【完結】ウサミミ少女のヒーローアカデミア   作:紅葉紫苑

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崩壊の足音

 エンデヴァーの度重なる焔に焼かれた、クラストの盾で圧し潰された、ミルコの蹴りを何十と喰らい、緑谷のワン・フォー・オール95%のスマッシュを連続で喰らい、爆豪のクラスターに焼かれ、焦凍の焔と凍氷に焼かれて凍らされ……矢を番えた八意永琳による複数本の矢による超速度の連射で身体を射抜かれて……そして鈴仙のレーザーやルナティックガンによる攻撃を喰らってもなお……死柄木弔は倒れない。

 

 何よりも最上位(ハイエンド)脳無により戦線が崩壊しつつある。

 バーニンやプロヒーロー達が対応するが最上位(ハイエンド)脳無は段々と戦う事が上手くなっており押され始めている。

 それを見た鈴仙は死柄木弔よりも最上位(ハイエンド)脳無に意識を割かざるを得なくなる。

 鈴仙はチラリと眼を向けるとバーニンを殺そうとしていた最上位(ハイエンド)脳無に向けて電子を波と粒子のどちらでもない曖昧な形に「固定」する事により「壁」を生じさせ、最上位(ハイエンド)脳無全部に搭載されている『超再生』を上回る威力のビームを放ち四肢を消滅させる。

 しかし頭部が無事ならば最上位(ハイエンド)脳無の動きが止まる事はない。

 1秒と掛からずに再生された四肢を振るい人外の膂力による殴打を繰り出すがそれは電子を曖昧な形に固定したバリアで防御する。

 

 しかし……身体への粒子変換や電子を曖昧な形に固定するには多大なる負担が掛かっている。

 本来、鈴仙は波長操作が出来るだけであり身体を粒子に変換する移動方法や電子を波と粒子の曖昧な状態に固定するなど波長操作の範疇を大幅に超えている。

 故に脳に過度な負荷を掛けておりバリアやビームを一撃一撃放つ毎に決して少なく無い出血量の血を眼や鼻、口から血を噴き出しており立っているのもままならない程ズキズキと脳を直接鷲掴みにされている様な絶え間ない頭痛が鈴仙を襲っている。

 霞む視界で鈴仙は耐衝撃ケースに入れていた4本の内の1本の注射器と薬液を収めたアンプルを1本取り出して、注射器にアンプル内の薬液を注入すると一切の躊躇いなく自身の頸動脈へと注射針を突き刺し中の薬液を全て血管内に投与する。

 

 自損……自壊前提の攻撃や防御法であるそれは超再生などが無い鈴仙には自爆技に等しい為にあと2〜3分もすれば鈴仙は立つ事すら覚束なくなるだろう。

 

 薬液を投与する直前までならば。

 

 鈴仙は……薬理作用により元々は双眸共に赤かった虹彩が片方はサファイアの様に美しく海や空を思わせる程に蒼い色が濃く出た碧眼……蒼く燦然と輝く左眼に変化し、元々ルビーの様に美しく燦然に、赫灼に煌めく右眼は更に深い赫い色へと変化した事を感じつつ呟く。

 

「毒薬・国士無双の薬」

 

 お師匠様が作った薬の名前だ。

 八意永琳謹製の特殊な薬液である。

 個性及び再生能力増幅薬であり1本ですら個性の増幅と超再生を上回る再生能力の発現が為される。

 また重複可能で、2本目3本目と追加で注射を行うと更に効果は累積する。

 

 難しく言っているが詰まるところ……ドーピングのソレである、デヴィッド博士の研究であった個性増幅装置と何ら変わらない。

 機械でソレを行うか薬で行うかの違いでしかない。

 

 刹那……ズグンッと自身の肉体に、死が目前に迫る程の凄まじい激痛が走り心臓が一瞬半分に縮んだかに錯覚する程の感覚が鈴仙を包む。

 意識が遠のきそうになったがグッと堪えて耐える。

 そして血管に注入した『劇薬・国士無双の薬』の薬理作用により自身の個性である波長操作の効果が増幅されるのを感じ……更に超再生を遥かに上回る再生能力が鈴仙に発現した。

 

 それを感覚で理解した鈴仙は最上位(ハイエンド)脳無達へ攻撃を再開した。

 


 

 

 死柄木弔は八意永琳謹製の麻痺毒と腐蝕を誘発する薬を塗布された矢で射抜かれても……その動きは少しも弱まる事は無い。

 

「月の賢者……八意永琳、君は昔からずうぅぅっと僕の邪魔ばかり……いい加減目障りだな」

 

「あら……過大評価でなくて? オール・フォー・ワン……貴方は人の人生を踏み躙って、貴方は私の親友を殺した……キッチリと報いは受けてもらうわよ? 絶対に許さない」

 

