【完結】ウサミミ少女のヒーローアカデミア   作:紅葉紫苑

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神野の悪夢
完全敗北


 15分後。

 

 消防と警察が到着した。

 

 行方不明者である鈴仙。

 

 彼女は……(ヴィラン)に攫われた。

 

 此処に唯一居ないクラスメイトが……その事実が、変えようのない現実が。

 

 クラスメイト達の心に深く深く突き刺さる。

 

 一番動揺し打ちひしがれているのは中でも鈴仙と特に仲が良かった八百万百と拳藤一佳の2人だ。

 特に……八百万百は酷く自分を責めていた。

 

「私が……私が1番近くに居たのに……救けられなかった……それどころか私を逃す為に……鈴仙さんは……鈴仙さんは……」

 

 俯いて、涙を流しながら嗚咽混じりにそう語る八百万百。

 最後に見た鈴仙の表情を八百万百は決して忘れる事が出来ない。

 それは鈴仙が攫われたと聞いた拳藤一佳も同様であった。

 

「鈴仙が……攫われた? 嘘だっ……信じないよ? 私は……信じられないよ……」

 

 拳藤一佳も涙を流しながら、絞り出すかの様に震えた声音を発するが……現実は変わらない。

 

 A組もB組も……鈴仙には勉強や格闘技術、救命トレーニングなどで色々と良くしてもらっている人間が多い。

 鈴仙はその持ち前の明るい性格や少し抜けた性格で他者とのコミュニケーションを円滑に、良好に続けていきあの物間寧人でさえ鈴仙と話す時はいつもの皮肉は殆ど言わない。

 

 しかも最悪なのは(ヴィラン)連合開闢行動隊と名乗った者達に被害がなく誰1人として捕まる事なく生徒を1人拉致して悠々と逃走されたという事実。

 相澤先生が生徒達に30分後に荷物を纏めて集合との指示を出した後でブラドキングやプッシーキャッツのいる部屋へと戻った相澤先生は壁を殴りつける。

 相澤先生やブラドキング、プッシーキャッツの皆もその表情は沈んでいる。

 

 鈴仙からのテレパシーから10秒も経たない内に宿泊施設が3人の(ヴィラン)に強襲され全員がそこに足止めをされた。

 マグネ、スピナー、そして、マスカレイドと名乗った(ヴィラン)

 

 マグネ、スピナーだけならば即座にプッシーキャッツの2人だけで対応出来たが……マスカレイドと名乗った(ヴィラン)は格が違った。

 男か女かも不明、見るからに高級そうなスーツを身に纏った(ヴィラン)

 

 扱う個性も不明、その個性の一端すら見せずに4人のプロヒーローを相手取り苦戦する様子すら見せずに鼻歌混じりの軽い足取りで、まるでダンスでも踊るかの如き足取りで近接格闘のみで圧倒された。

 

「くそっ‼︎」

 

 そうして……林間合宿は最悪の形で幕を閉じた。

 

 

 そうして、翌日。

 

 雄英高校の会議室での緊急会議が行われていた。

 校門の外には週刊記者やマスコミ達が公式見解を求めて殺到していた。

 しかし、そんな事よりも考えないといけない事があった。

 

 重苦しい雰囲気の中で根津校長が口を開く。

 

 

「……(ヴィラン)の襲来に備える為に万全を期した筈の合宿で襲来……恥を承知で宣おう……『(ヴィラン)活性化の恐れ』という我々の認識が何処までも甘かった、奴らは既に戦争を始めていた、ヒーロー社会を粉々に砕く戦争を……」

 

 そう根津校長が呟くと苦々しい表情でミッドナイトも言葉を溢す。

 

「認識できていたとしても防げていたか……これ程執拗で矢継ぎ早な展開……『オールマイト』以降は組織だった犯罪はほぼ根絶されてましたからね……」

 

 ミッドナイトの言葉に乗っかる様にしてプレゼントマイクも言の葉を紡ぐ。

 

「知らず知らずのうちに平和ボケしてたんだよ俺らは……『備える時間が残されている』っていう認識の時点で……(ヴィラン)連合の事を所詮は一蹴して居なくなるもんだと思い侮って慢心し、増長してた、備える猶予があるなんて甘い認識が良い証拠さ……」

 

 スナイプ教諭は認識の甘さとこれからについて語りだす。

 

「とにかく……襲撃の直後に体育祭を行うなど今までの『屈さぬ姿勢』はもう取れないでしょう……生徒の拉致……雄英最大の失態だ……奴らは鈴仙と同時に我々ヒーローの信頼の信頼も奪ったんだ」

 

 スナイプ教諭の言葉に対し根津校長が新聞やネットニュースなどを開いたタブレットを他の教職員へ見える様に持ちながら告げる。

 

「現にメディアは雄英の非難でもちきりさ」

 

 鈴仙が雄英体育祭や職場体験で稼いだ鈴仙自身の顔と名前、最悪な事にそれはそのまま(ヴィラン)連合への注目度になってしまった。

 雄英高校の生徒の拉致、センセーショナルな話題で世間の注目は今、攫われた鈴仙と(ヴィラン)連合に集中している。

 

 何よりも雄英と警察には現状以上の情報がない。

 (ヴィラン)連合はこの襲撃を行う際、よほど念入りに足跡を消して情報を統制していたのか、はたまた不慮の目撃をした市民は全員死んだのか……。

 

 真っ暗闇を手探りで進んでいくこちらに有利な状況など何一つない最悪な状況。

 情報が何もない状況。

 

 何一つとして手立てが無いがそれを理由に諦めていい訳がない。

 

 根津校長が口を開く。

 

「不幸中の幸いと言うべきか……鈴仙さんの『戦闘許可』は解除されていない……彼女ならば自身の置かれている状況を即座に理解して行動に移すだろう……今は、僕達にやれる事を全力でやるしかないのさ」

 

 

 

 

 

 

 そして、生徒達はといえば合宿先からプロヒーローの護衛付きでそれぞれの自宅へと帰されるが……その表情は重い。

 不用意な外出を禁止されているがあんな事が起きた後では外出などするはずもない。

 いつもは騒がしいほど動いているグループトークも怖い程静まり返っており……皆、鈴仙が無事であると祈る事しか出来ない歯痒さを感じていた。

 だけれど……何も出来ない、何の手立ても無い。

 ぶつけようの無い気持ちが……クラスメイト達を包んでいた。

 

 

 そうして、当の攫われた鈴仙本人は……。

 だだっ広い部屋の中心で見知らぬ天井を見上げていた。

 

 傷を見るとしっかりと縫合された跡がある……だが、着る物はない。

 鈴仙は生まれたままの姿で監禁されていた。

 

 個性で探ろうにも部屋全体が電波暗室になっているのか実質的に個性を使っての通信や交信が封じられているも同然であった。

 

「……唯一の出入り口は何重にも閉ざされた鉄の扉の向こう側……食事は出てくる様ですが……情報がなさすぎて困りましたね……」

 

 壁をペタペタと触るがやはり鈴仙のみを対策した部屋であるという事のみが理解できた。

 情報を整理する。

 だだっ広い部屋で100%自身対策。

 部屋の隅っこには浴槽とシャワー、お湯も出る。

 一定時間ごとに食事が出てくる。

 碌な情報がない。

 顎に手を当てて思案する。

 

「さて……と、どうしましょうか」




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