあの技!?」

「ここまで強かったのアイツ!?」

 

 あのときとは比べものにならないぞ! どうなってんの!?

 

「次は貴様だ」

 

 杖が照準を捕らえたのは―――いつの間にかおばさんの手前まで接近して、武器を構えていたアイエフ。だけど、それが今一歩届かない。

 

「戻ってアイエフ!」

「遅い!」

「くっ……!?」

 

 一閃が入りそうになって、衝撃波がアイエフを弾く。

 

「うぐ……! 無理しすぎた……!」

 

 コンパに続いてアイエフまでも倒れる。旅慣れしてるだけあってここまでの道のりで出会ったモンスター相手にまったく引けを取らなかったアイエフだけど、あのおばさんには届かなかったみたいだ。って、アイエフもやられたってことは……!

 

「さて……次は、貴様らだな」

「くそ! やられて堪るか!」

 

 衝撃波を避けつつ、転がっていた手頃な石を拾い、おばさん目がけて投げかける。もちろんそんな物で倒せるなら、アイエフたちはやられはしない。

 杖でいとも容易く弾かれた石ころが破裂して、小さな砂煙のカーテンがおばさんの顔の前に広がる。でもそれでいい。注意が少しでも僕に向けば、

 

「おりゃぁっ!」

「なに!?」

 

 背後から攻めるネプテューヌがより有利になる。

 

「よし! 行けっ!」

 

 風を切る木刀が、おばさんのトンガリ帽子のてっぺん目がけて振り下ろされ、一瞬にして木刀はネプテューヌごと吹き飛ばされていた。恐らく衝撃波を使って防御したんだろう。ネプテューヌの攻撃が届くほんのコンマ単位の時間の中で。

 

「な……っ!?」

「ねぷっ!?」

「…小賢しいマネを。だが、私には無意味だ!」

 

 杖を天高く掲げて、おばさんが声を張り上げると、おばさんを中心に衝撃波が波紋のように広がり、残った僕もネプテューヌもまとめて吹き飛ばされてしまう。

 洞窟一帯を震撼させる強烈な一撃に当たりの岩が抉れ、天井から剥げ落ちた石ころが無数に降ってくる。濃い砂煙が巻き上がり、しばらくすると大音量を放った衝撃波の余韻を残すようにどこかの岩肌がズズゥ、という音を立てた。

 

「ちょっ! なんて強さだよ!? あんなのアリなの!?」

「このおばさん序盤のボスなのに強すぎるよ! バラスブレイカーだよ!」

「序盤ではありえない技ばかりだったですぅ!」

「くっ…、どうやら人は見かけによらないみたいね……!」

 

 全員無事みたいだけど、状況がヤバい事に変わらない。

 おばさんはさっきとは打って変わって笑みを浮かべながら、杖を片手に歩み寄ってくる。

 

「ふん、雑魚どもが。今更、貴様らが何を言った所で所詮それは負け犬の遠吠えにしかすぎんわ」

「魚なのか犬なのかハッキリしろー!」

「そんなボケをかましてる場合じゃないでしょうに!?」

 

 こんなところまで無理にボケなくていいから!

 

「…ん? ほぅ、やはりガーディアンを倒し、鍵の欠片を奪ったのは貴様らだったか。だが、鍵の欠片は返してもらおう」

 

 鍵の欠片!? 今このおばさん鍵の欠片って……! なんでそのことを! このおばさん、まさか……!

 この場でその言葉を知っているのは僕とネプテューヌ、それとコンパだけのはず。なのに、見ず知らずの、しかも怪し過ぎるこのおばさなが口にしたキーワードを聴いて、眼を見開く。

 その間にも、おばさんは近づき、不意に手をかざす。手から怪しげにな光を点すと、僕がしまっていたはずの鍵の欠片が胸ポッケで光だし、光はポッケをすり抜けるようにしておばさんの手元に移っていった。

 うっ、奪われたのか!? いったいなんなんだこのおばさん!?

 

「どろぼー! それはわたしとこんぱと……………あとアッキーが頑張って手に入れたんだぞー!返せー!」

 

 詰まったねネプテューヌ。今間違いなく詰まったよね。でも奪われたままじゃいけないのは事実だ!

