その日の15時。
青山優雅とその両親は……拘束された状態で視聴覚室に椅子に座らされていた。
そして……根津校長以下教師陣、八意永琳……鈴仙を除いたA組のメンバーが勢揃いしていた。
椅子に座りながら俯き、絶望した顔で青山優雅は語る。
「USJも合宿も……鈴仙さんのインターンシップに都合よく
そう語る。
そして語られた青山優雅、及び青山家両親の自白。
それを聞いて塚内警部は眉を顰めて語る。
「付与は10年前……個性を与えて貰う代わりに支配されるに至ったと……今無事だという事はナガンの様に爆殺する機構はない様だが……」
そう語る塚内警部であるが疑惑と猜疑の眼は晴れる事はない。
スパイともなれば尚更である、最悪こちらの情報や動きの全てが筒抜けである可能性があるのだ。
いつもは陽気で茶目っ気やジョークや軽口を叩いてから話を始める根津校長であるが今回ばかりは口数少なく語る。
「出来れば……君達は下がっていなさい」
そう語る言葉の先にはA組の皆が勢揃いしていた。
鈴仙以外の皆が。
根津校長の慮る言葉に対して誰とも知れずに呟く。
「下がってられる……道理がねぇよ」
ポツリと零れ落ちたその言葉が静寂を破る。
鈴仙と仲が一際良かった八百万は気丈に立ち振る舞って芦戸や他の女子陣を気遣っているもののやはり、その表情は他のクラスメイトと一様に暗い。
青山優雅は……語る。
「僕は……自分の行動の結果、クラスを危険に晒した……何よりも後悔したのは鈴仙さんのインターンシップさ……位置情報を流したら鈴仙さんは……片眼と腕を失って帰ってきたんだ……罪悪感と後悔で死にたかったよ……でも出来なかった……僕が死ねば両親も殺される……僕は自分の行いのせいで殺していたかも知れないクラスメイト達と笑って過ごしていたんだよ……仲間の顔して、笑い合えてしまったんだよ……そして、オール・フォー・ワンと戦う重圧を背負った緑谷君が元無個性と言うのを知って……自分の惨めさに絶望した、鈴仙さんや緑谷君の心配よりも真っ先に、自分に絶望した自分自身に……絶望したんだ」
「だからですか? 絶えず罪悪感と後悔が滲み出ていたのは……」
その時、扉の後ろから響く凛とした声。
今先ほどまで文字通り、文字通り以上に生と死の淵を彷徨い続けて、死に掛けていた鈴仙であった。
鈴仙は絶対安静の指示を賜ったのか車椅子に乗っており左前腕部には点滴が挿入されており点滴パックからは解毒剤と思わしき薬液が滴下されていた。
鈴仙はゆっくりと語りだす。
「吐血する前にも言いましたが貴方は何も悪くない……オール・フォー・ワンによる脅迫が明白で……自身や家族に死の危険が継続的に迫っている、そんな置かれている状況下……警察にも頼れない。ヒーローに頼るなんて以ての外……、塚内さんや相澤先生ならば緊急避難*1を理解していますでしょう? まさにその状況下ですよ青山優雅さんの置かれている状況は……裏切ったら殺す、警察やヒーローに逃げ込んでも殺す、私の飲む紅茶に毒を入れなかったら地獄すら生温い拷問の果てに殺す……そして過去、そうした裏切りを犯した相手が処刑される様を家族共々見せつけられたと……」
そこで一旦言葉を区切る鈴仙。
軽く咳き込むと決して少なくない量の血が口から零れ落ちるが気にせずに鈴仙は言葉を紡ぐ。
鈴仙のその表情は……何故だか微笑が浮かんでいた。
「今、オール・フォー・ワンはこれ以上ないくらいご満悦でしょう……私の個性は取れなかったが私は死にかけて、アメリカ最強のヒーローは個性を喪失した……どれだけの労苦を伴ってもほんの僅かの糸口の欠片すら見つけられない……オール・フォー・ワンを追っている
指を振ってそう語る鈴仙。
その意図を汲み取ったA組の皆は即座にその意図を理解した。
「唯一……青山さんだけがオール・フォー・ワンを欺ける可能性が……」
青山優雅の置かれている状況を確認がてら語り出す鈴仙。
その言葉を聞いて青山優雅はくぐもった嗚咽と共に項垂れる。
しかし、理由が何であれ青山優雅は雄英を、A組の皆を裏切った事に変わりはない。
鈴仙に至っては隻腕になり……そして今は生と死の淵を彷徨った。
たまたま助かっただけで1歩間違えれば死んでいたかもしれない。
それを踏まえてプレゼントマイクが叫ぶ
「ヘイヘイ‼︎ 話が飛躍し過ぎだぜ⁉︎ 罪は罪……言いたかないがお前らは一番の被害者だ、特に鈴仙……お前は、いや……お前らは今更信じられるのか?」
そう告げられるが飯田が語る。
「それは、過去の話でしょう? 彼の心の内を掬い取れなかった俺達の責任でもあります……だからこそ、今泣いているクラスメイトを友として手を取りたい、手を取ってもらいたい……」
そう語る飯田に追従する様に切島が胸の内を吐露する。
