「……? ……ンッ‼︎ 痛ったぁ……脇腹の傷開きかけてるし……」
鈴仙は微睡む頭を叩き起こして周囲を見回す。
病衣を着ており見るからに病院のベッド、しかも個室である。
隣には……椅子に座りながら鈴仙の横でベッドに突っ伏しながら寝ている一佳と八百万さんがいた。
恐らく……意識を失った後……ずっと隣に居てくれたのだろう……疲れて眠ってしまっているのが波長を感じなくても理解できた。
鈴仙が動いた事で布団が動き、それにより微かな振動が起こり眠りから醒めた2人は起き上がっていつもの笑顔を見せてきた鈴仙を見るなりその両眼に大粒の涙を浮かべてガバッと抱きついてきた。
「鈴仙‼︎ ……よかった……生きてた……心配したよ、とても……とても……」
そう涙で顔を濡らしてワンワンと大泣きしながら抱きついてくる一佳。
その隣に居た八百万百も同様であった。
「鈴仙さん……鈴仙さん……すみませんでした……私が、私が弱かったばっかりに……貴女が攫われそうになってた時……私は何も……何一つとして……」
そんな2人の事を抱きしめて鈴仙は言葉をゆっくりと語る。
「八百万さん、一佳……心配をおかけしました……一佳、ごめんね心配かけて……八百万さん、あの時の貴女の行動は決して間違っていません、自分を責めないで下さい……何日経過しました?」
そうしていると……しばらくして落ち着いた一佳から告げられる。
「2日間眠りっぱなしだったんだぞ……鈴仙は……それで落ち着いて聞いて欲しいんだ……鈴仙さ……あの時の、オールマイトの援護をしてた時の格好覚えてる?」
唐突に、脈絡なく、そう告げられる鈴仙。
それに対して、鈴仙はクエスチョンマークを浮かべウサミミをグルングルンと回転させながら言葉を返す。
ウサミミも『分かんないよおお』とでも言うように動きながら。
それを見て顔を引き攣らせ見合わせる一佳と八百万百。
一佳がスマホを弄り何かを検索して『とある動画』を見せてきた。
「これ、報道ヘリが捉えていた映像……」
それを見ると……満月をバックに空中に留まりながら月明かりを浴びる自身の姿がバッチリと映っていた……全裸の自分自身が。
そうして、ゆっくりと地面へと降りていき倒れ伏した所で映像はオールマイトの勝利のスタンディングへと移り変わるが……。
数秒、理解できずに固まるが脳が映像を理解した瞬間に鈴仙は自身の顔が突如としてマグマの様な熱さで火照るのを感じ恥ずかしさから両手で顔を覆いウサミミも力無くヘニョォォォォッとシナシナと垂れていた。
顔から火が出る程の恥ずかしさでその身を震わせつつ鈴仙は力無く、諦めた様な口調と声音で呟く。
「これ……生放送だったモノの切り取りですよね……しかもオール・フォー・ワンVSオールマイトという世紀の決戦だったから日本中の人がコレ見てたんですよね……ま……マジですか? 映像として残っちゃったんです? 私のこのシーン……」
一度ネットに上がったものは一生消える事はない。
ヒーロー殺しステインの慟哭を録画した映像を見れば分かるだろう。
常に削除とアップのイタチごっこである。
一佳が見せてくれたSNSのコメントではこの瞬間に映った鈴仙に対してこんな事が書かれていた。
『ウサギ? いや天使の間違いだろ、こんなん』
『エロさとか超越してる、ある種の神々しさが感じられる』
『特徴的な紅い眼と月明かりに反射している髪が美しい』
『エロいけど神聖さの方が上回るわコレ』
『月明かりを浴びるウサギ……イイ』
『ボディラインも月明かりで引き立てられてる……すご』
『ボロボロに傷んだ髪やウサミミやウサギ尻尾が逆に鈴仙というヒトの美しさを極限まで引き出してるの芸術の域だろ』
などなど……鈴仙に対する評価やコメントが次々と高速で流れていく。
それを見て鈴仙は何とも言えない微妙な表情とウサミミの動きを見せる。
「何とも微妙な……コレは……」
喜んでいいのか分からない評価にウサミミが語る『どうするべきなの……コレっ……』と。
そうしていると扉がノックされる。
入室してきたのはドクターと警察の塚内さん、そしてイレイザーヘッドとクレアボヤンス、ラグドール、そして八意永琳であった。
クレアボヤンスを見た鈴仙の表情は驚き半分、嬉しさ半分といった感じであり、そのウサミミは信じられない程に狂喜に満ち溢れた動きをしていたのであった。
鈴仙には尊敬しているプロヒーローが居る。
それがクレアボヤンスであった。
鈴仙は挨拶と共に差し出された手を握りしめて感動の言葉を告げる。
「本物のクレアボヤンスさんだぁ‼︎ いつも応援してます、お話し出来て嬉しいです‼︎」
クレアボヤンスは眼前のウサミミ少女が自身のファンを語るミーハーではなくまさかのガチ勢である事に渇いた笑みを浮かべて困惑しつつ本題に入る。
八百万百と拳藤一佳の2人は『じゃ、また後でね鈴仙』と告げて病室を一旦後にした。
そうして、ここから先は塚内さんから軽く事情聴取を受ける。
どうやって監禁場所から脱出したのかを……。
鈴仙はあの時の事を思い返しながら語り出す。
時は鈴仙が監禁されていた時点に戻る。
「よし‼︎ コレならいける‼︎」
浴槽やシャワーの水を自身の個性で『壁』を応用して作った『箱』へと入れると熱赤外線の波長や光の波長を操作して極限まで熱した金属溶融体を入れた『箱』を水で満杯となっている『箱』の中で解放する。
