どこか知れぬ洞穴でオール・フォー・ワンはニタニタとした笑顔を浮かべながら語る。
「此処が正念場だよ」
ねっとりと、纏わりつく様な、聞く人によっては心の底から不快感と同時に安心感を齎す声音で。
「警察とヒーローは脱獄囚で手一杯で僕らにまで手が回らない……この小さな島国での隠れん坊は僕らの勝ちだ……尤も、鈴仙にはバレてるだろうなぁ、しかし此処に襲撃して来ないのを見ると僕の描いた通りに脱獄囚や他国の殺し屋達が鈴仙の下へと殺到してきているね」
それを聞いてスピナーは訝しげに呟く。
「国外に逃げても勝てた……つーかよ、鈴仙にバレたんだろ? 此処、捨てないとやばくねぇか?」
若干焦った様な声音が混ざるのを感じ取りながらオール・フォー・ワンは軽快に語る。
「大丈夫だよ、あの兎は僕らを捕捉はしたが……逆に言えば此処から動かせない、此処以上に面倒な場所に逃げられるよりは此処に居て貰わないと困るってのがあの兎の思考だ……それに、前提が違う、隠れん坊に勝つのは短期目標、鈴仙・優曇華院・イナバの個性をこの手に収めるのが中期目標、そしてワン・フォー・オールをこの手に収めるのが長期目標……」
それを聞いて洞穴に投げ捨てられている空の木箱に腰掛けながらスピナーは語る。
「最終じゃないのか……」
それに対してオール・フォー・ワンはゆったりと椅子にもたれかかりながら大仰な身振りを交えてニタァと笑みを浮かべて語る。
「僕は長い、長い人生設計を立てている……そしてその人生設計に於いて……最大の壁にして最大のチャンスが目前に来ている、僕には世界中に友人や頼りになる親友、犯罪に関する出資者や支援者がいてね……日本ではオールマイトが犯罪組織を撲滅したが海外ではそういう訳じゃない、彼等には先んじて告げてある……暴れてくれとね、そして各国は自国と他国を天秤にかけることになる……が、まぁ自国よりも多国を優先する国なんてないさ……」
それを無言で聞き届けたスピナーは次なる疑問に関して問いただす。
「じゃあ壁とチャンスってのは?」
間髪入れずにオール・フォー・ワンは語る。
「鈴仙・優曇華院・イナバとスターアンドストライプ……スターアンドストライプはヒーローの本場、USAでトップに君臨する正真正銘の化け物さ、小細工など彼女を前にしたら飴細工よりも脆く崩れる……鈴仙・優曇華院・イナバは君らも知っての通りさ……波長を操り支配する個性……状況によってはスターよりも手強い、何せあの兎の手の届く範囲はこの惑星全土だ……ギャンブルだよ、あの2人に介入されたら面倒なんてもんじゃない、だけどあの2人の個性を獲れたら……あとは消化試合だ」
『ッ⁉︎ 速すぎる‼︎ まだメイン基盤の埋め込みが終わってない‼︎』
そう叫ぶは月面で自身が製作したサテライトシステムを月の地表に埋設している鈴仙。
宇宙服を着込んで作業をしている鈴仙だが通信機器から八意永琳の焦った声音が聞こえてくる。
サテライトシステムとは鈴仙が製作したシステム及びメイン基盤に搭載されたエネルギー変換及び供給機器。
発電及び地球全域への無制限送電システムであり、ルナティックガンを間に挟む事で時間や場所の制限を解消する物。
ルナティックガンから放たれる極大砲撃「サテライトキャノン」を使用する際、使用に必要とする極大エネルギーのチャージを一瞬で完了するのが主な役割である。*1。
お師匠様の焦った様な声音が聴こえるが時間はどうしようもない、あのお師匠様ですら時間を操作する事はできない。
既に死柄木弔とスターアンドストライプが交戦した為、鈴仙はスターの救援を依頼されたのだが、最後の設置が終わらない。
『後10秒頂戴‼︎』
メイン基盤を埋め込み認証登録を手早く済ませシステムを起動させる。
鈴仙の眼には波長が見えている故……基盤の状態も見える。
95.96.97……100%。
人工音声による指向性音波が鈴仙の脳内に響く。
『サテライトシステム……オールグリーン、システム認証、鈴仙・優曇華院・イナバ……登録完了しました、ユーザー認証、鈴仙・優曇華院・イナバ……使用許諾確認。適性ユーザーです』
完璧に作動した事を理解して即座に空間に穴を開いて地球へと帰還し交戦状態となっている戦域へと突入する。
宇宙服を中から無理やりアーマーパージさせ脱ぎ捨てるとスターの頭部に触れた死柄木弔を視認した刹那……鈴仙は最後の1本を取り出して準備をする。
「俺の勝ちだ‼︎ アメリカぁ‼︎」
頭部をガッチリと掴んだ死柄木弔は狂喜の笑みを浮かべてそう叫ぶ。
スターも自身が崩れないと制約をかけたようだが許容上限に引っかかるのか僅かずつだが崩壊していく。
しかし、何かを首元に注射され中の薬剤が身体に注入された刹那……ピタリと身体の崩壊が治り……最後に掛けた個性の制約が極限まで強化されるのを実感できた。
チラリと死柄木弔を確認すると破裂の速度が更に増している。
(ぐぶっ⁉︎ な……身体が破裂して……先程とは比べ物にならない速度で肉体と個性が損壊していく⁉︎ なんとかして‼︎ 何とかしてこの個性を誰かに渡さなくては‼︎ オール・フォー・ワンは個性の譲渡と強奪はできても破棄は出来ない‼︎ ぐっ……パイロット……無理だ‼︎ なら、仕方ない‼︎)
死柄木弔は破裂していく身体を無理矢理動かしてスターの頭部に再度触れるとニューオーダーを返還した。
それに対してスターは不遜な笑みを浮かべて呟く。
「おや、せっかく取ったというのに……返してくれるなんて優しいね?」
その言葉に死柄木弔は返答する気力もない、8割の個性が損壊した。
その中には超再生や反射、拡散……電波といった有用な物が数多く有り……とてもではないが此処でアメリカNo. 1を相手にする余力はない。
ならば逃げの一択なのだが……隊列を組んだ戦闘機のレーザー砲に身体を貫かれる。
脳無は既に囮に使った為に身体能力のみで逃走を計る。
僅かにレーザー砲が緩んだのを見逃さずに……戦闘機の射程範囲外へと逃走した刹那……戦闘機ではなく遥か彼方の天から放たれた極大の砲撃により死柄木弔の肉体は悲鳴を上げる。
何とかしてレーザー砲撃の範囲から抜けると……うっすらと見えたのは鈴仙であった。
鈴仙は2本のルナティックガンを此方へと向けながら語る。
『
遠方に待機させていた脳無を呼び寄せて何とか退避したが……結果を見れば何一つ奪う事は出来ず、個性は8割が損壊という最悪な状況に追い込まれた死柄木弔であった。