「ハァッ……ハァッハァッ……ゼッ……ハァッハァッハァ」
口から血を吐きつつ身体が中から爆発したかの様な怪我を負って……息を切らしながら何処かの家屋の窓をこじ開けてリビングの椅子にもたれて息を整えつつ隠れるトガヒミコ。
その左脚からはとめどなく血が流れておりそこらの家から奪ったタオルで応急処置として止血しているが芳しく無い状況であると彼女自身も理解していた。
爆ぜた脚の肉から薄らと骨が見える程の怪我。
しかし、痛みで冴え渡る視界と思考……。
血の跡を辿って異能解放軍幹部キュリオスとその取り巻き達がドアを開けて入ってきた。
そして、トガヒミコがこじ開けた窓からも……。
トガヒミコはダッフルコートを脱ぎ素早く跳躍して壁を蹴りつつ取り巻きの1人の解放戦士にダッフルコートを巻きつけると勢いをつけて頸椎を圧し折る。
ベキリッ……骨の折れる鈍い音と感触がトガヒミコの手に伝わり、それと共に物言わぬ骸と成り果てた解放戦士の1人。
しかしながら多勢に無勢は変わらない。
素早くカランビットナイフと普通のナイフを両手で持ちどちらも逆手で構えながら素早く翻弄する様な動きで取り巻きにしかなっていない隙だらけの一部の解放戦士の頸動脈や頸椎を何度も何度も刺していく。
人は頸動脈を刺されれば大出血の後に血で溺れて呼吸が出来なくなり死ぬ。
頸椎や脊髄も酷く損傷すればこれもまた死ぬ。
いくら個性でシャチやライオンや何かの動物的特徴を得ようとも、いくら個性で素体が変化しようともその大元がヒトである以上は弱点は変わらない。
そして、解放戦士達は一つ重大な勘違いをしていた。
所詮はトガヒミコをただの女子高生だと、細いその腕で振るうナイフで切り裂くか相手に変身して誑かしその隙を狙う程度しか能がない者だと。
しかし、そんな程度で歴戦のプロヒーローや悪に対して化け物のような嗅覚を持った一部の警察官を撒ける訳がない。
闇に紛れる様な気配の消し方や視線誘導、その他にもミスディレクションや相手が気を抜いた一瞬を狙う技術を独学ながら極限まで磨き上げた。
ナイフ術も独学ではあったが義爛から紹介された傭兵上がりからキチンとした扱いを教え込まれた。
しかしながら……眼前の相手とは少し相性が悪い。
「人を殺す事に躊躇いがない‼︎ 素晴らしいですわ‼︎ 一体どんな人生を歩んできたのかしら⁉︎」
そう恍惚とした表情で叫ぶキュリオス。
トガヒミコは彼女の個性を思い返して舌打ちする。
キュリオスの個性は『地雷』。
触れたモノを爆弾に変えてキュリオスの意思で自由に爆破させられる。
殺傷力自体はそれ程でも無いが……数でカバーされている。
何よりも市街地では地雷の変換先など腐る程ある。
そして、まさか対象が人の場合、体液まで地雷に変わるなど思いもよらない、変身先の血液を複数人から摂取した瞬間に体内から爆ぜた為にこの場の解放軍に変身するという手段は悪手だ。
誰が地雷化されているか不明、こちらの傷が広がるばかり。
キュリオスは恍惚とした表情のままトガヒミコに語る。
「
キュリオスの取り巻き達が襲いかかってくるが幾ら鍛えてると言っても所詮は人間でありトガヒミコの視界に映るソレラにはナイフの刃を防げる個性がいないのも視認した。
故にダッフルコートを脱ぎ捨てて解放戦士の1人の首に巻きつけると先程と同じ様に頸椎を圧し折る。
そして隣にいた主婦と思わしき解放戦士の肩を突き刺して痛みに仰け反った一瞬を突いて足払いで体勢を崩しつつ主婦の腹を思い切り踏みつけて動きを止めるとブーツの靴底に仕込まれたナイフを展開して主婦の首を踏む。
短い呻き声と共に鮮血が撒き散らされるが依然として、不利な事に変わりはない。
テーブルを蹴って盾にして何とか2階に上がり2階にいた解放戦士の女子中学生を顔を掴みその喉へとナイフを躊躇う事なく刺し殺すと死体を隠して今し方殺した女子中学生に変身して服を脱ぎ捨てて装備だけはどうにか隠しつつ何とか退避する。
