八意永琳は自室の椅子にもたれかかりながら珈琲を片手に連日連夜世界中の論文を熟読し、それがひと段落着くと医師としての仕事を終えて……天井を見上げながら疲労と睡魔が溜まって……夢に誘われる。
その夢は酷く鮮明に、八意永琳にとって懐かしいあの頃の出来事を思い出していた。
雄英の大図書室にて真剣な表情で医学薬学の書物を読んでいる八意永琳の背後から抱きついて私……鈴仙・優曇華院・鈴華は抱き付いてえーりんの頬をぷにぷにと摘む。
「永琳? えーりんりん……この私の話をちゃんと聞いてるのかー?」
「
医学書をパタンっと閉じて頬をぷにぷにと弄ってくる親友へと顔を向ける。
「聞いてたわよ……それで、私に相談って何かしら?」
雄英の同学年で同じクラス、そして腐れ縁の幼馴染で親友であり八意永琳に匹敵する程の才女が悩むこととは一体なんなのか……それについて激しく興味を惹かれた為に今話を聞いている。
「私はこんなにも八意永琳LOVEなのに、一体いつになったら私は永琳と結婚できるのかを聴きたくて……嘘ですごめんなさい……」
衆人環視の中でとんでもない事を宣いやがった親友をジト目で見ると即座に発言を訂正した。
まぁ……尤も、この程度の発言は日常の挨拶のようなものなので周りも八意永琳本人も気にしていないのだが。
「私の個性は知ってるわよね? 兎の個性……そして、世が世なら絶世と謳われたであろうこの美貌……は、まぁ置いといて……悩みってのはさ……将来だよ将来……薬学の神と名高い八意永琳の様な豊富な知識を持ち合わせてもない……かと言って戦闘においては雄英史上、オールマイトの次に最強と名高いエンデヴァーや氷叢凍の様な強みもない、将来どうすんのか今から不安でさー」
そう告げて気怠そうに俯きながら永琳のほっぺたをむにむにと触りまくる鈴華。
そんな話をしながらもおおよそこの才女のことだ。
自分の突き進む未来に向かって既にルートを決めているだろうと、そう返す。
「ヒーロー名、
鈴華自身は『私なんてまだまだ』と卑下しているものの学生の身ながら鈴華の立てた功績は八意永琳や氷叢凍と同等の物と言える。
なんせ薬学医学関連では八意永琳の、戦闘においては氷叢凍のサポートが出来る人材なのだ。
そして……彼女自身、学生の身ながらヒーローとしての功績は凄まじく既に重犯罪者を120人は捕縛している。
彼女無しでは成し遂げられなかった事案も多数ある。
「貴女ならばどこに行くにしても引く手数多なんだから……それに、その特殊な眼、そしてその波長探知能力だってあるんだし……」
そう語る永琳であった。
場面が転換し次に夢で見たのは親友の結婚式……。
友人代表スピーチを終えて自身の席へと座る永琳。
友人の新たな門出を祝い……祝福した。
花嫁姿の鈴華を抱きしめ語る。
「結婚おめでとう、鈴華……幸せになってね」
そう告げる永琳。
この時は2人ともあんな事が起きるだなんて欠片も想像していなかった。
更に場面が転換する。
結婚から2年が経過していた。
喪服を身に纏う鈴華……そして、八意永琳、そして氷叢凍、轟炎司。
遺影には……鈴華の旦那が飾られている。
密葬である為に近親者と僅かな友人らで葬式を執り行った。
葬式の後で氷叢凍が語る。
「おおよその犯人の目星は付いている……鈴華、私は……君が望めば……」
そう語るのは氷叢家長女、氷叢凍。
雄英を卒業後、彼女はとある出来事から両眼を焼かれて喪失し今やヒーロー家業をほぼ引退して外国にその拠点を移したが八意永琳の連絡を受けて帰国してきた。
