一筋の曙光
泥のように纏わりつく拒絶の意思に押し潰されそうになっている鈴仙。
プレゼントマイクが拡声器をその手に持ちながら話すがヒートアップした群衆は高らかに声を上げていく。
提言したジーニストが説得を試みる為に群衆の矢面に立ち、その声の限り叫ぶ。
「校長から説明があったように‼︎ 雄英は今最も安全な場所でありあなた方の命を第一に‼︎ 最優先に考えている‼︎ 我々は先手を打つべく緑谷出久を囮に使い
しかし……不安因子が入る事による拒絶は消えていない、消えない。
ジーニストの説得でもダメで……波長が見える鈴仙、鈴仙の個性をコピーした物間寧人、危機感知を有している緑谷出久には凄まじい嫌悪と拒絶の意思が強大なうねりとなって3人のその身体に突き刺さる。
空気を震わせて、劈く程の拒絶の言葉が次々に降り注ぐ。
「……あんたらが失敗したから……そもそも今、日本は無法地帯になっちまったんだぞ? そんで……また失敗したから皺寄せを受け入れろって、アンタそう言ったんだぞ? ……鈴仙なんていう特大の爆弾も受け入れろって……ふざけんな‼︎ それでヒーローのつもりなのか⁉︎ 勘弁してくれ‼︎」
鈴仙と緑谷はその嫌悪と拒絶の意思に押し潰されており……物間寧人はそんな2人の盾になるかの様に波長操作で2人に降り注ぐ感情の嵐を少しでも軽減出来るようにしていた。
しかし……避難民から放たれる言葉のナイフは2人の精神を一切の遠慮無しに、ズタズタに切り裂いていく。
「……俺たちはただ安心して眠らせて欲しいだけだ‼︎」
そう叫び……緑谷と鈴仙に……雄英からとっとと……今すぐに出て行ってくれよと叫ぶ拒絶派の群衆。
その最中……麗日お茶子がプレゼントマイクの手から拡声器を奪って雄英の校舎の屋上へとその個性、
『デ……緑谷出久は特別な力を持ってます‼︎ そして鈴仙は……今外に居る
そう語るウラビティ……それに対して群衆の1人は苛立ちを全面に押し出しだしながら口汚く叫び返す。
「だからっ‼︎ そんな奴らが休みたいからってここに来るなよって話だろうが‼︎」
その叫びに対して……麗日お茶子は否定して語る。
『違う‼︎ 2人とも迷惑をかけないようにと雄英を出ていったんです‼︎ 連れ戻したのは私達です‼︎ 彼の力は……あの、特別で……オール・フォー・ワンに討ち勝つ力です‼︎ 鈴仙の力も……オール・フォー・ワンからしてみれば喉から手が出る程に欲しい個性で……だから狙われる‼︎ だから行かなきゃいけない‼︎ そうやって……出て行った彼が‼︎ 彼女が‼︎ 今どんな姿なのか‼︎ どんな顔をしているのか‼︎ 見えていますか⁉︎ この地獄を‼︎ この現状を‼︎ 1番どうにかしなきゃいけないと思い、願って、絶えず襲われ続ける道しか選ぶ事が出来なかった人間の姿を見てくれませんか⁉︎ 特別な力はあっても‼︎ 特別な人なんていません‼︎』
そう言い切った。
麗日お茶子の慟哭とも言える言葉を聴いていた鈴仙と緑谷を受け入れる事を拒絶していた群衆は……初めて、ちゃんと緑谷と鈴仙の方を向いて……初めてキチンとその視界に鈴仙と緑谷出久を収めて……ポツリポツリと呟く。
「私たちと変わらない……いつ終わるかも分からない恐怖に怯えている子供だよ……」
「あんなボロボロで……髪も傷んで……傷だらけで……」
そうして……緑谷や鈴仙の姿を眼にした群衆の内……何かに気づいた様子で3mはあろうかと言う女性は緑谷を……もう1人の少女、
「私を助けてくれた子だ……戦ってたんだ……私を助けてくれた後もずっと……戦ってたんだ」
「……鈴仙さん……あんなボロボロになって……私を助けてくれた時に……あの時言ってたじゃありませんか……無理はしないって、無茶はしないって……」
そうポツリと呟かれた言葉は誰に聞こえる事もなく宵闇の空に消えていく。
麗日お茶子の魂の叫びを聞いて……拒絶派の1人が苛立ちながら叫ぶ。
「見たらなんだよ‼︎ まさか……俺達まで泥に塗れろって言うのか⁉︎」
その叫びに……麗日お茶子は首を振り答えを返す。
「泥に塗れるのはヒーローだけです‼︎ 泥を払う暇をください‼︎」
