焦凍の長い長い話が終わり凍は語る。
「……すまなかったね、君達家族には辛い思いをさせた」
見えてない筈の眼でこちらを見遣り……謝罪をしてくるのは氷叢凍。
「それはそうと……覗き見はいただけないや……消えなさい? うさぎちゃん、日本で耳郎響香とギャングオルカのフォローをしてあげなさいな、きっとそっちの方が大変になるからね、世界一危険な失せ物探しは任せたよ、うさぎちゃん」
凍が指をパチンッと打ち鳴らすと部屋を冷気が包み込み絶対零度の極寒が刹那の一瞬だけ発生し波長を停止させる。
波長が維持できなくなり緑谷の頭の上でふわふわと浮遊していた鈴仙は声すら発さず消え失せる。
突然の凍の行動に驚愕し警戒をする3人。
しかし、凍は笑みを浮かべてかたる。
「警戒しなくていい、彼女にはもっとやるべきことがあるからね……多少力尽くかもしれないが戻ってもらった……それはさておき、そのアタッシュケース、二重底になってないかい? あぁそれと炎司……狸寝入りをこれ以上続けるなら永眠させてあげるがどうだろう?」
ケラケラと笑いながら杖でアタッシュケースを指し示しそう語る凍であった。
二重底の中身を確認して解除キーを入手した刹那……部屋に備え付けられているTVのニュースから流れる緊急放送が6人の耳に入る。
『ヒューマライズからのメッセージです、これは……』
そのニュースを聞いたロディは被害範囲地域を見てテレビ画面に近寄り叫ぶ。
「オセオンの被害地域……俺ん家も入ってやがる‼︎」
タルタロス監獄内にて。
チャポンッと湯に浸かりつつオセオンに飛ばしていた波長が途切れた事を感覚で理解した鈴仙。
湯船に浸かってリラックスしながら波長を再度飛ばそうとするも緑谷達の周辺には波動すらも凍り付かせる超極低温。
高温になればなるほど波長は操りやすいのだが今あの周辺にあるのは絶対零度にすら届き得る超低温、ただでさえ難しい波長操作の難易度が跳ね上がる。
「思い出しました、氷叢凍さん、お師匠様の古い友人でしたね……ただでさえ難しい超長遠距離波長操作に余計なノイズが混じれば消えるのは道理ですね、さて……アドバイス通りにまずは耳郎さんを気にかけましょうかね、焦凍さんの親戚なら悪い様にはならないでしょうし……探し物は誰よりも得意だと自負してますので……」
ゆっくりと湯船に浸かり天井を見上げながら鈴仙は己が個性を使い情報を探す。
電波や電磁波、ラジオ放送の電波から世界各国の軍の秘匿回線、警察無線や個人的な通話、人の思想や思考、
世界中から鈴仙の脳内に洪水の如き情報の濁流が流れ込むがそんな物は鈴仙の脳に影響を及ぼさない。
自身の個性である『波長を操作し支配する個性』を十全に扱える脳であり、情報処理に関しては文字通りレベルが違う。
波長操作は桁違いの情報処理が要求される。
そして数十秒後……聴き取った。
「成程成程……全く……ふふふふふふ……はははははは‼︎ ……はぁ、これは本気で助けないといけない案件ですね」
湯船に浸かりながら笑い拍手を繰り返すこと2〜3分。
唐突に真剣な面持ちになってため息をつく鈴仙。
日本に4つ、全て大都市圏に仕掛けてあるトリガーボム自体はさほど問題ではない。
その内3つは既に発見して除去が済んでいる。
問題は残り1つとその1つの護衛についているヒューマライズの団員だ。
ギャングオルカさんとその部下の人たち、耳郎さんと障子さんに対して凄まじい優位を保てる個性持ち。
とりあえず残り時間は1時間と41分37秒。
ヒューマライズの隠れ家はあの3人にエンデヴァーと凍さん、クレア・ボヤンスさんが居れば余裕でしょう……私はこっちに専念させてもらいますかね。
湯船に浸かりながら意識を集中させて波長を操り耳郎さんの付近に霊体らしきものを現出させる。
「かはっ……まだまだぁぁぁ‼︎」
ビルの屋上でそう叫ぶのはヒューマライズの団員による見えない斬撃で右前頭部を深く斬られ酷く流血するがそれをものともせずに戦う意志を見せる耳郎響香。
ギャングオルカとその部下達も見えない斬撃でかなりの傷を負っている。
しかし、その程度ならばあのギャングオルカが苦戦するはずもない。
苦戦する理由は軌道の読めなさにある、3人いるヒューマライズ団員全員が強い。
1人が見えない斬撃を使う、これが今耳郎響香が対処している
そしてもう1人が……瞬間移動の個性、こちらはギャングオルカが単身で対処中である。
最後の1人は未だにどんな個性か読めない、近接格闘のみで圧倒してくる長身痩躯の団員は障子目蔵が対処している。
ギャングオルカの部下達は全員隣のビルの屋上で索敵を行っているが未だに報告はない。
ただでさえ視認ができない不可視の斬撃、それを更に不可避にしてるのは瞬間移動もその一因である。
しかも恐らく厳密にいえば見えない斬撃ではない……何かしらの別の個性。
それを応用しているだけ。
耳郎響香は荒い息を吐いて斬撃で痛みで意識が飛びそうな身体を無理矢理動かす。
失血で上手く立てない? 痛みで意識が飛びそうになる? ……だからなんだ、そんな事知った事か……皆頑張っているのにここで私が折れていい筈がない。
障子目蔵は未だ個性を見せないヒューマライズ団員と近接戦闘を行なっている。
何よりもまだトリガーボムが発見出来ていない。
額からボタボタと滴り落ちていく血を拭いながら意識を整える。
呼吸は何よりも大事だと鈴仙から教わった。
呼吸は平常心と集中力を高める最適な手段だと。
極限にまで高めた集中力はトラブルやプレッシャーに関係なく自分の力を最大に引き出してくれると。
呼吸を整えてから眼前の相手を睨む。
絶対に逃さない様に……どこに瞬間移動しようとも、後の先を取ればいい。
「なかなか面白い小娘だな……名前を聞いてもいいかな?」
ヒューマライズ団員がそう問うてきた……それに対して耳郎響香はゆっくりと口を開く。
「……ヒアヒーロー……イヤホン=ジャック」
「成程……良い名だ、……そこまで劣勢でも諦めを宿さないその眼差しは尊敬に値する」
そう告げてきた刹那……姿がブレて瞬間移動が為される。
これまで通りならばまたも不可視の斬撃で切り刻まれる……。
少なくとも団員からしたらその筈だったのだろう。
しかし結果は今まで通りとはいかなかった。
「ゼェィッ‼︎」
瞬間移動自体は何の脈略も、何の予兆もなく複数回行われる。
故に瞬間移動の移動先を予想する事は限りなく難しい。
しかし……耳郎響香は的確にそれを予想して斬撃を飛ばそうとする男よりも速く、その顎にアッパーカットを決めた。
しかも……単なるアッパーカットではなく体重の乗った非常に重い拳。
何かの格闘技でもやっていなければこうはならないであろう拳……。
脳が揺れて1秒ほど動きが止まる。
荒い息を吐きながらボクシングの様なファイティングポーズを構えながら耳郎響香は叫ぶ。
「分かってきたよ……色々とね、立ちなよ……」