囚われの白兎
年が明けて……鈴仙は雄英……ではなくタルタロスへと収容されていた。
最下層に収容された鈴仙、冤罪とはいえ外患誘致罪と内乱罪が適用されていれば流石に最下層になるらしい。
収容前に全裸にされ……隠し物が無いかのチェックを全身隈なく行われたがアレはちょっと面倒だった。
オレンジ色の囚人服に刺繍された『C-47・984732』と言う番号が今の鈴仙に与えられた名前だ。
収容から既に2日が経過しているが未だ出れる気配は無い。
一応……定刻になれば食事が出てくる。
美味しいわけでは無いがかと言って不味いわけでも無い。
こんな物かと思いながらカロリー計算された食事を頬張る。
しかしながら……鈴仙の部屋のみ独房、と言うには少々広い、30畳程であろうか。
尤も……部屋中に仕掛けられている監視カメラ、全部で39581個のカメラ。
普通のカメラは天井の四隅に仕掛けられているが……々それ以外の39577個は壁に埋め込まれいる、死角が無い様に徹底して念入りに。
食事中も風呂もトイレも睡眠中も、ずっと見張られている。
拘束は一切無し、シャワーと浴槽があり……トリートメントやシャンプー、リンス、ボディソープは鈴仙が好んで使っている物が品切れにならない様に常に3本以上設置されている。
そして、鈴仙が好んで使用しているヘアドライヤーや寝巻きが置かれている。
そしてチラリと部屋の天井の隅を見ると……隅から隅にはM61バルカンがびっしりと設置されている。
波長操作で確認した所、他の部屋は普通のアサルトライフル系統の銃器らしいのでタルタロスは鈴仙をそれだけ警戒しているという裏返しでもある。
しかし、バルカンは心底どうでも良い。
部屋に設置された機器が鈴仙のバイタルサインや脳波を読み取り個性を発動させたら300門はあるであろうバルカンから鉛玉を撃ち込まれる訳だが……現にこうして個性を行使している鈴仙。
バイタルサインや脳波を読み取って個性の行使を判別するならばそれは鈴仙が最も得意としてきた事だ。
虚偽のバイタルサインや脳波を認識させれば良い。
刑務官達の話し声や心境……それ以外にもタルタロスにいる人間の全てが手に取るように分かる。
……刑務官の何人かは鈴仙がここに護送されてきた事、そしてその罪自体に疑念を抱いている様だった。
尤も……そう感じている刑務官は全体の10%にも満たないのだが。
波長操作を少し外に……雄英に向けると、今は会議中らしい楕円形のテーブルを囲んで会議をしている。
議題は……私の処遇についてか。
『何で鈴仙がタルタロスに‼︎ 内乱罪と外患誘致罪? あいつはそんな事をする様な奴じゃない‼︎ 除籍⁉︎ そんなの俺は認めない‼︎』
普段滅多な事では感情を前に出さない相澤先生が珍しく感情的になりテーブルを拳で殴りつけ……そう怒鳴っていた。
『相澤君、落ち着いて……僕もこの除籍には反対だ……しかしながら今回は上からの圧力が掛けられている……遥か上の方からね……しかしながらそんな圧力は弾き飛ばしたさ……僕にも一定の権力がある、ある程度の我儘は通せるのさ』
そう告げるは校長先生、いつもは相澤先生の捕縛布の中からピョコンと現れることが多い校長先生だが今回ばかりはキチンと着席しており書面を見ながら青筋を立てていた。
根津校長。
生徒の将来を第一に優先する人格者であり、"個性"道徳教育の分野において世界的な貢献をしてきた偉人でもある。
それ故に八意永琳とはまた違うベクトルで権力を有する。
『僕は……鈴仙さんを除籍なんてしないのさ、冤罪だよ、これは……ここに宣言しておく、この罪を冤罪と断定して雄英高校は鈴仙・優曇華院・イナバの除籍を行わないと……それと並行して僕は鈴仙さんの釈放を目処に動いていくのさ』
その言葉を聞いた教職員は一様に安堵の表情を見せる。
そして、細々とした
『相澤君、生徒達にはどう説明するのさ?』
そう問われた相澤先生は少し考え込み……血が出る程拳を握り締めながら呟く。
『翌日、年明けの最初の授業があります……その時に鈴仙が居ないのなら……この先嘘をついてもいずれバレるでしょう、此処は真実を話します』
俯きながら肩を小刻みに震わせてそう告げる相澤先生。
それを聞いて少し気が楽になった……。
風呂に入る為に囚人服を脱いで全裸になる鈴仙。
鼻歌混じりに湯船を堪能する鈴仙。
娯楽があまりにもない環境故に楽しみといったら風呂か外の世界の情勢を波長操作で感じとるだけ。
風呂を上がったその直後……全解放している波長操作に無理矢理割り込んできた電波通信が一件。
『やぁ……囚われの白兎、君に良い話があるんだが……乗ってくれるかな? ヒーロー公安委員会……公安直属ヒーロー、ホークスの記憶を読んで公安委員会やホークスが行った所業の全てを知ったんだろう? 君は公安委員会から見れば爆弾だ……死ぬまで飼い殺しが一番望ましいんだよ、ヒーロー公安委員会にとってはね、つまり、君は此処から出られない……あの月の賢者やネズミが何をどうしようとも……どんな策を弄しようともね』
同じくタルタロスに収監されているオール・フォー・ワンからの電波通信であった。
それを完全に無視してバスタオルで濡れた髪をガシガシと拭きヘアドライヤーで乾かして鼻歌を歌っていると再度オール・フォー・ワンからの電波通信が入る。
『おいおい……ダンマリを通り越して無視とは流石の僕も心が痛むなぁ……囚われの白兎……君はヒーロー社会に失望した筈だよ? 突然身に覚えの無い罪で収監され……その収監先はタルタロス、2度と日の目を見ることが無い地獄の底の底……絶望したはずだ、ヒーローに……世界に、僕なら君の復讐の手助けが出来る、さぁ……一緒に復讐をしようじゃないか、君の事を陥れたヒーロー公安委員会、そして君の事を犯罪者と罵っている此処の刑務官達に』
オール・フォー・ワンから放たれるのは聞く者を魅了する様……甘い甘い言葉の数々。
……とても心に沁み渡る甘い言葉だ、心が弱りきった人間ならばこの甘言に頷いてしまうかもしれない。
人心掌握は流石の一言だと言わざるを得ない。
ともすれば……その甘い甘い言葉に誘われてしまいそうな気持ちが無いわけでは無い。
『……ま、気持ちが変わったらいつでも気軽に声をかけてくれたまえ……電波通信でね』
そう告げられて……一方的に電波通信を切断したオール・フォー・ワンであった。