後どうでもいいけど、もう既にタイトルが浮かばなくなってきた。どうしよう。ソウダこうしよう。全部バカと変態とスカートにすれば全ての話のつじつまが合うはz―――いや、やめましょう。その後の惨事が目に見えてますね。
わたしは今起きた現象に目を疑った。すぐに隣に立つアッキーを確認すると、アッキー自身も信じられないと言った驚いた表情をしていて、“あれ”がここにいるアッキーとはまた別の存在だと理解するのは遅くはなかった。
「ど、どうなってんのよ!? アレってアンタ……よね!?」
「う、うん……たぶん、そっくりだし。生き別れの兄さんではないと思う……?」
「アッキーって、お兄さんがいるんですか?」
「ううん。姉が一人、立ちはだかってる」
((……立ちはだかる?))
アッキーたちも各々の頭だけで処理できない実態に声色が硬くなってるようだ。
わたしたちの目の前に立つのは、“もう一人のアッキー”。顔も身長もまったく同じで、だけど来ている服がこっちのアッキーはブレザータイプの制服に対して、あっちは学ランを身に付けている。さらに木刀なんて持っているものだから、ちょっとした不良スタイルにできあがってる。
「いったいなんなの? それは?」
木刀の先をこちらに構えて、明らかに敵意を感じるアッキーのそっくりさんの後ろにたたずむおばさんに、わたしは剣を強く握って質問する。
確信はないけど、十中八九あのおばさんが何かしたのは間違いない。相手もそれを隠すつもりはないのか、面白がるように笑いながら杖でアッキーを指すと、楽しそうに答えた。
「“これ”がなんなのか。そこのバカに聞けばわかるんじゃないかです?」
「アッキーに?」
思わぬ返答にわたしの目線が動き、こんぱやあいちゃんの視線までもアッキーに集中する。注目を集められたアッキーは一瞬だけバツが悪そうな表情を浮かべて、神妙そうにつぶやく。
「さっきの言葉といい、魔法陣……。はては見たことのある装備……。もしかして、それって……?」
「はっ! バカでも自分の知ってる世界のものぐらいはわかるようだなです。そうさ、コイツはお前が知り、お前が使っていた“召喚獣”さです」
「あ、先に言われた」
聞きなれないワードを耳にすると、アッキーの顔が一段と驚愕したものに塗り替えられる。どうやら相当信じがたい事が起きているらしい。けど、何もわからないわたしたちからしたら、なんのことを言っているか理解できず、正直リアクションのしようがなかった。
「アッキー。アレは一体なんなんですか? 召喚獣って……なんのことです?」
代表として、こんぱがおずおずと尋ねる。
「えーっと…何から説明したら……。僕の元いた世界には、《試験召喚システム》ってのを導入した、文月学園っていうちょっとした有名な進学校があるんだよ」
「試験召喚…システムです?」
「一応、僕もそこに通ってるんだけどね。それで、そのシステムなんだけど、テストの点数で強さが変わる召喚獣を喚び出すことができるんだよ」
「それがあのもう一人のアッキーってことですか?」
「……たぶん」
「たぶん? って、違うんです?」
「召喚獣は普通なら召喚した人をデフォルメしたような、二頭身ぐらいの大きさなんだ。それなのに……」
「体格はアッキーそのものになっている、と」
「例外もあったはあったけど、ババァ長でもないのになんで……。なにより、なんであのおばさんが僕の召喚獣を?」
眉間にシワを寄せて、説明し終えたアッキーはブツブツと口を動かす。本人にも知っている範囲を超える状態、ということだろうか。
些か気になる点もあるけど、どちらにせよあれがおばさんの手によって喚び出され、武器の矛先を向けているという事は味方ではないのは間違いないはず。
「さあ、思い知りな小僧! 自分の召喚獣の力をです!」
そして、それを証明するかのように、こちらの様子を愉快そうに眺めていたおばさんが高らかに咆え、学ランのアッキーの攻撃が始まった。
「わわっ!? きたですぅ!」
「とにかく避けるわよ!」
こんぱの悲鳴とあいちゃんの警告が重なり、次には全員が四方に跳ぶ。そこに学ランアッキーの上段から振り下ろした木刀が地面に衝突し、木刀を中心に6メートルほど地盤が沈んだ。
「うわっ……!?」
「くっ……!」
とてつもない威力に苦悶の声を上げる。けど、驚くのもつかの間。異常なまでの攻撃力に衝撃波が次いで襲ってくる。ビリビリと肌に突き刺さる空気の弾丸に身体が一瞬、硬直してしまい、そこを学ランアッキーに突かれてしまった。
とっさに剣を構え、なんとか防御が間に合い、後ろに弾かれても途中で停止することはできた。しかし攻撃はわたしだけじゃなく、続くようにアッキー、こんぱ、あいちゃんとそれぞれに一撃ずつ放って行く。アッキーとあいちゃんはうまく回避できたが、こんぱはワンテンポ遅れて召喚獣の攻撃を受けてしまった。
「きゃぁっ!」
「こんぱ!」
すかさず加速して剣で学ランアッキーを牽制。追い打ちをかけようとするところに横槍を入れて、こんぱから遠ざける。
何度か木刀が手甲部分を狙って突いてくるのを防いで円を描くように剣を振るう。学ランアッキーは俊敏な動きでそれをいなし、木刀で鋭く切り込んできた。
腹部目がけての一閃が入りそうになって、
「させるか!」
「これでもくらいなさい!」
アッキーの蹴りとあいちゃんの暗器が間に入ってそれを阻んでくれた。
学ランアッキーは二人の奇襲にも動じずる素振りも見せずに瞬時によけ、おばさんの許へと跳んでさがっていく。
「いっ、いったい何なんですか? あのアッキー、変身したねぷねぷ並に強いですぅ」
攻撃をかわしきれなかったこんぱが目を回しながらそう言うと、散っていたみんなが集合して、それぞれ言葉を交わす。
「ちょっと、あの召喚獣。どうなってんのよっ? めちゃくちゃ強いじゃないっ」
「動きが素早くてこちらの攻撃が一つも当たらなかったわ……」
「う~ん……。召喚獣は点数が高ければ高いほど強いんだけど、0点とか一ケタ台とかじゃなかったら、ある程度低くてもゴリラ並みのパワーが出せるんだよ」
「つまりそれって、高ければとんでもなく強くなるってことよね?」
「けど、テストなんて関係あるの? あのおばさんがわざわざテストを受けてるとも思えないのだけど……」
「そうなんだよね……。本来ならテストの点数が召喚獣のてっぺん辺りに表示されるんだけど、そんなもの見当たらないし、そもそも召喚獣は召喚フィールドって言う教師の立会いの下でしか呼べないものなんだ」
「よ、よくわからないですけど……つまり、あのアッキーは敵さんでいいんですか?」
「コントロールはおばさんにあるみたいだし、敵だろうね……。攻撃してきたわけだし……」