 その声音は死柄木弔のものであって……死柄木弔に非ず、オール・フォー・ワンと混ざり合った様な声音であった。

 抹消よりも何よりも……真っ先に潰さなければならないのは八意永琳であると即判断を下したオール・フォー・ワン。

 オール・フォー・ワンは死柄木弔の肉体を強奪しており今の主導権はオール・フォー・ワンにある。

 

 しかし、その身体に宿る個性は変わらず崩壊、それにオール・フォー・ワン。

 

 つまり……触れられた瞬間に個性を奪われた挙句にチリ1つ残さずに殺される。

 八意永琳はその事実を認識しオールマイトとほぼ同じ速度で動き距離を詰めてくる死柄木弔を相手に自身の経験と弓による射撃、そしてサポートアイテムで太刀打ちする。

 

「……オモイカネディバイス起動、オモイカネブレイン起動」

 

 そう呟くと生体認証を搭載したサポートアイテムである波長操作自動制御機能付きタブレット端末・オモイカネディバイスと透過型ヘッドマウントディスプレイ波長操作装置・オモイカネブレインを起動させる八意永琳。

 

 愛娘の個性を機械的に完全再現したサポートアイテムであり八意永琳の生体認証を通して起動するソレは矢筒に矢がなくとも光を束ねて矢の代わりにする事で無限の弾幕を貼る事が可能となる。

 

 弓の弦を引っ張り撃ち抜く所作を行う八意永琳。

 光を束ねてレーザーと化したソレは寸分の狂いも無く死柄木弔の右肺や四肢を撃ち抜くが超再生の方が速い。

 しかし四肢を消失する威力のレーザーを幾度となく撃ち抜かれておりヒットアンドアウェイを意識しながら常に距離を取る八意永琳、そしてその好機を逃す事なく攻撃を行うミルコやクラストら。

 

「超再生……厄介な」

 

 短くそう呟いてディバイスを操作して次の戦闘コマンドを実行して行く八意永琳。

 天から降り注ぐ直径50mの超極太レーザーの集中砲火。

 

「天撃・魂穿ちの欠片」

 

 エンデヴァー以上の火力で全身を灼かれていく死柄木弔。

 圧し潰す事と焼き尽くす事を両立させた凄まじい光の質量と熱を有したレーザーで死柄木弔の肉体は熱に溶かされており身体の融解と超再生がせめぎ合う。

 

「ガァァァァァァ‼︎」

 

 人体が焼かれる際に発せられる独特の臭いが鼻につく。

 しかし……超再生で再生する方がほんの僅か速い、レーザーも威力を上げてはいるもののあまりに強くしすぎると周囲にも被害が出てしまう……そして……天秤は超再生へと傾き始め最悪の結果を生み出す。

 

「の……うむ」

 

 焼けて掠れた声で短く呟かれた声なき声は……鈴仙によって完璧に壊され修復不可能となった最上位(ハイエンド)脳無26体を除いた残存兵力70体に届き、脳無達は降り注ぐレーザーにその身を飛び込ませると死柄木弔をレーザーの範囲外へと弾き飛ばす。

 

 その瞬間、超再生により完全に再生を遂げた死柄木弔……しかし戦況が不利と悟ると脳無70体と連合のメンバーを引き連れて退却する。

 

 八意永琳と鈴仙の個性により何とかコンプレスは捕らえたものの……残ったメンバーは完全に取り逃してしまう。

 

 最上位(ハイエンド)脳無70体。

 スピナー。

 荼毘。

 死柄木弔は退却し……その退却の最中に京都から東京方面へと逃走しつつ何度か地面に触れて崩壊で人と街を更地にして行ったために……人命にも都市にも甚大な被害が齎された。

 

 崩壊によりチリと化した被害者の為に全てを計測するのは不可能であり……1時間後ようやく錯綜していた情報が確実な物となり……確実な情報が齎される。

 

 下記は推定される被害であった。

 

 崩壊による推定死亡者数・1204万4984人

 

 脳無70体が移動した事による建物の倒壊や崩落による重軽傷者・798万4862人。

 

 推定被害総額・15兆円。

 

 度重なるテロ、そして荼毘による告発動画。

 

 ヒーロー公安委員会には件の映像に関しての電話が引っ切り無しに鳴り響き……鈴仙の冤罪に関しても電話が鳴り響いている状況であり……都市が幾つか文字通りの更地にされた。

 

 死柄木弔が逃走してから蛇腔、群訝山荘に召集されたヒーロー及びインターン生がソレを知るのは……死柄木弔の逃亡から1時間30分後。

 

 積み重ねて行ったヒーローの信頼が地の底にまで落ちた瞬間であった。

 

 そして、それはヒーロー社会の崩壊の音が聴こえていく瞬間であった。




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