バカ次元ゲイムネプテューヌ   作:浮雲

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はい。長らくお待たせしました。前回の続きです!え?特に待ってないって?またまたぁ~そんな悲しいこと言わないでくださいよ~。…………な、泣いてないやい!別に泣いてないやい!
とっ、これ以上はいけませんね。下手したら茶番だけでまえがきが終わってしまそうだ。さて、新しい仮面ライダーとガンダムビルドが始まってテンションマックスな僕が深夜のノリで半分以上を書いた今回!前回、召喚獣と一悶着あって、何やら不思議なことが起こりましたが、今回はどうなるんでしょうか。駄文ですが、読んでいただけたら幸いです。


第8話 反撃とノートと残された謎たち

「あ、アッキー……?」

 

 自然と“彼”の名前を呼ぶ。でもそれは、“彼”がアッキーだというはっきりとした確証があって呼んでいたわけじゃない。

 何故なら、目の前に立つアッキーは敵であったはずの召喚獣であり、へたり込んでいるわたしが“人間のアッキー”を抱えているのだから。

 でも、喋った? 召喚獣って喋れるの? というか雰囲気が元に戻っているし……。

 

「―――ん?」

 

 闇に呑まれて獣のように変貌していた召喚獣は出会った時の形態に戻っている。学ランに木刀。アッキーをそのまま映し鏡で切りだしたように身長も顔つきも同じ。

 違うところを上げればアッキーにある傷が―――え? 傷が一つもない? さっきまで確かにダメージが反映されてあったはずなのに。

 

「うわっ!? なんだこれ!?」

 

 と、わたしが驚くと、アッキーもまたいきなり驚きの声を上げた。

 

「が、学ラン? に、木刀っ? 僕いつのまに早着替えなんてできるようになったけ? って、うおっ!? ちょっ、ネプテューヌ!? そこにいるのって、もしかして僕!? えっ!? なに!? どういうこと!?」

「え? どういうことって……。まずあなた、アッキー…なのよね?」

「へ? そうだけど。うん? 待てよ。学ランに木刀? え? なんで召喚獣の装備が? それに、召喚獣がいなくなってる? どこにいったんだ?」

 

 どうやらこの状況をアッキーも呑みこめていないようだ。何が何やらと、疑問符を頭の上に何個も浮かべて、あたりをキョロキョロする。わたしもまだ少し朦朧としている意識でいるせいか、うまく頭が回らなくて呆然としていると、

 

「……馬鹿な!? 召喚獣の支配権が奪い返されたのか!?」

 

 信じがたいと表す、忌々しげな声が聞こえてきて覚醒した。

 発信源はあのおばさん。こちらを瞠目し、異様な形相になっている。……悪趣味なメイクがいろいろと味を出してて、少しだけビックリするわね。

 

「ありえぬ……! 己の自我そのものを移すなど……!」

 

 おばさんは、困惑したようによくわからないこと呟く。

 そこで周囲に視線をさ迷わせていたアッキーが向き直り言った。

 

「なんかよくわからないけど、変な感じだ。傷もないし、力が奥底から湧いてくる……」

 

 ギュっと作った拳を確かめるように開いたり、木刀を眺めたりして、アッキーはおばさんと対峙する。

 

「―――今なら全然、敗ける気がしない!」

「ふっ、ふざけるな! この私の力を打ち負かすことなど、許さん!」

 

 何が彼女をそこまで怒りを抱かせるのか。衝動に衝き動かされるようにしておばさんが出てくる。振るわれるのは、わたしたちを苦しめた衝撃波を出す鋭利なロッド。

 空を飛んで強烈なスピードから突きが放たれる。

 とっさにわたしが動こうとして、

 

「おりゃぁっ!」

 

 矛先を木刀で受け流したアッキーが懐に飛び込み、フルスイングでおばさんを吹き飛ばした。

 

「なっ……!?」

 

 防御はされたようだけど、よほどカウンターを受けたことに驚きを隠せないでいたのか、おばさんは怯み、すかさず走り出したアッキーに一瞬反応が遅れた。

 衝撃波を使おうと杖を構えて―――投擲された木刀が杖を弾き、武器を失ったおばさんにアッキーの蹴りが間髪入れずに襲いかかる。

 

「まだまだぁ!」

「くそ……!」

 

 ジャンプからの飛び蹴りを緊急回避したおばさんは、飛んでいった杖に走る。空中でクルクル回るそれをキャッチすると、すぐさま攻撃再開。

 けど、その時にはアッキーも木刀を回収して、信じられない速度で洞窟内を駆け巡り、変幻自在に跳びまわって降りそそぐ攻撃をかわしていく。

 

「す、すごいですアッキー。全部かわしちゃってるです」

「アイツ、あんなに動けたの……?」

 

 遠くで聞こえるこんぱとあいちゃんの驚嘆の声。二人の言うとおり、人間離れの動きを見せるアッキーはわたしたちは目を丸くさせ、その流れのまま、勢いを乗せて壁を蹴って盛大なジャンプでおばさんに急接近。

 

「っ!? ちィィっ! 調子に乗るな!」

 

 振り下ろした木刀をおばさんは飛翔してよけ、空中で踏ん張りがきかないアッキーを地面へと衝撃波で叩きつけた。

 

「アッキー!?」

 

 すぐ近くに墜落してきたアッキーは土煙を上げる。おばさんはそこに向かって、さらに衝撃波の猛威を振るい、一帯が粉塵に呑みこまれた。

 

「どうやって意識を憑依させたのか知らないが、所詮はチンピラ風情の装備と力のソレにこの私に敵う力などない!」

 

 浮遊して見下ろしながらおばさんは激高の叫びをぶつける。

 それが聞こえたのか、聞こえていないのか、立ち込めていた煙が一瞬で掃われ、姿を現したアッキーはあちこち怪我はしているものの、きちんと二本脚で立って睨み返す。

 すごい……。弱ってるとはいえ、あれだけのおばさんの攻撃にピンピンしてるなんて…。

 

「ネプテューヌ」

 

 と、驚いているわたしの名前をアッキーが呼んだ。

 

「ちょっと手伝ってもらっていいかな? 僕一人じゃ、あのおばさん倒せなさそうなんだ。隙は作るから、ネプテューヌが一気に決めちゃって」

 

 背中を向けたまま、微かに見える横顔は的確におばさんを捕らえながら木刀を構える。わたしは気の利いた返しもできず、ただその横顔を見つめていた。

 さっきまで真っ青だった顔色は息づく花のように輝いている。生気に満ち溢れる表情に諦めもない。

 訊きたいことが沢山あるのに、不思議とわたしは目の前の“彼”を見て安心できてしまう。

 