 ネプテューヌと一緒になって僕もおばさんに立ち向かう。……が、

 

「おばさん、人の物を取ったらいけないって習わなかったのか!」

「黙れ!」

「ぐへっ!?」

「あべしっ!?」

「ねぷねぷ!? アッキー!?」

 

 結果は目に見えていた。全開のみんなですらあっさりと倒した敵に、ダメージが加わったネプテューヌに僕だけで勝てるわけもなく、あっけなく杖の一振りで走った道を逆走させられる。

 く、くそぉ……あんなものチートじゃないか……!

 

「さて、ようやく待ちに待ったこの時がきた。ネプテューヌ、貴様の力を貰うぞ!」

「ち、力……?」

 

 力を貰う。その言葉を聴いた瞬間、背筋がゾッとした。もしかしてアイツ、あの時の僕みたいにする気じゃ……!

 

「ダメだ! 逃げてネプテューヌ!」

 

 仰向けに倒れ込むネプテューヌにおばさんはジリジリとにじり寄っている。もしおばさんの言った言葉が本当なら、力を奪うってことは、あの苦痛がネプテューヌを襲うってことになる。そんなことさせるか!

 

「邪魔をするな!」

「お前が邪魔だ!!」

 

 杖からの攻撃をギリギリかわして、足蹴りを見舞う。一瞬だけだけど、それでおばさんが怯んでいる内に、ネプテューヌを担ぎ上げて、一気に走る。

 

「うわうわうわ!? 揺れる揺れる!」

「我慢して!」

「ええい! 貴様はまた私の前に立ちはだかりおって……! 殺してやる!」

「ぎゃー! きたきたー! おばさんキター!?」

「くそ……!」

 

 いくつもの衝撃波を飛ばしながら迫りくるおばさんに振り返る、岩場をうまく使って跳びまわる。逃げるなら専門だ! 敗けるか!

 

「って、行き止まり!?」

「もらった!」

「っ!? しまった!?」

「今回の“しまった”いただきましたーー! ねぷっーーーー!?」

 

 瞬間的な迷いを突かれて、衝撃波でまた吹き飛ぶ。その所為でネプテューヌを掴んでいた腕が離れて、おばさん前まで転がってしまった。

 ああっ! よりにもよって……!! 

 急いでネプテューヌに手を伸ばす。触れるか触れないか、そんな距離まで来て、

 

「目障りだ!」

「がはっ……!?」

「アッキー!?」

 

 おばさんの杖に妨害され、くの字で倒れ込む。ぐぅ……! 腹狙いやがった……!

 

「ハーハッハッハッハッハ! 貴様はそこで大人しく見ているがいい! 私の悲願の第一歩の始まりをな!」

 

 怪しく発光する手をゆっくりとネプテューヌに近付けながら、高らかな笑いが洞窟内でこだまする。マズイ! このままじゃ……!

 助けようと身体を動かそうとして、鈍い痛みに耐えきれずに倒れ、おばさんの手がネプテューヌに触れそうになるその時。

 

「ねぷねぷ! 危ないです!」

「えっ!? コンパ!?」

「ねぷっ!?」

「なっ!?」

 

 僕に注意を向けすぎた所為か、横から割って入ったコンパにおばさんも気づくのが遅れ、コンパの手がネプテューヌを押しのけた。そうなれば、おばさんの手は入れ替わったコンパに触れることとなり、

 

「きゃあああああああっ!?」

 

 コンパの悲鳴が辺りに響きだす。

 

「こんぱ!!」

「ちくしょう! コンパになにするんだ!」

 

 ネプテューヌが駆け寄り、僕がおばさんの顔目がけて蹴りを放つ。舌打ちをしつつ後退するおばさんを警戒して、コンパのもとに急ぐ。

 

「こんぱ、大丈夫!?」

 

 そこではすでにネプテューヌに寄り添ってもらうコンパがいて、よろめきながらも表情に青さは見られなかった。というか、無傷……?