苦虫を潰したように渋い顔つきでもう一人の自分を見つめるアッキー。今のアッキーの心境は計り知れないけど、同じ顔をの自分と対面して敵対すると言うのはいい気分ではないんだろう。
そもそも眼前に立つ存在の情報があまりにも少なすぎる。わかったことと言えば、アレはこの世界の物ではない、アッキー側の世界にあったものであり、なぜかはわからないけどおばさんがアッキーの召喚獣を条件を無視して召喚し、使役できているということ。
そして、鍵の欠片を奪い返すのに、新たな壁として立ちはだかっているということだ。
「どうした? もうお終いかです? そちらから来ないなら、こちらから行くぞです!」
わたしたちが話し合いをしていると、待ちかねたおばさんがまたも杖を振るって衝撃波を飛ばしてきた。それと合せるように、学ラン姿のアッキーも跳びだしてきて、構成が変わってバトルが再び火ぶたを切って落とされる。
「ともかく、鍵の欠片を奪われたままにはできないわ。アッキーには悪いけど、邪魔をするというなら例えアッキーの召喚獣だろうと容赦はしない!」
「そういうことね! ってことだから、アンタも攻撃して構わないでしょ?」
「聞いてもどうせ攻撃するくせに!」
「きっ、来たです!」
こんぱの警告が響いて、各々が動き出す。ちなみにこんぱはアッキーに担がれての移動となってる。……仕方ないことけど、スカート姿の男子が小脇に女の子を挟んでいる姿は、ちょっと犯罪臭がするわね。
☆
「誰のせいだ!?」
「わっ! どうしたんですかアッキー、急にツッコミをいれて?」
「え? あ、いや……なんかツッコまないといけない気がして……」
「???」
「二人とも! そっち行ったわよ!」
「…………っ!?」
ネプテューヌと一緒におばさんの相手をしているアイエフの忠告を聞き入れると、僕と同じ顔の敵が迫っているのがわかった。
「コンパ、ちょっと揺れるよ!」
「は、はいです!」
襲いくる木刀を眼で正確に追って軌道を読む。来るであろう方向から遠ざかるようにバックステップして、距離を測る。だけどそれを読みこんでいたのか、さらに踏み込んでくる召喚獣は木刀での攻撃を続けてくる。
「きゃっ!?」
「くそ……!」
相手は見た目僕そっくりでも中身のポテンシャルはまるで違う。点数という概念が働いているかどうか怪しいところだけど、召喚獣と人間での対決なんて、それこそ僕の担任の鉄人ぐらいにしかできない芸当だ。幸い逃げ足だけは日々鍛えられていたからなんとか直撃はまぬがれているけど、コンパを抱えたままじゃ不味い……!
「こんっ、の!」
足元にあった石ころを召喚獣に狙いを定めて蹴りあげる。もちろんそれが効くかどうかと問われたら、半々といったところだろう。この程度効くわけがないと知識的に否定する自分と、それでも効いてほしいと訴える感情的に願う自分という相反する考えが渦巻く。
気休めにしかならない小細工なのは百も承知。案の定、召喚獣は木刀で石ころを簡単に弾き、足止めもできず襲ってくる。
「え、えいです!」
木刀が風を切って下段から上段へと切り上げられそうになって、脇から巨大注射器を取り出していたコンパの攻撃が発射された。回避するためにとっさに横に跳んだことで召喚獣が岩場で足元をすくわれ、足元をふらつかせバランスを崩す。
「そこだ!」
チャンスと見て、僕は渾身の力を籠めてタックル。重心が一気にずれたことで、体重が傾き、さすがの召喚獣でも人間の力で倒すことができた。よっし! どんなもんだ!
と思った瞬間、召喚獣は腕を地に付けて、ありえない角度から蹴りを放ってきた。
「うそっ!?」
「きゃああああ!」
唐突のことでかわしきれず、小脇に抱えていたコンパから離されながら空中を舞った僕はそのまま受け身も取れずに地面に衝突。土煙をまき散らしながら数メートル転がった。
「くっ、くそ……!」
我ながら恐ろしい動き方をする僕の召喚獣だ。おかげでコンパも落としてしまった。
「コンパ! 大丈夫!?」
「ううぅ……なんとかですぅ」
そう言いながらも、きちんと立てていないところを見ると、召喚獣の攻撃を二度も受けて体力の方で限界が近いようだ。偉そうにも、僕も今の蹴りを右肩に受けた所為か右半身に激痛が奔り、動きが若干鈍くなってしまってる。
とにかく追撃が来る前に動かないと……!
「―――危ない!」
「っ!? ネプテューヌ!」
なんて言っていたら、既に間近に詰めていた召喚獣が木刀を振りおろし、介入してきたネプテューヌと衝突した。
鉄製の刀剣と木製の木刀からは考えられない剣戟が繰り広げられ、さっきとは違い本気を出したネプテューヌの方が一枚上を行く。弾かれた武器が空中に飛んで、丸腰になった召喚獣に強烈な回し蹴りをぶつける。
届くと思われたキックは、けれど当たりはしなかった。それは横からの衝撃波がネプテューヌに襲いかかった所為だ。
「ネプテューヌ! この私もいることを忘れるなよです!」
「私がいることも忘れないでよね!」
背後を取ったアイエフの武器が光る。切っ先が軌跡を残しておばさんにヒット。反応速度が遅くなったおばさんには今の攻撃が効いているようだ。
「ちっ……! 力が下がったからといって勝てると思うなです!」
舌打ちをしたおばさんはただちに体制と立て直して反撃に出た。杖から衝撃波が撃ち放たれ、アイエフを襲う。いくらコンパの力をコピーしてパワーダウンしたとはいえ、その威力は当たれば無事で済まないのは変わらない。
すかさず腕をクロスさせて防御態勢に入ったアイエフでも耐えきれず、身体の上と下が逆転しながら吹き飛ぶ。
「くぅっー……! 効く……!」
「アイエフ! 次がくる!」
岩壁に叩き付けられてマヒしているところにおばさんがさらに追い打ちをかけようとして、思わず跳びだす。あの様子だとアイエフが動く前におばさんの攻撃が当たってしまう。
全速力で駆けだしておばさんの背面に位置する岩壁を使って三角跳びから、回し蹴りで進路を阻みにかかる。
「ふん! 奇襲のつもりかです!」
「なっ……!?」
だけどそれを初めからわかっていたように、おばさんの身体がこちらに向きを変えて衝撃波の渦を撃ってきた。急なことに対応が遅れた僕は渦に呑みこまれて、助けるつもりが逆におばさんの手によって返り討ちにあう。
さらに木刀を回収していた召喚獣が再び標的を僕に定めて突撃してくる。転がり、すぐに立ち上がって足を捻り猛威を振るう自身の分身から逃れる。
「このっ…! なんで僕の召喚獣なのに操作できないんだ!?」
「それはそうさ。“それ”の支配権は今、この私にあるのだからなです! アーハッハッハッハです!」
おのれ、くそ! コンパのマネして『ですです』まだ言ってるおばさんのくせにムカつく!
