「ぐっ⁉︎ くっ……」
一佳が最も得意とする八極拳。
それは八方の極遠にまで達する威力で敵の防御を打ち破るというものである。
一瞬で激烈な技を打ち出すことを特徴とし、中国拳法の中でも屈指の破壊力を誇る。
一佳の八極拳や中国武術の練度のみに関しては鈴仙よりも4歩も5歩も先を行っている。
波長操作を使い一佳の渾身の一撃を位相操作で回避しようとするも自身の個性で妨害される。
一佳の背後を見ると意識を取り戻した物間寧人が……物間寧人はいつもの様に笑みを浮かべて語る。
「なぁ鈴仙さん‼︎ 今度こそ僕達は君に勝つ‼︎」
「ッ⁉︎ 物間……ッ」
物間寧人の言葉に反応した瞬間……鈴仙を包み込む洗脳の感覚。
(この感覚は心操さんの……ぐっ……間に合うか? 構築・展開‼︎)
心操人使の『洗脳』は鈴仙を相手に常に鍛え上げてきた。
心操の意思で自由に解除ができるほか、操られた本人にある程度の衝撃を与えると解除される。また、洗脳維持は複数人でも可能だが1度の問いかけで洗脳できるのは1人。
それが今では個性を鍛え上げた結果、心操の意思のみでしか解除できない様に鍛え上げられた。
もはや、掛けられた洗脳に抗う手段は無いに等しい。
普通ならば。
鈴仙は即座に波長操作を行い心操人使の脳波を操作……自身の洗脳を解除する様に指令を送る。
即座に意識を取り戻した鈴仙……しかし、2秒程の隙が出来る。
意識を取り戻した鈴仙の眼前に迫るは八極拳の構えを取り大拳を利用した
位相操作で回避しようとした刹那、的確に物間からの妨害が為されて超至近距離から放たれる回避不能のソレを喰らい120m程吹き飛ばされる。
吹き飛ばされた先で鈴仙を出迎えるのは充分に汗を溜め込んだ爆豪。
「よぉ鈴仙……チェックだ……
刹那……凄まじい爆音と爆煙、轟音が響き渡る。
爆炎に包み込まれる鈴仙だがコスチュームにはそう言った対策も施してある。
スーツにもワイシャツにもズボンにもベルトにも……スタントで使用する耐火ジェルと耐火繊維を極限まで改良したモノを編み込み、ソレと同時にケブラー繊維とアラミド繊維の複合素材や衝撃吸収ゲルなどの衝撃吸収素材、セラミック基複合材と炭化ケイ素を表地と裏地に何重にも織り込んだモノ。
故にクラスターの爆炎に晒されても無事である。
爆煙を振り払い爆豪をルナティックガンで撃ち落とそうとした刹那……凡戸固次郎のボンドによる粘着と瀬呂のテープによる捕縛が為されて動きが止まる。
即座に抜け出そうとするが心操人使が投擲してきた捕縛布に絡め取られ更に身動きが取れなくなり……轟により氷漬けにされて……パチパチと爆破音をたてながら鈴仙の眼前に爆豪がその手を翳して酷く疲れた声音でゆっくりとゆっくりと告げる。
「チェックメイトだ、鈴仙……勝ったぞ……鈴仙……俺たちはテメェに勝ったぞ」
鈴仙の眼前に翳した手を降ろしてゆっくりとそう語る爆豪の疲労度は目に見えて限界であり地面に腰を下ろして安楽な姿勢を取っていた。
対する鈴仙は氷漬けにされ、テープとボンドで束縛された状態で……何処か嬉しそうに呟く。
「えぇ、私の負けですね……とても……強くなりましたね、強いですね……皆さん」
そうして……鈴仙主催の1時間の訓練は終了した。
その後、寮に戻る前に笑みを浮かべている一佳から告げられる。
「なぁ、鈴仙……後で話があるんだ、私の部屋に来てくれない?」
「……? うん、分かった、シャワー浴びてから行くね?」
寮に戻ると自室のシャワーを浴び汗を流して、ありとあらゆる形状の月がデザインされた桃色の浴衣を着込む鈴仙。