「ん? どうかしたのネプテューヌ? 僕の顔に何かついてる?」

「―――いえ、なんでもないわ。任せて。もう遅れは取らないから」

「よし! ならさっさと倒して、さっさと帰ってゲームの続きでもしようか!」

「ええ! 次こそは負けないわ!」

 

 アッキーが飛び出し、わたしも抱き寄せていた制服姿のアッキーの身体を寝かせて、続くように空を舞う。近くに落ちていた刀剣を拾い上げ、先頭を切ったアッキーがまず一発、おばさんにお見舞いする。怯んだところを、さらにわたしの剣技が飛ぶ。

 

「くっ! 今更傷だらけの貴様らに何ができる!」

「あなたに勝つことよ! おばさん!」

「そうだそうだ! 小物じみた台詞ばっかのおばさん!」

「ええいうるさい! いい加減人のことをおばさんって言うんじゃないよ!」

「「え? だっておばさんじゃん」」

「殺す! まとめて殺してやる!」

 

 わたしとアッキー、おばさんとで剣と木刀が空を切り、杖が弧を描いて舞、衝撃波をまき散らす攻防が繰り広がる。

 アッキーの木刀が一撃、二撃とおばさんの杖とぶつかり合い、衝撃波が飛べば瞬時に高速移動してかわす。そうして注意が逸れている間に反対方向からわたしが突っ込み、剣を横薙ぎにしておばさんを弾き飛ばす。怒涛のようにしてアッキーが再び攻撃。隙が生まれれば、またもわたしの剣技がアッキーのサポートでより鮮烈に輝いて行く。

 

「おのれ! おのれぇっ!」

 

 召喚獣という味方がいなくなった以上、弱体化したおばさん一人でわたしたち二人を相手にするのははんば不可能なこと。押し切られそうになって、ヤケクソ気味な彼女は滅茶苦茶に衝撃波を飛ばし始めて、その内の一発が倒れているこんぱとあいちゃんに飛ぶ。

 

「え!? こっち来たです!?」

「なっ! 私たち動けな……!」

 

 二人はさっきの戦闘で相当のダメージを背負った所為でまだ立つことすらできない。避けようとしても、倒れたままの移動じゃ間に合わない。

 衝撃波はそれでも迫り、だけど……わたしが動く必要なんてない。

 だってもう、二人を助ける頼もしい仲間が盾となって立っているのだから。

 

「こッの―――! だらっしゃあああーーーー!」

 

 木刀を野球選手みたいに構え、横一閃。ホームラン級の撃ち返しは天上を穿ち、真下にいるおばさん目がけて、パラパラと音を立てて小ぶりな石ころから大きな岩が落ちてくる。

 

「くそ……!」

 

 踏み潰されそうになるおばさんは、もちろん避けようとする。

 予測できていた通り、動き出したところをあらかじめ構えていたわたしが逃すわけがない。

 

「とらえた!」

「っ!!?」

 

 音速で回り込み、斬撃とキックを組み合わせた連撃を浴びせ、最後に渾身のフルパワーでの一撃をぶつける。防ぐ術しかなかったおばさんは、そのまま後ろへと下がって渋面な顔つきで睨み返してくる。

 けれど、畳み掛けるのはここから。

 瞬時に間合いに飛び込み、

 

「《クロスコンビネーション》ッ!」

 

 乱れ撃つ剣で押し通す。杖で守りに徹するおばさんでも止む事のない連続攻撃を前に、最後は守りを打ち砕かれ、大打撃を受け天空に飛ぶ。無防備となった彼女にわたしはさらに追いかけ、上空から地面目がけておばさんを剣で叩き付けた。

 

「がは……! おのれ、ネプテューヌ……!」

 

 苦悶の声を上げて、杖を支えになんとか立ち上がるおばさん。わたしはそんな彼女を見つめながら地上に舞い降り、剣を構え直す。

 チラッと、おばさん背後側にいる彼を確かめつつ、

 

「く、くそ! くそぉ! バカ二人に……! 貴様らごときに負けるかぁ!」

 

 怒りの咆哮が再び轟き、ロッドから砲撃が始まる。

 けれど、フラフラで打ちだされる衝撃波はいとも容易く避けられる。相手が打ち出したと同時に跳びだしたわたしとアッキーは、無数の圧力の弾丸をトップスピードで受け流し、わたしの剣は―――同時におばさんの胴を捕らえていたアッキーの木刀と一緒に交差した。

 

「でええやあぁぁぁっ!」

「だらっしゃぁぁーーーーーー!」

 

 すれ違いざまの居合い斬が、おばさんを遂に膝を付かせた。

 

「ぐ、ぐぉぉ……!」

 

 お腹を抑えて苦しむおばさんから、攻撃した際に光る何かが飛び出し、それをアッキーがキャッチ。

 

「鍵の欠片、返してもらったよ」

 

 手にした光を掲げておばさんに対して言う。それを眼にしていたおばさんはさらに顔を歪ませた。

 

「くっ……! おのれぇ……! バカが一人増えた程度でネプテューヌごときに……!」

「……先程から気になっていたのだけど、あなたはわたしを知っているの?」

 

 出会った当初からの疑問がつい口から出てしまう。

 冒頭にアッキーを知っていたのはまだわかる。別空間で出会った二人は、素性まで詳しく知らなくともその存在まではわかっていた。けれど、わたしは記憶喪失でこの人の記憶がないのに対して、おばさんの口ぶりはまるでわたしを知っているそれ。

 もしかしたらわたしのルーツがわかるかもと思って尋ねたのだけど、おばさんは一瞬『何を言っているんだコイツは』みたいな人を小バカ見る表情を作ると、

 

「あぁ、知っているさ! 貴様は知らなくとも、私は貴様をよーく知っているよ」

「なら、教えて。わたしが誰なのかを」

「何をわけのわからないことを言っている。さては頭でもぶつけたか!」

「ぶつけたって言うより、刺さってたみたいだけどね……。ともかく、ネプテューヌは記憶喪失なんだよ、おばはん」

「誰がおばはんだ! ―――しかし、まさかネプテューヌ! 貴様が記憶喪失になっていたとはな! 貴様を見失ったときはどうしたものかと思ったが……どうやら、まだ運命は私の味方のようだ!」

 

 こんな時に思うことじゃないけど、……感情の起伏が激しいおばさんね。さっきから怒ったり悔しがったり笑ったり。変身前のわたしも大概だけど……疲れないのかしら?