その直後……凄まじい轟音と共に爆発が起きて金属の浴槽が爆破の圧力により吹き飛びその威力は周囲の電波暗室の壁を粉々に吹き飛ばしていた。
そして、吹き飛ばされ元の形が判別不能となった『浴槽だったモノ』は唯一の出入り口である何重にも覆われた鉄製の扉をひしゃげさせる程の威力であった。
鈴仙が起こしたのは水蒸気爆発であった。
鈴仙は水蒸気と化した『ナニカ』が混入している水を吸わない様に気をつけつつ封じ込めから解放された自身の個性を扱う。
自身は被害を受けない様に半円形のドーム状に形成した『壁』で防御をしていた為に傷はない。
だが、異変に気付いた者達が大挙して押し寄せてきている、しかし……電波暗室は崩壊しており既にその役割を果たせない。
故に鈴仙はようやく個性を自在に行使する事が出来る。
自身に与えられた戦闘許可は未だ解けてはいない為に。
軍の特殊部隊を思わせる様な防弾ヘルメットに防弾アーマーを着込んだ
それが少なくとも300人以上。
どうやら余程厳重に警備網を敷いていたと思われる。
全員がアサルトライフルとショットガンで武装しており……腰にはSIG SAUER M17とスタングレネードとスモークグレネードが装備されており最新鋭の暗視ゴーグルやインカムまで標準装備ときた。
特に暗視ゴーグルは波長を捉えるタイプであり……平たくいうと意図的に変化させられた波長の屈折率を捉えて対象を見つけ出す特別製のゴーグル。
言うまでもなく確実に鈴仙の対策が講じられていた。
「……私を逃す気はサラサラないようですね」
ひしゃげた扉の陰に身体を隠しつつ銃を構えて警戒しながら踏み入ってきた
普段ならば遅延など一切なく刹那の一瞬で波長操作が通り気絶するというのに……である。
それに対して、あまりにも予想外の事に鈴仙は息を飲み小さく叫ぶ。
「なっ⁉︎」
相手もこちらに気付いた様でショットガン、ベネリM4を構えて撃ってきたが即座に鉄製の扉を盾にして回避する鈴仙。
5秒ほど遅れて波長操作が効き気絶する
荒い息を整えながら
3人程がこちらへと接近している為に手早く行い、波長操作が遅延した理由を突き止めなければならない。
流石に5秒の遅延はあり得ない事態である。
そうして、身体中を透視して見つけた……遅延の原因を。
「な……クッソ‼︎ 自分に向けられた波長操作に遅延が出る様に身体に電波妨害装置埋め込んでやがるコイツ‼︎ てかさっきの掠ってた……にしても……本気で私対策してるな、装備も軍隊と遜色ない程に良いし……どんだけ資金が潤沢なんだコイツら‼︎」
恐らく体内に埋め込まれた電波妨害装置も標準装備として仮定するべきだろう、この1人のみと想定するのは楽観がすぎる。
たったの5秒、たかが5秒、されど5秒、1秒1秒が生死を分ける戦闘という極限状況下での5秒は相手からしたら値千金の価値がある。
逆に鈴仙からしてみれば5秒の遅延は非常にキツイ、その5秒で制圧されかねないのだ。
そして……まるで軍隊と同様に鍛え上げられた
傭兵かナニカであろうか? このレベルの手練れがあと300人は確定しており正面きっての戦闘は現実的ではないが唯一の出入り口には続々と
そして僅かに掠っていたのか脇腹からジワリと滲む血。
縫合した場所であり、ジクジクと鈍痛が走る。
鈴仙は両手で指鉄砲を形づくり指先から波長操作で7.62mmの弾丸状に形成したレーザーを放ちその感覚を確かめる。
「気絶や幻覚に遅延が入るとなると……いつもの手は使えませんね……しかしながら相澤先生の言葉を借りるならば『一芸だけじゃヒーローは務まらない』のです、それを教えてあげますよ」
常に波長操作を行いソナーとサーモグラフィー、そして透視で相手の位置と脱出経路を把握すると駆け出していく。
電波暗室の扉を抜けて少し進むと絶対に通り抜けなければならない通路正面に3人の
鈴仙は息を整えて通路の角から踏み込んで3人組の内、自身に1番近い
そしてそのまま突進し盾にしていた
流石に仲間を撃つのには躊躇いを感じたのかほんの一瞬だけ反応が遅れる2人組。
「その一瞬が欲しかった‼︎」
即座に指鉄砲から弾丸状に形成したレーザーを撃ち込んでよろめかせていき物理的に気絶に追い込む。
波長操作で行える精神的な波を操る方が得意なのだが、レーザーや揺れといった物理的な波長操作もお師匠である八意永琳に叩き込まれた。
その後も的確に
しかしながら……唯一の出入り口は既に
しかし、裏を返せば脱出口にはほぼ全ての
故に鈴仙は息を吸い込み思い切り叫ぶ。
そして、プレゼントマイクの『ラウドヴォイス』を参考にして今即興で作った技……『
前後左右、360°全域に響き渡る、現状は鈴仙にしか聴き取れない超高周波の声。
あまりにも甲高いその声音はもはや超音波の一種であり専用の装備が無いと聞こえない。
今まで会敵した
そうして、脱出口を固めていた
それを確認したあと……現在位置を割り出した鈴仙は突如として遠くを見やり彼方の存在を睨みつける。
「と……そうして脱出した訳なんですが……遥か彼方から『嫌な波長』が大量に感じ取れたのでそちらへと急行して……あとは知っての通りです」
そう締めくくる鈴仙であった。