場所を変えて息を落ち着かせる全裸のトガヒミコ。
その手に持つ物と言えばナイフが1本にカランビットナイフが1本、腰に着けていたポーチ、それに装備であるシリンジ付き吸血マスク。
ダッフルコートはトガヒミコお気に入りの物であったが命には変えられない。
しかし、装備を整えたとは言え今ので何人殺したのだろう。
100から先はもう数えてないが相応の数を殺してる、ナイフの刃も脂で切れ味が相当落ちてきており一度距離を取りこの脂を落とさなければならない。
別の民家に入り込み解放戦士を殺した後で水でナイフを洗いつつ汚れを落とす。
そして、トガヒミコはポーチを見る。
その中には血液のストックが入っている。
鈴仙の血液のストックが。
画面越しの雄英体育祭で観た彼女を、初めて見た時の彼女を……トガヒミコは今でも思い出せる、何せ初恋だ……相手が同性だろうと構わない、惚れたのだ。
あの時の感情は、雷に打たれたかの様に走った電流は……後にも先にもあの時だけだった。
カァイイなぁ……血に塗れていたらもっとカァイイ……そしてその時は訪れた。
ボロボロになりつつも
その時に思ったモノだ。
あぁ……鈴仙が愛おしいと、あのままでも愛おしいが血塗れでボロボロの姿だったら尚の事、綺麗だと、カァイイと。
鈴仙をアジトへと運んだトガヒミコは鈴仙の血を失血死寸前までチウチウと吸い全てを保管していた。
大事に、とても大事な宝物の様に……ポーチに保管して小分けにしていた。
荒い息を整えつつ豪邸と呼べる家屋に身を移し……ポーチから取り出したソレを愛おしく抱きしめているとやはりというべきか……市街地全域に張り巡らされていた監視カメラで位置を特定したのかキュリオスが叫ぶ。
取り巻き達もだいぶ減ってはいるがまだ目算で20人は残っている。
「トガヒミコ‼︎ トガ家長女‼︎ 8月7日生まれの17歳‼︎ 中学卒業と同時に失踪、ご両親への突撃取材はご覧になられましたか? 中学の同級生にインタビューした映像は? 皆言ってましたよ? とても明るく聞き分けの良い子だったと‼︎ だから何故‼︎ あんな事を‼︎ 何故普通の暮らしを捨てたのか⁉︎ 教えてくださるかしら? 何故貴女は狂気に堕ちたのかしら⁉︎」
ソレを聞いて……キィィッと軋む様な音を立てる扉を開けつつ大小様々な傷から流れた血に塗れたトガヒミコはキュリオスと取り巻き達にその表情を見せて問いかける。
「普通の暮らしって何ですか?」
触れれば壊れてしまうかの様に脆く儚いと感じさせる様な人形の如き笑みを、恍惚とした表情を浮かべつつトガヒミコは語る。
「私は貴方達解放軍さん好きですよ? とっても素敵に世の中を変えようとしてる……私も普通に生きるのです」
全く前後の脈絡なく繋げられた言葉と、その血に染まった顔で浮かべる狂気的な笑顔が……一瞬だけ取り巻き達に隙を作った。心を奪った。
そして、その隙を見逃す様なトガヒミコでは無い。
疾駆し反応される前に15人殺した。
だが……そこまでであった。
脚の傷を無視してここまでやったが限界が訪れる。
疲労も溜まり傷もズキズキと限界を訴えており、倒れ伏して……荒い息を整える事すら出来ない。
トガヒミコはその手に宝物を持ちながら。
キュリオスは裸で倒れ伏すトガヒミコをみながら語る。
「『普通に生きる』興味深い言葉です、先程のアレ、アレこそが貴女の素顔……やはり私の勘は衰えてなかった‼︎ 貴女は超人社会の闇を体現する存在‼︎」
嬉しそうに語るキュリオス。
その言葉をもはや動かぬ身体を動かそうとしているトガヒミコの耳に届く。
「身体の内外共にボロボロでもはや動く事すらままならない、あぁ……なんてカワイソウに‼︎ 異能の抑圧で自分を殺した哀れで不幸な少女、それが貴女よトガヒミコ‼︎ 『個性カウンセリング』……自他理解の歪みを矯正して社会性の擦り合わせを施す
