緑谷が居なくなってから1週間。
鈴仙が退学届を出してから15日が経過した。
A組とB組の39人がA組の寮内に揃っているが誰1人として口を開く事は無い。
皆の空気は依然として暗く、陰鬱としていた。
沈黙が空気を支配する中……拳藤一佳が重い口を開く。
「……現在の状況の擦り合わせをしよう、オール・フォー・ワン及びダツゴクに狙われてるのは緑谷出久と鈴仙……ネットにばら撒かれた『2人を狙っている』と言う情報を見た脱ヒーロー派避難民は自分達に被害が及ぶ事の懸念からこの2人が戻ってくるのを拒絶している、そして最悪なのは……仮に、もしもあの2人が虚空の彼方にあるオール・フォー・ワンを見つける可能性を手繰り寄せてオール・フォー・ワンと対峙しても、オール・フォー・ワンの周囲には荼毘がいる、
そう語る一佳。
それに呼応するかのように爆豪が語る。
「授業は停止して進級も留め置かれている、ヒーロー科生徒は基本、寮待機と周辺の警備協力……情報はほぼ得られない、ジーパンとヘラ鳥は病院でデクとオールマイトに接触してる、それによ、この手紙……雄英に近づく事すらビビったんなら……誰がドアに挟み込んだ? オールマイトしかいねぇ……あいつらきっと組んで動いてる、俺はエンデヴァーよりも、デクの事もオールマイトの事も知ってる……多分考え得る限りの最悪のパターンだ……それにあのウサギ女のメールの文面……2度と戻って来ない様な書き方、あのウサギ女は周りを頼る事をしやがらねぇ……波長操作が如何に万能だろうと限界がある……」
爆豪勝己、轟焦凍、常闇踏陰がベストジーニスト、エンデヴァー、ホークスに問い掛けるも返事は帰って来ず……物間寧人と拳藤一佳、心操人使が八意永琳を頼るもにべもなく断られてしまった。
災害から3週間が経過した今現在、世界的名医である八意永琳の要請により医療物資や医療機器、人員の不足は解消されつつある。
解消されつつあるが未だ……一部の医療機器や器具、物資は絶対的に不足してる。
医療用精製水や輸液パック輸血パック、血漿製剤や透析機械やCTやMRIなどの精密機器などは特に不足している為に経験や伝手が豊富なスタッフ達が日夜休む間もなく駆けずり回って、何とか持てる伝手と協力を得て最低限の量を掻き集めてどうにか安定を保っている。
そんな状態で……尚且つ脱獄した
無秩序と化した外を見て……拳藤一佳は考える。
あの地獄の中に身を投じて15日が経過している鈴仙の精神状態は……果たして冷静を保っていられるのかと。
そして、麗日がポツリと呟く。
「……エンデヴァーと八意さんって雄英卒だよね? 強引に行こう」
そう告げられて……一同は校長室へと足を運んだ。
そうして、話を聴く根津校長……。
麗日と一佳から滔々と告げられた言葉を聴き終えると根津校長は暫し考え込んで決断を下す。
数日後。
エンデヴァーと八意永琳、それに相葉愛美は雄英に来ており校長室で顔を合わせる。
校長室の椅子に座っている根津校長と、背後の出入り口に勢揃いしているA組とB組の39人。
それを見たエンデヴァーと八意永琳は同時に口を開く。
「校長……嵌めましたね?」
シンクロした2人の言葉を聴き終えて語る。
「彼らの話を聞いて対話の余地があると判断を下したのさ、私は常にアップデートするのさ」
そう語る根津校長。
轟がエンデヴァーに対して語る。
「なんで俺の事スルーした? 燈矢兄を一緒に止めようって言ったよな⁉︎」
感情を剥き出しにしたその叫びにエンデヴァーは語りかける。
「その言葉だけで……俺は救われてるんだよ、焦凍」
焦凍はその言葉を聞いて即座に言葉を返す。
「巫山戯んな⁉︎
その慟哭に対して無言を貫くエンデヴァー。
しかし、この状況下での無言は最早……肯定に等しい。
反論も何もなく無言であるならば、それはもはや肯定だ。
それを感じ取った爆豪勝己は前に出てエンデヴァーに対して叫ぶ。
「あぁ……正しいと思うよ、概ね正しい選択だよ……100人居れば100人が正しいって言う選択肢だろうさ……ただよ、アンタはデクの事分かってねぇんだ、デクは……アイツはイカれてんだよ、頭ぁ……守るべき者の勘定に自分が入ってねぇんだ……大丈夫だからって……オールマイトもそうやって平和の象徴になったからデクを止められない……エンデヴァー‼︎ 2人にしちゃいけない奴らなんだよ‼︎」
そう叫ぶ爆豪勝己。
その叫びを……慟哭を聞いて逡巡するエンデヴァー。
戸惑いながら専用のGPSトラッカーを取り出すと、即座にクラスメイトの手に渡る。
そうして、緑谷の現在位置を指し示す物を手に入れたA組の皆。
それを見たエンデヴァーは外の無秩序さを思い返して語る。
「外は今、地獄だ……法も倫理も全てが忘却の彼方へと過ぎ去った……お前達まで」
そう語るエンデヴァーだが根津校長が言葉を被せる。
「大人になったね……轟君、私は
一呼吸区切り、根津校長は八意永琳へと向き直り告げる。
「それにね、八意君、鈴仙さんの事だって私は退学を認めてないよ……君から受け取った退学届は効力を発揮しない……退学の事由について不備が認められたからね、冤罪で収監されて……それで退学なんて許されざる行いだよ」
そう語る根津校長。
それを聞いて僅かに眉を顰める八意永琳。
しかし、まだやるべき事は残っている。
拳藤一佳、物間寧人、心操人使が八意永琳の前に出ると拳藤一佳が代表して口を開く。
お辞儀をして、拳藤一佳は語る。
「お久しぶりです……八意先生、私や物間寧人、心操人使を鍛え上げてくれて感謝しています……しかし、私達は庇護されるだけの存在じゃない……鈴仙が……親友が地獄を見ているのに、それを安全な場所から眺めてるだけなんて……私は嫌だ……鈴仙を止める為に……その力を貸して下さい」