自身の試合が終わり観戦へと回る。
どちらが勝ってもおかしくない第3回戦。
轟VS爆豪。
轟焦凍は先の緑谷出久との戦いで何かを吹っ切れてはいたがまだ迷っているのか炎を使わずに徹底的に氷結を上手く使い爆豪勝己の弱点である立ち上がりの遅さを執拗に攻め続けて汗を可能な限り溜めさせずに、爆破の威力と勢いを可能な限り削ぎ落としていく。
しかし爆豪勝己も天性の戦闘センスにより上手く立ち回るがいかんせん互いに『個性』による相性の良し悪しが過ぎる。
今の季節は夏の筈なのにフィールドだけ凄まじく気温が下がりまるで真冬の如き気温となっている為に元々スロースターターの気質がある爆豪勝己とは極めて相性が悪く一瞬の隙を突かれて爆豪勝己は氷壁と氷壁の間に挟み込まれ意識を刈り取られる、そうして、勝者と敗者が決まり試合が終了する。
決勝戦へと駒を進めたのは轟焦凍であった。
そうして……準決勝である3回戦。
友人達の声援を受けて控え室へと移動する鈴仙。
鈴仙の対戦相手は心操人使であった。
鈴仙は控え室にていつもの様に精神を落ち着かせる為に頬をプニプニと弄りつつ鏡に写った自分を見ながら自身の赤い眼を直視しながら語る。
「……鈴仙、迷いは断ち切れ、迷いは捨てろ、鈴仙……必ず勝つんだ、勝てる、鈴仙は勝てる」
そう洗脳に限りなく近い自己暗示を自身へと叩き込んで、自身を洗脳に掛けて挑む。
そうして時間となり互いにフィールドに降り立つ。
実況のプレゼントマイクが開始宣言を行う。
『さぁ‼︎ 注目の第3回戦‼︎ ここまで勝ち残ってきた唯一の普通科‼︎ 心操人使‼︎ 対するは第一試合、第二試合と魅せる試合を続け注目度も高い鈴仙‼︎ 両者共にどう立ち回るか期待が高まる一戦‼︎ スタート‼︎』
スタートの合図が為される。
しかし鈴仙も心操人使も構えを取りジリジリと距離を詰める。
先手を取ったのは心操人使であった。
低姿勢からの飛び込み、そしてそのまま勢いを利用して鈴仙に裏拳を叩き込もうとした。
だがしかし、心操人使は失念していた。
この2週間、自身が一体誰に稽古をつけてもらっていたのかと言うのを。
旋回裏拳を繰り出した腕を鈴仙に掴まれそのまま鈴仙の方向へと無理矢理に引っ張られて足払いをされて体勢を崩した心操人使。
鈴仙と心操人使の互いの位置が入れ替わった瞬間に鈴仙から背中を思い切り蹴り飛ばされ危うく場外へと追い出されそうになるが何とか踏み止まる。
(やっぱ強い……越えれるのか? こんな高い壁を……いや、ヒーローになるんだろ? 絶対に超える、越えてみせる)
心操人使は稽古をつけてもらって近接格闘術を学んだからこそ理解できた。
現在の自身と鈴仙の圧倒的なまでの実力差、そして……類稀なる鈴仙の近接格闘センスと、それに裏打ちされた鈴仙の近接格闘術の技量、そしてそれに驕る事なく毎日ストイックに鍛え続けているであろう鍛え抜かれた鈴仙の肉体。
そして個性による相性差もある。
心操人使の『個性』は既に騎馬戦で組んだ時点でタネが割れているし、それ以前に声とは言ってしまえば波長である、波長操作を自在に扱える鈴仙が自身の『洗脳』に掛かるとは到底思えない。
故に、2週間で叩き込まれた近接格闘の全てを使い師匠である鈴仙に挑む。
心操人使は再度低姿勢からの飛び込みを行い裏拳を繰り出すが避けられる。
伸び切った腕を掴まれて引っ張られ顎に掌底を打ち込まれて仰け反った隙を突かれて鈴仙に懐に潜り込まれ掌底を鳩尾へと喰らい仰反る心操人使。
だが締め技へと繋げられて頸動脈洞を完全に極められて締め落とされる前に蹴りを繰り出して牽制しつつ距離を取ると極限まで思考を研ぎ澄ます。
2週間で叩き込まれた近接格闘術を元に鈴仙の次の動きを予想、それを踏まえて次の次の動きを見極めて対応。
蹴り、裏拳、エルボー、多種多様な打撃を繰り出すがその悉く全てを最小限の動きで回避されて手痛い反撃を貰う。
鈴仙は構えを解かずに心操人使へと語りかける。
「さっきの鳩尾への一撃からそのまま締め落とせると思ったのですが、そう上手くいきませんね、良く鍛錬していた証拠です誇ってください」
それに対して心操人使も言葉を語る。
「お褒めの言葉どうも……鈴仙は強いな……羨ましいよ」
心操人使は『洗脳』すると意志を込めてそう語る心操人使。
それに対して、鈴仙は構えを取り距離を詰めながら言葉を紡ぐ。
「そう思う気持ちがあるなら大丈夫です、心操人使さん、貴方はもっともっと強くなりますよ」
そう、心操人使の言葉に対して答えた鈴仙。
しかし『洗脳』された様子は無くその理由を察した心操人使は渇いた笑みを浮かべながら語る。
「……おいおいマジかよ? そんな『洗脳』の破り方ありか?」
心操人使は再度渇いた笑みを浮かべ驚愕する。
鈴仙は心操人使に『洗脳』される前に自分自身を『洗脳』していた。
鈴仙はにっこりと笑顔を浮かべながら言葉を語る。
「私にだけ出来る破り方ですよ」
同様の力を持つ個性同士ならば、どれだけ個性そのものを使い鍛えているかが勝負の分かれ目となる。
心操人使は直感的に理解した、現時点では自身の洗脳よりも鈴仙の洗脳の方が強力なものであると。
渇いた笑みを浮かべてそれを理解する心操人使。
鈴仙は笑顔を絶やさずに心操人使の懐へと潜り込んで
そうして勝ち名乗りを受けた鈴仙。
そうして……決勝戦へと駒を進めた鈴仙は轟焦凍と対決する事となった。