そう語るキュリオス。
それを聞いたトガヒミコは痛みに震える手で辛うじて握っていたナイフを持って眼前のキュリオスを刺そうとするがキュリオスが所有していたアイテム。
キュリオスバンクによってその顔面を爆破で裂傷を負わされる。
うめき声と共に仰向けで倒れ込む裸のトガヒミコに対してキュリオスは優しく膝枕をして語りかける。
「貴女の普通と解放軍の目的に相違はありません……なればこそ貴女は解放軍の正しさを確立できる存在と、人柱となるのです……貴女の死で悲劇を確立させましょう……貴女の人生は【聖典】として語られるでしょう、私の推察、間違っていたらご指摘を……貴女の口からお聞かせください、でなければこのインタビューは完成しません」
なんとか息を整えたトガヒミコはキュリオスを振り払いふらふらの状態で装備をその手に逃げようととする。
トガヒミコは心底思った。
(嫌な人‼︎ 私はちっとも不幸じゃ無い‼︎ 嬉しい時にはニッコリ笑って‼︎ 好きな人とキスをするように私は好きな人の血を啜るの‼︎ 私は不幸なんかじゃない‼︎)
そう思いながらその手に持っていた宝物を啜る。
その瞬間、トガヒミコの外見が変わる。
鈴仙のモノへと。
それを見たキュリオスは感極まった声音で叫んでいた。
「『変身』‼︎ なるほど……血のストック‼︎ やだ泣かせないで‼︎ 知ってるわ‼︎ 貴女の異能は『外見』だけしか変わらない‼︎ だからでしょう? せめて最期は可愛らしく‼︎ あぁなんて健気‼︎ なんてかわいそう‼︎ 貴女の言葉を下さいよ‼︎」
迫るキュリオスの兇刃、それに対して……トガヒミコは強く思う、何かないかと。
脳裏に思い浮かぶのは鈴仙の姿であった。
あの笑顔、あの表情、あの血に塗れたボロボロの姿、鈴仙の裸体、心底一目惚れだった。
なのに……なのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのに……。
こんな所では終わらない‼︎ 終われない‼︎ 終わってなるものか‼︎ 私もイナバちゃんみたいに‼︎
トガヒミコの絶叫が響き渡る。
「ヤアアアアアアアアアア‼︎」
刹那……トガヒミコの視界に……というよりかは身体全体にある変化が起きた。
不思議なモノが見えた、不思議なモノが感じ取れた。
光の線や音の線、そして可視可能な光線や本来は見る事が出来ない線が。
身体中で感じ取れる、これは……鈴仙の個性、波長を操り支配する個性‼︎
そして……一度鈴仙から本気のソレを喰らっているからこそ直感的に理解する扱い方。
光を手繰り寄せて撃ち放つ。
ジュッと焼ける音がしてキュリオスを除いた解放戦士達がその額を撃ち抜かれて倒れ伏した。
それを見たキュリオスは叫ぶ。
「なっ……何で⁉︎ 彼女の個性届けでは確かに外見だけと‼︎ まさか‼︎ 伸ばしたというの⁉︎ この土壇場で‼︎ この極限状態で‼︎ 死への恐怖が……異能を‼︎」
それを聞きながらトガヒミコは心の底から思いを告げた。
(見てたよ、イナバちゃんの『個性』の扱い方……)
「私は恋して生きて普通に死ぬの……私はもっと『好き』になる」
それを聞いたキュリオスは感極まった声で叫ぶ。
「とっても素敵ないい見出し……素敵な、最高の記事に……」
トガヒミコは鈴仙がBARで施していた生命維持に必要不可欠な波長をめちゃくちゃに弄り回す波長操作をその身を持って実感している。
故に……感覚は既に掴んでいた。
キュリオスの脳波や心拍や神経伝達をぐちゃぐちゃに壊して息の根を完全に止める。
完全に死んだのを確認して……負担が大きすぎたのかいつもよりも極端に速いスピードで変身が解けてトガヒミコは……全裸のまま床に倒れ伏した。