 ……なんて、油断していたのがいけなかった。

 

「鍵の欠片はしばらく貴様らに預けておいてやろう! さらばだ!」

「っ!? 待って!」

 

 逃げ去るおばさんに反応が遅れてしまい、

 

「…いない?」

 

 杖から出ていた眩い光が収まると、そこにはもうおばさんの姿はどこにもいなかった。

 

「逃げられた……みたいだね。くそ! 捕まえてやられた分、顔面に油性ペンで落書きしてアロ◯アルファでゴキブリを付けてやろうと思ったのに!」

 

 なんだかアッキーが地味に怖い事を言いながら、近づいてくる。手には取りかえした、いーすんとの唯一の繋がりをしっかりと握っていた。

 

「それにしても、あのおばさんは何者なんだろうね。変な場所で変な格好で襲ってきたと思ったら、今度はネプテューヌを狙ってきて」

「わからないわ…。こんな時こそ、いーすんと話せたら……」

「――――」

 

 自分が何者なのか。いったい誰だったのか。そしてあの人は何故、わたしを狙い、わたしのことを知っていたのか。知りたい事はいっぱいあるけど、頼りのいーすんとの連絡手段は今はない。

 柄にもなく自分の“正体”なんて考えた所為か、気分が沈んでしまいそうになる。

 けど、そんなわたしにアッキーは元気づけるように言う。

 

「ま、今度話せたときにでも聞いてみようよ。僕もまた、いろいろと聞きたいことができたし。なにより、ほら! 鍵の欠片は取り返せたんだ。そのうちまた話せるよ」

「―――そうね。その時にでも……って、そんなことよりも。こんぱ、あいちゃん! 大丈夫!」

 

 急いで倒れる二人の許へ駆け寄る。眼で捉えた二人は、こんぱはなんとかと笑顔を浮かべて、あいちゃんの方はちゃん付けするなって感じでジト目になっていて、二人共返事をするぐらいには無事だということがわかった。

 

「酷くやられたみたいだけど、立てるこんぱ? 手を貸すわ」

「ありがとうです、ねぷねぷ」

「アイエフも大丈夫? ごめんね……僕の所為で痛い思いさせちゃって……」

「気にしてないわよ。これぐらい、旅してれば何度か体験してるし。それより、レディーが倒れてるんだから、手ぐらい貸しなさいよ」

「あ、うん。そうだね」

 

 傷だらけのこんぱをわたしが、あいちゃんの方をアッキーが腕や肩を貸したりして、なんとか四人で一段落する。

 

「にしても、アンタはどうなってるのよ。急に強くなったと思ったら、その姿に、あそこで寝転がってるスカートのアンタときて」

「そうです! さっきのアッキー凄かったです! ねぷねぷと一緒におばさんをバンバン倒しちゃって、すっごくカッコよかったです!」

「あははは、そうかな? 照れちゃうなぁ」

 

 話題に上がったのは、当然と言うか、やっぱりというか、アッキーの今の姿だ。敵であったはずの召喚獣そっくりの姿をして、まるで召喚獣そのものになったみたいにとてつもない力を発揮して見せた。気にならないはずがない。

 

「ホント、いったいなんなのよその力? 使えるなら最初から……な感じでもないみたいだったけど」

「僕も正直よくわからないんだよね。これって多分、召喚獣の装備そっくりみたいだけど……あの召喚獣はどこかに行っちゃったみたいだし」

「? なに言ってるのよ? そっくりって言うか、まんま召喚獣っていうのじゃない、今のアンタ」

「……はい?」

「いや、だから。その身体、召喚獣の身体でしょ。どうやったか知らないけど、アンタの意識はあそこで寝てるスカート状態の人間態から、今のその召喚獣の身体に移動したって感じじゃない。あのおばさんも自我とか憑依とかって言ってたでしょ?」

 

 ……薄々そうじゃないかと思っていたけど、やっぱりあの召喚獣は消えたんじゃなくて、アッキーの意識が移って元に戻ったということらしい。あいちゃんの見解では。

 でも、アッキーの反応はというと、

 

「……………そうなん?」

「アッキー。口調がおかしいですよ?」

「アンタ……まさか本当に何もわからず戦ってたの……?」

「あ、え…? いや……なんか、ノリ……? ていうか、おばさんとっ捕まえて拷問したくて……」

 

 何故だろう。アッキーの口から時々出る言葉の節々が怖い。拷問とか、躊躇いなく出るところ、アッキーは元の世界でいったいどんな境遇だったのしら……?

 

「呆れた……。それじゃあ、戻り方も当然……」

「……ヤベ……わからないや……」

 

 これは、ちょっと大変なことになった……で、いいの? すごいことはすごいんだけど、人間の肉体に戻れないのは確かに不便かもしれない。

 というか、スカート状態のあのアッキーをどうにかしないといけないわけで……、ん? アレは―――。

 

「まぁ今はそれよりも、こっちをどうにかしましょ」

「え? ちょっとアイエフ? それよりもって、結構なピンチを僕は迎えてるんだけど?」

「このモンスターが出てきたディスクを―――えい(パキッ)。これでよしね」

「いや、だからね、アイエフ? これで良しじゃないんだよ? いや良しだけど、僕の大きな問題が未だ残っているんだって」

「さて、おばさんもなんとか追い払って、ディスクも壊したことだし、一先ずここを出て休まない?」

「怒ってる!? ねえ、もしかしてまだ胸のくだりで怒ってるのアイエフさん!?」

「アッキー、あいちゃんさん。こんなの見つけたですぅ」

 

 ボケ(というか放置プレイ)とツッコミ(というか泣き寝入り)を二人がやっている間に、わたしとこんぱはある物を見つけて、それを取りに行き、アッキーたちのところへ名前を呼びながら戻る。

 

「あっ! ネプテューヌ! コンパ! 二人も言ってやって―――って、何それ?」

「カバン……かしら?」

 

 キョトンと疑問符を浮かべるアッキーにあいちゃんは、こんぱが手にする土やホコリが付いた何かの物体に質問。

 でも、わたしもこんぱも物体の正体がわかっていないから、四人でハテナマークを頭の上に付けるしかできない。

 物体はあいちゃんが言ったように、長方形みたいな形をした、汚れていて判別が難しいけど色合い的に紺色のカバン。見た感じ、どこかの学校の指定カバンにも見えなくはないけど……。

 こんぱがおもむろに土をはたき、とにかく正体を確かめようとすると、姿を現したそれに、

 

「ああーーー!?」

 

 アッキーが絶叫した。って、な、なに!?

