脳幹に氷の刃をぶっ刺して……心臓には握り拳程の大穴が空いている。
誰がどう見ても死んでいる状態……念には念を入れて凍が細胞の一欠片すら残さずにバラバラに砕こうとした刹那……オール・フォー・ワンの声音が響き渡る。
「これ……だけは隠しておきたかったんだ、だが……しょうがない」
脳幹を砕き、念には念を入れて脳幹を含めた脳の大部分を氷漬けにし砕いた。
脳とは生物の生存に於いて必要不可欠……個性が溢るる現代に於いて如何に超人社会と言われようとも脳の破損や損傷を受ければ死に繋がるのは説明不要の事象。
しかし、2人は前線を退いていた期間があるとはいえプロヒーローの上澄み。
耳朶を打つ悪魔の声音が響いた刹那……直感に従いズタボロになった死骸から急いで距離を取る。
だが……一手遅かった。
死骸から溢れ出た膨大な量の、回避不可能な範囲でばら撒かれた鋲突が八意永琳と氷叢凍を切り刻む。
凍は両腕の三角筋のⅢ度損傷、腕を完全に使用不可能に追い込まれ、八意永琳はサポートアイテムたるオモイカネディバイスとオモイカネブレインを喪失し左眼と両脚の腱が切断される。
だが……腕が動かない? サポートアイテムが喪失した? だから? そんな程度でこの憎しみが止まるわけない、この怨みを晴らす最大最高の瞬間を取り零す訳にはいかない。
荒い息を落ち着かせて永琳は隣で血を吐いて倒れ伏す親友へと煽る様に語る。
「あら? もう限界なら寝てていいわよ? 凍……腕も使えない状態の様だし? 肋骨が肺に刺さってる……ゆっくり休んでたら? あとは私1人でどうにかするわよ?」
そう告げられた凍は肺に刺さった肋骨を個性を応用して引き抜き、肺の穴を自身の個性を用いて塞ぐと、肺に溜まった血を吐いて呼吸を戻す。
そうして氷で形作った日本刀を支えにして立ち上がると喧嘩腰の口調で八意永琳への叫ぶ。
「ハッ‼︎ 寝てていいのはお前だよ永琳、サポートアイテムぶっ壊れて自由自在の弾幕は貼れないだろ? 何よりも……左眼が潰されて両脚の腱も完全に断ち切られてる……視界半分喪失して歩けないのによくもまぁそんな強がりが出るわ……変わってねぇなぁお前は、あの時と……まっ乗れよ、頑張り賞って事で移動の補助くらいはしてやるよ」
そう語り氷の塊を操作して歩けない八意永琳の移動補助を担当する凍。
八意永琳は血塗れの手で自身の腰に装着しているポーチを確認してアンプルに入れられた薬液を確認する。
そして、専用の注射器を取り出してそれを吸入し……いつでも中の薬液を打ち込める様に準備を整えて語る。
「なぁ……凍、次へと繋ぐこの一手を作る為に……サポート頼んだぜ? 親友」
「おうともさ、お前のソレを貫き通す為に……限界を超えた限界で、全身全霊でやってやるよ……Plus Ultraってな、お前にも限界を貫き通してくれる魔法の言葉をかけてやる」
Plus Ultra……その言葉を聞き、永琳はその手にもつ専用の注射器を握り締めて高笑いし叫ぶ。
「ふふふっ……確かに、魔法の言葉をありがとう、さて……行くぞ‼︎」
完全に再生をした魔王、オール・フォー・ワン。
砕かれた筈の脳幹すら復元しており……巻き戻しとはやはり恐ろしい。
だが……不可逆の巻き戻し故にその絶頂は長く続くものではない、ならば……盛大に、強烈に、激烈に、素晴らしい程に全力でソレを後押ししてやろうじゃないか。
完全再生した全盛期の魔王……どんな個性かは知らないが腕を軽く振るだけで空間が歪み暴虐と死の嵐が吹き荒れる。
しかし、氷叢凍が自身の個性を用いて的確に空間ごと凍結させて停めていく為に接近してくる八意永琳を撃ち落とすまでには至らない。
そうして……顔と顔がくっつく程の至近距離にまで接近をした永琳。
その手に持った注射器をオール・フォー・ワンの眼球へと突き刺して中の薬液を注入すると……すぐに変化が起きる。
オール・フォー・ワンの肉体が激しく燃え四肢が焼けて落ちていく、肉の焼ける音と匂いが充満して……火達磨になったオール・フォー・ワンは絶叫を上げながら叫ぶ。
「なにを……ナニヲシダァァァ⁉︎ ァァァ⁉︎」
声帯すら焼け落ち、再生を繰り返している。
ソレを見ながら八意永琳は注射器を握り潰して荒い息を抑える様にして語る。
「火達磨になりながら聞いてくれると嬉しい、今打ち込んだ薬の説明だ……個性因子、過去にこれを研究する機会があってな? その時偶然見つけた不完全で危険なモノだよ……個性因子に強く誘爆して肉体を滅ぼすまで焼き尽くす、この個性溢るる世界に於いては禁忌の薬……発見した奴は自殺、私を含めた研究チームも危険すぎて凍結、研究結果も焼却処分とされたが……どんな薬も作り出せるが私の個性だ……ソレはオリジナルの薬よりも、お前対策の為だけに特化して調合された……私独自のブレンド品だ……オリジナルのは巻き戻し同様だよ、どんなに衰えた肉体であっても、それを常に再生し全盛期に戻してくれる……だが個性に凄まじい負荷をかけるのか個性が常に暴走するんだ……欠点とも言うべき効能だが、今回はそれを更に強化した……つまりは、簡単に言うと膨大な個性因子を残らず全て、跡形も無く消滅させる薬さ……他者から奪い取るしかしてこなかったな? お前は……膨大な個性因子は幾つだ? 1000か? 10000か? もはやお前自身把握すら出来ていないであろう、いつ奪ったかも分からない様な古い因子もあるだろう? 膨大な個性因子を有するお前へのプレゼントだ、月の賢者を舐めるなよ? 作れない薬などない……お前が有する個性因子が全て消滅するまで無限回繰り返す死がお前に尤も相応しい……あの世で私の親友へ詫びてこい」
オリジナルにあった効能の一部を削ぎ落とし、別の効能を付け加えて、欠点のみを更に追求した最高に欠陥品を極め、ソレのみを追求した薬物。
個性因子の数に応じて肉体を腐らせて……燃焼させ……暴走させ、個性因子が消滅するまでの時間、無限回の死を与える。
「チェックメイト……」
そう呟き……八意永琳は天を見上げて……亡き親友を弔った。
死柄木弔は感覚で理解した。
先生が死んだと。
ならば……この膨大な憎悪を、溢れんばかりの苛立ちを止める者はいない。
ならば……先ずはこの忌々しいステージを砕き壊す。
修復は即座に為されるがそれも無限ではない、いずれ必ず何処かで破綻していく。
問題は……眼前のウサギをどう殺すかであった。
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