 

「あ、あれ? なんともない、です?」

「いったい何をされたの?」

「力を貰うって言っていたど……」

 

 アイエフも合流して、現状の把握を務めると、

 

「貴様……よくも邪魔をしてくれたなです!」

 

 おばさんの激高する声が響く。………って、

 

「「…………です?」」

 

 なんだ? どこかで聞き覚えのある語尾な気が……。

 

「もう一度だ! 今度こそネプテューヌの力を私の物にですぅ!」

「わわわわわわっ!?」

「えぇいです! ちょこまかと逃げまわりおってです!」

「ネプテューヌ!?」

 

 またもネプテューヌを狙い、襲い掛かってきたおばさんにネプテューヌは必死逃げ惑う。というか、『です』? コンパじゃあるまいし、ビジュアル的にもキツイような……。

 それはアイエフも気になっていやようで、思案顔でおばさんを睨んでいる。

 

「なんなの、あいつの語尾…」

「アイエフも気づいた。あの語尾って……」

「……ええ、もしかしたら」

「若作りのつもりか!? 醜いぞおばさん!」

「なんでそうなるのよ!?」

「誰が若作りだ! コロスゾですぅ!」

 

 あ、違ったみたいだ。それならそれで良かった。聴いてて結構キツかったから。

 

「違うでしょ! あれはきっとネプ子の力をコピーしようとしてるのよ!」

「コピー?」

「そう。どういうつもりか知らないけど、あいつはコンパの力を間違ってコピーしてしまったから語尾がコンパそっくりになっちゃってるんだわ」

「なるほど。やはり若作りか……」

「だから違うッての! ネプ子もさっきの私みたいに『うわぁ……』みたいな表情しないで逃げることに集中しなさい! 絶対に当たっちゃダメよ!」

「おっけー! 弾幕シューティングの自機の如く避けちゃうもんねー!」

 

 弾幕薄いよ! 何やってんの!? 的な感じだろうか。小さい頃は駄菓子屋に通って良く遊んでは友達とよく対決したものだ。しみじみ。

 それにしても、

 

「ちっ! 好き放題言いおって……! しかし、先程の女のせいで……ですぅ!」

 

 コンパと同じ『です』口調のおばさんが追いかけ、中学生ぐらいの女の子が逃げて、鬼ごっこを繰り広げけているのは傍から見ると凄くシュールな画だ。とういうかおばさんの動き、さっきと違ってキレがないような?

 

「ネプ子、コンパ。今のあいつはコンパの力をコピーしたせいでパワーダウンしてるわ! チャンスよ!」

「ちっ、バレたかですぅ!」

 

 アイエフが叫び、おばさんの悔しそうな舌打ちをする。

 なるほど。コピーってことは、つまりおばさん自身の戦闘力にコンパの力も反映されてるのか。純粋に上乗せというより、コピーした相手の力そのものに依存する能力らしい。これならもしや、僕でも行けるんじゃない? コンパには悪いけど、コンパほどにパワーが落ちたのなら……!

 

「あの時のリベンジだ!」

 

 地面を思い切り蹴って、おばさんに立ち向かう。

 このおばさんは得体はしれないけど、何かをしていっている。もしかしたら、僕の敵となるかもしれない知人についても、知っている可能性だってある。でも簡単に教えてくれる相手ではない事は文字通り身に染みてる。なら僕のやるべき事はただ一つ。このおばさんを叩きのめしてあの時バカにされた恨みを……じゃなくて、知っていること全てを吐かせること。そのためには少々荒い手だとしても、致し方ない。

 

「くらえ!」

「ちっ……! うっとおしい!」

 

 岩場をジャンプし、キックを見舞う。かわされてはしまうけど、おばさんの動きが鈍くなっていることは確認できた。本当にコンパの力をコピーして戦闘力が落ちているみたいだ。これなら僕でも行ける! あ、……コンパ、一応、ごめんね。

 

「くそ! そもそもが貴様と会ったときから狂いだしたのだ! 私の邪魔をするな!」

 

 素早く態勢を立て直したおばさんの杖から衝撃波が飛ぶ。すかさず近くの飛び出た岩壁を使って飛び退き、勢いを殺さないままもう一発蹴りを放つ。向こうも負けじと杖で対抗して、脚と武器が衝突する。

 

「あいだぁっ!? ちょっ! スネ!?」

 

 ぶつけどころか最悪だった。激痛に思わず怯んでしまい、押し返される。

 落ちるときの体制はなんとか補正が効いたけど、着地を待たず、おばさんの反撃が迫ってきた。無理やり体をネジって直撃はまぬがれるものの、空中にいたため為す術も無く吹き飛ばされる。

 

「まずい……!」

「死ね!」

 

 その吹き飛ばされてる最中、おばさんの杖から衝撃波が飛ばされたのが見えた。

 慌てて体を丸めて防御体制に入る。対処しようにも武器も何もない僕にできることは限られていて、回避不能ならせめて弱点を守るべきだ。

 それでも衝撃波は当たるわけで、逃げれない僕に直撃する―――

 

「させないよ!」

 

 ―――瞬間、目の前に眩い閃光がほとばしった。

 光は盾となって衝撃波を防ぎ、僕は呆気にとられて落下の時の受け身を取ることも忘れて地面を転がった。

 な、なんだ!? 今の声って……ネプテューヌ!? えっ!? じゃあまさか……この光って……!