B組の寮へと行く前に教師寮に寄って壊理ちゃんを抱きしめてゆっくりと壊理ちゃん成分を補給しながら外出許可を書いてからB組の寮へと向かう。
B組の寮の扉をノックするとパジャマ姿の一佳が出迎えてきた。
「お待たせ、一佳……それで話って?」
「ま、それはわたしの部屋で話そう……さ、入って入って」
一佳に促されるままに寮の中に入る鈴仙。
共有スペースには物間や黒色、泡瀬が談笑していた。
鈴仙に気づいた者達は鈴仙のウサギ尻尾、ウサミミに視線を集中させながら手を振ってきた。
それに対して鈴仙は和かな笑顔を浮かべて手を振り返す。
一佳の部屋は3階にありエレベーター横の部屋であった。
部屋に手招きされる鈴仙。
一佳の部屋はシンプルなデザインで装飾されておりコーヒー豆が仕舞ってあるキャニスターとそれを収納している棚。
純白の長方形のテーブルとそれに合うコンセプトの椅子が2つ。
そして……台所に設置している一際目を引く物が家庭用エスプレッソマシンの最高峰モデル……。
確か100万円はするであろう最上位モデルのやつだったか……。
豆に貼ってある種類判別用の付箋に書かれた文字をチラリと見ると何か外国でしかみない様な名前の豆が30何種類か見えた。
鈴仙はコーヒーに関しては浅学故によく分からない物だがブルーマウンテンって種類だけは知っている……よくお師匠様が眠気覚ましで愛飲してた。
一佳のコーヒー好きは知っていたがまさかここまでとは。
コーヒーに関する機材のほぼ全ての最上位モデルが置かれており……珈琲屋でも開けそうな状態となっている一佳の部屋。
豆を挽く機械らしき物もあるので……自分で挽いているのだろうか? 気になる所ではある。
「鈴仙何飲む? 緑茶、紅茶、レモンティー、アップルティー……色々あるよ?」
コーヒーの機械やコーヒーの設備に圧倒されている間に一佳が飲み物の準備をしていたらしく問いかけてきた。
「え……えーと、じゃあ一佳おすすめのコーヒーを頂きたいな」
鈴仙は一佳との約束を思い出してそう語る。
いつか、コーヒーを一緒に飲もうと約束したのだった。
あの時の約束は既に果たされているものの、互いに好きな飲み物を時折薦めあっておりこの前は鈴仙の部屋に一佳を招いてイチオシの抹茶を振る舞った。
「ふふーん、りょーかい鈴仙……私特製のブレンドコーヒーを振る舞うよ」
慣れた手つきでエスプレッソマシンを稼働させて振る舞う一佳。
マグカップで提供され受け取る鈴仙。
ミルクと砂糖はお好みでと告げられて先ずはブラックを味わう。
一口啜ると身体にじんわりと染み渡るコーヒーの味と香り、コーヒー特有の苦味もあるがそれはそれで癒される。
コーヒーを飲みながら鈴仙は一佳に問いかける。
「そういえば話って?」
「んー、そういえば最近あんまり話せてなかったなぁ……て思ってさ……雑談や互いの悩みとか……色々さ、今夜はゆっくり語り合わないか? 鈴仙」
対面に座る一佳からそう告げられて鈴仙は表情を綻ばせながら頷く。
そうして……色々な事を互いに話していた。
B組の授業だとか、コーヒーの事とか、抹茶、これからの事や……簡単な事など。
色々と話して花を咲かせていた。
時計を見るともう既に22時を回っていた。
楽しい時間はあっという間というのは本当らしい。
一緒に寝ようよと言われたが外泊許可を取ってないので泣く泣く諦める2人……就寝時間まで話し込むとは思ってなかった。
一佳に見送られてA組の寮へと戻る鈴仙。
手を振りながら別れA組の寮へと戻り自室へと戻ると伸びをしながら思案する。
(……もう大丈夫ですね……私が居なくても)