それにしても、本当にあの召喚獣はどうなっているんだ。目の前に立つ召喚獣は身長こそ違いはあれ、見慣れた魔法陣から聞きなれたキーワードで喚び出され、嫌って言うほど知ってる装備で現れたんだ。いつもの召喚獣に間違いないはないだろう。
このゲイムギョウ界に来る前の異空間でも召喚フィールドがなくても召喚はできたけど、あの時はまだ大きさも普通で、コントロールだってできていた。なのにどうしてここにきて、僕が操作できなくなっているんだ? あの瞬間じゃ……って、そういえばあの時、おばさんは僕から召喚獣の力を貰うとか、頂くとか言って何かされたけど……。まさか……。
「アッキー! 前!」
「……へっ?」
突然のネプテューヌの悲鳴染みた声に覚醒する。すると、真ん前に木刀を振り下ろそうとしている召喚獣の姿が、って!?
「あぶなっ!?」
間一髪でよけることに成功。あ、危なかったぁ!? 今は考えるのは後だ! とにかくこいつらをどうにかしないと!
「自分の召喚獣の手によってくたばれです!」
「そんなのごめんだ!」
おばさんの指示によって特攻をかけてくる召喚獣の木刀が再度脅威となる。こうして敵となって初めて分かるけど、僕程度の召喚獣でもゴリラ並みのパワーが出せるんだからシャレにならない。戦いが長引けばその分、不利になるのは生身の人間である僕の方なのは明々白々。しかし召喚獣相手に武器もなしにどう対処したらいいのかもわからず、ついに避けきれない木刀での横薙ぎがやってくる。
直後、
「アッキー! 掴まって!」
「おばさんはこっち! 《魔界粧・轟炎》!」
ネプテューヌが横から僕を拾い上げてくれて、アイエフの手から炎が灯り、おばさんを丸々呑みこむ巨大な火柱が発生する。というか、うわっ!? 炎!? ちょっ、そんなこともできるの!? ネプテューヌの変身とかもそうだけど、モンスターいるわでこの世界ホントにファンタジー!?
「一度、距離を取るわよ!」
驚かせてくれた本人はそんな僕の反応も知らず、すかさず身をひるがえして僕らのもとへ戻ってくる。半戦闘不能状態のコンパを中心に全員が一旦集まった。
「あの明久の召喚獣っての、微妙に厄介ね。同じ明久でも強さが全然違うわ。足を引っ張ってるって意味では同じなのに!」
「なんかごめんね!?」
開口一番がキツすぐる。もしかして胸のくだりに未だアイエフの怒りが収まっていないのだろうか。だとしたら許してください。僕、こんなスカート穿いてても男なんです。男の尊厳とかもうどっか行っちゃってそうだけど男なんです。
でも、自分が使ってたものが敵に回っるていうのは変な気分だ。試験召喚戦争では例え相手のクラスや、人の幸せを許さない自身のクラスの皆が敵だったとしても常に味方だった存在が、僕に刃を向けている(刃というか木刀だけど)。
妙に手強いのは、アニメで言う敵だと強いけど味方だと弱くなる理論の逆版なのだろうか。僕のときは弱いのに……! アレ絶対インチキして強くしてるよ! テストの点数盛ってるに違いないって! テスト受けたかどうか知らないけど!
「実際問題、今のところ攻撃を当てられてないわ。素早い上におばさんの方からの砲撃もあるわけだし」
「これじゃ、せっかくおばさんが弱くなっても意味がないですぅ」
まさにネプテューヌ達の言う通り。せっかく見えた一筋の光明が、これではみすみす見逃してしまう。何か突破口でもあれば話は別なんだけど……。
「ただ、切り口はあるわ」
と、僕の心情でも呼んだかのように、ネプテューヌの言葉が僕ら三人を驚かせた。
「どいうこと?」
「さっき、あいちゃんの攻撃をおばさんが受けたとき、少しだけどあっちのアッキーの動きが鈍くなったのが見えたの。きっとコントロールしているおばさんの動きが止まったから、だと思うわ」
「なるほど。支配権を収得しているイコール、あのおばさんと召喚獣は一種の連結状態にあるってわけか。明久、あの召喚獣は独立して動くことはできるの?」
「できるように設定とかすればできるけど……。それができるのは開発者のうちのババァ……じゃなくて、文月学園の学園長だけだと思う。それ以外は召喚した人が基本操作するってのがノーマルだったね」
「…ある程度オートで動けると仮定しても、おばさんの意識を乱せば召喚獣の動作も鈍くなる。そしてそのおばさんは弱ってるなら、こっちにも十二分に勝機があるわ!」
アイエフの口端がつり上がり、ザッと武器を構える。メンバー全員にコショコショと作戦を教え、次の一手から僕らの反撃を始めると告げてきた。こうして作戦なんか建ててると、なんだか雄二たちと試召戦争をやっているようだ。
「いいわね、三人とも? これは全員の役割がしっかり働かないと意味がない。長引けばこっちの勝利はないと考えてやりなさい」
「オッケー! まかせてよ!」
「わたしだって、まだやれるです!」
「元よりわたしは最初からダラダラと戦いを続ける気なんてないわ。アッキーは一人いれば十分よ」
「そうね。見るに堪えないスカート姿もイヤだけど、変態の癖に強い方はもっとムカつくものね」
「いや、あいちゃん。わたしはそういう意味で言ったわけじゃ……」
「あ、アッキーがまたまた凹みかけてるです」
やっぱり胸のくだり怒ってるんだね。でも、僕だって召喚獣とはいえ同じ顔で戦わなくちゃいけないなんてごめんだ。
「どうした! その程度か、貴様らの力はです!」
おばさんの威勢が衝撃波と召喚獣に乗って押し圧せてくる。
こっちでの本格的な戦闘への参加にちょっと腰が引けそうになるのを堪えて、僕はギュっと拳を握った。
「―――行くわよ!」
反撃の合図がかかり一斉にみんなが走り出す。僕も続くように地を蹴って進むと、僕らのいた場所が数秒後、衝撃波によって地面が抉れる。
「はぁっ!」
まず先陣を切ったネプテューヌの剣と木刀がぶつかり合い、力と力の鍔迫り合いが始まった。
点数での判別ができない以上、強さの上限を知ることはできないけど召喚獣は恐ろしいパワーで対抗している。低く見積もってもやはりそれなりのパワーは引き出せるようになっているようだ。
けれど、相手をするのは変身をして何倍にも力が上がっているネプテューヌ。最初は信じてなかったけど、巨大なモンスターも倒せる彼女が簡単に押し負けたりはしない。
握られたままとはいえ木刀を天へと弾き、がら空きとなった召喚獣に渾身のフルスイング。これはいくらなんでも当たると確信すると、召喚獣は目を見張るようなアクロバティックでそれを回避。流れるように蹴りを放っていた。
しかしネプテューヌも負けじと空へ飛んでかわし、すぐまた激しい剣戟を召喚獣と生み出す。
同時に僕らの方でも戦いが開始される。
「覚悟するです!」
「仕留めるわ!」
「くっ……!」
