クリアするまで出られないホラゲーに、なぜかVチューバーがいる件について 作:プロトタイプ・ゼロ
「いやあああぁぁぁぁぁ!! 来ないでぇぇぇぇぇぇ!!」
全力で疾走しながら涙を流す金髪の美少女侍。その後ろから恐ろしいほどの低いうめき声を上げながら四つん這いで追いかけてくる『怪物』。その怪物はもはや言語としては聞き取れない言葉を発しながら時に怒り、時に笑い、時に悲しみながら歯をガキンガキンと鳴らして
なぜこうなったのかはいろはにもわからず、思い出したくても思い出したくない恐怖に支配されている。というか今はなにも考えたくない。
彼女が現実世界で持ち歩いている『チャキ丸』はこの世界には存在できなかったこともあり、今のいろはに怪物と戦うすべはなにもない。捕まればどうなるのかある程度理解できてしまったいろははとにかく逃げる。
「あんなのいるなんて聞いてないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
曲がり角に入り偶然見つけたロッカーに入る。完全には閉めずに僅かな隙間から外を見ると、獲物を見失った怪物がダンダンと苛ついたように床を叩く。
その様子に思わず悲鳴が口から出かけたがとっさに手で抑える。暫くすると怪物は来た道を戻りどこかに去っていく。
「あぁ……怖かったぁ〜」
ようやく安全になったことを理解し、安堵の息が漏れた。
「それにしてもこれ、なんなんだろう……?」
カバンから取り出したのは虹色に輝く2つの『なにか』だった。いろんな部屋を物色し見つけたそれらを手に取った瞬間怪物が現れた。少なくともこの2つの『なにか』と怪物には何らかの関係があるのではと考えているが、結局はなにもわからずじまいである。
「そうだ! こういうときこそノートの出番でござる!」
安全圏であるロッカーの中にいるため、カバンからノートを取り出しスマホのライトを当てる。
『君が今このページを見ているってことは、何らかの怪物に襲われたってことかな? 君を襲った怪物の名前は「
「えぇ……」
次のページに行く。
『彼女を止める方法はたった一つ。この旅館の何処かにいる殺人鬼に会わせることだ。残念ながらその殺人鬼がどこにいるのかはわからない。なので自力で探してほしい。必ずヒントが転がっているだろうから
そうそう、もし狐面の少年と出会ったら一緒に行動することをオススメするよ。彼ならば必ず君の助けになってくれる筈さ
神塚明真』
「狐面の少年……って確かフブキ先輩達がゲームの中で出会ったっていう……探したほうがいいよね多分」
探して合流したほうがいいのは頭ではわかっている。だが、またあの怪物――時雨が徘徊している廊下を移動するのは怖いため、ロッカーから出られない。
スマホのパスワードを解き電話帳を開くと、薄めの希望に賭けたくなった。
「うぅ〜……なんでぇ!? 誰の名前も入ってないんだけど!?」
誰かに電話すれば今いろはが陥ってる状況を助けてくれるかもしれない。たとえ無理だとしても何らかの助けくらいなら……そう考えていたが、絶望を与えるかのように名簿から名前が消えていた。
「フブキ先輩達に電話できれば……うぅ〜やっぱり怖いけど、行くしかないかぁ」
なんとかロッカーから出てきたいろはは廊下に誰もいないことを確認し慎重に移動し始める。時々時雨が近づいてくる足音がした時は近くにあるロッカーに逃げ込みやり過ごす。
本来ならば時雨が旅館の中を徘徊するようになるのはプレイヤーが部屋で休み、その後に『虹色に輝くなにか』を手にした時である。だがいろはは休み場所がわからず適当に入った部屋で偶然にも『虹色に輝くなにか』を見つけてしまった。それにより「部屋で休んで夜にする」というイベントを知らずにスキップしてしまい、まだ日中であるにも関わらずゲームがバグを起こし時雨が旅館の中を徘徊するようになったのだ。
一方その頃、
「ちっ! こいつら何体いるんだよ!!」
いろはがいる場所とは違う階にて明真が愚痴を言いながら刀を振るう。鋭い剣撃によって溶けていくピエロのような怪物がケタケタと笑いながら闇の奥から現れる。
本来なら一体しか現れないはずのピエロのような怪物――殺人鬼はバグによって無限に等しいくらいに数が増え、生きた人間の血を吸うために徘徊していた。そして偶然にも階段を上がっていた明真と遭遇し、ケタケタと笑いながらナイフを投げ追いかけている。
一体一体は対した強さはないが、終わりの見えない戦闘に僅かながら息が乱れる。サポートキャラとしてこの世界の知識が頭に入っている明真だが、バグによるイレギュラーまでは知識がない。そのためこの状況に少々混乱していた。
「くそ!! なんでこんな事になってんだよ!! 思いっきり想定外だよこんなの!!」
防御力がほぼない殺人鬼は素早い身のこなしで明真を追い詰めていく。襲いかかってくる殺人鬼を一体ずつ処理しながら安全圏になりえそうな場所を探す。
「なんでロッカーねぇんだよ!! 今入ってもバレるから意味ねぇけどさ!!」
怒りに満ちた嘆きが旅館に響いた。
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