そうして時間軸は現在へと巻き戻る。
月に埋設したサテライトシステムの全作業工程を終えた鈴仙。
サテライトシステムの認証も終えて……その直後に死柄木弔との戦闘を行い帰投して来た。
スターと軍人さん達は教師やプロヒーロー達と詳しい話を詰める為に会議室へと移動しておりこれからについて話している。
そして、寮の共有スペースでA組の皆とソファに座り休息を取っている鈴仙。
碌な訓練も行わずに宇宙へと向かい、しかもその日の内に……たった2時間足らずで地球へと帰還した為に月面と地球を行き来した鈴仙は疲労が蓄積している。
ソファにぐったりともたれかかって青山優雅が注いでくれた紅茶を受け取る鈴仙……受け取った瞬間、青山優雅から鈴仙に対して凄まじい罪悪感と……謝罪の嵐の波長と、青山優雅自身が自分に向けている嫌悪感が嫌という程感じ取れた。
青山優雅から感じ取れる波長と、今自身が手渡された紅茶を見て……鈴仙は全てを察する。
……なるほど、オール・フォー・ワンの脅迫か、従わなければ自分と両親を拷問の後で殺すと脅されたのか。
それらを理解してコレが失敗したら青山優雅がどうなるかを思案して、鈴仙は一切の躊躇いなく、劇毒が混入されている紅茶だと言うのを理解した上でグイッと一息で飲み干すと茶器を青山優雅へと返却する。
「ありがとうございます、紅茶とても美味しかったですよ……それとあまり自分を責めるのはやめましょう……貴方は何も悪くない、何一つとして悪くない……だから、これから起こる事だって何一つ貴方は悪くない」
そう語って……口から一筋の血をツゥッ……と垂らした直後……鈴仙の口から夥しい程の鮮血が撒き散らされ虚脱及び重篤な出血性ショック状態に陥る。
ソファからゆっくりと床に崩れ落ちて、受け身すら取れずにうつ伏せの状態で血まみれのカーペットに顔面から倒れ込む鈴仙。
呼吸はしているが意識が朦朧としており声かけに対しても虚弱で、今すぐにでも事切れてしまいそうな程に呼吸はか細い。
危機的状況下である事は疑いようがない。
すぐさま飯田天哉が八意永琳とリカバリーガールを呼びに行き……報せを受けた相澤先生も血相を変えて飛び込んできた。
「何があった⁉︎ 鈴仙……っ‼︎」
必死に救命を行なっている教え子を見て状況を把握する相澤。
相澤は1年間という僅かな時間ではあるが八意永琳から直接指導を受けた数少ない人物でありそのお陰で医療に関する知識も豊富に待ち合わせている。
今の鈴仙の状態を冷静に、そして客観的に見るならばこうなる。
ショック状態を表す指標という物があり、それらは以下に分類されている。
鈴仙の状態はコレら全てが当て嵌まっており非常に危険な状態と言える。
飯田天哉の一報を受けて八意永琳とリカバリーガールが到着しゴム手袋を嵌めると血塗れの鈴仙を手分けして触診と診察をし判断を降す。
「紅茶の匂い……飲み物に毒物が混入されていてそれを飲んだみたいね……SPO2が65〜71%、そしてこの量の吐血……急いで輸血と輸液、拍動も弱くなって来てる……心臓マッサージとAEDを行いながらO2を10ℓで投与……この匂いは……アレか、毒物も特定出来たし解毒剤の投与も急ぐわよ‼︎」
指定避難区域となっている雄英の敷地内には専門病院には敵わないものの普通の総合病院並みの設備は一通り揃えており手術も可能なレベルで取り揃えている。
各寮の出入り口に必ず2つ置いてあるストレッチャーの内1つに鈴仙を乗せて急いで医療棟へと搬送する。
酸素マスクを装着して輸液と輸血、そして解毒剤を投与しているが状態は芳しくない。
今は点滴と解毒剤、酸素投与……そして『毒薬・国士無双の薬』の再生能力、治癒能力を持ってしても致死量の30倍の濃度で混入された毒物を解毒するには時間がかかる。
故に……解毒剤と国士無双の薬、そして時間との勝負であり今の鈴仙はギリギリ、ほんの僅かの綱渡りで命を保っている。
医療棟で一佳と物間寧人が鈴仙の横に着いてずっと声を掛けており……八意永琳も常に心電図モニターやバイタルの確認をしている。
胃洗浄、活性炭吸着、急速輸液、酸素投与と服毒の際にやるべき処置は行なっている。
あとは鈴仙の気力と……頑張り次第である。
一佳は大粒の涙を溢し両手で鈴仙の手をギュッと握り締めながら嗚咽混じりの声で呟く。
「鈴仙……眼を開けてよ……せっかく戻って来たのに……こんな、こんな……」
隣に居る物間寧人も涙を浮かべて鈴仙の頭を優しく撫でながら呟く。
「なぁ鈴仙さん……怒ってるんだよ……僕は、こう見えて怒ってるんだよ? 君の無茶は心臓に悪い……だから起きたらさ……お説教だよ、だから……起きてくれよ、眼を開けてくれ……」
一佳も物間寧人も、両眼から溢れる涙を拭う事もせずに鈴仙に寄り添っていた。
オール・フォー・ワンは個性の8割が破損し……欠損した死柄木弔に語りかける。
「大丈夫さ、弔……大丈夫だ、個性因子が混線しているだけだ数週間程掛かるが……また個性が使えるようになる、気楽に行こう……
ゆっくりとそう語り、オール・フォー・ワンは荼毘に告げる。
「燈矢君……君の準備も折角進めていたのに悪いね……もう少し我慢だ」
そう説き伏せるような口調で語るオール・フォー・ワン。
しかし荼毘こと轟燈矢は物資を詰めた木箱に寄りかかりながらため息混じりに言葉を返す。
「無理だね限界……今日も今日とて親父が元気に空を飛んでる、たえられないね」
その言葉に対し、オール・フォー・ワンは苦笑のような笑みを浮かべながら諭す様に語る。
「燈矢くん、僕と君は似ているけれど……決定的な違いが1つある、いいかい? 僕という人間はね……1つのゴールに対して幾つも……幾つものルートを予め作っておくんだ、厳密にはいざという時に使えるルートを何年も何十年も百年も前から構築しておく、そして使えそうなルートを辿ってゴールに結び付けて向かうのさ……まぁ完全な肉体は暫くお預けを喰らった、緑谷出久と鈴仙は堅固な雄英に戻った……だけれどね、僕は燈矢くんと違って友人や知り合い、頼られたり頼ったりする相手がいっぱい居るんだよ」
不敵な笑みを浮かべながら……ニタニタと、邪悪な笑みを浮かべワインを味わうオール・フォー・ワンであった。
その日の15時。
青山優雅とその両親は……拘束された状態で視聴覚室に椅子に座らされていた。
そして……根津校長以下教師陣と……A組のメンバーが勢揃いしていた。
俯き絶望した顔で青山優雅は語る。
「USJも合宿も……鈴仙さんのインターンシップに都合よく