 

「ど、どうしたのアッキー? 急にビックリするじゃない」

「あ、ごめん! け、けどそれ! そのカバン!」

「??? これがどうしたですか?」

「そのカバン僕の! 僕が使ってた学校のカバンだよ!」

「え? これ、アッキーのです?」

「うん、間違いない。でも、どうしてこれが……。どこにあったの?」

「あっちの方です。丁度、おばさんが逃げるときに立ってあたりです」

「おばさんが落としていったって……ことなの?」

「あいちゃん。でもそうなると、なんでおばさんがアッキーのカバンを持っていたの?」

「そんなの私にもわからないわよ。というか、だからあいちゃんやめい」

 

 ビシッと、チョップが脳天に突き刺さる。傷だらけのはずなのにまだまだ元気そうでなによりね。でも痛いわあいちゃん。

 なんてわたしたちがやり取りをしている隣りでアッキーは早速自分のカバンの中を漁りだしていた。どうやら、泥まみれなのは外側だけのようで、中身は綺麗なままのよう。

 

「えっと……これはゲームに、これもゲームに…マンガ、ゲーム…携帯にマンガ、マンガ、折紙、ゲーム、ゲーム、グローブとボール。んでゲームで……ゲーム」

「あ、アッキー……? それ、学校のカバンですよね……?」

「コイツ、学校に何しにいってたのよ」

 

 出てくるのは学校とは無縁そうな、まごうことなき遊ぶためのものばかり。ゲームソフトにマンガの数々に、わたしたちは目を丸くする。あ……3◯Sのスマ◯ラもある。

 

「ん? なんだこれ?」

 

 わたしたちの驚きや呆れた視線も気にせず、というか気づいていないアッキーはさらに中身を探りだして、ふと手を止めた。

 

「こんなものあったかな?」

 

 おもむろにカバンから気になったであろう物を取り出すアッキー。

 それは一冊のノートだった。学校とかに使う、まさにソレ。学校カバンなんだから一冊ぐらい入っててもおかしくはなさそうな物なのに、アッキーは見覚えのないのか、恐る恐るといった感じに表紙の表側を向ける。わたしやこんぱ、あいちゃんも興味本位で覗き込むと、そこにはこう書かれていた。

 

 

 

『召喚獣操作マニュアル外伝! 誰でも簡単に今日から召喚だぞ☆ 初心者編!』

 

 

 

 …………なんというか、ツッコミたい部分は山ほどなんだけど、一つだけ挙げるとしたら、何かとてつもない片鱗を味わった気分ね。なんというか、外側の?

 

「えっと……アンタ、何こんなの書いてんの?」

「えっ? い、いやいや! これ僕が書いたわけじゃないから! 初めて見るからこんなの!」

「でも、アッキーのカバンの中に入っていたのよね? じゃあ……」

「知らない知らない! 本当に僕も初めて見るから! だから痛いもの見る目はやめて!」

 

 いや、別にいいと思うわ。誰にだって……その……、うん。そういう時期があるものね。その、タイトルも……なんというか、痛々しくて味があると思うわ……たぶん。

 

「まぁまぁ。でもこれで元に戻り方、わかるじゃないですか」

 

 わたしとあいちゃんからの視線に猛講義をするアッキーに両手を前にだして、落ち着いてとしながら、こんぱが話を変えていく。

 アッキーはそんなこんぱの言葉ももっともだと、終始『違うから!』と念を押すようにしてわたしたちに言いつつ、マニュアル本と書かれたノートを開いて行く。

 

「召喚の仕方……操作の方法……。字とか絵とか書き殴りみたいで微妙に汚いけど、なんか結構詳しく書いてあるなぁ……」

「これを読めば、わたしも召喚獣を召喚できるです?」

「いや、タイトルは詐欺だから無理だと思うよ……。とっ、あったあった。『召喚獣の消し方』、たぶんこれだよね」

「『アウト』って、言えばいいみたいね」

「やってみたら、アッキー」

「おっけー」

 

 一応、離れててと言い、アッキーはノートを片手にキーワードを叫ぶ。

 

「アウト!」

 

 すると、アッキーの身体(というか召喚獣としての体)が光の粒子みたいなのに変わり四散し始めた。ノートにあった通り、これで召喚獣が消えるようだ。

 

「おっ、成功みたい」

 

 アッキーも消えていく自分の姿を確かめる。

 消えるのは早く、脚が消えると、すぐに胴体も消えていき、残す上半身もどんどん霞んでいき―――そこでこんぱがこんなことを溢した。

 

「あれ? でも、アッキーの意識があるまま消えて、意識はきちんと元の身体に戻るんですか?」

「………………え?」

 

 すぅぅ……と、そこでアッキーの姿は完全に消えた。

 残されたわたしたちは静寂に包まれ、誰も何も言わない。次第に額に流れ出る汗に、心臓がどきどきとしてきた。

 三人で、スカート姿の倒れているアッキーの本体に振り返ると、そこには胸とお腹に傷を残し、静かに寝ている目覚める気配がないアッキーがいて、

 

 

 

 

 

「「あ、アッキーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!?」」

 

 

 今日一番の絶叫が洞窟の向こう側にまで響いた瞬間だった。

 ちなみにその後、アッキーは無事に目覚めた。その時、本人は宇宙から危機的生還を果たした飛行士のように涙ぐんでいたのが、とても印象に残った。

 

                       ☆

 

「大体、話はわかったわ。つまりはあなたたちはその……イースン? って人に頼まれて四つの大陸にある鍵の欠片を探しているのね?」

「そうです。それで、大陸を渡る前にギルドで少しお仕事していこうってなって、あいちゃんさんに会って、あのおばさんと会ったっていう感じです」

 

 洞窟の調査も終わって、コンパの自宅。

 とりあえずアイエフも加えた四人で怪我の治療などをして、さっきまで体験した事を話しあう。

 

「それにしても、まさかモンスターがディスクから生まれるなんて、思いもしなかったわ」

「ですね。けど、これでモンスターさんが出てくることはなくなったです。あとはみんなで退治していけば、きっと平和になるです」

「他にあのディスク……のままだと言いづらいわね。…そうね、一先ずエネミーディスクと呼ぶことにしましょ」

「エネミーディスク…」

「で、そのエネミーディスクが他に無ければ、の話だけどね」

「そんなぁ……」

 

 包帯を巻き終えたアイエフの指摘通り、このゲイムギョウ界にモンスターが溢れた原因があの一つとは考えがたい。他の場所、プラネテューヌ以外の別の大陸にも同じようなディスクがあると仮定しておくと、やはり事はそんなに簡単ではなさそうだ。

 

「けど、モンスターの発生の原因がわかった以上、今までよりは対策が立てられるようになったはずよ。少なくとも前進はしてる」

 

 不明な点はまだあるけど、発信源がわかっただけでも十分な進歩と言える。間違いなくこの世界を混乱させているモンスターの正体を掴めつつあるんだ。これで少しでもゲイムギョウ界に平和が戻ればそれはそれで、良い事なんだろう。

 微かに見えた光明に、コンパもアイエフもここの住人として心なしか嬉しそうに見える。そんな横では、同じくこの世界の人間であるネプテューヌも、

 

「いやぁ、働いたあとのプリンは別格だね! こんぱ、おかわりある?」

 

 幸せそうにプリンを食べている。…………これはいつものことか。

 

