そうして……4ヶ月と半月ぶりに寮へと戻った鈴仙。
今は皆と入浴している。一応、毎日可能な限り湯には浸かって汚れを落としていた鈴仙ではあるが殺されるかも知れないストレスや襲撃に晒されながらの入浴では気が休まる時は一切無い。
4ヶ月半振りに……ゆっくりと身体を休める事が出来ていた。
皆と入浴している鈴仙。
A組の皆とB組の皆と一緒に入浴している。
そんで……一佳の絡みがすっごい……一佳は左半身に右半身にべったりとくっ付いて離してくれない。
いや……分かるよ? めっちゃ心配されてたのは波長を感じ取らなくても感じてる。
大粒の涙を流しながら一佳がガッチリとホールドしており動けない。
やんわりと無言で皆に視線を送り助けを求めるが返される視線は全員同じ。
つまり、鈴仙の事を凄く案じていたのだから甘んじて受けなさいと。
入浴後……鈴仙が共有スペースに戻ると相澤先生と壊理ちゃんが鈴仙を出迎える。
壊理ちゃんの眼は涙で染まっており鈴仙を見るなり怒った声音で言葉を紡ぐ。
「何で……鈴仙さん、腕を……何で……鈴仙さんが私に言ったの……隠し事はダメだって……嘘をつくのは最低のことだって……そう……言ったのに」
あの日、告発映像を見た壊理ちゃんが初めて鈴仙の腕の喪失を知った。
そして、雄英に戻ってきた鈴仙に対して自身の個性を以って鈴仙の右上肢を巻き戻そうとしたが鈴仙がそれをやんわりと断った。
まだ巻き戻しのエネルギーは完全に溜まり切ってはいないのと5ヶ月前もの長期間の巻き戻しは未だ練習していない。
鈴仙は自身に擦り寄って幼さを感じさせる握り拳で鈴仙の胸元をポカポカと弱々しく叩いて啜り泣いている壊理ちゃんを見て痛感する……幼童に心配かけない為にと取った決断が……酷く裏目に出てしまった。
私の取った判断は結局壊理ちゃんを泣かせてしまった。
「ごめんね……壊理ちゃん……ごめんね……」
啜り泣く壊理ちゃんの頭を優しく撫でながら謝り続ける鈴仙。
30分程して……泣き疲れたのかスゥスゥと寝息を立てる壊理ちゃん。
壊理ちゃんを抱え上げて一佳へと預ける鈴仙。
そして……共有スペースにいる相澤先生より話があると告げられる。
「鈴仙……ミッドナイトからの言伝だ……『助けてくれてありがとう』と……それと……よく戻って来た、心配してたんだぞ」
ぶっきらぼうな言い方であるが相澤先生の優しさはA組の皆が周知している。
そして……それはさておきと前置きして語られる。
「個性不法行使とタルタロス脱獄の件だが……不問に処された……根津校長が直接遣り取りしてくれてな……学籍も無事だ、単位もな……今は身体を休めておけ……」
そう語り教師寮へと壊理ちゃんを連れて帰寮して行く相澤先生。
それを見送って……ようやく鈴仙は実感する。
やっと……やっと戻って来たのだと。
そうして……耳郎響香が語る。
「なんかさ……同列に語るのは違うけどアレだね、不安な人がいて……安心してほしくて、笑ってほしくて、やれる事考えて……
そう語る、そして、再度実感した、ようやく戻って来たんだと……そう認識した鈴仙の眼からは涙がとめどなく溢れる。
そうして……安堵した為に今まで繋げていた緊張の糸がプツンと切れて一佳の胸の中で夢の世界へと誘われた。
そして……翌日、朝9.00。
鈴仙は共有スペースで正座をさせられてA組とB組の女子陣全員から質問攻めにされていた。
一佳が風呂場と、自身の胸の中で眠った時の触感で気づいたらしい、鈴仙の絹の様な髪とウサミミ、ウサギ尻尾が色褪せて尚且つ手触りが悪くなっているのを。
退学していた此処数ヶ月の食生活と生活環境をキリキリと言わされる。
「入浴は1日の何処かで1〜2分の時間を作り欠かさずしていましたが……食事は……最長8日程、何も食べずに動いてました*1……はい、いつ襲われるかも知れない状況であったので……水分の摂取は泥水や植物から得た水を濾過して……1日に100ccも飲めていない時も*2……睡眠は……1日に3分*3も取れればマシって感じでしたね……戦闘も襲撃も日に日に激化していたので……タルタロス出のダツゴクと他国からの殺し屋が同時に攻めて来た時もありましたので……四六時中波長を感じ取らなければ待つのは避けようのない死でした……」
襲撃により尋常じゃない程のストレスが掛けられていた鈴仙……。
当時を振り返っていると中々にイカれていたのだと自嘲せざるを得ない。
なんせバックアップなど何一つとして望めない状況下であったのだ、バックアップを受けられるというその点では緑谷の事を羨ましいと思ったが……彼と私では状況が大きく異なっていたので不満はない。
なお……それを聞いた女子陣全員からお説教を、彼氏である物間寧人からはもっと自分達を、クラスの皆を信じて頼れと告げられ……返す言葉もなかった。
同日13時……鈴仙は、雄英内に建てられた八意永琳の仮設診療所に出向いていた。
お師匠様の眼は鈴仙のこけた頬、傷んだ髪、ストレスによる反応などお見通しの様であり滔々と説き伏せられる。
お師匠様のこの滔々と説き伏せられるのも……何だか心地良いと思える。
そうして、仮設診療所から場所を移し鈴仙と八意永琳はアイテム開発室へと出向いていた。
何でも、鈴仙の喪失した腕の代わりがようやく完成したらしい……。
装着の際に生じる不具合や不都合を早いうちに修正しておきたいのだとか。
八意永琳が今までの経験と金銭や希少な金属と希少な合金を、発目明が常人に思いつかない発案を、メリッサがその知力の全てを……3人の稀代の才女達が余す事なくその才能の全てを注ぎ込んだ鈴仙・優曇華院・イナバ専用筋電義肢。
この義肢は完全なる戦闘用故に普段使いは視野にない、故に色合いは闇夜に紛れられる漆黒。
それを見た鈴仙は……いつもお師匠様は月を象る意匠を施すが今回はどうしたのかと思ったが……数秒思案し理解する……新月かと。
装着し……状態を確かめて……50回程微調整を繰り返してようやく完成に至る。
何はともあれ……これで失った腕の代わりは出来た。
「si vis pacem para bellum」
そう語るお師匠様。
平和を欲するなら戦争に備えよ……。
そう告げる。
そうして……鈴仙は八意永琳に耳打ちされた言葉を聞いたのと同時に、ある波長を感知して……もう一度雄英を離れた。