【完結】ウサミミ少女のヒーローアカデミア   作:紅葉紫苑

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死への準備

 警察署内での会議の後……リカバリーガール、八意永琳、鈴仙の3人は雄英の会議室に集まっていた。

 3人の医療従事者が集まって行うのは……どうやって鈴仙の死を偽装するかの計画立案。

 不謹慎極まる相談ではあるが一度盤面を降りる事を選択した以上は絶対にバレない様に自身の死を偽装しなければならない。

 

「とりあえずコレとコレ、コレが必要ですかなぁ……」

 

 そう語り鈴仙がテーブルに置いたのは数種類の薬剤が入った小瓶。

 看護師であり、永遠亭の主任薬剤師も兼ねていた鈴仙は薬の作用機序を熟知している。

 用意した3種類の薬を飲んで少しすればただでさえ連続した心停止で弱り切っている鈴仙の心臓は耐える事が出来ずに停止。

 間違いなく死亡する……少なくとも25分間は。

 それは鈴仙だけでなくリカバリーガールと八意永琳の2人も同じ結論であった。

 しかしながら……鈴仙に突き刺さるのは母である八意永琳の氷のように冷たく痛い視線。

 永琳は視線で語っているのだ……そんな事をする必要があるのか? と。

 それに対して鈴仙は語る。

 

「全ての成長は死によって止まる……それはそうですが、この鈴仙・優曇華院・イナバは……敗北を前提にカードを切ったりしませんよ……お師匠様の言う通り、劣勢と敗北は別物で……瀕死と死亡は違う……瀕死になるだけです、完全に死ぬ訳じゃない……偽装工作には入念な下準備が欠かせない、それに、暗闇の底から陽の当たる地上へとオール・フォー・ワンを引き摺り出して潰す為には私と言うイレギュラーが居ない事は大前提……ですからしょうがないです」

 

 獣との一線を画す為に、人は躍起になって何かを作った。

 新しい技術を使い、新しい道具を作り、新しいルールや新しいマナーを山程考えて……野蛮さを日常から遠ざける為に死を人目につかない場所に追いやった。

 だが、どれだけの人間が……何万年、何億年、手を尽くしても単純な根本原理は覆る事がない。

 人は……自分達が生きる為に何かを殺す。

 それが今回たまたま自分なだけで……。

 

「私が死を偽装したと知るのは此処に居る御二方と先程の会議に参加した者のみです……クラスメイトや他の教員には一切知らせていません……そして……一応念の為にオール・フォー・ワンのスパイが紛れ込んでいる以上、あの大人数が周知しているのはあまり宜しくない、ですので御二方以外からは私が死を偽装すると言う計画を立案した記憶そのものを改竄、抹消しております故に……偽装を知るのはお師匠様とリカバリーガールのみです……最低限に留めております……後は、宜しく頼みます……」

 

 そう語り、鈴仙は目の前の小瓶、3種類の薬剤を2錠ずつ飲み干すと……薬剤を棚に戻してベッドへと横になる。

 そして……ゆっくりと伸びをしてまるで、いつものように挨拶をして眠りについた。

 

「じゃあ……後はよろしくお願いします……」

 

 そう語り……鈴仙の呼吸は段々と弱まっていき……心臓の拍動も微弱な物となっていく。

 そうして……鈴仙は短い一生を終えた。

 


 

「鈴仙ッ‼︎」

 

「鈴仙さんッ‼︎」

 

 物間寧人と拳藤一佳の2人は……聴きたくなかった知らせを聞いて……世界から色と音が纏めて消失したのが理解できた。

 誰かが叫んでいるが耳に入ってこないし理解したくもない。

 嗚呼……嘘だ、有り得ない……信じられるものか、つい昨日までは容態も安定していたではないか……。

 笑顔を見せていたではないか……嘘だろう? そう願いながらもリカバリーガールと八意永琳さんの居る救護所の扉を勢いよく開ける。

 中へと駆け込み鈴仙が横たわるベッドがある場所へと入りカーテンを勢い良く開くと……真っ先に眼に入って来たのは顔に打ち覆いが掛けられた鈴仙。

 八意さんの方を向いて一佳は叫ぶ。

 

「八意さん‼︎ 昨日まで……昨日まで鈴仙はアレだけ元気だったじゃないですか⁉︎ なんで……なんで、嘘だ、そうだよ……鈴仙が自分に打ってた薬、アレの再生能力は群を抜いている……蘇生出来るかも‼︎」