「「……………」」

「ん? 二人とも難しい顔してどうしたの?」

「アンタねぇ……」

「まぁまぁ、あいちゃんさん。変身するとすごく疲れるみたいですから、大目に見てあげて欲しいです」

「はぁ……手当てもしてもらったし、コンパが言うなら仕方ないわね」

 

 辟易したように溜息を付くアイエフに、コンパはただ苦笑を浮かべるしかない。元凶のネプテューヌは、変身を解いていつものテンションに戻ってプリンを貪っている。あ、今朝勝ち取った僕のプリン、すでに食べられてるし……。

 

「話は戻るけど、エネミーディスクより最後に戦ったあのおばさんの方が気になるわ。何者なのかしら……」

「アッキーの召喚獣さんを出したり、鍵の欠片についても知っていたです。そして集めているようだったです」

 

 確かに口ぶりからして、ネプテューヌのことも知っている風だったし、いーすんとも何らかの関係性を持っているかもしれない。何より僕の召喚獣のこともある。要注意人物としてリストアップしといて注意したほうがいいだろう。

 鍵の欠片もそうだ。どういった理由なのかわからないけど、あっちも鍵の欠片を収集している様子だった。仮にこちらの事情を話しても、僕らのいーすん解放に快く受け入れて手伝ってくれそうにもなかった。むしろ邪魔すらしてきそうだし、もしかたら僕らにゆっくりとしている時間はないのかもしれない。

 さすがにそれはわかるらしい(失礼かな?)ネプテューヌは、今まで没頭していたプリンの容器を空にして話に加わる。

 

「なら、先をこされないためにも早く出発した方がいいかもしれないね」

「そうですね。すぐに出発するです」

「ちょっとちょっと。逸る気持ちもわかるけど、今の自分たちの姿を見なさいよ。そんな傷だらけでどこにいこうっての?」

 

 立ち上がるネプテューヌにコンパを停止するアイエフの声で、二人はハッと我に返る。そして今の自分の姿を見て、気まずそうな表情になってしまった。

 

「あぅ……そうでした。みんな、おばさんとアッキーの召喚獣さんにボコボコにされてケガしちゃってるです。これじゃ旅には出れないです……」

「これぐらい大丈夫だって。急がないとおばさんに鍵の欠片とられちゃうし、いーすん助けられなくなっちゃうよ」

「そのおばさんに、急いだゆえに瀕死状態で出くわしたら、今度こそパーティー全滅よ。ここは万全な体制になるまで耐えるの」

「えー……でも……」

「あっちだってダメージを負ってすぐには動けないはずだわ。今回はなんとかパワーダウンして退けられたけど、次会ったときはこうとは限らない。今は力を蓄え、回復に専念するの、わかった?」

「急がば回れ、ですよ。ねぷねぷ」

「う~ん……そうだねぇ。あのおばさんにはできるだけ会いたくないけど、これから鍵の欠片探すならきっとまた会うだろうし……。うん、わかった! そういうことならプリン、食べるよ! わたしは!」

「ねぷねぷ……。次で四杯目ですよ?」

「ダメだ……。意味がまったく通じてないわ、この子……」

 

 いや、休むという意味ではきちんと伝わったと思うよ。ただネプテューヌの場合、プリンが回復アイテムなわけで、きっとゲームの序盤では普通の傷薬より効くアイテムとかなんだよ。たぶん。

 

「まぁ、私やコンパはまだ良くても、アンタは少なくともあと二、三日は安静にしてないとダメね。特に……“コレ”はいろんな意味ですぐに出発できないだろうし……」

 

 と、言いながら視線をツーッとようやく僕に向けるアイエフ。その視線には哀れみとか、呆れとか、いろんな思いが込められているようで、正直居心地は良くない。

 

「アンタは、いつまでそうしてるの?」

「あれ? アッキーまだorz状態?」

「し、仕方ないですよ…。そ、そのいろいろとあったわけですし……」

 

 ネプテューヌにコンパも加わり、三人の目線が僕に集まった。そしてネプテューヌは笑いながら言った。

 

「ここまで戻ってくるのに五回も逮捕されちゃったもんねー」

 

 ………気づくべきだったんだ。人間の体に戻れて浮かれていて、スカート姿(ボロボロ)でいることを忘れてしまって、もちろんそんな格好で街中歩けば、それはもう変態として扱われるのは当然だというのに。

 

「私これでも結構旅してきたつもりだけど、初めて見たわよ。一日の、しかも短時間で五回も逮捕された人間なんて」

 

 それはそうだろう。ボロボロのスカートを穿いて街中歩く変態なんてまず出会わないレア中のレアモンスターレベルだ。

 

「おまわりさん、アッキーを見かけたらすぐ捕まえに走って来たです…」

「あっという間におまわりさんに取り押さえられてたもんねー」

「その中でも何がすごいって、一回捕まって、三分後にまた別のに捕まるんだから。もう不幸の連鎖しすぎて笑えたわ」

「カップめん専用タイマーできるじゃん、アッキー」

 

 傍から見てる分は笑えるでしょうね。それと、誰がカップめん専用タイマーだ。そのつどスカート穿く僕にさらに逮捕されろとでも?

 あまりの言いたい放題にもう言い返す気力も出てきやしない。ちなみに今はキチンとズボンに戻っている。もう一度言う! きちんとズボンを穿いている!

 

「誰に向かって言ってるの?」

 

 心を読まないネプテューヌ!

 

「まぁ、よく考えなくても当然よね。こんなズタボロのスカート姿の男がいたら、私だって変態として捕まえるか通報するわ」

「……それ、いつから思ってた?」

「洞窟出たあたりから」

「なら早めに言ってくれなかったの……? そしたらわざわざ警官に取り押さえられることもなかったんじゃ……」

「ねぇ、ねぷ子。あれって私たちが助けに入らなかったらどうなっていたのかしらね?」

「…………助けていただきありがとうございました」

 

 ひひっ、という悪魔も真っ青な笑みを浮かべるアイエフに為す術も無い。こ、この……、楽しんでやがる……! 

 

「そもそも、アンタもアンタよ。いくら人間態に意識を戻せたからってスカートの違和感忘れるって」 

 

 そこに関しては何も言えないのが歯がゆいです。

 

「さすがに何回か穿くと慣れてしまうんだなぁ……」

 

 あっちでも経験して来たことだけど、慣れって怖いと本気で思う。

 

「この話はやめましょう。私、悪寒がするから」

「あ、あははは……」

 

 僕が今までの経験に打ちひしがれると、なぜかアイエフが眉間に人差し指を置き、コンパが苦笑いをしていた。はて? どうかしたんだろうか?