二人の武器での猛威がおばさんに降りかかり、下がったところを僕の蹴りで更に後退する。
「ちっ! 分断といったところか、です」
さすがにこうもあからさまに分担作業を行ったんだ。こちらの作戦をおばさんも察したようだ。
「いいのかです? ネプテューヌなしでこの私に勝てるとでもです?」
「ですです言ってるおばさんには正直敗ける気はしない!」
「そうです! 人のマネをする人には負けないです!」
「黙れガキどもです!」
暗い洞窟内で二つの地点から爆発みたいな戦闘が起こり、岩肌が次々とめくり削られていく。
おばさんの衝撃波での砲撃が飛んで、三人でそれをかわし、アイエフが先頭に出て切り込み、コンパがそれに続く。僕はそうやって怯んだところのおばさんを狙って二人の援護をし、またおばさんの攻撃が放たれる。
ネプテューヌの方でも同じ黒同士、地を蹴って、空を跳びまわり、洞窟内で攻防を続ける。
召喚獣が僕らのところに行かないよう動きを封じる。それがネプテューヌに割り振られた役だ。そしてその間に三人であのおばさんへ総攻撃し、おばさんの砲撃を阻止して、弱っている今のうちに倒す。単純な作戦とアイエフ本人は言っていたけど、一番堅実的な作戦だと思う。結果的にうまくいっているのだし。
……ただ気になるのは、時々視界に映るおばさんの笑み。ネプテューヌの方を見ていて、まだ何かを企んでるとも取れる表情が頭から離れない。
「一閃ッ!」
「うっとしいです!」
考えていても戦闘は続く。丁度、アイエフの斬撃とおばさんの衝撃波がぶつかって、背後からコンパの注射器が火を噴く。
「えいでぇすッ!」
全身で支えながら注射器を穿ち、一気に相手の懐に入る。
「っ!? ちぃっ!」
不意を付いた一撃に一瞬面食らったようにしながらも、おばさんも杖と異能の力を駆使して二人に抗う。そこに僕は意志を投擲しつつ、もう気にも留めなくなったスカートから出ている脚を叩きつける。
「こっの!」
二人と違って生身の攻撃だとやはり威力に差があるから怯みはしても次の初動のときは既にあちらの攻撃が発射される。すんでんでそれをかわし、姿勢を低くしておばさんの背後に回る。
おばさんの言うとおり、攻撃力や突破力という点ではネプテューヌを抜いた僕らじゃ弱っていてもおばさんの相手は楽ではない。コンパは決して戦闘ができると言い切れないし、僕だって素手での戦いで役に立てるかどうか。
けど、残された戦力で一番の大技と技量を持つアイエフを中心にうまく立ち回れば、こうして小刻みな攻撃を当てて素早く動くことでネプテューヌなしでもきちんとやれている。
「僕たちなめんな!」
スライディングして下からおばさんを蹴りあげる。
「小賢しいハエがです!」
安易な戦法は容易くかわされてカウンターが襲ってくるも身を捩って直撃をさける。
杖の先とおばさんの視線の先が一点に固定されると、二方向から今度は同時にコンパたちの怒涛の攻めが死角から降り注ぎ、持ち直される前に僕の渾身の一撃がおばさんの背中に命中する―――
「っ!!? あ…がぁぁ……!?」
直前で、突然腹部に強烈な激痛を感じ、その場に倒れ込んでしまった。
倒れる際に見えた―――おばさんの楽しそうに見下した笑顔と、そのとき自分に降りかかる、事前に防げた悲劇を僕は“ネプテューヌの剣が僕の召喚獣に刺している”瞬間を目の当たりにして初めて後悔した。
☆
「アッキー!?」
「突然どうしたのよ!?」
あいちゃんとこんぱの悲鳴が聞こえたのは、わたしの剣が丁度、アッキーの召喚獣にヒットした時だった。
視線を移すとおばさんの前でお腹を押さえて倒れ込むアッキーの姿がそこにはあった。
「アッキー!」
一瞬で頭に血が上り、召喚獣を突き放してアッキーの許へ飛ぶ。おばさんは目の前に立っている状況で、到着と同時にわたしは牽制のつもりで剣を横薙ぎにする。もちろんこれで当たりに来るバカは本当のマゾ以外ありえないわけで、後ろに跳んで行ったおばさんはすぐさま杖を構え、
「……………」
攻撃を……してこない?
下がるだけ下がったおばさんは襲い掛かってくることもせずに立ち止まり、まるでこちらの様子を窺うように攻撃の手を止めた。
予想外の行動に驚き不審に思う。得体のしれない不気味さを初めておばさんに感じ、どうしようかと迷うけれど、わたしからしたら悪趣味なおばさんより優先するのはアッキーだった。
「だっ、大丈夫ですかっ? おばさんにやられたんですか?」
「にしては、特に目立ったことはしてなかったみたいだけど……」
倒れたアッキーにはすでにコンパたちが駆け付けている。わたしもおばさんと召喚獣に警戒しながら、その輪に入っていく。
「アッキーどうしたの? 何かされたのっ?」
「い、いや……ちがうんだ…!」
「動いちゃダメです! お腹、すごいケガしてるんですよ!」
コンパのそんな声を聞いて初めて気づく。
苦しみを前面に出しているアッキーが手で押さえている部分からはシャツを真っ赤に滲ませる液体が、少しずつ広がりを見せいてた。
「斬られた? 傷は浅いようだけど……」
「いったい、どうして……!」
具合からして手ですっぽりと収まりそうな赤い円は、血こそ流れ出ているようだけどあいちゃんの言った通り傷自体はそんなに深くはないんだろう。
こちらの戦いを見ていなかったからわたしには倒れる瞬間しか知らないけど、二人の言う通りならアッキーはおばさんに攻撃されたわけでもなく、突如として倒れたらしい。そしてこの傷での出血。何がアッキーをこうしたのか、苦しむアッキーをどうにかしないといけないと、グルグルと頭の中で考えが飛び交う。
「遂にやってしまったなです」
不意に思いがけないところから声がかかり、わたしの意識はそちらへと向けられた。
おばさんは愉快そうにこちらを見下ろしている。わたしはその態度に腹が立ち、だけど冷静さを欠かないよう落ち着きながら尋ねた。
「どういう意味? あなたが何かしたの?」
「いいや。私はなにもしていないさ、です」
「アンタ以外に誰がこんなことするっていうのよっ?」
「そうです! 超常パワーじゃないと急には倒れないです!」
「とんだ言いがかりだなです」
あいちゃんとこんぱの声にも聴く耳持たずのおばさんはさっきの怒り心頭とは違って、飄々とした身振りをして流していく。
その表情が、その口調があまりにもバカにしているようで、わたしは冷静でいるようにと自分に言い聞かせたばかりなのについ語尾を荒げてしまった。
「じゃあいったいどうしてアッキーはこうなったの! 答えて!」
「答えても何も、ソイツを傷つけたのはネプテューヌ、貴様じゃないか、です」
「…………え?」
一瞬、頭が真っ白になった。わたしがアッキーを傷つけた……? な、何を言っているの……?
