鈴仙が一佳の胸に顔を埋めて嗚咽混じりに号泣して20分後。
耐え難い重圧とストレス、そして常に張っていた警戒から一時的にでも解放された反動故かストンッと眠りに落ちた鈴仙。
一佳が寝ている鈴仙を負ぶさりながら雄英の付近へと移動している。
背中で寝ている鈴仙は一佳の素人目から見ても簡単に分る程にストレスの影響が色濃く出ており、度重なる襲撃により極度の睡眠不足が継続しており、何よりも碌に食事も取れていない状態であった。
一佳は隣を歩く物間と顔を見合わせて同じ事を考える。
次、同じ事をしろと言われても成功の確率は限りなく0に近いのだろうなと。
100回やれば100回が全て失敗する。
今回は徹底して対策を講じて鈴仙を盤面へと拘束し動かさなかった。
そも、最初から鈴仙が光の速度で逃走を計っていれば逃げられていた故、本当に運が良かった。
一佳と物間は再度顔を見合わせて視線のみでそう呟きあう。
そうして……雄英へと到着したA組とB組。
到着した瞬間……一佳に背負われている鈴仙が覚醒してその眼を開く。
そうして……自身が何処にいるのかを察した刹那……粒子変換を行い逃走しようとしたが物間寧人に粒子変換そのものを止められる。
光は粒子であり、また波長でもある。
鈴仙の個性である波長操作を事ある毎にコピーしてその扱いに慣れた物間寧人が止められない訳が無い。
物間が……鈴仙に向けて口を開く。
「大丈夫だよ……鈴仙さん、大丈夫……君は十分に頑張った……ここからは僕達が頑張る番だから」
13号先生が語る。
今現在の状況を。
殆どの民間人は各地の避難所へと移動しており未だ外に残っているのは脱ヒーロー派の自警団とダツゴクに乗じて暴徒と化した過激派自警団。
脱ヒーロー派も疲弊して避難所へと入る人も多くなっており、過激派自警団達は徒党化している分動きは把握しやすい。
避難がある程度進んだ事によりダツゴクや各刑務所からの脱獄囚、過激派自警団達、どれに対しても人員を割けるようになった。
皆……最善を尽くして状況を変えていた。
外で私や緑谷がしてきた人助けや捕縛は決して無駄にはなっていなかった。
何よりも……八意永琳がその人脈と伝手を使い鈴仙を狙っていた殺し屋を他国に居るうちに捕縛したのが大きい。
故に……警察やプロヒーロー達が肩代わりできる範疇に収まった。
それを聞き……ほんの僅かに安堵する鈴仙。
しかしながら……雄英に戻る訳にはいかない。
鈴仙は身体全体で波長を感じ取れる。
故に……雄英に聳え立ったこの外壁の中から溢れる波長も感じ取れた。
鈴仙の声無き声を理解したのは同じく波長操作を扱っていた物間寧人のみ。
即座に波長を操作して空間に穴ををこじ開けて何処か遠い所へとワープしようとした瞬間、一佳がその個性を使わずに鈴仙の手をガッチリと掴む。
それを見て鈴仙は……一佳と物間の眼を交互にジッと見ながら、短く言葉を紡ぐ。
「一佳、離して……やっぱり私はここに居てはいけない……物間なら分るでしょ、今は波長が見えるんだから……」
そう小さく呟いて鈴仙は物間寧人に同意を求める。
その表情は酷く狼狽して、悪意に酷く怯えて……酷く泣いていた。
溢れ出ている涙を拭う事もせずに、鈴仙の口から出る言葉は……弱々しく、か細く……哀しく……粉々に砕けそうな程に弱々しい。
度重なる襲撃と悪意に晒され続けて、果てがない、終わりが見えない地獄を歩いていた事により、もはや心が折れているのが容易に理解出来た。
一佳はそんな鈴仙を抱きしめながら語る。
「大丈夫だ、鈴仙……大丈夫だよ……」
そう語りつつ一佳は鈴仙を再度抱きしめながら頭を撫でて安堵させる。
そうして……内部へと通じる扉を潜る41人……。
潜った先で鈴仙と物間寧人が眼にしたのは……文字通り絶対の拒絶の意思……それらの波長が巨大なうねりとなって鈴仙と物間寧人の身体へと突き刺さる。
緑谷と鈴仙……いや、緑谷2割、残りの全てが鈴仙に向けられている。
拒絶の意思を示している避難民の集団は緑谷と鈴仙を視認した瞬間に叫ぶ。
「その少年と少女を雄英に入れるなー‼︎ 噂されている『死柄木が狙っている少年と少女』ってそいつらだろう⁉︎」
そう叫ぶのは鈴仙と緑谷を受け入れる事を拒絶している集団。
校長からの言葉を受け入れて緑谷と鈴仙を受け入れる事を納得した他の避難民や民間人が断固として拒絶を示す集団に口を挟む。
「おい、校長から説明があったろう……我々の安全は保証されるって」
「納得できるか‼︎ そんなもん‼︎ 安全だと言われたから家を空けて避難してきたのに‼︎ 何故わざわざ爆弾を受け入れるんだ‼︎ 雄英じゃなくてもいいだろう‼︎ 匿うなら他所でやれ‼︎」
緑谷はまだマシな方だ、なんせ狙われていると言ってもヒーロー側トップスリーとのチームアップが情報として出ている分、少しは安心材料になる。
しかし、鈴仙は違う……なんの安心材料も無い鈴仙の存在はそのまま不安材料になる、鈴仙の存在は危険しか呼ばない。
オール・フォー・ワン、ひいては全世界から狙われているに等しい存在であり緑谷よりも危険な爆弾になっている。
しかし、緑谷も、自分がいるこの状況を危機感知で感じ取ったのか……踵を返して出て行こうとする。
しかし、緑谷の手を麗日が取って引き留めていた。
身体を突き刺す拒絶という幾千幾万の意思、それらは弾丸よりも、光よりも速く、拒絶の意思、拒絶の波長が視える鈴仙と物間、2人の身体を無遠慮に撃ち抜く。
それを文字通り身体全体で認識している鈴仙はか細くヒュッと上擦った声を上げてその身体をギュッと縮こませている……しかし……物間寧人はそんな鈴仙を抱きしめながら語る。
自身もそれが見えている筈で、自身も同様に降り注ぐ万感の意思に貫かれていると言うのに。
物間寧人はいつもの様に笑みを浮かべて鈴仙を見つつ……抱きしめながら語る。
「大丈夫、鈴仙さんはこの4ヶ月十分に頑張っていたんだ、今は……僕達が頑張る番さ」
物間寧人はゆっくりと安堵させる様に、鈴仙へとそう呟く。
麗日お茶子は緑谷の手を取りながら思い返す。
ヒーローが辛い時は誰がヒーローを助けるのだろうかと。
飯田くんや爆豪くんが紡いだ。
拳藤さんが紡いだ、皆が紡いだ。
私たちはもう……2人を絶対離さない、離されない。
ヒーローが辛い時、誰がヒーローを守ってあげられるのだろうか。