「あの倉庫ね……対象を確認、あの署長、やっぱり押収した麻薬や覚醒剤、金をくすねていたわね……麻薬の売人と署長を視認……」
クレアが数100メートル先の倉庫を腰に装着した軍御用達の双眼鏡で覗き込み透視して呟く。
麻薬や覚醒剤を押収した際に行われるのはその場に居る上官による麻薬や覚醒剤、銃器の数量チェックだ。
それを元にして報告書が作られるが此処で重要なのは署長がくすねてから報告書が作られるという事。
仮に売人が持っていた量よりも少ない記載がなされており、それを売人が訴えた所で誰も聞きやしない。
汚職は様々だがこれが1番足がつきにくい。
倉庫の中にいる署長は今現在取引の真っ最中である。
透視した倉庫内に見えるのは銃器を装備した傭兵が50数人。
ショットガン、LMG、アサルトライフル、サブマシンガン、ミニガン、ロケットランチャーと多種多様な銃を装備しており出入り口も赤外線センサーで厳重に守られている。
「鉄壁ね……出入り口の扉を含めて倉庫全体が対炎熱の素材、15000℃でも溶けない特殊な素材で組まれてるからエンデヴァー、貴方でも溶かすのは無理……物理的にもあの扉は壊せない、超硬度炭素合金でコーティングされてる……」
早く強襲を掛けないと取引を終えてしまう……それは非常に不味い。
非常に不味いが打つ手がない。
刻一刻と時間だけが無為に過ぎ去っていく。
此処に居るのはエンデヴァーとクレア・ボヤンスのみ。
爆豪勝己と焦凍は先んじてデクの回収に向かわせている。
その他の戦力はヒューマライズの調査へと割いている、そもそもの情報源が鈴仙であり……彼女の居場所を知る者はごく限られた者のみである為に信憑性の無い情報源に割けられる人員は多くない為だ。
考えあぐねているとエンデヴァーとクレア・ボヤンスの背後より声が響き渡る。
「私がどうにかします……要はあの扉を抉じ開ければいいんですよね?」
クレア・ボヤンスが振り向くとそこには薄らと幽霊のような状態で現れた鈴仙。
鈴仙は倉庫の扉を指し示しながら語る。
指を銃の形にして撃ち放つ仕草をしてエンデヴァーとクレア・ボヤンスの両名に告げる。
「取り敢えず……扉は破壊しました、向こうのボディガード達も異変には気づいています、ボディガードは私が潰しますので後をお願いします」
「……鈴仙、ボディガードだが……氷のように透き通った髪を持った盲目の女性が居たら俺の仕事だ……手出しはするな、俺が着けなければならないケジメだ」
「……わかりました」
そう言って、霊体の様に瞬間移動をして鈴仙は倉庫内のボディガードを鎮圧しに動く。
姿は見えないように波長を操作し……鎮圧していく。
順調に取引を終えようとしていた署長は突然の事に焦る。
「……ッ⁉︎ やはりクレア・ボヤンス……数年前から私の周りをウロチョロと……女狐が……オイッ‼︎ こういう時の為に高い金払ってるんだ……仕事をしろ‼︎」
署長は座り込んで蕎麦を黙々と食べている日本人に対して怒鳴り声を向けるとスーツ姿で両眼を喪失している盲目のその女はゆっくりと立ち上がり語る。
その日本人は日本人らしくない容姿をしていた。
純白の肌に氷のように透き通った髪を腰まで伸ばしている、そして……その両眼には過去に負ったと思われる火傷による痛々しい傷痕が色濃く残っていた。
そして、片手には杖を持っておりそれで位置を把握していた。
「3人居るわね……物理的に存在してるのが2人……もう1人は物理的に触れられない……霊体というか幽霊みたいな存在ね……あら? よく知った顔じゃない……元気してた? ……轟炎司」
「……
