鈴仙VS心操戦が終わり、次は鈴仙VS轟焦凍戦、決勝戦となる訳だがここで、最後の盛り上がりを期待してと言う事で、両者共に万全の状態でバトルを行う為に運営判断にて30分の休息時間を設けてから行う事となった。
そうして……与えられた30分の休息時間を使い鈴仙は控え室にてシャドーボクシングや1人組み手を行い汗を流していた。
鈴仙にとってはただ座ってじっと待っているよりか身体を動かしている方が気が休まる。
1人組み手とシャドーボクシング、基礎トレを行っているとコンコンッとドアがノックされる。
鈴仙はウサミミをぴょこぴょこと動かしつつ入室の許可を出す。
「はい、どうぞ」
そう告げると入室してきたのはエンデヴァーであった。
鈴仙へ頭上にクエスチョンマークを浮かべつつストレッチをやめてエンデヴァーへと語りかける。
「えー……っと、ご子息の控え室なら反対側ですけれど」
遠回しに『貴方のいる所はここじゃないですよ?』と告げた鈴仙であるがそれを気にせずにエンデヴァーは鈴仙へと語りかける。
「あぁ、筋トレやストレッチを続けたままで良いから、君の活躍を見させてもらったよ、素晴らしい個性だね、凄まじい汎用性の中に君が積み上げてきた途轍もない修練と絶え間ない努力の積み重ねが見えたよ」
そう告げられる鈴仙であるが波長はその言葉を額面通りには告げて来ない。
……私を轟焦凍に対する当て馬にでもすると言うのがありありと透けて見えてウサミミがペショリと萎むのを感じるが鈴仙は形式的な、当たり障りのない言葉で返す。
「お褒めの言葉……ありがたく受け取っておきます、No.2プロヒーローのエンデヴァーからそう言われるとは思いもよりませんでした」
当たり障りのない言葉を選びながらそうエンデヴァーへと言葉を返す鈴仙。
エンデヴァーは筋トレやストレッチを続ける鈴仙へ更に言葉を紡ぐ。
「ウチの焦凍にはオールマイトを超える義務がある、君との試合はとても有益なテストベッドになると期待しているよ……くれぐれもみっともない試合だけはしないでくれたまえ……言いたかったのはそれだけだ、試合の直前に失礼した」
そうエンデヴァーから告げられる鈴仙。
鈴仙はその眼を通してエンデヴァーの波長を視認する。
「エンデヴァーさん」
そう、鈴仙は控え室から出ようとしたエンデヴァーを呼び止める。
ゆっくりと振り返り、何かな? そう問いかけてきたエンデヴァー。
それに対して鈴仙はウサミミを極限まで後ろに絞りながら告げる。
「轟焦凍は貴方の写し鏡でも、貴方の第2の人生でもありませんよ? オールマイトを超える義務がある? 僭越ながら言わせて頂きますけれど……子供に無理やり押し付けるのはいかがなものかと……ようやく分かりましたよ、轟焦凍が貴方を見る時の憎悪に塗れた波長の理由が、子供の人生は一切の例外無く子供のものですよ? 産まれたその瞬間からね」
そう告げる鈴仙に対してエンデヴァーは振り向く事なく無言で退出する。
鈴仙も最後の大詰めとばかりに八極拳の拳打を一通り続けて時間となった為にフィールドへと向かう。
フィールドへと移動した鈴仙、対面には轟焦凍が歩いてきており観客席からはひび割れんばかりの大歓声が沸き起こる。
大歓声を浴びた鈴仙はウサミミを無意識的にピョコンと動かしながら見惚れるほどの笑顔を振り撒いて横ピースを行い多少なりともサービスを行う。
対する轟焦凍はジッと観客席にいるエンデヴァーを睨みつけていた。
プレゼントマイクの実況が流れてきた。
『さぁ‼︎ 遂にガチバトルトーナメントもここまできた‼︎ どちらが勝ってもおかしくない対戦カードだ‼︎ ここに至るまで圧倒的な近接格闘センスで他者を締め落としてきた鈴仙‼︎ 対するはいまだに炎を使わずに勝ち進んできた轟焦凍‼︎ 熱いバトルを‼︎ 見せてくれな2人とも‼︎ ガチバトルトーナメント決勝戦‼︎ スタート‼︎』
スタートの合図が為されたと同時、轟焦凍は鈴仙を場外へと叩き出す為に氷結を繰り出し、対する鈴仙はその左手で指鉄砲を形造り銃を撃ち放つ仕草をする。
そして……フィールドのど真ん中で氷結が突如として粉々に砕け割れる。
刹那、轟焦凍が凄まじい苦悶の表情に顔を歪めてもはや無意識的に、反射的に両手で耳を抑える。
「ッ⁉︎ ッ〜〜〜‼︎」
轟焦凍は耳を抑えているのに一向に低減しない不快な音に対し嫌悪感を通り越して苛立ちを覚える。
対面の鈴仙を見るが左手で指鉄砲を形造り銃を撃ち放つ仕草を繰り返し続けており、それに伴って不快な音が強くなる。
アレを止めなければならない。
少なくとも轟焦凍はそう理解して行動を起こす。
「やっと見つけた、これですか……轟焦凍、貴方の嫌いな音の波長は……」
そう呟いて波長操作を用いて即興で作った技である
人には様々な嫌いな音があり個々人によってそれは分かれる。
食器が重なり合う音であったり、銃声であったり、油性ペンを使う際のキュッっという音であったり様々である。