 

「わー! すっごいー!」

 

 などと僕らがやってたら、横からネプテューヌのそんな驚きの声が聞こえてきた。見ると洞窟でおばさんから回収した僕のカバンの中身をネプテューヌは漁っている途中のよう。

 

「ちょっとネプテューヌ。勝手になにしてるの。それ僕のなんだけど」

「あ! これ面白そう。アッキー、コレあとでやらせて」

 

 ………無視か。

 

「ん? これって―――おやおや~……。もう、アッキーもオトコノコだねー」

「何、今度は急にニヤニヤして?」

「こ・れ・は、何かな~?」

 

 ニヤニヤと楽しそうに、少しだけホッペを赤くしてネプテューヌが取り出したのは、一冊のエロ本って―――

 

「んなぁっ!? そっ、それは……!?」

 

 表紙が見えたソレは、間違いなく僕のお気に入りベスト8に食い込む一品物のエロ本。鬼の監視員である姉さんにバレないようカバンに入れていたんだけど、まさかこんなところで明るみにでるなんて……! いや、そんな事を言っている場合じゃない! 今はあのエロ本をなんとかしなければ! だが相手は仮にも僕よりも小さな女の子。ここは一つ、お兄さんとしてクールに……

 

「わぁ…お胸が大きい子がいっぱい」

「よく聴くんだネプテューヌ。大人しくそれを返してくださいお願いします!」

 

 土下座に至るまでの時間、僅か二秒。ここはお兄さんとして世の中クールで渡っていけるほど甘くないと教えてあげないといけない。

 というか勝手に開いて読まないでくれる!? それは思春期男子の純粋な不純と欲望が詰まった男の夢の世界なんだから!

 

「それは君みたいな女の子が触って良いものじゃない! ゆっくりと元に戻すんだ!」

「ねぷねぷ、なに見てるですか?」

「だあああああーーーー! ダメだコンパ! 君だけは! 君だけは見ないで!」

 

 そんな汚れたもの……って別に汚れて何が悪い!? かの仙人だって『エロ本の一ページは青春の一ページ』って言ってたから! いやいや! そうじゃなくて、お願いだから純粋なままの君でいて!

 

「これは想像以上に酷いパーティーね……。この先、ちょっと苦労するかも」

 

 なんかアイエフがボソボソと言っているけど、今はそれどころじゃない。ここで引いたら今後、彼女たちとの間に大きな隔たりが生まれてしまう可能性がある。主に挙げるとしたら、僕を見る目がいろいろと厳しいくなる。そっ、それだけは避けなくては! こっちの世界で孤独になればそれこそゲームオーバーだ!

 

「あ、そうそう。ところでさ、あいちゃん」

 

 と、こっちの気合がからまわるみたいに、ネプテューヌが突然エロ本を放り出した。ああ!? 僕のお宝が!? マイ・下半身、ではなくて半身が!

 

「わたしたち鍵の欠片探しの旅に出るんだけど、あいちゃんも一緒に一緒にどうかな? わたしたち初めての旅だからさ、あいちゃんがついてきてくれると心強いんだ」

「……いきなりの勧誘だねネプテューヌ」 

「別にいいわよ」

「いくらなんでもアイエフも困るんじゃ……いいのっ!?」

「わーい、やたー!」

「あいちゃんさん、ほんとうにいいですか?」

「特にプラネテューヌにとどまらなきゃいけない用もないし、正直、ここまで巻き込まれて今さら抜けるのもね。それに、あんたたちだけだと何かと危なっかしいし、わたしが面倒見てあげるわ」

 

 とんとん拍子に話が進んでいくけど、つまり、アイエフは本格的に僕らの仲間になるってことだろうか。おおっ、だとしたらなんて頼もしい仲間ができたんだ! よし、正式なメンバーになったのなら改めて挨拶をしとかなくちゃね。ここで少しでも今までの僕に対する印象も変わるかもしれないし。

 

「それじゃ、これからもよろしくねアイエフ」

「あ、変た……アンタは距離を置いてね」

 

 ダメだ。どうやら僕の印象はすでに取り返しのつかないものになっているらしい。というか今、変態って言おうとしたよね!? 違うから! スカート穿いたりして街中歩いたけど、僕は変態じゃないから!

 

「と、いうのは冗談で。ま、それなりに仲良くやっていきましょ」

「あ、冗談? ね……。あ、あははは……よろしく」

 

 目が一瞬だけどマジに軽蔑していた気がしたんだが、深く突っ込むのはよそう。

 

「わたしからもよろしくお願いしますです、あいちゃんさん!」

「だから、あいちゃんさんはナシなの!」

「そうだよ、こんぱ。ちゃんの後に、さん付けは変だよ。“あいちゃん”だけでいいんだってば。ね?」

「とことん人の話聞かない子ね……。“あいちゃん”もなし……だけど、まぁいいわ。大目に見てあげる。なんだか面白いことになりそうだし、ここはトレードオフってことで」

「おお、なんだか難しい言葉を!」

「じゃあ、改めてよろしくです、あいちゃん!」

「はいはい」

「僕もよろしく、あいちゃん!」

「冥界に落とすわよ」

 

 どうしよう。いろんな意味で泣けてきた。

 一先ずアイエフが仲間となり、それぞれがニコニコと挨拶をかわし、歓迎する(だが僕は若干蚊帳の外)。そんな中で、唐突に『グー……』っと低い音が響く。

 音の根元は、僕の腹からだ。

 

「ごめん。昼から何も食ってなかったから……」

「そういえば、お昼は外にしようって言って、あのまま仕事で洞窟に行っちゃいましたですね」

「もー、情けないな、アッキーは」

「うん。人のプリン食べながらよく言えるね」

 

 それ、四杯目じゃないよね? もう五杯目に突入してるよね? よく食べるなぁ……あ、コンパに没収された。

 

「ねぷねぷ、もう今日のプリンはお終いです」

「ああ、わたしのプリン!」

「ちょっと待っててくださいね。すぐお昼ご飯用意するですから」

「いや、わたしはプリンが……」

「えーっと、確かまだタマゴがあったですから……」

 

 すごい。やんわりとスルーしている。と、怪我してるコンパだけにやらせるわけにはいかないな。

 

「それじゃ僕も手伝うよ」

「え? アッキー、手伝ってくれるです?」

「うん。料理は得意なんだ」

「へー、意外なもんね。でも平気なの? アンタ、一応病人でしょ?」

 

 ゆびを指しながら指摘する僕の体には、他のみんな以上に大きく包帯を巻かれている。痛いと言えば痛いし動きづらいけど、元の世界でもだいたいこんなのには慣れているからすごく苦労する程じゃない。今日は、といより今日もここにいる皆に助けられたお礼もまだだったし、僕の数少ない得意分野を生かすいい場所だ。

 