「わ、わたしは何もしてないわ! わたしは召喚獣と戦ってて……!」
「―――そうだ。お前はそのバカの召喚獣と戦っていた、です」
「……何が、言いたいの?」
回らない頭でなんとか考えてみて、妙な言い回しに再度訊いてみると、
「フィードバック……!」
おばさんからの声ではなく、渋面でいるアッキーの声が答えてくれた。それでもわたしには状況を処理できずにいたら、ニヤリとほくそ笑むおばさんは杖を一振り、わたしが吹き飛ばした召喚獣を呼び戻した。
「この召喚獣は元はそこのバカの物。科学とオカルト、そして偶然によってゲイムギョウ界とは別時空に生まれたのが、コイツだです」
召喚獣の方はアッキーと同じで傷を負っているはずなのに、平然とした様子で、おばさんの杖で小突かれても身じろぎ一つしない。
「原則、召喚獣は召喚したモノのみにしか操れない。さらに召喚獣が傷ついても、召喚者がダメージを受けることはない。……しかし、この召喚獣にはある特殊なシステムが施されているらしくてね。召喚獣の受けたダメージの何割かは召喚者に伝達される、です。―――だろう? 吉井明久」
「………ッ!」
痛みに苦しみながらも立ち上がったアッキーをオモチャでも見るように尋ねて、アッキーは歯ぎしりをする。
その反応はまさにわたしに正解を突きつけていて、ほんの数分前に戦っていた相手に行った攻撃を、脳内で再生された。
つまりあのアッキーの召喚獣を傷つければ、こちらのアッキーまで傷つくということ。そしてアッキーがこうなったのは他でもない、剣を突き立てたわたし。
……そんな。それじゃあ、わたしが召喚獣を攻撃したから……!
「お笑いだね、そんな足枷なんて背負って。バカな貴様には丁度いいがなです。貴様もそう思うだろ、ネプテューヌ?」
こちらの反応がわかりきった風に、ワザとらしく質問するおばさんの声を聞いた途端、視界がグラつきそうになる。
どうしたらいいのかわからず、迷いに呑みこまれそうになって、
「ネプテューヌのせいじゃないよ」
「え……?」
アッキーの優しい声がわたしの頭を覚醒させてくれる。
「少し考えればわかったことなんだ。なのに僕がバカだったばかりに、気づくのが遅れちゃった……。ごめんね、ネプテューヌ」
「アッキー……」
「そんな顔しないでよ。大丈夫、これぐらいならまだ平気だよ。元の世界ではこんな事しょっちゅうだったし。ほら! こうやってポーズだって……おげふ!?」
「わわっ! だから無理しちゃダメですよアッキー!」
おばさんとはまったく違う温かな笑顔で話しかけてくるアッキーは、こんぱやあいちゃんにも『ごめんね』と謝る。もちろんそれが、無理をしていることなんてわたしたちにはすぐにわかる。右手で傷を抑えていたシャツの部分は血で染まって、額に流れる汗はやせ我慢をしてますと言っているよう。
なのにアッキーは怒るでもなく、ましてや非難するわけでもなく、むしろ申し訳なさそうにして優しくわたしに言葉をかけてくれる。
「ネプテューヌ、言ってくれたじゃないか。僕の分まで自分が戦うって」
話しに出てきたのは、わたしとアッキーが出会い、こんぱに助けられ、初めてこの洞窟で冒険をして、わたしが初めて変身をし、そして夜空の下で交わしたあの日。
「やっぱりまったく気にしないってのはできないけど、あの時すごく嬉しかったんだ。こんな僕だけど、友達って言ってくれて、ネプテューヌは元気をくれた。今だってそうだよ。戦えない僕の分まで頑張ってくれたんだ。そんなネプテューヌの何が悪いのさ」
微笑をくれるアッキーは、わたしの頑張りが招いた痛みを咎めたりしない。堪えている姿から痛いのは目に見えて分かるのに、それでもわたしは悪くないと言ってくれる。それだけでもう、わたしは救われた気がした。
けれど、そんなわたしたちを嘲笑う声が嫌でも耳に付いた。
「はっ! とんだ友情ごっこだなです!」
距離を取ったままでいたおばさんは杖を高くに掲げて、友達が全然いないと自分で言っているような台詞を叫んでいる。テンプレな小物のセリフね、今のは。
「……だが、こいつがいる限り貴様らに勝利はないのだです」
「そんなの、あなたに決められはしないわ」
「ふんっ、まだ自分たちの状況がわかっていないようだなです。わたしの力があれば、こんなチンケな装備のバカの召喚獣でも役に立てるようにできるのだです! この通りにな!」
杖が振るわれ、棒立ちにいる召喚獣の背中を強打。召喚獣は抵抗も何もできずに力なく前へと倒れる。そして次に発生するのは―――
「ぐぅ……っ!?」
「アッキー!」
召喚獣がやられ、ダメージが反映されてアッキーも倒れそうになる。
慌ててこんぱとわたしで支えに回って抱きかかえる。
「何するですか! 手も足も出ない召喚獣でアッキーを傷つけるなんて卑怯です!」
「まったくねっ。悪趣味にもほどがあるわ」
「ほざけ。元々そこのバカが無駄に抵抗したが所為でリンクが残る形になったのだです。今にしたらこんな面白い事になったのだから私としては愉快この上ないが、あの時に受けた傷は忘れはしないぞ!」
口ぶりからして、アッキーが言っていたゲイムギョウ界に来る前に迷い込んだ異空間での戦闘のことだろう。忌々しげに思い出した様子のおばさんは怒髪天を衝くような怒声を張り上げて、杖の先をこちらに合わせた。すると、倒れていた召喚獣がゆっくりと起き上がり、わたしたちに再び姿を見せる。
「あの時は不意を突かれたが、今はもう違う! 見るがいい! 己の醜くなった召喚獣をな!」
眼前に立ち塞がる召喚獣は、さっきまでとまるで雰囲気が違っていた。
光のないガラス玉みたいな瞳はより真っ暗になって、黒さはみるみる全身に浸透していく。腰から上半身が闇に呑みこまれ、かろうじて残る人のシルエットからおぞましい眼光に、猛獣のように裂けた口が牙をむき、木刀を落とした手は鋭利なツメの形となった。
「なに、アレは!?」
「アッキーの召喚獣がとっても怖くなっちゃったですぅ!」
「覇気が禍々しい……! パワーアップ、じゃなくてこれは暴走みたいね……!」
「ちょっとゴラ! 人の召喚獣に何したんだ!」
わたしたちがその変貌に驚き、口々に思ったままを吐露していく。されど相手は落ち着かせる時間なんてくれずに、
「さあ! 第二ラウンドと行こうじゃないか!」
「っ!? 散開っ!」
いち早く危機を敏感にキャッチしたあいちゃんの指示と、おばさんの衝撃波が撃ちだしたのは同時だった。こんぱが転ぶように跳び、あいちゃんがバックステップ。わたしはアッキーを抱えて空へと慌てて逃げ出す。