そう叫ぶ。
ヒーローだって人間なのだ……極度の疲労や解消速度よりも溜まる速度のほうが速いストレス、それらが溜まればいずれ……壊れて立ち行かなくなる。
「今‼︎ この場で安心させることはごめんなさい‼︎ 出来ません‼︎ 私たちも不安だからです‼︎ 皆さんと同じ隣人なんです‼︎」
ヒーローが辛い時……ヒーロー達が辛い時……ヒーローを守るのはきっと……。
そう思いをこめて……麗日お茶子は言葉を紡ぐ。
この思いを、胸の思いを吐露する。
「だから……力を貸してください‼︎ 共に明日を笑えるように‼︎ 皆さんの力で‼︎ どうか彼が‼︎ 彼女が‼︎ 隣で休んで‼︎ 備える事を許してくれませんか⁉︎ 緑谷出久は、鈴仙・優曇華院・イナバは‼︎ 力の責任を全うしようとしているだけのまだ学ぶ事が沢山ある普通の高校生なんです‼︎ 此処を‼︎ 彼等のヒーローアカデミアでいさせてください‼︎」
麗日お茶子の慟哭に……真っ先に反応したのは女性と少女。
2人は人並みを掻き分けて緑谷と鈴仙へと近寄る。
そして……感謝を述べる。
「雄英の人だったんだね……異形は受け入れられないって何ヶ所か避難所断られちゃって……結局雄英がいいって事になったの、でも又君に出会えたから、ラッキーだ……あの時はありがとう、泣き虫ヒーローさん」
そう語る。
そして、もう1人の少女、木綿も鈴仙へと近寄り雨に打たれて、体温が奪われて……冷たく凍るような身体を、温めるかのように抱きしながら叫ぶ。
「鈴仙さん‼︎ あの時は助けてくれてありがとうございました……でも、言ったじゃありませんか、無茶はしないでって、無理はしないでって……」
鈴仙は木綿の放った……か細く消え入りそうな……しかしとても温かい言葉に、温かいその叫びに対して涙を流しながらただただ頷いていた。
それを見た避難民の1人が……拒絶派の避難民を諭す様に語りかける。
「ヒステリックに糾弾する前によ……少しくらいは話を聞いてもいいんじゃねえか? その2人は此処に常駐するわけじゃない、物資も人材も何もかもが足りない今、襲撃に怯える事なく、精神を擦り減らす事なく安心して休めるのが雄英しかないって事だろう? そう言う説明だったよな? 校長さんよ」
そう振られた校長はゆっくりと肯定の意を示す。
その諭す様に紡がれた言葉に反論を示す者も居ないわけではなかった。
士傑でも良いじゃないかと。
同等の設備なのだからと。
しかし……何処からともなく小さく溢れる何かに気づいたような声音で紡がれる言葉……何かに気づいた後でポツリと呟かれる。
今この時点で、2人が通っていた雄英ですら拒絶派が2人を追い出そうとしたのだ、仮に此処から立ち去り士傑の方で保護を求めたとて……士傑でも同じ事が起きて行き場が無くなるのは目に見えている。
士傑や雄英だからこそ安全なのだ、雄英や士傑以外のヒーロー科がある高校はおそらく襲撃の根本的な要因である2人の保護など行える訳がない。
そうしたら結果何も変わらない、この2人が光が見えない真っ暗闇の地獄に戻るだけで……。
いつ終わるかも知れない絶望を隣人にして……頼る者も居ない無秩序を歩いていくしかない。
それに気づいてしまった。
気づいたと言うよりは……見ない様にしていたと言うのが正解だろうか?
避難民の1人は滔々と語る。
「俺はこうなるまで気づかなかったよ……こうなるまで……俺らが観てるのは、カッコいいヒーローが悪い
その言葉に、魂を揺さぶられる慟哭に、シンッと静まり返る。
そして、しばし雨音のみが響くこの状況下で……拒絶派の1人が鈴仙と緑谷を見ながら呟く。
「答えろよ……お前達が此処で休んでいったら俺達は元の暮らしに戻れるのか?」
その言葉に……緑谷は言葉を返す。
「皆が一緒にいてくれるなら……全部取り戻します」
そして、鈴仙もそれに呼応するようにゆっくりと肯定の意を示し口を開く。
「えぇ……必ず、必ず……取り戻しますよ」
そう語る鈴仙。
雨に打たれながらそう語る。
そして……避難民の1人が鈴仙へ傘を差し出すとそれに連なる様に……皆が傘を差し出していった。