 

 そう涙を流して叫ぶも首を横に振る八意永琳。

 物間寧人は茫然としつつも最愛の恋人を喪った事実を受け入れられず……鈴仙の遺体に縋り嗚咽混じりに泣いていた。

 一佳の問いかけに対して永琳は口を開きその答えを返す。

 

「あの薬は……失くなった腕や脚や臓器を再生させるだけの再生能力を底上げするだけで……死んだ者を蘇らせる程の薬効は無いわ……そもそもアレは未完成品、今までアレだけの薬効が継続した方が異常なの……さっき、死亡を確認したわ、対光反射無し……死亡判断は……医師だけが判断出来る、鈴仙は死んだわ……」

 

 事実のみが部屋に響き……沈黙と静寂が支配する。

 そして、再度扉が開いて……A組担任、相澤消太が飛び込んできた。

 

「八意さん‼︎ 鈴仙はッ⁉︎」

 

 息を切らして……信じられない、人生で最も聴きたくない報告を受けた担任は……2度と味わいたくなかった感情を味わう羽目になった。

 白雲の様に、死んで英雄になってしまったなんて事を2度と起こさせない為に厳しくしていた。

 だが……全ては手遅れにも程があった。

 死亡診断書を見ると幾度となく心臓が停止した事による負荷が激増し……耐えきれなかった心臓が遂に停止。

 15回以上この短期間で心停止を繰り返して遂に再始動しなかった。

 鈴仙の遺体にはアドレナリンの静脈注射の痕、高濃度酸素投与や気道確保など、様々な医療処置が行われた跡が残っており……必死に救命しようとした結果が残っていた。

 しかし……助けられなかった。

 

「鈴仙……馬鹿ヤロウが……なんで、なんでこんな……冤罪の証明がやっと出来て、これからって時に……なぁ……」

 

 相澤は鈴仙の遺体に軽く触れてそう涙を流して嗚咽混じりに語る。

 相澤は重い足取りで退室して教員室へと戻り自身の席へドサっと倒れ込む様に座り振り返る。

 思えば……鈴仙は非常に優秀な生徒だった、1を聞き100を知ると言っても過言ではないずば抜けた能力。

 個性にかまけないその身体能力は素晴らしかった。

 クラスメイトとはとてもフレンドリーに接して他科の生徒達共交流が深かったのは相澤としても記憶に新しいものだった。

 弱音を吐く事がほぼなく……誰かを救う事に人一倍意欲的だった、そしてインターンでは壊理ちゃんを救って、まるで実の姉妹の様に過ごしていた……。

 タルタロスに収監された際にも不敵に笑みを浮かべていた……そして、地獄よりも厳しいあの奈落の底から脱獄して自身や数多のヒーロー達を救ったのは紛れも無い事実だった。

 しかし、既に相澤消太(じぶん)は……己はその全てを、過去形で語っている。

 確かに鈴仙の死という切っ掛けで連合は動いた、まるで止まっていた時間が動き出したかの様に綺麗に……鈴仙が先んじて渡していた書類と心操人使の鍛え上げられた洗脳により誘引するプランは確立された。

 嗚呼……だがよ? 何一つとして天秤が釣り合ってねぇじゃねか‼︎

 確かに鈴仙が亡くなった事でオール・フォー・ワンのスパイ経由で報告が入っただろう。

 オール・フォー・ワンの尤も警戒するに値する人間が死んだ事でオール・フォー・ワンからしてみれば戦線確保が楽になったと。

 オール・フォー・ワン側から自由に、いつ攻め入るかを決めれると。

 逆に言えば此方側からもそれらを読める程度には分かりやすくなったのだ。

 ……掛け替えの無い大事な生徒1人を、自分以上に未来ある若者の死と引き換えにして。

 で⁉︎ 鈴仙が亡くなった事実はどう変わると言うのか⁉︎ だったらあの時テメェが死ぬべきだったろうがマヌケが‼︎ 教え子に救われて‼︎ 何がヒーローだ⁉︎ 何が教師だ⁉︎ 馬鹿野郎が‼︎ 死ぬべきはテメェなんだよ、相澤‼︎

 机を思い切り、それこそ変形する程の力を込めて殴りつけてこの苛立ちを打ち消すが消えない……。

 ため息を吐いて……意識を切り替えて、相澤は伝えなければならない。

 A組の皆に。

 辛い事実を。

 重い足取りのまま……相澤はA組の皆を集めて語った。




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