「逃がすものか!」
『……………』
既に接近していた真っ黒に変化した召喚獣があいちゃんの懐に飛び込み、おばさんはわたしとアッキーを追いかけてきた。
星の流星群のようにして襲いかかってくる衝撃波の砲弾を空中で回避。激しい砲撃から必死にアッキーを守りつつ、飛びまわって合わせずらい焦点をあいちゃんにロックする。
召喚獣と肉薄するあいちゃんも防戦一方のようで、荒々しい攻撃の前に苦戦を強いられていた。
木刀を使っていた頃とは違い、召喚獣の戦法は鋭くなった爪と牙となって、獣のように攻め立てている。爪がカタールと火花を散らせば、牙があいちゃんの頬をギリギリでかすめたり、俊敏で獰猛な勢いはどんどんあいちゃんを壁際に追い立てていく。
「この……! しつこい!」
回転を加えて威力を高めた爪が、あいちゃんの力を逃がす受け止め方で停止する。しかし、召喚獣の次の一手としての牙が怪しく輝き、あいちゃんは思わずと言った感じに暗器を構え―――
「あいちゃんさんダメです!」
「っ!?」
こんぱの悲鳴に武器を召喚獣の鼻先で止めた。あのままやっていれば、また召喚獣からフィードバックとしてアッキーにダメージが行くところだった。ただその代りに、隙を作ってしまったあいちゃんが召喚獣の強烈な一撃によって壁に叩き付けられてしまう。
「あっ…ぐ……!」
「アイエフ!?」
今のはまずい。完璧に意表を突かれて真面に攻撃を受けてしまった。あれではあいちゃんでも早期の復活は難しい。
早く助けに行かないとあいちゃんの身があぶない。しかも召喚獣は次の標的を定めて、動き出してしまっている。標的はもちろん、空を飛んでいるわたしとアッキーを外した残るパーティー一人のみ。
「あいちゃんさん! 待っててください! 今すぐ治療するで!」
「こんぱ! 逃げて!」
「よそ見などしてる場合か!」
トップスピードで飛行してこんぱの許へ向かおうとして、おばさんの不意打ちがアッキー共々わたしに襲いかかってくる。
剣で砲撃を薙ぎ払うもアッキーを抱えての飛行の上、おばさんはそのアッキーを狙うように打ちだしてくるから、うまく飛ぶこともかなわずに、こんぱの方に召喚獣が接触してしまった。
「きゃっ! うっ、わたしだってやるです!」
『…………』
果敢にも立ち向かうことを決断したこんぱは武器を乱射。注射器を使って、あくまで当てずに召喚獣を寄せ付けないよう奮闘する。
「コンパ当てるんだ! でないと!」
「ダメです! アッキーが酷い目にあうのに、わたしにはできないです!」
看護学校に通うこんぱからしたら、友達を傷つけることはそれは自身の役目を否定することに繋がる。それでなくとも優しい子なんだ。攻撃するなんて、こんぱにとっては拷問に等しい。
「そんなくだらない心情など、薙ぎ払ってくれる!」
「きゃぁぁーーーー!」
「こんぱ!?」
そんな優しさを弄ぶように、間髪を容れずおばさんの命令でアッキーの召喚獣の圧倒的な戦闘能力でこんぱも吹き飛ばされてしまった。そんな……! 間に合わなかった……!?
「っ!? ネプテューヌ! 後ろ!」
「―――なっ!?」
こんぱたちの方に気を取られ過ぎてしまった。守りきれなかった悲哀に感覚が一瞬衰えて、背後から迫る衝撃波を察知することができなかった。
撃ち落とされる鳥の如く上空から一気に落下して、その拍子にアッキーを腕から落とし、鈍い音を立てて地面と激突させてしまう。
「がはっ……!?」
「アッキー! ごめんなさい! わたしが付いていたのに……!」
「貴様がいようがいまいが関係ないさ! そのバカは殺し、ネプテューヌ! 貴様の力は私が貰う!」
「……!?」
急いでアッキーに手を伸ばそうとして衝撃波が横槍を入れる。わたしはなんとか身を捻ってよけるけど、召喚獣が休む暇もなく仕掛けてきた。
繰り出される爪に牙を剣で受け止め、蹴りをバク転で回避していく。
わたしから攻撃することができない以上は守りに徹するしかない。でなければまたアッキーが苦しい思いをする。なのに、猛攻撃は一撃一撃を受けるごとに重く感じだして、ついに剣を弾かれてどてっぱらに砲弾と錯覚する程の威力でキックを受けてしまった。
「この……! やめ―――ろぉっ!」
たたみかけてくる召喚獣にアッキーは突撃。全身を使ってタックルを見舞う。それを腕一本で受けた相手は、身体ごと数歩ズラされるが、
『……………!』
カウンターがアッキーをもう一度地面と激突させて、勢いで弾んでそのままわたしが落としてしまった剣の近くまで飛ばされる。
焦って跳びだそうとわたしがすると、させじとおばさんの攻撃、そこからアッキーのところから戻ってきた召喚獣が参戦し、二対一での対決が行われる。素手になったとしてもパワーアップした身体能力があるわたしでも戦況はかんばしくなく、結果が出たのは、遅くはなかった。
「―――無様だなぁ、ネプテューヌ」
「うっ、ぐ……!」
『……………』
もうアッキーの面影もなく怪物に変わり果てた召喚獣に首を掴まれて吊り上げられたわたしに、おばさんは本当にそう思っているようで、愉快に言ってくる。
「ねぷねぷ!」
「ねぷ子……!」
遠くではうつ伏せに倒れている状態でわたしを名前を呼ぶこんぱとあいちゃんの声が聞こえる。どうやら二人とも、命に別状はないようだけどすぐに動き出すことはできないようだ。良かったと思う反面、早く二人とアッキーを助けて、おばさんに召喚獣をどうにかしないと、最後にはみんな助からなくなる道しかない。
「貴様一人だけならこうならずに済んだものの、他人など気にかけるからこうなる」
にじり寄るおばさんは腕を持ち上げ、少しずつ近づいてくる。なんとか脱出できないかとありとあらゆる手を使うも、召喚獣の腕は固定されているように微動だにしない。
いけない! 早く……! 早く逃げないと……!
「こっちだおばさん!」
「……っ!?」
おばさんの背後から突然声がかかり、虚を衝かれた相手にアッキーはわたしの剣を拾って振り抜く。剣は弧の軌道をえがき、おばさんに迫り、すんでんでアッキーの膝がガクッと崩れ落ちる。
見れば、召喚獣が自分で自分の膝に尖った岩を突き刺していた。目の前に膝を付いたアッキーにおばさんは更に杖を一振り。弾き飛ばされて地面を転がる。
「くっ、そ……っ! あともう少しだったのに……!」
「ふん、とことんこざかしい奴め。諦めることを学習できんのか」
倒れるアッキーにそう吐き捨てるおばさん。尖ったブーツの踵でアッキーの頬を踏みつけ、侮蔑を込めた余裕が憎たらしい。
このままじゃいけない。せめて三人だけでも逃がさないと!