 

「ネプテューヌ!」

 

 思わず閃光に向かって叫んでしまう。眼を覆いたくなるほどの光はどこまでも天高く伸び、その光が収まると僕を守るように立つお馴染みのちんちくりんの背中が出てくる。

 

「………どちらさま?」

 

 出てくる。と思ったら、そこには見知った背中ではなく、まだ見ぬ別人の背中があって、自然とそう尋ねてた。

 

「アッキー。その人はねぷねぷですよ」

 

 そして自然な感じでなんかとんでもない爆弾を投下するコンパ。前からそうだけど、ホント君は度肝を抜かせるのが好きなのかな?

 

「ごめんコンパ。今なんて?」

「だから、ねぷねぷが変身した姿なんです」

「………………何を言っているの?」

「? なによ。あんたもしかして、まだこの姿のネプ子、見たことなかったの?」

「アッキー、ねぷねぷが変身するとき、なぜかいつも穴にすっぽりハマってたから知らないんですよ」

「何度も穴に突き刺さってたのかよ……」

 

 コンパとアイエフが横で何か話し合ってるけど、こっちはそれどころじゃない。

 視線を改めてネプテューヌ?に向けると、ネプテューヌ?はドヤ顔で決めている。どうだ、凄いだろって言っているつもりなんだろうか。その表情もいつもの幼いものではなく、凛々しくなっていて妙にカッコがついてる。

 

「って、なんですとぉっ!!? ほ、本当にコレ、ネプテューヌなの!?」

「そうよ。正真正銘、わたしはアッキーの知るネプテューヌよ」

「うわっ!? 喋り方がまるで違う!?」

 

 言葉使いどころか声の感じも全然別人だ! もはや誰!? おたく出るところ間違ってませんか!?

 

「まあビックリするわよね……」

「信じられないのも、ちょっとだけわかるです……」

 

 ほら! 二人もこう言ってるよ! 本当におたくあの破天荒で手が付けられないハチャメチャにボケ倒すちんちくりんのネプテューヌ!?

 

「なんだかもの凄く失礼なことを言われている気がするわ……。じゃあアッキーはどうしたらわたしがネプテューヌだって信じてもらえるの?」

「どうって言われても……」

 

 逆に聞かれるとこちらも返答に困る。疑ってるわけじゃないけど、確かに信じがたい思いもあって、ただこれをどう解消したらいいのかと考えると難しい。

 う~ん……どうと言われても……。

 

「あ、それじゃあ僕らが昼にやってたゲームの名前は?」

「◯拳」

「どうやら本物のようだね」

「「「あっさり信じた!?」」」

 

 いや、だって知ってるの僕とネプテューヌ、あとコンパぐらいだろうし。

 

「な、なにかしら、この気持ち。釈然としないような、そうでもないような……」

「ま、まぁ良かったじゃないですか、ねぷねぷ。一応、アッキーも信じてくれたわけですし」

「そ、そうね」

 

 にしてもえらい変わりようである。こうして眺めると、何もかも変わっている。

 腰まである紫色の髪は三つ編みのおさげとして揺れていた。全身には張り付くみたいになっている、黒と紫を基調としたレオタード(でいいのか判らない)を身に付け、キュッと引き締まるお尻に、豊満な胸をより凶悪的に強調させてる。さらにその抜群なスタイルの上に装備するかのように、手甲やシューズ、はては翼など身に付けていて、そこにいる彼女からは、小さいネプテューヌの面影はどこにもない。

 変身がどうのこうのって言ってたけど、外見変わり過ぎじゃない? 特に、胸とか、胸とか……胸とかが。

 

「なぜかしら。今、私は何かの代表としてアンタを殴らないといけない気がする」

「アイエフ。そう言いつつ暗器を取り出すのは反則な気がする」

 

