【完結】ウサミミ少女のヒーローアカデミア   作:紅葉紫苑

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其処に月はありますか?

 タルタロスからの脱獄囚達は犯した犯罪の被害や凶悪性、突出した個性を鑑みて『ダツゴク』と呼称された。

 

 緑谷が雄英高校を出て行ったのと同時刻。

 

「はっはっ‼︎ いいな‼︎ シャバはいいぜぇ‼︎ なぁ鈴仙‼︎ 存分に殺し合おうぜ‼︎ あの時は碌な殺し合いもできなかったからなぁ‼︎」

 

「にく……ニクゥ」

 

「…………」

 

 迫り来る剛腕や歯刃を回避しつつ鈴仙は的確にカウンターを行うが効いていない。

 そして、ギャシュリーの個性により生み出された物が自身の四肢に纏わりついたのを感覚で理解して波長を操作して空間を揺らして弾き飛ばす。

 

 緑谷が雄英を離れて3時間。

 そして、鈴仙が雄英を退学してから4日が経過していた。

 

 この4日で……眼前の3人を新たに加えて鈴仙は241回目の襲撃を受けている。

 心が折れかけるが僅かながらに情報は掴めているのが唯一の救いであるか。

 波長で探知した緑谷もこの3時間で50回以上襲撃されており、しかもタルタロス出のバケモノ揃いが襲いかかっている為にやはり休む暇が無い程の地獄を見ている。

 

 鈴仙は海岸沿いの地域にいた。

 鈴仙を狙う者達は今やオール・フォー・ワン本体とダツゴク、それに海外から違法に密入国をしてきた殺し屋達。

 そんな厄災から民間人を遠ざけつつ被害の出ない場所と言えば海岸沿いの地域が最も選び易い。

 

 空や海の様に蒼い色が濃く出た宝石の様に煌めく碧眼と赫灼に燃ゆる真紅眼を揺らしながら眼前のダツゴク達を睨む。

 

 血狂いマスキュラー、ムーンフィッシュ、“嬰児樹”ギャシュリー。

 

 オール・フォー・ワンの指示により鈴仙の捕縛に赴いた脱獄囚……。

 ギャシュリーはお師匠様が捕縛した相手だったか……そう思案しながら2丁のルナティックガンと義眼をふわふわと自身の肩と同じ高さへ浮遊させ真ん中に義眼を配置し残りを右手と左手の位置に動かしながら思案する。

 

 ギャシュリーの個性は『ギャシュリークラム』……暗黒物質の様なドス黒い『ナニカ』から形作られた子供の様な塊を無限に生み出して使役する個性を有している。

 そしてこの個性で生み出された塊は鈴仙自身の眼……鈴仙の視界には一切映らない。

 暗黒物質は電磁波を通す事が無いとされる物質であり……それを自由自在に生み出して使役する個性。

 

 鈴仙以外ならば……鈴仙以外には普通に見えているのである、普通の眼ならば見えるのである、普通の視界ならば見えるのである。

 

 しかし鈴仙の視界は普通とはかけ離れている。

 凡ゆる波長が視界を埋め尽くしており……鈴仙の眼は感覚器としては異端の極みである。

 

 お師匠様から回収した義眼を通しても見えない……。

 

 しかしながら、見えないとは……決して存在しないと言うことでは無い。

 実体があり、破壊する事ができ、許容量を超えた攻撃を叩き込めば消滅する。

 

 物理的性質を持ったソレは過去にお師匠様が捕縛した際に証明されている。

 それに……今は誰1人、周囲に非戦闘員は居ない。

 

 鈴仙は重力波を操作して15m程空に浮いて2丁のルナティックガン、片方は時計回りの回転を、もう一つには反時計回りの回転を与えつつエネルギーを循環させて呟く。

 

相剋・凍氷の焔(ビギニング・オブ・アマルガム)

 

 そう呟いた刹那……相反する筈の熱と凍が収束し眼前のダツゴク3人を包み込む。

 全てを凍て尽くす氷撃と全てを燃やし尽くす爆燃に包まれてマスキュラー、ムーンフィッシュ、ギャシュリーの3人は完全に気絶していた。

 

 拘束して刑務所へと送り届けると……また足速に駆けていく。

 市街地や避難所の周囲にいては危険が及びかねない故に。

 

 海岸沿いか既に更地となった市街地に行くしかない。

 

 先程の攻撃は炎熱による火傷と凍氷による低体温、そして超低温から急激に熱を与えた事による空気の膨張による衝撃波……轟焦凍の扱う膨冷熱波そのものである。

 膨冷熱波のその原理自体は非常に単純である。

 それは熱膨張によるもの、故にルナティックガンが2丁あれば鈴仙にも扱える。

 

 急激に温度を低下させた事により鈴仙の身体には酷く霜が付着しており……海岸沿いは一部凍り付いていた。

 4月になったと言うのに気温が急激に低下した為に鈴仙は白い息を吐いている。

 

 轟焦凍が有する炎熱耐性及び凍氷耐性を鈴仙は有していない。

 故にこの攻撃は鈴仙自身にも多大なる被害を齎す。

 

 そもそも……鈴仙の個性は波長操作であり決して半冷半燃では無い。

 

 それを可能にしているのは2丁のルナティックガンである。

 2丁を回転させて片方とは逆回転を与えて一定間隔で配置したそれは……単体ならばただ回転しているだけの置物だ。

 

 本来は何にもならない。

 

 しかし、鈴仙自身を間に配置した状況ならば話が変わる。

 片方のルナティックガンに音を与え、鈴仙を通してそれをもう片方のルナティックガンに熱エネルギーとして放出させる。

 音波を熱に変換して、熱を音に変換して、そして超高効率で生み出した熱のエネルギーを用いて今度は周囲を超低温にするシステムがある.

 

 熱音響システム……または熱音響冷凍。

 

 音により熱エネルギーを生み出し超極寒と超高温を生み出す技術である。

 そして、もう一つ……音と言う物は音自体を電気に変換する事も、その逆も可能である。

 

 しかし、繰り返しになるが鈴仙自体の肉体は熱に耐性がある訳でも、超低温に対して耐性がある訳でも……ましてや電撃に対して耐性がある訳でも無い。

 膨冷熱波を繰り出す轟焦凍や……電撃を発する上鳴電気の身体がある一定のラインまでは火傷や凍傷、電撃による電気熱傷を負わずにいるのは耐性があるが故だ。

 

 鈴仙の身体には耐性は無い。

 常人のソレであり……普通に火傷を負うし凍傷も負う、何よりも電撃による電気熱傷など問題外である。

 

 それを可能にしているのが『毒薬・国士無双の薬』の超再生であるが……鈴仙は苦々しい顔をして考える。

 

 果たしてそれは人という存在といえるのだろうかと……。

 今の鈴仙は半身を吹き飛ばされようとも即座に再生し戦闘の続行が可能であるが……。

 

 理外の再生能力は留まることを知らない。

 

 この毒薬の薬理作用は解毒しない限りは永続的に継続され効果が重複していく。

 1本目を既に投与した。

 

 2本目も投与して2日が経過し、3本目も先程投与している。

 

 身体を蝕む毒薬の薬理作用により蒼に染まった碧眼が更に深く蒼く染まる。

 

 鈴仙は……すっかり暗くなった……月など一切見えない曇天の空を見上げて呟く。

 

「……月はいつだって其処にある……オール・フォー・ワン、そしてオール・フォー・ワンに与する者達……聞こえるか? 月のウサギはいつでもお前達を見ているぞ」




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