「やめなさい……! あなたが欲しいのはわたしの力なんでしょ? アッキーたちは関係ないわ!」
絞められた首じゃあ酸素も真面に得られないけど、精一杯の発声で訴えかける。
「私も最初はネプテューヌの力を奪えれば他の物に興味などなかった。……が、こうなった以上ここのいる全員、皆殺しにする。特にこのバカは必ずな」
「そんなこと……! わたしがさせない!」
「アーハッハッハッハッハ! そんな状態の貴様に何ができる! そういう威勢はまず、真面に動けるようになってから言うものだ!」
悔しいけれどおばさんの言うとおり、手も足も出せないわたしが何かを言ったらところで何も打開されない。
酸素が失われて薄れていく意識の中、悔しくて、行き場のない憤りが堪っていく。わたしは、声にならないうめきをあげて虚しくされるがままにしかできない。
それをおばさんはあざ笑い、無抵抗に倒れるアッキーに何発も何発も蹴りを入れていく。
「ほら! 守るんだろ? なら守ってみせろ! ソイツを攻撃してな! でなければこのバカは死ぬぞ!」
「やめて…! お願いだからやめて!」
「なら召喚獣を攻撃するしかないね。それができればだがな! アーハッハッハッハッハッハ!」
叫ぶしかなくて、無力でいて、わたしは何もできない。ただアッキーが蹴られていく姿を助けてあげることもできないで、伸ばそうとした腕すら召喚獣に弾かれて終わってしまう。
わたしたちが召喚獣に攻撃をできないことをいい事に、人をコケにしたようにおばさんの高笑いが響いてく。でも、ここでもしわたしが召喚獣を攻撃すればそれこそ本末転倒な結果が生まれてしまう。
どうしたらいいの? このままじゃ、アッキーが……。
「ごめんね、ネプテューヌ……」
けど、こんな時でもアッキーは、わたしに向かって、にっこりと申し訳なさそうに笑顔を向けると、止まない蹴りから転がって逃げ、フラフラとした足取りで立ち上がる。
「僕の所為で、こんなことになっちゃって……。本当に、ごめんね……」
逃げてほしいのに、今すぐにでも走っていってほしいのに、アッキーは傷だらけになってもわたしに手を伸ばす。
わたしは、痛々しいそんな姿を直視することができなくて、だけど視線を外すこともできなくて、もう一度腕を持ち上げた。
「違うわ……! アッキーの所為なんかじゃない……! わたしはアッキーの分まで戦うって決めたからっ…、だからアッキーは何も悪くないの!」
さっきわたしを許してくれたように、優しいアッキーが謝る必要なんてどこにもない。元々こちらの世界に偶然きてしまっただけで、本来ならこんな危険な目にあうことはなかったのに、むしろ約束したのに不甲斐ないばかりのわたしこそ謝らなければいけない。
「くだらない友情劇はもう飽き飽きだ。目障りだ」
おばさんが、再びロッドを振るい、脚に力も入っていなかったアッキーを簡単に横に倒す。
「どうだい、苦しいだろ? こうなったのは誰の所為だ? 他でもない、貴様の所為だよな、吉井明久?」
そしてわたしたちの想いを踏みにじるように酷い言葉を落としていく。
「貴様の召喚獣がいる所為で、ネプテューヌ達は手も足も出せず、無惨にやられていった。全員、貴様と同じ大バカだったが故に、貴様の手で死ぬんだ」
「…………ッ!」
「見ていろ、ネプテューヌの力を奪ったあかつきにはまず手始めに貴様から殺してやる」
下唇を噛み、悲痛に顔を歪めるアッキーを蹴りあげて、おばさんが一歩を踏み出す。
視点をわたしに合わせると―――数秒して、確信する勝利に酔いしれるように恍惚とした表情でこちらを見つめて言う。
「最高な光景だ。こうしてあのネプテューヌが私の前に苦しみ手も足も出ないでいる。それだけで募る苛立ちも消えるようだ。私の悲願も、新たなる力によって達成される。さぁ、ここから始まるのだ、我が覇道が!」
押し圧せる恐怖にわたしは、情けなくも負けて眼を背けてしまった。が、
「―――そんなことさせるか!」
決然と揺るぎない意思を示し、もう立つこともままならないはずなのにアッキーは駆けだして剣を振り抜いた。
体重を乗せたまさに乾坤一擲として突きだしてくる攻撃。それは力強くて、しかしダメージを蓄積された体では心もとなくて、弱くなっているおばさんでも簡単にバックステップでよけられて、アッキーは重心のバラすが崩れて―――
ドスッ
「……………え………………?」
そのまま突きたてた剣で、わたしを持ち上げている召喚獣の胸を貫いた。
身の丈ほどの長さがあるわたしの刀剣は刀身の半分を召喚獣の体内に収まり、突き出ている切っ先はわたしの目の前に止まっている。
けれども、わたしは今起きている事実に目を疑って、一瞬何が起きたのか、唐突な出来事に頭が完璧にオーバーヒートして追いつけないでいた。
「アッ…キー……?」
召喚獣の肩口から覗く顔は角度的に見下ろすようになっていて、わたしからじゃその表情は窺えない。肩全体で乱れた呼吸音だけを鳴らし、アッキーは全体重を召喚獣の背中に乗せている。
「おい、お前…! お前、僕の召喚獣なら僕の言うこと聞け! ネプテューヌたちを傷つけるな!」
心からの訴えが洞窟内にこだまする。
ふと、視界の端に落ちていくしずくを捕らえた。
赤黒い色をした液体はポタポタ零れていき、根源を眼で追っていくと、それが今ので新たにできた傷口から流れているのだと、すぐにわかった。
「そ、そんな……アッキー! 血が……!」
次から次へと流れ落ちていく血液は召喚獣との壁の所為で出処は見えない。でも、アッキーの様子は明らかに衰弱しているようで、あれだけうるさかった呼吸音がどんどん浅い呼吸でしぼんでいく。足元には真っ赤な小さい水たまりができ初めて、腹部の傷からも量が加算されているんだろう、太ももから足のつま先まで染め上っていた。
けど、そんな苦しいはずのアッキーは、わたしに向かってにっこりと色あせない笑顔を向けると、
「待ってて。今、助けるから」
変わることのない優しさをくれる。
わたしたちを……守ろうとしてくれる。
その身を犠牲にしてまで、召喚獣を攻撃すればどうなるか知ってたいはずなのに、迷いなく剣をより深く突き進める。
わたしはもう、失っていく意識の中で、声もろくに出せずに切望する。
ダメ……、それ以上やったら……ダメ! お願いだから、もうやめてアッキー! 本当にこれじゃあ……死んじゃうわ!