 ヤバい! 視線が一点に集中しすぎた!? というかこうすると、アイエフって結構……。

 

「あああっ、あいちゃんさん! 落ち着いてくださいです! それ以上はアッキーが死んじゃうです!」

「大丈夫よコンパ。あと一発だから」

「その一発でアッキーが死んじゃうんです!?」

「す、すごいわ……。あいちゃんが目にも止まらない速さでアッキーの顔を五十回近く殴っていた……」

「か、感心してないで……助けて……」

「大丈夫よ。あと一発で苦しみから解放してあげるわ」

「だからダメなんですぅっ!」

 

 あっという間に広がる混乱の輪。今や僕は無事に元の世界に帰るのかではなく、まず無事にこの洞窟から出られるのかが危惧される。

 ネプテューヌが恐ろしそうに眺め、コンパが必死に止めようとしてくれて、アイエフの止めの一発が放たれて、僕自身ダメだと悟ったその時だった。

 

「貴様らいい加減にしろ!」

 

 三人とも僕でもない怒鳴り声が洞窟の奥底まで轟いた。そういえば、確かおばさんいたんだっけ……? すっかり忘れてた……。

 

「何度も何度も……人を無視して茶番劇を見せおって……! いい加減貴様に付き合うのはうんざりだ!」

 

 トンガリ帽子がどこか飛んでいきそうな振る舞いで杖の先を僕に向けておばさんは表情を怒りに歪めた。

 

「あーあ……あんたが無視するから」

「だから僕なの? コレって全部僕の所為なの?」

 

 忘れてたのは事実だけど、君らも参加してたよね。ネプテューヌなんて小声で『忘れてた……』ってリアルなトーンで言ってたからね。

 

「殺してやる! ネプテューヌの力を奪い! 吉井明久―――貴様の命も貰う!」

「だからなんで僕一人だけ!?」

 

 連帯責任という言葉はこの世界にないのだろうか。

 

「大口を叩くのは結構。けど、今のあなたにわたしたち全員を相手にできるだけの力はないわ」

 

 そして何もなかったかのように進めないでネプテューヌ。このままじゃホントに僕だけ殺されちゃうから。

 でも、ネプテューヌの言うとおり、コンパの力をコピーして弱体化した今、おばさんにこちら全員を相手取るのは難しいはず。さっきまで劣勢だったのが戦況は一転、こちら側が有利になったんだ。

 ……なのに、笑ってる?

 

「ふん! 憎たらしい奴だよ、ネプテューヌ。けど、そうだね……このままじゃ不味いのは事実だ」

「? なら大人しく鍵の欠片を返してくれる?」

「わけがないだろ、このバカが」

「じゃあ大人しく敗けてくれるのおばさん?」

「貴様はシネ」

 

 もうあの人嫌い。

 

「……面白いモノを見せてやるよ。とっておきに面白いものをね」

 

 帽子を深くかぶり、闇の奥で見せる眼光が僕に向けられ、おばさんは不敵に笑った。こちら側が全員、疑問符を浮かべながら注意深くいるとおばさんは杖を掲げ、次の瞬間、

 

試獣召喚(サモン)!」

 

 高らかに僕が知る合言葉を叫んだ。

 

「……………え?」

 

 反応が遅れて、言葉が自然口から零れる。

 考える暇もなく、おばさんの足元に見覚えのある幾何学模様が浮き出て、そこからさらに身に覚えのある存在が顔を出す。

 それは学ランを着て、手に木刀と不良スタイルで二本脚を使って立ち、真っ直ぐにこちらを睨んでいる。普段の二頭身の姿ではなく、普通の人間と同じ身長となってより人らしさが垣間見えてる。

 そしてそれは、静かに木刀を握り、切っ先を僕らに向ける。その瞳は真っ暗で、だけど間違いなく敵意を宿して睨んでいた。

 それは、とっても知っている姿で、顔で、武器で、“僕”と敵対する。

 

「アッキーが二人になったです!」

 

 コンパの、僕の“召喚獣”を見て叫んだ声が、ようやく固まった僕の脳を動かした。




今回はここまでです!次回の投稿は近日中には予定してます!でも気長に待ってね☆…………はい、遅い更新ですいません。待っていただけたら嬉しいです。それと、ここを直した方がいいや、誤字脱字などしている部分があったら、テケトーな感じで書いていただければ今後の勉強になるのでよろしくお願いします。
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