「大丈夫。これぐらいならなんとでもなるよ。コンパだっているしね」

「はいです。あんまり無理しないよう、わたしがきちんと見張ってるです」

「なら、楽しみにしていいのかしら?」

「ははっ、できるだけ頑張るよ」

「すぐ作ってくるですね」

 

 期待されているわけだし、久々に腕が鳴る。

 よーし、いっちょ頑張るか。

 

「あの、だからわたしのプリンを……」

「ねぷねぷ? ダメですよ?」

「……はい」

 

 軽く叱られているネプテューヌは落ち込み、コンパがちょっと罪悪感にさいなまれそうになったけど、数分後にはすぐ切り替わって僕とコンパの出したご飯を勢いよく食べていたので、僕とアイエフはあまり気にしなかった。ちなみに僕の作った料理は好評で、ネプテューヌにコンパから太鼓判を頂けた。アイエフは、どっちかっていうと僕じゃなくてコンパが作ったんじゃ、と疑っていたけど、最後には素直に美味しいと言ってくれて、僕らは賑やかに遅めのお昼を楽しめた。

 

                          ☆

 

 その日の夜。月が上り、部屋の灯りが消えてスタンドの小さな光だけで照らされてるリビングで僕はソファにかけながら一冊のノートを手に取っていたら、

 

「…あれ? アッキー、まだ起きてたの?」

「うん。ちょっと気になることがあってね」

 

 相変わらずのぶかぶかパジャマを身に付けたネプテューヌが目を擦りながら起きてきた。さっきトイレから水の流す音が聞こえたから、たぶんそれだろう。

 昼食を済ませたあの後、話し合いの結果アイエフはこの家に僕らと同じく居候することになった。ネプテューヌとコンパとで一つの部屋で仲良く寝ることになり、僕は変わらずリビングのソファ。アイエフが覗くなよとカタールを手にして釘を刺してきたけど、まったく僕を何だと思っているんだが。そんなこと少ししか思っていないのに。

 

「気になることって?」

 

 てくてくと暗がりの中を進み、ポフッと僕の隣りに座り込みネプテューヌは尋ねてくる。

 僕は手にしたノートの表紙を見せながら、

 

「これだよ。この召喚獣について書いてあるマニュアル? でいいのかな」

「それって、アッキーのカバンに入ってたのだよね? アッキーの持ち物じゃないの?」

「だから、こんなの知らないんだって」

「夜中にひっそりと妄想爆発させて書いた黒歴史とかじゃなくて?」

「じゃないから。だいたいそんな物、もし作ってたとしても学校のカバンになんか入れないよ」

 

 ゲームやマンガは入ってるじゃん、とかいうツッコミをした人。そこは気にしちゃダメ。

 

「じゃあ、誰がアッキーのカバンに入れたの?」

「ん~……それなんだよ。僕が気になってるのは」

 

 誰が、なんの為に、なんの目的で、こんなものを作って僕のカバンに入れたのか。中身にある僕の所有物の中で異彩を放つ、見たこともない異物。これを見たときからずっと心の中で何かが引っかかる感じがしていた。

 書かれている内容は、文月学園で教わった召喚獣の基本的な召喚方法から操作の仕方。そして消し方に―――

 

「―――意識を召喚獣に憑依させる?」

 

 学園ですら聞いたことのない仕様が記されていた。でも、意味は理解できる。実例を僕は体験したばかりなのだから。

 しかし……

 

「こんなの、元の世界にはなかった……」

 

 前に近い形のタイプで、バイザーを通して召喚獣の見ている景色を共有したり、遠隔操作したりするのを経験したけど、意識はきちんと人の体に留めていた。意識の転移はあくまでこっちの世界でできることであって、文月学園でそんな事例はなかった。

 だけど改めてノートを見直すと、“こちら特有”といった似たような事がいくつか書き記されている。

 たとえば、召喚獣の召喚に関しては、ゲイムギョウ界では召喚フィールド関係なく召喚できるとあったり、本来はその召喚フィールドを出なくちゃ消えないはずの召喚獣を消す方法に“アウト”と書いてある。どちらとも身近にない仕様設定だし、明らかにこちらの世界での前提で書いている。

 

「いったい、誰がこれを……」

「あのおばさんじゃない? だっておばさんが落としていったみたいだし」

「おばさんが? これを?」

 

 ふむ、おばさんがこれをいそいそと書き留めている姿とな。それはなんとも……、

 

「キモイな」

「キモイね」

 

 想像してちょっと胃がグルグルと逆流すらしそうだった。あんなトゲトゲに尖がってる気味の悪いメイクのあの人がコレを書いてる姿なんてもはやホラーだ。

 

「ナイワー。普通に引くわー」

「ナイネー。普通にドン引きー」

「僕もしその場にいたら絶対に殴ってるよ、きっと」

「そういうのが許されるのは可愛い女の子だけの特権だもんね」

「いや、それはそれでちょっとアレなきが……」

「闇の炎に抱かれて消えろ! って、やってるじゃん」

「ネプテューヌ、僕のカバンからDVD見たでしょ? 勝手に取って勝手に再生したでしょ?」

 

 ネプテューヌの言い分はなんともいえないけど、おばさんがコレを書いてるシーンは全力で否定はする。だって正直、気味悪い……。

 

「でも、おばさんではないとしたら誰なんだろう?」

 

 文字だけじゃなくて絵も交えてわかりやすく説明されているノートの中身は、少々殴り書きされているようで、手作り感が満載。何者かが意図的に作り、僕が手に入れるようしたのは確かだろう。そしてその人は僕らの世界と、ゲイムギョウ界を知っている人物になる。

 元の世界でこんなマニュアル本なんて必要ない。ましてやこっちの世界ではまず召喚獣なんていう存在がいないんだからいるいらない以前の話だ。

 それら全てをまとて推察するなら、導き出されるのは―――

 

「わ!? アッキーの頭から湯気が出てきた」

 

 うん。まったくもってわからん。

 

「大丈夫、アッキー?」

「な、なんとか……」

 

 脳みそを使い過ぎてオーバーヒートしてしまうとは。自分の事ながら情けない。

 ってか、謎が多すぎるって。意味不明だって。わけわからんわ。さっさとアンサープリーズだよ。

 

「はぁ……考えても答えは見つからず…。今度おばさんに会ったときにでも聞けばいいか……」

 

 本当は会いたくないけど、どうせネプテューヌを狙い、鍵の欠片を集めている以上これから旅先で再び出会うだろうし、その時にでも簀巻きにでもして問いただせばいい。僕としてはまだ雪辱を晴らせていないのだから、拷問も忘れずにだ。

 なんて、胸をときめかせつつおばさんに対する拷問を楽しく考えている僕にネプテューヌがいきなりこんな事を聞いてきた。

 

