読んでくださる皆様に最大級の感謝を。
波長操作は物間寧人がコピーした。
故に鈴仙の強みである波長操作は物間寧人によってある程度は封じられたに等しい。
鈴仙の波長操作は物間寧人が打ち消し、物間寧人の波長操作を鈴仙が打ち消す。
しかし、しかしだ。
鈴仙は未だに闘志を失っていない。
何よりも……鈴仙の赤い瞳から溢れる凍てついた眼差し……それに射抜かれて動きが凍る。
恐怖が40人全員の身体を縛りつける。
相手はただ1人でこちらは40人。
こちらの数的有利は動かない、なのに……なのに、勝てるビジョンが明確に想像出来ない。
ゆっくりと、ゆっくりと……緩慢に、自身の頬を撫でる鈴仙。
鈴仙はポツリと言の葉を溢す。
「恐怖に支配された者から死んでいく、恐怖を飼い慣らせとは言いませんが、ある程度まで恐怖を無視できる様になりなさい……」
そう呟いた瞬間、鈴仙が動いた。
音速で爆豪勝己へと接近し鳩尾を蹴り抜こうとしたがクラスターによる迎撃を喰らい無為に終わる。
クラスターを受けたというのに鈴仙の身体には火傷一つ無い。
それが何故なのか……爆豪勝己にはしっかりと理解出来ていた。
「テメェのコスチューム……対爆やらなんやらが大量に詰め込んであるって言ってたな……クラスターでも抜けねぇとはな」
舌打ち混じりにそう呟いた爆豪は爆煙に包まれた鈴仙に向けて躊躇う事なく2撃目3撃目と続け様にクラスターを乱発する。
爆炎と爆音が鈴仙を包むが40人の誰1人として……こんな程度で鈴仙を行動不能に追い込めたとは思ってはいない。
八百万百や上鳴、芦戸三奈、吹出漫我といったサポート可能な個性持ちや中距離で攻撃可能な個性を有した者が追撃を行おうとした刹那……重苦しく、禍々しい感情が鈴仙から放たれて、38人が身動きすら取れない絶望と恐怖にその身を支配される。
その一瞬が命取りとなった。
煙の中から飛び出した鈴仙。
狙うは自身の個性をコピーした物間寧人であり、気絶させる為に振るった鈴仙のその拳は吸い込まれる様にして物間の鳩尾へと直撃する……かに思われた。
しかし、ただ1人……鈴仙の行った波長操作、恐怖を全面に押し出した感情操作に誰の手も借りずに、自力で打ち破った者が、自力で打ち勝った者がたった1人居た。
鈴仙は自身の拳をしっかりと受け止めた相手の名前を……驚愕に染まった表情で、ゆっくりと息を吸い込み……ぽつりと、小さく呟く。
「…………一佳」
オレンジ色のサイドテールをたなびかせて鈴仙の眼前に、不敵な笑みを浮かべて立ち塞がるのは……拳藤一佳であった。
一佳はその個性で鈴仙の拳打を受け止めており、鈴仙の左腕を強く掴んでいた。
「負けないよ……鈴仙、今度こそ‼︎」
一佳の個性は大拳であり……手が大きくなるという個性。
しかし、それを活かした拳打や徒手格闘は今や鈴仙と互角の領域まで達した。
一佳自身の才覚と、鈴仙という親友との鍛錬、そして、八意永琳という同じ師匠に師事した結果……今や近接格闘術においては鈴仙と一佳は同等の領域にある。
姉弟子と妹弟子という関係になったが……鈴仙と一佳ではその方向性が異なる。
鈴仙は軍隊格闘を極めており。
一佳は中国拳法や空手、柔術を極めた。
鈴仙の拳打は比較的軽く、タングステン製の盾を一撃で砕き割る事は叶わないが一撃で使い物にならない程度に変形させる事は可能であり、速度と連撃に重きを置いている。
対して一佳の拳打は一撃が非常に重く、一撃の威力に重きを置いておりタングステン製の盾を軽々と砕き割る程の威力を有している。
蹴り技や絞め技も、何もかもが鈴仙と一佳は互角である。
故に、周囲は徹底して一佳のサポートに回った。
勝利の為に、鈴仙に敗北を叩きつける為に、鈴仙という教官に……自分達はもう大丈夫だと知らしめる為に。
爆豪勝己のクラスターが、緑谷出久のワン・フォー・オールが、砂藤力道のシュガードープが、瀬呂範太のテープが……40人の個性が鈴仙を捉える。
しかし、鈴仙は波長操作を封じられてもなお一日の長がある。
軽やかな動きで全ての攻撃をいなして……的確に反撃を行う。
これ幸いと鈴仙の背後を取った芦戸三奈の酸による攻撃をスーツを犠牲にして封じ込める。
スーツはモノの数秒で穴が空くが一瞬だけたじろいだ芦戸三奈の腹部に蹴りを入れて、スーツで顔を覆い視界を封じ、頸部に手刀を叩き込んで気絶させる。
刹那、ガチャッとマガジンを装填して、ボルトを引く音が聞こえた瞬間……躊躇う事なく鈴仙はワイシャツを脱ぎ捨ててブラジャーのみの、半裸の状態となる。
鈴仙は配管や39人の位置を識別して射線が通る位置を即座に割り出すとワイシャツを盾にしながら八百万百へと高速接近すると、やはり……連続して響く銃声。
瞬間、50.BMGという埒外の威力を有した弾丸が八百万百が創造で作ったアキュラシーインターナショナル AW50から撃ち込まれる。
その弾丸は……鈴仙が盾にしているワイシャツに連続して叩き込まれる。
腕が折れそうになる威力……。
長くは保たないと察した故にワイシャツを投げ捨てて八百万百へと急速接近し無力化を計る。
「八百万百……貴女は既に脅威そのものです、光栄に思ってください」
笑みを浮かべながら撃ち込まれる銃弾を見てから回避して語る鈴仙。
赤く染まった強膜を見た八百万百は理解した。
刹那……八百万百の眼前から鈴仙が消え去り……浮遊感が自身を包み込む。
5秒程遅れてやってくる腹部にズキリと突き刺すやつな痛み。
鈴仙による殴打を喰らったと認識した瞬間……身体を掴まれた牢屋の方へと凄まじい時速180kmというスピードで高速移動したまま連れて行かれる。
如何に牢屋をコンクリートでガチガチに固めたとしても……コンクリートを破砕する速度と威力で突っ込まれれば関係がない。
ウサギの脚力を存分に発揮して蹴りを振り抜くと……コンクリートはもちろん補強として使用していた瀬呂のテープと凡戸の接着剤を微塵も残さず吹き飛ばして……鈴仙は速度を緩めないまま自分と共に八百万百を牢屋へと叩き込んだ。
そうして……鈴仙が八百万百を牢屋に叩き込んだのと同時に……スペシャルマッチの終了が宣告される。
それを聞いた鈴仙はゆっくりと座り込んで呟く。
「皆さん……とても強くて驚きました」