「ぁ……ぇっと……その……ぇっと……」
鈴仙はこの事を相澤先生やミッドナイト先生、プレゼントマイクに伝えようとするが……口が上手く回らず言葉に詰まる。
俯いて……口をパクパクと動かすだけの鈴仙。
この事実を……伝えてもいいものなのか……白雲朧さんの遺骨が実は赤の他人の骨でしたと……。
そんな鈴仙を慮ってかお師匠様が代わりに口を開く。
「相澤、山田、香山……少しこっちに来てくれ、鈴仙……ここで待ってるように」
八意永琳は指でチョイチョイっと指し示して少し離れたベンチへと誘導する。
ベンチに座ると3人に向けて語る前に香山が語りかけて来た。
「何ですか? 八意先輩……」
畏まったミッドナイトの口調に八意永琳は照れくさそうに告げる。
「その呼び方は辞めてくれ……香山、確かに私は香山の1個上の年次の雄英卒だが……それはさておき……私にとっても……君達3人にとっても辛い話をしなければならない」
ベンチに座りながらそう語る八意永琳。
八意永琳の卒業校は雄英であり
つまりは山田と相澤から見れば2年上の先輩……。
八意永琳は雄英高校でヒーロー免許を取得後、そのまま日本最高峰の医大にストレートで進学し6年の医学生生活を過ごした後に医師免許試験に1発合格し2年間の卒後臨床研修を終えて医師となった。
その後は薬学部の学科に入学し、入学から僅か1週間で飛び級で卒業し……薬剤師国家試験を1発合格、その後は歯科医学部に入学しこちらも1週間で飛び級し卒業……歯科医師国家試験も1発合格というとんでもない経歴を持っている。
医師であり、歯科医師であり、薬剤師であり、発明家であり、プロヒーローである八意永琳。
ノーベル物理学賞・ノーベル化学賞・ノーベル生理学・医学賞の4つの分野を6年連続で取る程の医学薬学、生理学、物理学……化学の知識を有している。
そして世界で唯一、あらゆる病を治療でき、死んでさえいなければあらゆる重傷患者を救命する事が出来る医者でありプロヒーローである。
月の頭脳、街の薬屋さん、蓬莱の薬屋さん、応病与薬の月の民……いずれも八意永琳の二つ名である。
そんな彼女から告げられる辛い話。
「鈴仙とここに来たのはね……黒霧の記憶の中に私達がノイズ混じりに見えたそうなのよ……雄英に通ってた頃の私達がね……山田、相澤、香山、白雲……それと私が……鈴仙が初めて脳無と黒霧と対峙したUSJで鈴仙は死体人形だというのを見抜いた……そして、白雲朧の遺骨とされる骨の歯型と彼が過去に受けた歯の治療痕の不一致、そして今回の記憶の残滓を見て1つの結論に達した……つまり、黒霧の素体、ベースは……」
言葉を区切り……八意永琳はグッと唇を噛む。
黒霧から雄英の頃の記憶が見えた、その様な記憶の残滓が垣間見えたという事は……。
八意永琳は溢れ出る涙を拭う事もせずに告げる。
「白雲君よ……相澤、山田とは特に仲が良かったから……貴方達に告げるのを迷ったのよ、鈴仙は……」
その言葉を聞いた瞬間、山田は天を見上げ在らん限りの声音で叫ぶ。
「意味が分からねぇよ‼︎」
その咆哮は……信じられないという気持ちと……色々な気持ちが綯交ぜになっており……その眼は怒りに染まっていた。
隣に座る相澤も捕縛布を千切れそうな程に握り締めており……生徒には絶対に見せない様な憤怒に染まった表情で告げる。
「……USJで戦った……そんな素振りは微塵も見せなかった……八意先輩、俺はアンタと鈴仙の勘違いに賭ける」
怒りに打ち震え、俯いたまま……静かな声音の中に激情が混ざった声音でそう語る相澤。
八意永琳は手元の電子カルテを見ながら語る。
「白雲朧の物とされていた遺骨を鑑定した結果……過去、白雲君が受けていた歯の治療痕が遺骨の物と合わないのと、カルテによる咬合結果と遺骨の咬合結果が合わない……そして、白雲朧の直接的な死因となった瓦礫による圧死……その時に彼は下顎の骨と眼窩底骨を骨折したの……骨折は骨折よ、骨には折れた痕が必ず残る……だけどこの遺骨にはその痕は合ったけど瓦礫による崩落で出来た骨折じゃない……人為的に作った骨折の痕しか見受けられなかった……医学的な見地から……何者かが白雲朧の遺体をすり替えたと断言するわ……」
握り拳から流れ出る血を拭う事もせずそう語る八意永琳。
八意永琳は当時、雄英3年生だった故に白雲朧とは1年ほどしか一緒に居られなかったがそれでも香山経由で相澤、山田、白雲とはそれなりに話す機会があった。
八意永琳は今でも思い出す……白雲の屈託のない笑顔を。
そんな想い出を思い出して……溢れ出る涙を拭いながら八意永琳は涙交じりに語る。
「遺体の摺り替えには……確実に、医者か医業に関わる人間が関与してるわ……私も白雲君の検死に携わったけどその時は間違いなく白雲くんだったわ……火葬の直前に酷似した遺体と白雲君の遺体をすり替えたと考えるのが1番可能性が高いわね……病院が提携している火葬場や経営している火葬場だったら病院の関係者が居ても怪しまれないから……人脈や伝手を使って調べてみるわ」
八意永琳の言葉が風に乗って消えていき……5分間は4人共に誰も口を開こうとはせず……4人共に双眸から大量の涙を流して咽び泣いていた。
4人共に……後輩の、級友の……尊厳を、ぐちゃぐちゃに踏み躙られた事に対して憂い悲しみ……嗚咽混じりに、大声で泣き叫ぶ。
15分程して落ち着いたのか……4人は溢れ出る涙を拭いながら思い出を語る。
そうして、山田が苛立った表情と憤怒に染まった声音で語る。
「3人で事務所を建てよう……そう言ってくれた矢先の出来事だった……臓腑が煮え繰り返ってるよ……俺はよ……八意先生、何か判明したら必ず電話くれよ、飛んでってカラオケパーティーしてやる‼︎」
山田がそう言って踵を返し……相澤もお辞儀をして短く告げる。
「八意先輩……お願いします」
そう告げて車に戻って行く相澤先生。
香山睡も強く拳を握り締めておりその掌には爪が深く食い込んでいるが流れ落ちる血を拭う事もせずに、しっかりと眼を見て……涙を流しながら八意永琳に告げる。
「先輩……絶対に捕まえましょう、白雲の遺体をすり替えて……こんな事、絶対に許さない‼︎」
それを聞いた八意永琳は深く頷いて言葉を返す。
「えぇ……絶対にね……」