極度の超低温空間により氷叢凍以外の全ての時間は凍結した。
意識はあるが一切身体を動かす事が出来ずに硬直したままのエンデヴァー……視界の左端に映る凍がその拳をエンデヴァーの顎へとアッパーカットを思い切り振り抜き脳を揺らす。
その直後に『凍』が解除されて自由になるがその直後、殴られた衝撃でエンデヴァーは倒れ込み膝をつく。
「ゲホッ……ゴホッ」
顎を殴られた軌道が脳を揺らす様にしてアッパーを喰らった為に数秒間目眩に襲われる。
刹那、眼前に立っている凍からハイキックを喰らい吹き飛ばされるエンデヴァー。
倉庫の壁を破砕する威力の蹴りをモロに喰らい倉庫の外まで吹き飛ばされてエンデヴァーは仰向けになり倒れ込む。
……そして瞬間移動と見紛う速度で吹き飛ばしたエンデヴァーの場所まで移動してきた凍。
一切の躊躇いなくエンデヴァーの胸部を蹴り踏み潰そうとしてきた。
たかが蹴り一発。しかし頑丈な倉庫の壁を完全に破砕する威力の蹴りを喰らっては流石のエンデヴァーといえども無事では済まない為に身体を捻って回避行動を取り音を立てない様に注意してヘルフレイムを駆使して空中に浮遊して凍から離れる。
氷叢凍は盲人故に一切眼は見えていない……故に視力以外の全ての感覚が軒並み視力を補った。
視力の代替として視力以外の全ての感覚が異常なまでに強化された。微細な音、空気の澱み、肌に伝わる感覚、そして自身が無から生み出す凍氷のみで世界を見ている。
しかし、眼が見えないというディスアドバンテージは覆しようがない。
「……? 炎司? 死んだのか?」
刀を仕込んだ杖で自身の周囲の地面をコンッコンッと叩きながら吹き飛ばした筈のエンデヴァーを確認しているが当のエンデヴァーは既に凍の杖の届く範囲内より離脱している……がエンデヴァーの口元から滴り落ちた血の一滴。
その血がコンクリートへと落下した刹那……凍はエンデヴァーの居場所を理解して、エンデヴァーですら避ける事ができない異常な速度で氷柱を生み出してエンデヴァーをコンクリートへと叩き落とす。
そして、地面に墜落したエンデヴァーの首を片手で掴み吊り上げて語る。
「……私はね、妹が君にされた仕打ちを考えると君を殺してもいいとすら思っているが……当の妹はそんな事望んでないし君との関係を未だに修復しようと努力している……そして君の子供達も父を喪うなんて事望んでない……私は君を殺したい程憎んでいるが妹に、冷に免じて生かして帰してやる……冷に感謝しろ、炎司……」
そう告げて腹部へもう一度蹴りをぶち込むと完全に気絶したエンデヴァーを担ぎつつ氷叢凍はゆっくりと歩き出した。
ホテルにてテレビを観ている轟焦凍、爆豪勝己、緑谷出久。
警察署長を逮捕したクレア・ボヤンスは記者会見で全て暴露。
緑谷出久、ヒーロー名デクの殺人容疑はヒューマライズ団員である警察署長がフレクト・ターンの指示により嵌めたと。
それに続いて銃器や麻薬などの横領及び密売などに関わっていたという事実、それらが広まるにつれてデクの名誉も回復。
「よかったな……緑谷」
緑谷の方を極力見ないようにしつつ意識して反対の方を向いている焦凍より短くそう告げられて頷く緑谷出久。
それに続いて語るのは鈴仙。
『ほんとよかったです……冤罪で捕まるなんて日本ではそんなに聞かない話ですが……国によっては普通に有り得ますからねぇ、早い段階で冤罪が証明できて何よりですよ』
羽衣を纏ったほぼ全裸に姿の様な格好で……文字通り透き通る様な薄い色でふわりふわりと浮遊している鈴仙。
「ウサギ女……テメェは少しくらい恥じらいという概念をもてや‼︎ 痴女かテメェは⁉︎ 男子3人いるんだぞ⁉︎」
緑谷の後頭部の少し上にふわりふわりと浮遊しているほぼ全裸の鈴仙に対してそう怒鳴る爆豪勝己……3人が極力鏡などを見ないようにしているのは緑谷の背後にほぼ全裸の鈴仙が居るからであった。
『しょーがいないですね、中々難しいんですよ……この技、私の姿を波長操作で投影する事は出来ても衣服までは投影出来なくて、羽衣がなんとかって感じだったので……タルタロスの看守の巡回や独房に備え付けられた監視カメラ、生体反応センサー全てを掻い潜って今こうやって羽衣を着た私を投影するのですら至難の業なのです』
羽衣を纏ってはいるもののそれは鈴仙のボディラインを隠せる程の物ではなく寧ろ豊満な胸部や臀部などが目立っている。
それを指摘するのもアレなのか項垂れるように首を振って諦めたような顔をする爆豪勝己。
そして、なんだかんだで慣れざるを得なかったのか暫しして鈴仙の首から上を見るように意識して皆が鈴仙を見る。
「で、そこのウサギ女はタルタロスで現在収監中……冤罪を晴らすにしても校長やオールマイトですら手が出せないってなると……一学生の俺らじゃほぼ不可能だな……」
爆豪勝己が簡潔に鈴仙の状況を整理していると当の鈴仙より警戒する様に指示が入る。
『誰か来ます……エンデヴァーを担いで誰かがフロントを通過、エレベーターへ直行してこの部屋を一直線に目指しています……あー……全員臨戦体勢、警察署長のボディガードをしていた女性です……敵性対象と判断して動いてください」
鈴仙がそう告げて……鈴仙を含めた皆は戦闘態勢を取る。
5秒後、ドアがカードキーで解錠されてエンデヴァーを担いだままで氷叢凍が入室してきた。
入室してきた相手を見た刹那……氷漬けにされたかの様に固まった轟焦凍がポツリと呟く。
「母……さん?」
戦闘態勢に入っている空気を感じ取ったのか氷叢凍はゆっくりとエンデヴァーを降ろしながら語る。
「妹の息子と戦う気はないよ……私の名は氷叢凍、冷の姉だ……一卵性双生児故に嬉しい事に妹とよく見間違えられるんだ……3〜4歳の時に数回会った事があるが……忘れているだろうね、さてと改めて再度自己紹介を、氷叢家長女の氷叢凍、冷の姉だ……済まないが椅子は近くにあるかな? コレをみて分かる通り私は盲目でね」
その手に持った白杖を見せる凍。
緑谷出久が一声かけて椅子へと案内するとエンデヴァーをベッドへと寝かせて……氷叢凍は椅子へと座る。
そして、轟焦凍へと語りかける。
「……少し冷の事を聞いてもいいかな?」