クリスマスの翌日。
鈴仙主導のトレーニング、鈴仙1人VS、AB組合同40人マッチが行われている。
死屍累々となっている運動場γ。
……36人は既に気絶に追い込まれておりピクリとも動くことが無い。
運動場γにて残る4人による爆撃音や打撃音が響く。
鈴仙は涼しい顔で波長操作を行って爆豪のクラスターによる主力攻撃である爆音や衝撃波、音によるストレス反応を無視しクラスターの爆煙の中から的確に爆豪に向けて制圧射撃を行い回避に専念させる。
「くっ……クソがぁ‼︎ 鈴仙‼︎ 俺は必ずテメェをぶん殴る‼︎」
虹色の弾幕が無数にばら撒かれる最中そう叫ぶ爆豪。
彼の戦闘センスは大した物だ……天性のセンスと勘と優れた個性、そして鈴仙に負けたく無いという絶対の意思が成り立たせている。
爆煙を払って咳き込みながら鈴仙は呟く。
「……時間は有限なんです、そしてどんなにダサくても、どんなに嫌いでも付き合わなくちゃならない人が誰しも必ず1人だけ居ます……自分自身ですよ、いつまで経っても完璧にならない自分自身……」
本当は完璧に避けるはずのクラスターをごく僅かながら避けきれなかったのかコスチュームの裾が少し焼け焦げている。
それを見た鈴仙は舌打ちして意識を切り替える。
自身の背後を取った緑谷はワン・フォー・オール85%を用いて鈴仙の背後を取り殴打を仕掛けてきたが実にわかり易い殴打の動きであった為に脚を引っ掛けて転ばせ四つん這いにさせると即座に鳩尾に鉄芯入りのコンバットブーツの爪先で蹴りを見舞う。
「ウ……ッエ」
鳩尾を強く蹴られた事により肺の中の酸素が全て吐き出され、また反射的に胃の内容物を戻してしまい10秒程動けなくなる緑谷。
そんな緑谷に躊躇う事なくルナティックガンを銃口を向けて引き金を引き弾幕を撃ち込むと気絶させると鈴仙は緑谷の首根っこを掴み自身に接近していた轟の方へと振りかぶって緑谷を思い切り投げる。
避ける事が出来ず受け止めるしか出来ない轟、完全に意識を失っている緑谷の心配をする轟であるが眼前に居た相手から一瞬でも眼を離した事をすぐさま後悔した。
「緑谷‼︎ 大丈夫か⁉︎ ッ⁉︎ 見失った……クソッ‼︎ 俺は……必ず鈴仙‼︎ お前に勝つ‼︎」
周囲に緑谷と自身以外の味方が誰も居ない事を視認した刹那……轟は新技を使用する為に集中する。
胸部を中心に右側に青白い冷気、左側に橙色の炎のオーラがクロスの形で出現し、右側の髪は逆立って凍り付き、左側の髪は熱気によって巻き上げられる。胸の炎の中心部分は人の手で触れることができる温度が保たれている。
轟の新技・赫灼熱拳・燐。
現状では最短でも1秒の溜めが必要となるが鈴仙相手には1秒の隙すら作ってはならないというのが40人全員の共通認識であった。
しかし、このままでは確実に押されて戦線は総崩れとなる。
故に轟は決断を降す。
自身の新技である赫灼熱拳・燐から派生した『冷炎白刃』……それを自身の周囲にいるであろう鈴仙へと……届く範囲全てに全力で叩きつける。
凍み氷る衝撃が轟の周囲を覆い尽くし鈴仙の動きが封じられる。
しかし、波長操作で熱赤外線を全力で励起させてコンマ数秒という凄まじい速度で溶かすと轟の首を掴んで体術の基礎の動きを使いそのまま地面に叩き伏せコンバットブーツ越しに頭部を踏みつける。
「これで一回死亡だ」
しかし、轟は未だ諦めずに居たのか限界まで放出した冷気を以て自分の周囲一帯ごと敵を氷漬けにする大技『大氷海嘯』を放ち鈴仙の動きを封じようと策を講じるが一手遅い。
対する鈴仙は即座に自分の周囲に高速で熱赤外線を放出、展開し自身の動きを封じている氷を溶かすが僅かながら時間がかかる。
轟の大技である大氷海嘯と、鈴仙の熱赤外線の展開が完了したのはほぼ同時であった。
赫灼熱拳の極意である「力の圧縮」を心臓を中心に左右同時に発露させ、熱と冷気を高い出力で維持・中和させることで、本来体が耐えられる限界を超えた火力・冷力が使用可能となる轟の新技……その脅威をしっかりと感じ取った刹那……上空へと退避していた爆豪からの全力のクラスターが叩き込まれるが鈴仙は焦る事なく焦凍を蹴り上げてクラスターの盾にする。
クラスターの盾にされて完全に気絶した轟……地面に激突する寸前で一佳が救出する。
しかしながら鈴仙のヒーローコスチュームはクラスターにより大分破損しておりスーツはもはや襤褸布となっていた。
それを見た爆豪は空中を爆破で跳躍しながらいつもの様な凶暴な笑みを浮かべ鈴仙に対して叫ぶ。
「ハッ‼︎ 俺の手が見えなかったか? 鈴仙‼︎」
そう煽る爆豪だが返しに放たれた溜息混じりの鈴仙の言葉によりその表情は更に凶暴な物となる。
「それだよ……まさにその話をしている、自分はいつも自分にだけ劇的に甘い…… まるでグラブジャムンの様に劇的に甘いんだ……だから、目標を掲げてもすぐに何かしらの尤もらしい下らない理由を付けて目標を下げる、私をぶん殴るんじゃなかったのか? 私に殴られずに済んだ事を何を誇らしげに話してる? そんな有り様じゃ私をブン殴るなんて不可能だ」
そう語りつつルナティックガンで照準を定めて空に浮かんでいる爆豪を狙い撃ちしようとした瞬間……一佳が距離を詰めつつ近接格闘を仕掛けてくる。
鈴仙に対し近接格闘で肩を並べる者は一佳のみ。
一佳と相対した時のみ……鈴仙は波長操作を全力で一佳に対して注ぎ込まざるを得ない。
それ程までの脅威故に。
他のメンバーも援護に回ろうとするも最序盤で真っ先に心操や物間が潰されておりその他のメンバーも2人の近接格闘術程の練度は無い為に下手な援護は逆効果にしかならない。
大拳という凡庸な個性を近接格闘という土台でここまで練り上げた一佳。
それはもはや……脅威である。
並の相手なら……いや、ともすれば血狂いマスキュラーや乱波肩動すら今の一佳ならば近接格闘に持ち込んだ、その一瞬で終わらせられるだろう……それ程に鍛え上げた。
鈴仙は一佳の個性と近接格闘術を捌きながら思案する。
……誰もが自分の世界に国境を造る。
そしてその国境に入る為にはパスポートが必要となる。
パスポートとはなんなのか? 鈴仙は……魅力こそが他人の世界に入るパスポートになる……と考えている。
だから人は自分を魅了するモノを極度に恐れる。
自分が愛したモノだけが真に自分を傷つけられると知っているから。
「私は……全然傷ついてないぞ‼︎ 一佳‼︎」