「ねぇねぇ、ずっと気になってたんだけど、そこにも書かれてるふみづきがくえんってどんな場所なの?」

 

 さっきまでトロンとしていた綺麗な目は見開き、まさに純粋さを表しているように真っ直ぐにこちらを見つめて興味津々のご様子。

 そういえば洞窟のときは戦闘とかでザックリとした説明してなかったっけ。話す余裕とかなかったし、その後もいろいろと話す機会がなかったんだ。まぁ、他人に話すような学校ではない……だろう。いろんな意味で。しかし、聞かれているのなら答えてあげてもいい、かな? 隠すようなものでもないし。

 

「チラッと言ったけど、僕の通ってる学校で、召喚獣っていうのがある進学校だよ」

 

 ………中身は世紀末みたいで進学校としての概念とは程遠いけど。

 

「召喚獣、なんて不思議なのがある学校なんだから、もしかしたらちょっと変わった行事とかもあるっ? 生死をかけた運動会とか、何年かに一度開かれる王者決定戦とか、実は教師は悪の参謀だったり!」

「……そんな学校があるならむしろ聞きたいよ」

 

 確かにスポーツ大会の野球で何人かがデットボールで死んだり(※死んでません)、学園祭で開かれた召喚獣大会があったり、教頭が学園をおとしめようとはしたけど―――あれ? 何気にヤバい状況が身近にある?

 

「ま、まぁそんな話はいいとして……。召喚獣を使った戦争ならあるよ」

「戦争? え? ガッコで戦争するのっ?」

「と言っても、召喚獣を使った小規模のね。召喚獣は本来なら立つ以外は物にも人にも触れることができないから、一応安全な戦争だよ」

 

 召喚者たち本人らが攻撃しているのは別として。

 

「試験召喚戦争っていうんだけど、僕らは略して試召戦争って呼んでるんだ」

「ししょーせんそう?」

「そう。クラスごとに別れて戦って、勝った方は敗けた方のクラスの設備を交換することができるんだ」

「なにソレ、面白そう!」

「う~ん……。思っている以上に大変だけどね。僕のところのクラスはその試召戦争で目標があって、今年はその目標に向けて頑張ってるんだ」

「へ~…。いいなぁ、なんか楽しそうだなぁ…」

 

 想像しているのか、視線を上に向けるネプテューヌ。その顔を見て、ちょっと気づく。

 常に明るくて元気だから忘れがちだけど、ネプテューヌは記憶喪失なんだよね。この世界のことですら見る物聞くものすべてが初めてなんだ。それが僕の世界っていう違う世界の話なんて、彼女からしたら新鮮なんだろう。

 

「ねえねえ! 他にはっ? そんな面白そうな学校ならもっといろいろとあるんでしょ?」

「そうだね…。他には、オバケみたいな召喚獣で肝試しとか、野球とかやったかな。酷いのとかだと、召喚した人の本音を勝手に言っちゃう召喚獣とかもあったなぁ」

「なにソレ!? 聞きたいっ、聞きたい! 教えて!」

「あはは。わかったから、グイグイ詰め寄りすぎ。きちんと教えるから。そうだなぁ、まずは肝試しはね―――」

 

 今日は本当にたくさんのできごとがあった。新しい仲間のアイエフとの出会いや、ネプテューヌと鍵の欠片を狙う謎のおばさん。そして、この不思議なノート。

 まだまだ謎はいっぱいだし引っかかる部分もある。おばさんに先を越される前に今すぐ動き出したほうがいいんだろう。こんな、悠長なことをしている場合じゃないかもしれない。

 でも今はそんな事も忘れ、一時の時間を僕とネプテューヌはスタンドだけの小さな灯りの下で、一晩中話に花を咲かせることとなった。

 

                            ☆

 

「久しいな、イストワール」

 

 彼女が放ったのは、冷たい表情に似つかわしくない、再会の一言だった。

 

「…マジェコンヌ。何度来ても無駄です。私は貴女に協力するつもりなどありません」

 

 受け応えするする“ソレ”は、立場としては信じられないほど強気に振る舞い、言い返す。彼女はそんな返事を予想てきていたかのように無感情で流した。

 

「わかっているさ。貴様に訊きたいのはネプテューヌのことだ」

「まさか、ネプテューヌさんと会ったのですか?」

 

 “ソレ”の声色が変わる。それはまさしく、答えを言っているようなもの。

 

「やはりイストワール…貴様だったか。ネプテューヌに入れ知恵をしたのは」

 

 少し考えればわかることだった。あの少女に手を差し伸べる者は、ごく限られている。その中でも事情を知り、常識外な芸当ができる者だとしたら尚のこと。

 

「あの迷路内でバカを助けたのも、貴様だな」

「さて、なんのことでしょうか。私は貴女に封じられている身…それは貴女が一番よく知っているはずです」

「ふん。よくもまぁ白々しい嘘をつけるものだ。…まぁ、いい。所詮やつは記憶喪失。次で仕留めてやるさ」

 

 会話はすぐに終わりを向かえた。用を済ませた彼女は“ソレ”に背を向けて歩きだし、両腕を広げて、嬉々として叫ぶ。

 

「―――私の定めた女神の運命は変わらぬ。さぁ、女神共よ、再び戦いあうのだ! ハーッハッハッハ!!」

 

 どこまでも響く嘲笑に耳を傷めて“ソレ”はふさぎ込む。

 思い浮かぶのは、一人の少女と、巻き込んでしまった少年の顔。

 

(ネプテューヌさん……。明久さん……)

 

 儚く願う“ソレ”は届かない想いを募らせ、彼女たちの名を呼ぶ。

 胸中に渦巻く様々な感情にさいなまれながらも、純粋に一筋の希望を信じる。

 “イストワール”はそうして、この先に待つ未来を、運命を、ただただ見つめて待つのみ―――。




ハイ、どうでしたか?とりあえず早くも女の子三人と一緒に住んでいる明久は殺しても構わないでしょう。そして、今回で一先ず、一区切り、といったところです。次回からはラステイション編……と行きたいのですが、その前に閑話などをちょこっと書けたらいいなって思ってます。バカテスで言う、◯.5話的な感じの奴ですね。どうなるかはお楽しみに。今回に関しては、ここをこうした方がいいなど、誤字脱字等ありましたらテケトーかつ、気軽に感想に書いていただけると嬉しいです。よろしくお願いします。
ちなみに、次回の投稿はちょっと先になります。たぶんですが、遅くても十月の末には投稿の予定です。カメ更新ですが、気長に待ってくれたら、べっ、別に嬉しいとか思わないんだからね!勘違いしないでよね!バカ!
………ハイすいません調子くれてました。お待ちいただければめちゃくちゃ嬉しいです。よろCKB!
…………いや、本当にすいません。反省はします。後悔はしません。ではまた次回に。
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