死柄木弔と連合、それに
蛇腔に居たヒーロー達、インターン生、群訝に居たヒーロー達、そしてインターン生には死傷者は0であった。
しかし……京都府から東京に至るまでの大多数の都市部が死柄木弔の個性『崩壊』により建物も何もかもが文字通りの更地になり……其処に住んでいたであろう人間は骨の欠片すら残さずにチリとなって消滅した。
その他にも……
更地にされた都市部は元より脳無が通過した該当地区は病院なども倒壊しており……医者や看護師と言った元々決して多いとは言えないであろう医療従事者……薬剤師や看護師、高度な知識を有する専門医、看護師……それに加えて薬剤や医療用物質などが劇的に不足する事態となった。
故に助かる筈の傷病者すら死に瀕していく。
各地の医療従事者が物間寧人が黒霧のワープをコピーして被災地に集めるも、医者や医療従事者はそもそもの絶対数が足りない。
そもそも……被災地に医者が出向くと言う事は逆に言えばその地域に医者が足りなくなると言う事……病院に勤めている医者などが被災地へと赴けばその病院の医師も不足する。
八意永琳も医師としての務めを果たすべく、戦闘の直後……情報が確定した瞬間から、一切休む事なく傷病者の手当を行うがそもそも医療施設が全壊している都合……包帯や滅菌精製水、抗生剤、点滴器具、注射器や薬剤……その他基本的な医療物資すら極限まで足りない状況故に助ける者の選別をせざるを得なかった。
八意永琳は休む事なく他の医師と連携して救命を行う者の務めを果たしていた。
トリアージは以下の条件を求める。
総傷病者数。
医療機関の許容量。
医療施設への搬送能力。
怪我の重症度・予後。
現場での応急処置。
治療に要するまでの時間。
そして……カラータグで判別される。
死亡、または生命徴候がなく、直ちに処置を行っても明らかに救命が不可能なもの。
生命に関わる重篤な状態で一刻も早い処置をすべきもの。
基本的にバイタルサインが安定しているものの、早期に処置をすべきもの。
一般に、今すぐ生命に関わる重篤な状態ではないが処置が必要であり、場合によって赤に変化する可能性があるもの。
歩行可能で、今すぐの処置や搬送の必要ないもの。完全に治療が不要なものも含む。
搬送・救命処置の優先順位はI → II → IIIとなり、0は最後に救護所へ搬出される。
3枚つづりで、3枚目の「収容医療機関用」の裏面には、医療情報や特記事項等が記載でき、カルテとして活用できる
八意永琳は黒霧のワープで特に酷い被害を受けた被災地へと飛んでおり
地獄の様相を呈している……悲痛な叫びや死にたくないと言った呻き声が木霊する中で、医療物資や人員が少ない中、医者である自身が判断を降すしかない。
「……赤、こっちは黒ね」
白衣を纏った八意永琳は歯噛みしながらタグを掛けていく。
そして……握り拳を作った掌に爪が喰い込み血が流れるのも気にせずにポツリと呟く。
「物資が不足しているこの状況……救う者の選別をしないといけないなんてね……医者として不甲斐ないわ」
全体のトリアージを終えると傷病者の手当を行いつつトリアージブラックの者達の家族への対応を行う八意永琳。
トリアージとは言わば「小の虫を殺して大の虫を助ける」発想であり、「全ての患者を救う」という医療の原則から見れば例外中の例外である。
そんな例外中の例外を行いつつ八意永琳は酷く疲弊しつつ治療に当たる。
死柄木弔が逃亡した当日……8時間経過して19時になろうとも八意永琳は休む事なく動き続ける。
愛娘の鈴仙も医療従事者ではあるものの法律に乗っ取ればタルタロスからの脱獄囚故……それ故に余計な波紋を生まないように死柄木弔の逃亡を確認してから姿を消しており錯綜した情報も相まって手掛かりが掴めない。
しかし……今は目の前の地獄を少しでもマシな地獄にしなければならない。
それが今の八意永琳ら医師の務めである。
降り頻る雨の中……トガヒミコは冷たくなった、もう2度と動く事がないトゥワイスの身体を抱き締めて……荼毘やスピナーと共に埋葬していた。
あの時、群訝山荘で助けてくれたトゥワイスはホークスによって主要な臓器を損傷しており治療を望めない状態になり……逃亡先で多臓器不全を起こして死亡。
体力の消耗も激しかった故にオール・フォー・ワンの有している再生系個性を与えてもその命は救う事が不可能であった。
トゥワイスは……最期にトガヒミコへと御礼を言って……その命を終えた。
トガヒミコはヒーローに対する深い憎悪と怨嗟をその身に宿して……呟く。
「私達は……仁くんは人というカテゴリーから外れたのでしょうか……ヒーローは誰かを救うのが仕事と言うのに私達を救うどころか殺した……この差は何でしょう?」
そう呟くもその答えを返す者は居ない。
言い表しようのない哀しみと怨嗟と絶望が……トガヒミコの胸中を満たしていった。
(感じるよ……多少想定を外れてはいるが……概ね想定通りだ)
タルタロスの最下層に収監されているオール・フォー・ワンはニタニタと笑みを浮かべてそう心の中で呟く。
「何故『明日』が来ると思うんだろうなぁ? 休む暇など絶対に与えない……此処からは僕のターンだ、疲れ知らずの脳無達よ、僕の本体を解き放つんだ」
脳無に座りながら死柄木弔の身体を乗っ取っているオール・フォー・ワンはニタニタと歪な笑みを浮かべて嬉しそうにそう語る。
ヒーロー社会に与えた被害としてはこれ以上ない位には上出来であり……被害を受けた国民は
何故ならば、ヒーローと
娯楽には一定の距離が必要だ。
お化け屋敷も戦争映画も他人の不幸も、ヒーローと
どんなに至近距離にいようとも……危険はなく……ヒーローが守ってくれており、
通常、人は危険に対するセンサーや危機意識を有しているものだ。
危険な所や場所には近づかないのが鉄則なのだが、ヒーローと
どんなに凶悪な犯罪が起ころうとも民衆は信じて疑わない、自分たちは決して傷付けられないのだと、舞台を観ている観客なのだから、演目が観客を害するなど絶対にあってはならないのだから。
自分達が絶対に傷付かない安全な場所から、観戦者としての地位にいるからこそ楽しく愉快に映るものだが……肝心の娯楽が自身に害を為すと分かった瞬間に人は誰も笑わなくなる。
こんな歪な社会システムが崩壊した時……一体どうなるのだろう。
その答えがこれだ。
崩壊した生活インフラにライフライン。
それら全ての責任を無能な民衆はヒーローや医療従事者にぶつける。
それがどう言った状況を生み出すかも考えず……ただ餌を求める雛鳥の様に口を開きながら叫んでいる状況をほくそ笑みながらオール・フォー・ワンは死柄木弔の肉体の主導権を強奪して行動を開始した。