「不快な音……音による攻撃の殆どはその音量ではなく不快な音を聞いた際のストレスによるものです、しかし……所詮は音なので時間が経てば効果が薄らいでしまうんですよねぇ……後はもう我慢して戦われたり……貴方はその両方らしいですね、ねぇ? 轟焦凍、効果が薄らいでるのと不快な音を耐えて短期決戦に挑んで来ましたか」
そう告げつつ鈴仙は波長操作を行う。
音による精神的ショックは波長操作の基本の一つであり轟音・爆音・不協和音などで相手を怯ませて隙を作る事が出来るので鈴仙は特に好んでに使う、別名、雑音・ノイズ攻撃とも。
例え一瞬であっても、攻撃が乱れ飛ぶ戦闘中なら十分すぎる効果がある。
さらに効果が大きければ混乱・気絶等で戦闘不能にまで追い込むことも可能。
一方で、長時間、対象を音に曝し続けた場合は精神的なストレスも見逃せないし何よりも対象者以外には気付かれない隠密性を有している為鈴仙のお気に入りとなっている。
不快な音を聴きつつ、多少なりとも『慣れ』たのか氷結を発動してフィールドを凍らせてアイススケートの要領で鈴仙の懐へと高速接近してきた轟焦凍。
懐へと潜り込み氷結を発動させ、鈴仙がそれを対処しようとした刹那……氷結による移動で即座に鈴仙の背後に回り大氷壁を生み出して鈴仙を場外へと叩き落とそうとしたが端的に言えばその目論見は失敗した。
大氷壁を生み出したはいいが鈴仙に触れる事なく崩壊していく。
超高周波の衝撃で氷結が作り出した端から粉々になっていく。
そして、鈴仙の鋭い蹴りが顎を目掛けて飛んできて回避行動を余儀なくされる。
一旦距離を取ると鈴仙は指鉄砲を構え撃ち放つ仕草を維持したまま轟焦凍へ告げる。
「何で貴方は左側を使わないのですか? 身体に霜が降りて……震えていますよ? そして、吐息も見えています……寒いのでしょう? しかし、それは左側の熱を使えば解消できるのでしょう? ……本気で掛かってきてください、貴方の全力を私は更に上から捩じ伏せます、あぁそれと……1つ私から言うのであれば……貴方の決心は私には見えていますが意図を計りかねます……しかしながら貴方のその力、それは断じて誰か見知らぬ他人のものではありませんよ? それは紛う事なき貴方自身の力です、誰のものでも無い、貴方の個性です、誇っていいんです、血に囚われる必要なんてないんです……なりたい自分になっていいんです」
そう告げる鈴仙。
それに対して轟焦凍は……無言で涙を一筋流して自身のオリジンを再度思い出していた。
そして……今度は完全に吹っ切れた。
「……鈴仙、ありがとな……お前が放った言葉……奇しくもあの時の母さんと同じ言葉だ……あぁそうだ、俺は……俺はだからヒーローに……俺だって、ヒーローに……」
そう呟いて轟焦凍は左側を、炎を発露させる。
その瞬間、轟焦凍に降りていた霜は溶け身体の震えがおさまる。
観客席からエンデヴァーが何か宣っているが鈴仙も焦凍も耳には届いておらず……その眼は互いに互いのみを射抜く様に見定めていた。
刹那、濁流の如き勢いの火焔が鈴仙に向けて放たれるが防壁を展開し対処した鈴仙が返す刀で超音波を撃ち出して可聴域を大幅に超える音を放射し頭痛を引き起こすがそれを無視して突撃してきた焦凍を見て『有り得ない』と言った驚愕の表情を浮かべ回避行動を取る。
超音波によって引き起こされた頭痛と眩暈で立っているのも困難な筈の焦凍を見つつ音による振動を利用して高速移動を行い即座に轟焦凍の懐へと潜り込むと自身の手を焦凍の胸に当てて八極拳の技の一つ、寸勁を放つ。
ピッタリと密着した状態で放たれた寸勁で仰け反ったのを隙と見て鈴仙は追い討ちをかけようとするが放射された炎熱により阻まれる。
互いの表情は……不思議な事に笑みが溢れていた。
そして……互いに猛攻を仕掛ける。
防御なんて知ったことでは無いと、右半身を凍結させられ動けなくなった瞬間に自身を音響兵器と化して自身の身体の自由を奪っている氷を砕き割る鈴仙。
返す刀で鈴仙が波長操作を用いてマッコウクジラが利用する『攻撃音波』を模倣し放つが焦凍は可能な限り氷壁を防壁にし防ぐ。
氷壁が砕き割れた刹那、眼前に迫っていた鈴仙の鋭いサマーソルトキックが焦凍の顎に突き刺さり意識が飛びかかる焦凍だが鈴仙の脚を掴んで背負い投げじみた投げ技で場外へと叩き落とそうとするが空中に見えない壁を展開した鈴仙はソレを足場として着地すると焦凍の右肩を掴み肩の骨を外す。
肩を外された痛みで痛苦に歪む焦凍だが、そんな痛みは今は知ったことか、そう叫ぶ様に炎熱と凍結の同時使用を行う。
対する鈴仙も音による振動を利用した高速移動を行い突進する。
氷壁は鈴仙に達する前に波長操作による振幅で砕き割れる。
そして……火焔放射を行う焦凍だがほぼ使ってこなかった左側を解禁した為にまだまだコントロールが覚束ない。
何よりも躊躇うことなく炎に突進してきた鈴仙に対して動揺してしまい一瞬だけ放射していた炎が途切れる。
波長操作で自身に被害が及ばない様に壁を展開し突進する鈴仙。
一瞬、ほんの一瞬だけ炎が途切れたのを見逃さずに轟焦凍の懐へと潜り込み
そうして……この瞬間にガチバトルトーナメント決勝戦の勝敗が決定した。