「……呆れた。バカだなんだとは思っていたが、自分の命まで投げ捨てるバカだったとはな、貴様」
「バカでもいいよ……。僕の所為で皆がこうなって、守られてばっかで……、こういう時こそ命を張らなきゃ……それこそ本物のバカだ。だから僕は、こういうバカで十分……!」
「なら、私が殺してやる。元より、貴様を殺すのはこの私なのだからな!」
おばさんが、再び自前のロッドを天高く振り上げた。狙いは―――洞窟のごつごつとした天井。
鼓膜が破れそうな轟音が響き、粉塵が舞えば、煙を突き破るようにして無数の岩がわたしたち目がけて落ちてくる。
わたしは残された力と意識で、最後の悲鳴を上げた。
「逃げて!! アッキー!」
守りたかった。ただ、一人の友達を守りたかった。わたしの想いはそんな単純なもの。だからこそ、戦える。
だから逃げてほしい。剣を離し、走っていってほしかった。
それはアッキーも同じなのは、言わなくてもわかる。
だってそれが―――
「うぅぉぉおおおおおーーーーー! 負けるかぁぁぁああああああああああーーーーーーーーーーッ!!!」
―――最後まで逃げようとしない、あなただから。
そして、一斉に圧し掛かる重圧に、わたしの視界は真っ暗になった。
☆
「ね、ねぷねぷ……? アッキー…?」
「ウソ、でしょ……」
ありえないものを見た。そんな表現が似合う表情で固まる二人を見て、彼女は心地好いものを感じた。
憎きネプテューヌに、随分昔の知り合いに似た顔のバカを、この手で制圧した。それがどうしようもなく、己の渇く心を満たしていく。
「アーハッハッハッハッハッハ! まさか本当に逃げなかったとはな! 救いようのない馬鹿とはまさにこの事だ!」
少年の方は少なくとも逃げられた。剣を抜くことはできなくとも、手を離し、ネプテューヌを見捨てて自分だけが助かる道があったのにもかかわらず少年は逃げなかった。考えれば考えるほど愉快な気分に高まっていく。
「どれ、どんな風に潰れたか、見てやろうじゃないか」
哄笑を轟かせる彼女はとにかく踏みつぶされたあのバカの顔が見たかった。
当初の目的である力の強奪に関しても、さっさと済ませるつもりだ。
ネプテューヌは仮にも“あの姿”に変身していたから死んではいないだろう。よくて意識のあったまま全身の骨が折れているか、悪くて虫程度の息でかろうじて生きているか、そのどっちがだ。どちらにせよ、彼女は力を奪えればなんでもいい。どうせ最後には殺す対象なのだから。
遠くで突っ伏すネプテューヌたちの仲間がなんとか起き上がろうと奮闘しているようだが、力も全く入らないようで、立とうとしては倒れ。立とうとしては倒れを繰り返し、苦悶の声を出すだけ。
あれも後で殺すかと、優越感に浸りながら流し目で通り過ぎ、一歩一歩岩でできた山に近付く。
「私の怒りを買うからこういう事になるのさ。あの時から、貴様の運命は決まっていた。恨むなら、己の弱さと、その死んでも治らないようなバカさ加減を恨むんだね。もう死んでいるがな! アーハッハッハッハッハハ!」
楽しい。楽しい。楽しい。
ここまでの鬱憤すべてが晴れていくようだ。
ムカつくネプテューヌを、ムカつくあのバカをこの手で殺し、蹂躙し、勝利を勝ち得た。
溢れる優越感で笑いが止まらない。
早く見たい。あの綺麗なネプテューヌの顔がひしゃげ、あのバカがぺしゃんこになっている姿を。
一歩一歩、一歩一歩進み、手を伸ばす。距離が50、40、30、20まで迫り、あと少しで届く。
そんな時。
積み上がっていた岩が爆発でも起こしたかのように弾け飛んだ。
「なっ!?」
唐突のできごとに思わず驚きの感情が自然と口から出る。
飛び散る岩の数個が襲いかかってきて、後ろに跳びながら衝撃波で撃ち落とし、なんとか身を守る。
巻き上がる砂煙はもうもうと立ち込め、視界に映る世界を埋めていく。彼女は舌打ちをして、何が起きたのか頭を猛スピードで回転させる。
倒れる仲間は未だに立ち上がることもできてない。何より驚いた様子でいることから、まずあの者達は除外される。次に上る可能性は、潰れたかと思えていた存在。こんな事ができるのは、あの場ではネプテューヌただ一人。
まだ生きていたのか。彼女は呆れぎみになって、煙の先を見据える。
すると、煙の一部から、一本の武器が突き出てきた。
「あ、あれ! 木刀です! ねぷねぷです!」
仲間が生存していたことに歓喜を上げるピンク色の少女の涙声が聞こえる。確かに出てきたのは木刀の切っ先。そしてネプテューヌは、“変身前”に武器にしていたのは木刀だ。
考えとしては間違いではないだろう。杖を構える彼女も真っ先に浮かんだは、能天気すぎる少女の顔だった。
しかし、“感じ”がまるで違う。
それはもう一人の仲間も気づいたようで、
「……待ってっ。違うわ……。あれはネプ子じゃない! 誰!」
双葉リボンの少女が問い詰め、その場いる全員の視線が、木刀の一点に集まり―――木刀は一閃。粉塵を蹴散らした。
晴れわたる世界。
死んだと思われた存在。
湧き出る闘争心。
木刀を握り、そこには仲間を守るようにして立ち塞がる。
禍々しかった姿はクリアとなり、本来の姿となり、彼女を守る―――。
「―――誰が死んでも治らないバカだ! 悪趣味フルコンボのおばさん!」
制服ではない、学ランと木刀を装備して。
彼は今―――次元を超えて、戦うときがきた。
他の誰の為でもない、友達のために―――!
「って、ぎゃああああーーーー! 目に砂入ったぁ!? いっ、痛い! 両目に入った!? 目がぁ! 目がァ! ―――げっほごほっ!? うえっ! や、ヤバい……! ホコリ吸った……! ゲホッゴッホゲホッ! おえぇっ!」
「えっと……アッキー……?」
「……決まんないわね、アイツ」
「あ、アッキーは、その……謙虚なんですよ……たぶん……」
ハイどうでした?最後の最後で色々起きましたが、説明はまた次回です。それにしても、やっぱシリアスには変身後ネプテューヌの方がいいですね。これが変身前だったら大惨事でしたよ、いろんな意味で。
順調に行けば、あと一、二回ぐらいでチャプター1もとい、第一章は終わりです。次回もまた近日投稿予定ですが、ご覧のとおり前回近日投稿と言っておきながらこんなに遅くなっている僕なんで、次回も気長に待っていただければありがたいです。今回については、ここをこうした方がいい、誤字脱字等ありましたら、お話の感想も含めて気軽にテケトーに書いていただければ今後の勉強になります。よろしくお願いしまうす。あ、噛んだ(ワザとだ。参ったか。ハイ。それはいなりずしです)