その後、旅館でゆったりと過ごした鈴仙。
翌日、11時に集合と伝えられていた為に10.30分にはチェックアウトを済ませて支払いをしようとすると女将さんから告げられる。
「あら、支払いは既に空悟から受け取っておりますので大丈夫です……」
「はい!?」
鈴仙の動きがピシリッと凍ったかの様に動かなくなる。
何かを悟りギャングオルカの名刺を取り出して裏面を確認する鈴仙。
そこには綺麗な文字でこう書かれていた。
「鈴仙へ、旅館は楽しめただろうか? 支払いは既に済ませてある、渡した金はそのままお前にやる、この前の空港テロ未遂の時の御礼だ、お前の好きに使え、ちなみに前もって言っておくがその金を俺に返すなどという選択肢はない」
渡された金は3万円、決して安くはない額である、というか高校生の自分からしたら大金である、しかもこのお金はギャングオルカさんのポケットマネーからであろう……。
しかし、ギャングオルカさんは最初から最後まで読み切っていたのだろう……私がどういった行動を取るか。
お辞儀をしてお礼を伝えながら旅館から出ていこうとする鈴仙。
女将さんから、空悟にも来てくれるように言っておいてねと言伝を頼まれる。
「分かりました、伝えておきます」
そう告げて旅館を後にした鈴仙はギャングオルカ事務所に戻りお辞儀をしてお礼を伝える。
「ギャングオルカさん、ありがとうございました……女将さんからの言伝です、そのまま申し上げます『また来て下さい、私は貴方の事を待っております』と、ていうかいつの間にか支払いしてたんですね……チェックアウトを済まそうとしたらびっくりしましたよ、それとこのお金、ありがとうございます」
「いや、気にするな……空港テロ未遂の事件……お前が居なかったら物的にしろ人的にしろ何らかの被害は確実に出ていた、被害0で終われたのも鈴仙のお陰だ……ありがとう、その金は気にするな、謝礼と思ってくれれば良い」
そうして、ギャングオルカさんは意識を切り替えて告げる。
「さて、忙しくなるぞ? 他の水族館からイルカショーや水族館のイベントに呼ばれている、この前の水族館の後追いをしたいんだろうな……残すところ後2日だが気合い入れ直していこう」
その言葉に、鈴仙は最敬礼をして叫ぶ。
「Aye, aye, sir‼︎」
そうしてギャングオルカより告げられる、密漁船の拿捕、海難救助訓練やトレーニング、そしてギャングオルカとサイドキック達より事務作業などを教えられる、犯罪の種類や対応の仕方などの座学を行いヒーローとは何たるかを学びつつ鈴仙は全国各地の水族館のイベントに出演する事となった。
そうして……2日が経過するのは早いもので最終日前日の夜中。
夜中、夜の海に潜り密漁船の監視に向かう為にウェットスーツに着替えているとスマホにラインの通知が入る。
それは1-Aの皆が入っているクラスメイトのグループに緑谷出久が送ったアドレスのみの文面。
何があったと思案しつつ鈴仙は自身のこめかみをトンッと人差し指で軽く叩いて波長を飛ばして緑谷出久のスマホのGPSを感知して緑谷出久の現在位置を割り出す。
保須市か……同じ裏路地を縦横無尽に走り回ってるって事は……ヒーロー殺しと接敵したか? ……だがいかんせん鈴仙自身は沖縄にいる為何もできない。
出来るのは緑谷出久が送ったアドレスのみの文面に対して注釈を付け加えて危険が差し迫っている事、そして同じく保須市に向かっているエンデヴァーの所に居るであろう轟焦凍を通話で呼び出しつつ要点だけを告げる。
轟焦凍からは了解との言葉を告げられる。
遠隔地にいる為に何の手伝いも出来ないむず痒い思いが鈴仙を包む。
だが……クラスメイト、そしてエンデヴァーもいるのだ、きっと無事だと信じよう。
そうして、鈴仙はロッカーにスマホを置いて夜の海へと潜っていった。
そうしてアワビや伊勢海老、シラスウナギを密漁する者達や船舶を拿捕していった。
大概は外国籍の者でありそもそもとして密入国者であった為に海上保安庁へと連絡後に強制送還になるだろうとギャングオルカより告げられる。
