小さな一歩の大きな飛躍
12月27日。
鈴仙はコスチュームに身を包みギャングオルカ、エンデヴァー、八意永琳、イレイザーヘッド、グラントリノ、ミッドナイト、プレゼントマイク、塚内警部と共に山の中を歩いていた。
ムーンラビットはその眼を赤く輝かせながら波長操作を常時行っている。
個性伸ばし訓練や過酷な訓練を受けて鍛え上げた鈴仙の探知能力は格段に上昇した。
今や対象が世界の何処に隠れ潜んでいようと……どんなに隠密系統の個性を複数重ね掛けした状態だろうと探知できる。
もはや、どんな相手だろうと地球という惑星に縛られている以上は鈴仙から逃れる事が出来ない。
「こちらムーンラビット、黒霧、マスキュラー、ムーンフィッシュ……荼毘、マスカレイドの該当位置を把握……ギャングオルカさん、イレイザーヘッド、エンデヴァー…… お師匠様とグラントリノ、ミッドナイト先生、プレゼントマイク……塚内警部に転送しています……」
鈴仙は福岡でマスカレイドと荼毘を捕まえた後……2人の波長を認識して憶えておいたのだが……此処にいるということは……あの後2人ともタルタロスに収容される前に脱出したと言う事か。
この事がニュースにすらならずに握り潰されたのは……まぁこの際置いておこう。
今はやるべき事をやる。
イレイザーヘッドは呟く。
「連合で最も厄介なのは黒霧とマスカレイドだ……確実に捕える、護送まで確実に行う、八意さん……お願いします」
操縛布をギュッと握り締めるイレイザーヘッド。
八意永琳は頷くと手に持った機械を動かして呟く。
ちなみに、八意永琳のヒーローコスチュームは左右で色の分かれる特殊な配色の服を着ている。具体的には、紺と赤から成るツートンカラー。
上の服は右が赤で左が青、スカートは上の服の左右逆の配色、となっている。袖はフリルの付いた半袖。全体的に色合い以外はやや中華的な装い。
頭には、同じくツートンのナース帽……紺ベースで前面中央に赤十字マークを被っている。
また服のあちこちに星座が描かれている。具体的には、帽子にこと座のベガ(俗に「織女星」と呼ばれること座のα星)上の服の右側にカシオペヤ座と左側に北斗七星、スカートの右側に箕(現在のいて座に該当する宿星と星座)、左側に奎・壁(現在のアンドロメダ座を中心とした宿星と星座)。
更にスカートの裾には八卦が描かれている。
「天網蜘網捕蝶の法」
そう呟き、八意永琳は片手に収まる大きさの機械を起動させると山間部全域を淡い光が包み込む。
「これで転送や座標移動と言った空間移動系統の個性は封じました……内部から外部への通信も完全に遮断、外部から内部に入る事も不可能、外部からの通信も不可能です……私達以外は」
完全隔離空間を造り出した八意永琳の発明品。
……本来は手術用に開発した器具なのだが……指定した範囲内の雑菌を全て滅菌して簡易的な手術室を構築する八意永琳の発明品。
それを応用して作り上げたらしく……黒霧のワープゲートや転送と言った個性を完封するギミックを乗せたらしい。
鈴仙からみても理解の範疇を超えているので詳しい説明は八意永琳に任せるとして……。
鈴仙はその眼を爛々と赤く染めながら呟く。
ルナティックガンの
「敵性生体反応に動きあり、此方に急速接近中……接敵まで30秒……行動不能に陥れます……
そう呟いた瞬間、鈴仙を起点としてキィンッと甲高い金属音のような音が響き渡る。
甲高い金属音は絶えること無く響いている。
連続して響く音は、当然ながら鈴仙の個性の技である。
その音は……対象にした相手のみ神経伝達阻害による拘束と、精神的破壊と振動により物理的に肉体を破壊する効果の三重の能力を併せ持つ音。
呼吸以外の全てを封じられ倒れ伏す
黒霧、マスキュラー、マスカレイド、荼毘、ムーンフィッシュが地面に倒れ伏す。
発語すら叶わず、身体をピクリとも動かすことすら叶わない。
倒れ伏した5人の呼吸音だけが感知される。
鈴仙の赤い眼は5人の
そして、黒霧にその眼を向けると……黒霧の波長を見て……ルナティックガンを手から落とす。
黒霧とは……死体人形、それはUSJで見た時に看破した。
鈴仙が他者の記憶をスキャニングする際、読み取ったその記憶は鈴仙の脳内の片隅の蓄積され波長操作により適宜再生される。
波長操作で他者に通さなければ鈴仙にしか見えない映像である。
(……何故……黒霧の記憶の中に薄らと相澤先生とプレゼントマイク、それにミッドナイト先生らしき影が? 黒霧に対して行った記憶のスキャニング映像の99%がノイズの様なモノが映り込んでおり鮮明な映像ではないが……これは……雄英の制服? そして……いつも相澤先生が装着しているゴーグル……黒霧の記憶自体に何らかの処理が為されていて記憶はこれ以上見えないか……だけど必要な情報は読み取れた、後で調べてみるか)
爛々と赤く煌めいている眼を閉じる鈴仙。
今までは
何をするのか、何をしていたのか、何を為すのか、全てを丸裸にして
5人をタルタロスまで護送した後で……鈴仙はスマホで13年前の記事を漁ると見つけた。
(雄英生徒死亡……白雲朧、インターンシップ中に……埋葬方法は……火葬にされた……)
鈴仙は記事を開いたタブを閉じる。
そして、警察の事情聴取を済ませて……寮に直帰せずにそのまま八意永琳にお願いして少し寄り道する。
……車を走らせて2時間、着いたのはとある墓地であり……白雲家の墓と刻まれた墓石の前で足を止める。
そして、墓石に仏花を添えて手を合わせてから……鈴仙はその眼を赤く輝かせる。
透視で白雲朧の遺骨の歯型をスキャニングした記憶の中の、絶命した時の白雲朧と重ね合わせる。
「どう? 鈴仙……結果は」
短く告げられたお師匠様に対して……鈴仙は無言で横に首を振って意を示す。
それを見てお師匠様はその手に持っている白雲朧の歯の治療痕の書類を見ながら鈴仙に問う。
「場所は?」
「1番、中切歯……2番、側切歯……3番、犬歯……4番、第1小臼歯……少なくとも今告げた上下の歯の治療痕が白雲朧のものと不一致です、お師匠様……これって」
そんな事はあり得てほしくなかった……遺骨が誰か見知らぬ他人のものなんて。
遺族が報われない……13年間見知らぬ誰かをずっと埋葬して、見知らぬ誰かを弔っていたと言うのか……。
やり場のない怒りを示すかのように鈴仙は血が出るほど強く手を握りしめながら俯く。
そんな中……声がかけられる。
「此処で何やってる……鈴仙」
顔を上げると、そこに居たのは相澤先生とプレゼントマイク……そして、ミッドナイト先生であった。