12月31日。
大晦日の早朝、帰省した鈴仙……。
鈴仙は永遠亭に戻ったと同時に手術室に誘導され主治医たる八意永琳から告げられる。
「では……これより左眼球の移植及び再生手術を行うわ……」
聞けば……鈴仙が片眼を喪失したあの日以降、お師匠様は世界中の医師と共に研究を続けており再生医療の研究と細胞技術の研究にリソースを全振りしていたらしく大晦日の前日にようやく目処が立ったのだとか。
使い捨ての下着を着けた後で手術着を着込む。
そうして……左眼球の再生手術が開始された。
真っ二つになった鈴仙の左眼球は八意永琳が保管及び再生させていた。
麻酔を掛けられて遠のく意識。
術後……ぼんやりとした意識のまま目醒める鈴仙。
永遠亭の診察所に置いてあるベッドに寝ておりゆっくりと身体を起こす。
包帯を巻かれた左眼を鏡で確認しながら摘出された義眼を見る鈴仙。
義眼には実に様々な機能が搭載されている。
波長操作による記録の更新、ビデオ映像の様に記録の保持。
戦闘面においても鈴仙の個性がある事を前提とした造りになっている。
しかし、生来の眼球には及ぶべくも無い。
摘出された義眼を見て鈴仙はこれからの事を思案する。
(……これからの事を考えると通信機能すら搭載されているこの義眼は信頼できる人に預ける事が大前提…… 預けるのはお師匠様か、相澤先生か……その2人のどちらかが一番いいか? タルタロス送りになるのがもはや確定しているこの身……学籍に関してはもう、どうしようもないとして……学籍の抹消と、ヒーロー仮免許の剥奪は確定か……)
ラブラバ、もとい相葉愛美が調べ上げたタルタロスの刑務官の家族の拉致……。
そして、ヒーロー公安委員会で働く家族の何人かが拉致されている。
(オール・フォー・ワンか
波長操作を用いて確認した所……鈴仙・優曇華院・イナバのタルタロス送りに関する議案が公安委員会で稟議が為されており……年明けに内乱罪及び外患誘致罪での収監が確定。
鈴仙自身は自分のキャリアに関しては微塵も興味がないが……周囲に迷惑がかかるとなると話が違う。
A組とB組、そして雄英高校、お師匠様には多大な迷惑をかけてしまうなぁ、と……そう思案しながら思う。
どんなに厳格で、どんなに清廉潔白な組織だろうと、人が介在する以上は外的要因によって腐るのはしょうがないのだと。
捏造された証拠、家族を誘拐拉致監禁されて偽証した証人、そもそも大前提が冤罪による収監となる、何もかもが捏造された冤罪での収監故に引っくり返す事は容易だろう。
しかし、収監先はあのタルタロスだ。
正式名称は対"個性"最高警備特殊拘置所。他に
便宜上は拘置所であるが、国民の安全を著しく脅かす、或いは脅かした犯罪者を厳重に禁固し監視下を置くため実質的に刑務所である。
本土から2000km離れた沖に建てられ、高い壁と海に囲まれ厳重な警戒体制を敷いており、入り口まで来れる道は橋一本、収監者への面会にも面倒な手続きが必要。
囚人の居房は6つに区分され、個性の危険性、事件の重大性によって振り分けられ、危険性の高い者ほど地下深くに収監、脳波やバイタルサイン等から収監者による個性発動が感知され次第、部屋に取り付けてある機関銃にて処分する。
囚人服の色は基本的にアメリカの刑務所と同じオレンジ色。
通常の犯罪者は留置所から拘置所に移送され、裁判を受けて刑が確定した後に刑務所に収監される。
ただタルタロスの場合は事情が異なり、重罪を犯した者、事件の詳細が明るみとなれば社会を揺るがす影響を与えかねないと判断された者が法的手続きや人権を無視して永久に隔離され、一度入れば二度と日の目を見ないまま生涯を終える。
これがタルタロスのざっくりとした概要。
ソレらを思い起こして鈴仙は部屋に入ってきたお師匠様である八意永琳へと語る。
「お師匠様……多分、私はタルタロスに行く事になりそうです……後の事はこの義眼に入れてあります……」
そう語ると前持って相葉愛美と共に調べ上げていたのか八意永琳は表情を崩さずに椅子に座りながらノートPCを操作して義眼に搭載されたチップを読み取り得た情報を見て語る。
「そう……冤罪で私の娘をタルタロスに……可能な限り速く出れる様に手を尽くすわ……学籍に関しても心配しないで、この件はニュースにすらさせないから……」
八意永琳……普段から現場仕事に出張っているものの八意永琳が有する権力のパイプは凄まじい。
医師ではあるが八意永琳にしか治せない病、八意永琳にしか治せない怪我が有る以上……権力者は必ず彼女を求める。
そして……権力者のパイプの構築を成した八意永琳は電話一本である程度の我儘を通すことも可能。
「この件に関しては1日〜2日で出れる様に全力を尽くすわ、……さて、今日は大晦日でしょう? 祝いましょう? 話して欲しいわ、雄英での色々を」
そうして……久しぶりに家族での食卓を囲む。
色々な料理が並んでおり最後の締めに年越し蕎麦を食して年越しを祝う鈴仙と八意永琳。
鈴仙は色々な出来事をお師匠様に話して懐かしさに浸る。
そうして就寝時刻となった。
寝巻きに着替えて布団に入る鈴仙だが日付が変わって1月1日になった瞬間に『明けましておめでとう』と大量の通知が来た為にそれに返信しつつ一佳からのメッセージにも返信を行って軽く通話を楽しんだ鈴仙であった。
同時刻・八意永琳は診療所の椅子に腰掛けながら呟く。
「さて……と……久しぶりに電話をするかな」
愛娘がタルタロス送りになるのは確定だがそこから救い出すのは至って簡単だ。
権力には権力で叩き潰せば良い。
少なくとも八意永琳はそういった判断に関してはかなりドライであり躊躇う事はない。
スマホを片手にとある場所へと通話をかける八意永琳。
「夜分遅くにすまない……八意永琳だ、……あぁ、そうだ、その件についてだ……察しが良くて助かるよ本当に……ではよろしく頼む」
通話を切ると八意永琳は椅子にもたれ掛かり呟く。
「……月の賢者を侮ったな、オール・フォー・ワン……逆鱗に触れて無事ですむと思うなよ?」