そうして……盛り上がりを見せるが塚内警部が現実を突きつける。
「盛り上がってる所非常に悪いんだが……青山一家には捜査協力を頼むとして、嘘は通じないのは先程青山優雅から聴いているだろう? 君達の気持ちは最大限考慮するが……此処は一度冷静になって」
其処で……相澤先生が口を挟む。
「塚内さん、この責任は見抜けなかった俺にあります……ただ気持ちはコイツらと一緒です、青山、俺はまだお前を除籍するつもりはない、鈴仙……何か策はあるのか?」
そう語ると鈴仙が口を開く。
「私は死にかけた、だったら一度本当に死にましょう……オール・フォー・ワンが何よりも求めているのは私の個性の強奪か私が死ぬ事……私と言う脅威を取り除けば一層自分達の打つ手は正解だったのだと思い込む……そして、それと並行して避難民の中に潜んでいるオール・フォー・ワンの手先を捕縛しましょう……既にリストアップして根津校長に手渡してあります」
そう語る鈴仙、そしてその作戦の諸々を詰めるべく教師陣や警察関係者は一度本部に持って帰って検討を重ねると告げて一度戻って行った。
鈴仙達も一度……寮へと帰寮し皆が共有スペースのソファや椅子に座り込む。
そして、葉隠がボソリと呟く、怒りに打ち震えながら。
「絶対……倒そうね」
そう呟かれた言葉に呼応するかの如く、A組皆……20名は怒りに染まった表情で頷く。
そして、詳しい話を詰めるために鈴仙はお師匠様の下へと車椅子を動かして行った。
日本の刑法学では緊急避難は違法性阻却事由とみる説が通説となっている。
日本の刑法では条文の位置からも正当行為、正当防衛、緊急避難の順に規定されており、前二者が明らかに違法性阻却事由であることから緊急避難も違法性阻却事由と解されている。
違法性が阻却されるためには刑法37条の要件を満たす必要がある。なお、以下の刑法37条の要件を満たさない場合でも期待可能性を欠く場合には責任が阻却されることがあり得る(超法規的緊急避難と呼ぶ)
現在の危難
緊急避難は現在の危難を避けるためのものでなければならない。
現在
現在とは法益の侵害の危険が直接切迫していることをいい、過去の危難や将来の危難に対しては緊急避難は成立しない
危難は現在にあれば一時的なものでも継続的なものでもよい
危難とは法益を侵害させる結果を生じるような危険な状態をいい、客観的に存在するものでなければならない。
正当防衛の「急迫不正の侵害」とは異なり、危難は不正なものである必要はなく、人の行為のほか自然現象や動物の動作などでもよい。
自己または他人の生命・身体・自由・財産を守るため
緊急避難は自己又は他人の生命・身体・自由・財産を守るためにするものでなければならない。
自己又は他人の生命、身体、自由又は財産
刑法37条1項の「自己又は他人の生命、身体、自由又は財産」が制限列挙か例示列挙かで争いがあるが、通説は例示列挙であり名誉等についても緊急避難は成立すると解する。
避難の意思
避難の意思についても正当防衛における防衛の意思の要否に対応した問題がある。
やむを得ずにした行為(補充の原則)
「やむを得ず」は正当防衛について定めた刑法36条と文言は同じであるが、緊急避難を定めた刑法37条の「やむを得ず」の場合には他にとるべき方法がなかった場合でなければならない(補充の原則)
正当防衛が違法行為に対する反撃行為であるのに対し、緊急避難は危難とは無関係な第三者への危難の転嫁を内容とするため要件が厳格になっている。
法益権衡保持の原則
緊急避難の場合には、避難行為によって生じた害が避けようとした害の程度を超えないことを要する(法益権衡の原則、法益権衡保持の原則)法益の比較は実際には容易でなく、法秩序全体の精神に基づき具体的な場合について客観的かつ合理的に判断するほかないとされる。
過剰避難・誤想避難・誤想過剰避難
避難行為はあったが緊急避難の要件を欠いているため違法性が阻却されない場合として過剰避難、誤想避難、誤想過剰避難がある。
過剰避難
現在の危難はあるが、その避難行為が緊急の程度を超えた場合には緊急避難とはならず、このような場合を過剰避難という過剰避難では違法性は阻却されず、情状により責任が軽いと解されるときは、刑を軽減したり免除したりすることが出来る(刑法37条2項)。
誤想避難
現在の危難がないにもかかわらず、こうした危難があると誤想して避難行為を行うことを誤想避難という。誤想避難の場合にも違法性は阻却されない
誤想過剰避難
現在の危難がないにもかかわらず、こうした危難があると誤想して避難行為を行い、かつ、それが行為者の誤想した危難に対する避難としては過剰な行為であることを誤想過剰避難という。
これらには正当防衛の過剰防衛、誤想防衛、誤想過剰防衛に対応した問題がある。