「……あれ? 皆……どうしたの?」
鈴仙が意識を取り戻して辺りを見回すとクラスメイト達が鈴仙を心配そうに見つめていた。
ソファに寝かされており……そこから起きあがろうとすると八百万百に止められる。
「鈴仙さん……覚えてないんですの⁉︎ 帰ってくるなり倒れ込んで30分ずっと魘されてました……ずっとうわ言の様に『私が悪いです……ごめんなさい許して』って」
それを聞いて鈴仙は自分自身に常に掛けていた精神操作がいつの間にか外れていた事を認識して掛け直そうとするが腕が動かない。
見ると八百万百が右腕を掴んでいた。
「……八百万さん?」
笑顔を作ったと認識しつつ鈴仙は困った様な表情を浮かべて『大丈夫ですよ、心配かけてすみません』と伝えるがクラスメイト達の表情は未だ暗い。
どうしたというのか……。
考え込んでいると八百万百が口を開いて……理由を察した。
「鈴仙さん……何故……涙を流しているんですの?」
「……泣いている? わたしが?」
そう問いかけられて……初めて鈴仙は自身の両眼から大粒の涙が止めどなく流れているのを認識した。
あぁ……ダメだ……弱く脆い精神面を『波長操作』で取り繕った仮面で補強していたのに……ダメ押しとばかりに治崎廻の精神を覗きすぎた……。
怪物と戦う時は自らも怪物にならぬよう、心せよ、深淵を覗く時深淵もまたこちらを覗いている……とはよく言った物である。
神野での戦いのあの日……他者の精神を波長を介して覗き見る事が可能な鈴仙は闇より黒くドス黒いオール・フォー・ワンの精神を精神干渉の副作用で覗き込んだ。
あの時……オール・フォー・ワンに掛けた精神干渉を即座に自身にも重ね掛けした為に大事には至らなかったがそれは対症療法に過ぎない。
そう、酷い事が起こった記憶そのものを『壁』で覆い一時的に隔離するという後回し的な療法、しかし徐々に徐々に慣らしていけば問題ないモノであった、実際に神野の戦いのあの日以降、少しずつ鈴仙は記憶を放出して慣らしていっていたのだ。
今回……オール・フォー・ワンには遠く及ばないが治崎廻の精神を波長として覗いた鈴仙は無意識的に別の『壁』を引っ掻いてしまった。
幼い頃の『忘れ去りたい』記憶……『思い出したくない』記憶、無意識的に『封印』していた……幼い時の記憶が溢れ出て……そして耐えきれずに気絶した。
そして……恐らくはソレが原因で今に至っている。
私がヒーローを志すに至った記憶であり……だが……同時に忘れ去りたい程『幼かった』自身には耐えきれず、今まで『壁』を作ってまで直視しない様にしていた記憶。
……鈴仙の身体はガタガタと震えており未だに止めどなく溢れ出る涙、鈴仙の気持ちを察した八百万百が鈴仙を抱き寄せて呟く。
「大丈夫です……鈴仙さん、ここには皆がいます、何かあったら助け合える仲間がおります……何があったとは問いません……話したくなければ大丈夫です……しかし、貴女には貴女を心配しているクラスメイト達がいるのを忘れないで下さい」
そう告げられて……鈴仙は顔をクシャクシャにして……大粒の涙を流しながら八百万百の言葉に頷いていた。
そうして、鈴仙は涙を拭うと……八百万百や皆に心配をかけて済まなかったと謝罪をして……何故こうなったかの理由を語り始める。
八百万百からは無理しないで下さいと告げられるが……この事は恐らく
あの男の精神を垣間見た鈴仙には良くわかっていた……最も嫌がる事を最も嫌がるタイミングで打つのがあの男だ。
無いとは思うが……もしも
「先程の私の気絶……それは私の過去に起因しています」
ぽつりぽつりとそう語り始めた鈴仙。
クラスメイト達は静かに聴いていた。
「……私の母は私が4歳の頃に
鈴仙は語る。
金儲けの道具にならないと判明するや否や親戚中をたらい回しにされ続けてネグレクトも両手の指じゃ足りない位経験した。
そうして……もはや何度目かも分からないネグレクトを受けて……5歳の頃に
そして……当時は鈴仙自身が幼く、また今程『波長操作』を習熟しておらず上手く扱えないのもあり……暴走したソレは
「それを見て……当時子供であった私は……ソレが引き金になって元々抱えていた押し潰されそうな希死念慮が自殺念慮に変わり……自ら死を選ぼうとしたんです……こんな私が生きててもって……人を殺した私なんて生きている価値が無いって」
そこで一度言葉を切り、息を整える鈴仙。
皆……一言も語らず……沈黙であった。
「ですが……お師匠様に、八意永琳……に助けられたんです、医師の特権を利用したかなり無理矢理な方法でしたが……そして、その時思ったんです……誰かを救けられる様なヒーローに私もなれるのかなって……もうこの両手は血に塗れて、穢れきっているけれど、こんな穢れた手では誰かを頼る事は出来ないけれど……って」
そうして……言葉を切る鈴仙。
ソレを聴いてクラスメイト達は一同思い返していた。
自分達が鈴仙を『頼る』事はあっても鈴仙から『頼られた』事は無い。
思えば……最初から鈴仙は全ての事を1人でこなしていた。
誰にも頼らずに……あの林間合宿の襲撃の際だって鈴仙は誰かを頼る事はしなかった。
心の何処かで鈴仙は思っていたのだろう……こんな私が誰かを頼る事なんて出来ないと。
「……ごめんなさい、ずっとずっと私は……こんな私は
人を殺した者がヒーローになろうなんて……そう告げた刹那。
八百万百と耳郎響香が鈴仙を抱きしめ告げる。
「貴女は何も悪くない……だから……居なくなるなんて言わないで下さい……」
「鈴仙……アンタが悩んで苦しんでも私たちが居る……頼ってよ……友人だろ⁉︎」
それを聴いて……鈴仙の涙から再度涙が零れる。
そして、鈴仙の小さな呟きが響く。
「私……
その言葉に対して……クラスメイト達が口々に肯定の言葉を告げる。
波長を感じ取っても鈴仙への嫌悪は誰にも見られない。
それを見て涙が止まらず……大声でわんわんと泣き叫ぶ鈴仙を優しく抱きしめるクラスメイト達であった。