「生きる為に仕事をさ……生きていくのも楽じゃない、本業の傍ら副業としてボディガードもしてるんだ……それよりも、私は君よりも強い、狭い島国で天狗になってその事は忘れたのか? No.2、いやこの前にNo.1になったんだっけ? おめでとう、心の底から祝福を……それはそうと『私の妹』は元気にしてるかい? 冷だよ? 姉としてあの子に何もしてやれなかったが……はいはい、仕事するからとっとと消えてくれ署長……巻き込まれたくないだろう?」
長い過去話を広げようとした所で依頼主たる署長から圧を感じたので凍は臨戦体制を取り呟く。
そそくさと逃げ出した署長を感じ取って安全な場所まで逃げたのを感覚で理解して凍は本気で威圧する。
「いくわよ? 炎司……」
エンデヴァーこと、轟炎司は久しぶりに対峙した相手に殺されるかもしれないなと思い意識を切り替える。
クレアは逃走した署長を追いかけて倉庫内から離脱。
鈴仙は凍以外のボディガードを全滅させた後に緑谷達の方へと帰還した為不在、此処には今……轟炎司と氷叢凍のみ。
刹那……南極の最低気温の記録であるマイナス98℃を優に凌駕する超極寒の環境が生み出される。
即座にエンデヴァーは焔を放射して対抗するが放射した焔すらも瞬く間に凍結した。
「気温はマイナス158.6℃……風速は15m/s体感気温は−200℃超えって所かしら? 常人や耐性が無い相手……なら即座に死亡なんだけど、やっぱり炎熱系最強は伊達じゃないわね……」
エンデヴァーは自身の周囲のみに限定して焔を展開……気温を極度の低音域から活動可能域まで戻すが眼前の相手である凍はそんなのを許す程甘くは無い。
エンデヴァーが炎熱系最強を誇るならば対する氷叢凍は凍氷系最強。
「少しはマシになったな? 炎司……だがまだ遅い、あの福岡での映像を見たよ……あんな脳無程度の雑魚に苦戦しているんじゃあまだまだだ……やっぱり妹と君の結婚……許すんじゃなかったよ、バイバイ……炎司……『凍』」
氷叢凍自身の名を冠した凍が誇る最強の技……『凍』。
それは極度の凍結を齎して空間ごと凍結させる技であり……実質的な時間停止に等しい。
凍の個性はその名の通り『凍氷』である。
氷叢凍はどこからともなく氷を作り出す事が出来る。敵に触れて凍らせるのを始め、数千を超える大量の氷柱を0.1秒単位で生成する。
焦凍が行った大氷壁と同様に大氷壁を作り出す事も可能、しかしながら焦凍よりも数千倍優れた速度と威力で生み出す事が可能である。
地面に触れて居れば辺り一面を凄まじい速度で氷結させる等の様々な戦法を駆使出来る。
故に対人どころかたった一個人でアメリカやロシア、カナダといった大国をたった1人で相手にする事すら可能であり突き詰めれば単純な個性故に妨害を最もしづらい。
更にこの無から氷を作り出し自在に操る能力はシンプルであるが故に様々な応用が利き、その特性を活かして、自立行動が可能なケンタウロス型の氷の兵士「氷騎兵」の生成や、身に纏った氷を操って浮かせる事で空中浮遊する事すらも可能である。
そして無数の氷剣を作り出し敵に容赦なく打ち込む事も可能であり剣技にも秀でた凍は接近戦もお手のものである。
多人数を殲滅するのにも優れており、氷剣が全方位を逃げ場すらなく覆いつくし雨あられのごとく飛んで来るので回避するのは至難の業である。
そして、巨大な相手に使用した際には通常よりも遥かに大きく生成されており、大きさも自在に変えることが可能。
範囲殲滅にも秀でており巨大な氷柱を出現させて敵を串刺しにする、巨大なだけでなく、スピードも凄まじく遥かに離れた相手であろうと一瞬で距離を詰められる程の速度、精度、威力を誇る。
上空に瞬時に隕石並みの超巨大な氷塊を生み出し、相手を圧殺する事も可能。
そして最強の攻撃手段たる『凍』は極度の極寒と凍結を生み出す事により凍自身以外の全ての時間を凍結させる大技である。
「バイバイ……炎司」