夜の暗い海を光の波長を操作し昼間の様に美しい海中の景色を眺めて、この景色はいつまで経っても色褪せない様に守らなければならないなと、そう決心する鈴仙であった。
ギャングオルカ事務所が主に海難救助や密漁船の拿捕に力を注いでいるのは確かに個性が海難救助や海に関する事案で活躍が期待できる『シャチ』である事も一因であろう。
しかし、この美しい海域を守りたいというのも理由の一つではないだろうか……。
そう思う程に美しい、この海という世界は魅了されてしまう程の美しさを放っていた。
明け方5時、合計で7隻の密漁船舶を拿捕したギャングオルカと鈴仙、相変わらず索敵などの後方支援のみではあったが……。
ウェットスーツからヒーローコスチュームへと着替え終わり10分ほど休憩を言い渡されて海面に乱反射する陽光の美しさを見ていた。
景色もそうだが直接波長が見える鈴仙からはまた違った景色が見える。
陽光が海面に反射し自然が織りなす鮮やかな色彩に加えられた波長を見ているとギャングオルカより声がかけられる。
「さて、最後の日だ……といっても呼ばれているイベントは無い……パトロールも終わってる……あとは……うん? 電話だ、少し待っててくれ」
ギャングオルカの胸ポケット入れていたスマホが振動して電話に出るギャングオルカ。
少ししてからギャングオルカが戻ってきて鈴仙へと告げる。
「この前の空港テロ未遂の件で記者会見をやるそうだ、事件を被害0で喰い止めた功労者として記者会見の際に空港の責任者よりお礼とかがあるらしい」
「あぁあのテロリストの奴ですな、それにしても記者会見ですか……ギャングオルカさんの名前と顔が売れますね、良かったじゃないですか」
「鈴仙も呼ばれてる」
その言葉を聞いて凍りつく鈴仙。
冷や汗を流して鈴仙は苦笑いの表情でギャングオルカへと語りかける。
「……冗談ですよね?」
そう告げる鈴仙に対してギャングオルカは頬を掻きながら告げる。
「本当だ……17時に記者会見だから一旦事務所に戻って休んどけ、海底で動き回っていたろう? 相当な疲労が溜まっているはずだ」
そう告げられて……事務所に戻り一旦休息を取る鈴仙。
そうして記者会見の時刻となり、記者会見がスタートした。
記者会見はつつがなく終わった。
ギャングオルカと共に鈴仙の顔と名前は更に売れた。
しかし、その記者会見を見ていたのは何も友人や市民だけではない。
暗闇に蠢く悪意ある者もそれを見ていた。
そして、その悪意ある者の1人は画面上に映る鈴仙を見て高笑いをして叫ぶ。
「これだ‼︎ これだよドクター……雄英体育祭で見た時は余りの事に信じられなかった‼︎ だがこの個性は『赤外線』や『感知』と言ったサーチ系統の最上位に位置する最高の個性だ‼︎ 是非とも手に入れたいね、仮に個性が取れなくても『女』だ、色々使い道があるだろう?」
椅子に座り、チューブや生命維持装置で命を繋ぎ止めている男はクツクツと悪意を煮込んだ様な表情を浮かべてドクターと呼ばれた者に告げる。
「そうじゃな、女故に子を孕む事ができる、満足いく結果が得られなかったとしても……何回でも、何十回でも子を産ませれば良い、幸いそういう個性は手元にあるからの」
それはそうと、そう前置きしてドクターと呼ばれた者は問いかける。
「出来るのかね? あんな子供に、ワシは先生が前に出た方が手っ取り早いと思うが……‥」
そう問いかけられた『先生』と呼ばれた男は自身に繋がっているチューブや生命維持装置を指で弄りながらドクターへと語る、その口調は酷く穏やかなものであった。
「ははは……なら早く僕の身体を治してくれドクター」
そう告げられたドクターはため息を吐いて残念そうに呟く。
「超再生を手に入れるのが後6年早ければなぁ……傷が癒えてからでは意味の無い期待外れの個性じゃったわ」
そう告げるドクターに対してフフフと笑みを溢す男、男は椅子にもたれかかりながらゆっくりと呟く。
「今のうちに仮初の平和というのを謳歌するといいさ、オールマイト……」