その発言に対して鈴華は首を横に振りながら膝に座って眠る我が子を見ながら語る。
「ありがとう凍でも……いいの、今は……この子が安全に暮らせる様にどうにかしないと……娘の鈴仙・優曇華院・イナバ、私と亡き夫の個性の両方が発現しているの……即ち……波長操作と兎の個性……永琳、私の個性ですらオール・フォー・ワンに狙われた……個性が私や夫の複合系である以上……この子は言わなくてもわかるでしょう?」
鈴華の夫も個性はかなり強い物であり確か『波長視認』であったか。
雄英卒業の後、結婚し1人娘を授かる前……鈴華はオール・フォー・ワンの信奉者やパトロンを撃滅する仕事に従事していた。
1人娘を授かってからは危険な仕事からは離れて久しいが一度覗いた深淵からは逃れられない。
オール・フォー・ワンの信奉者やパトロンを撃滅する仕事の代償として鈴華の夫が……無惨に殺された。
その遺体は肉片と僅かな骨片のみであり……形見として残ったのは高熱により変形した結婚指輪のみ……。
氷叢凍の調べにより誰がやったかは既に特定されている。
キッチリと捕らえて法の裁きを受けさせたが……残るのは愛する夫を喪ったという絶大な虚無感。
しかし……1人娘という微かに灯る存在が……絶望のどん底に突き落とされた鈴華の人生に光を灯していた。
「凍、永琳……遠くない未来……私は自動車事故に巻き込まれて死ぬ……公正証書遺言を作成するから証人を……氷叢凍と轟炎司、君達2人に頼みたい……」
その言葉に凍は不満げに眉を顰めて……永琳は何かを悟った様に声音を漏らす。
「……それが貴女の眼で見えた未来の……決して変える事は不可能な未来の結果なのね?」
「えぇ、遠くない未来で私は死ぬ、だから……私の大事な愛娘を頼んだぜ? 永琳」
そう語る鈴華であった。
鈴華の眼は特殊な眼である。
隔世遺伝なのか、はたまた彼女の個性にもコレが含まれているのかは定かではないが……鈴華には未来が見える。
見えると言っても自発的に見る事は出来ず……突然、頭痛と共にソレが見えると言った具合だ。
後日、公正証書遺言を作成した。
その遺言の中身は
〇年第〇〇〇〇号
遺言公正証書
本職は遺言者鈴仙・優曇華院・鈴華の嘱託により、証人氷叢凍、同じく轟炎司の立会いのもと、下記の言の趣旨について口授を筆記し、この証書を作成する。
遺言の趣旨
第1条・遺言者は、自身が所有する次の金銭全てを八意永琳に相続させる。
遺留分を除いた全ての金銭である18億8500万。
第2条・遺言者の遺児である鈴仙・優曇華院・イナバの親権を八意永琳に譲るものとする。
本旨外要件
静岡県〇〇町6丁目13番5号
職業 ヒーロー
遺言者 鈴仙・優曇華院・鈴華
21xx年10月5日生
上記は印錯証明の提出により人違いでないことを証明させた。
静岡県〇〇町1丁日18番6号
証人 轟炎司
21xx年8月8日生
静岡県◎●町3丁目4番10号
証人氷叢凍
21xx年7月25日生
上記したところを言者及び証人に読み聞かせたところ、各自筆記の正確であるところを承認し、以下に署名押印する。
遺言者 鈴仙・優曇華院・鈴華
証人 轟炎司
証人 氷叢凍
この証書は、民法第 969条第1号ないし第4号所定の方式により作成し、同条第5号に基づき以下に署名押印す。
21xx年10月13日本職役場において
静岡県◎〇町●番〇号
静岡法務局所属
公証人
葉隠袿姫
微睡む頭を振りながら八意永琳は床に溢れた珈琲を見つめて寝ていたことに気づく。
懐かしい夢を見たものだと自嘲しながら。
「……鈴華……会いたいよ、君に」