那歩島実地研修
「りょーかいです、今ヒーローが向かいますので絶対にその場を動かない様に……いいですか? すぐ救助に向かいますので」
鈴仙がそう告げて波長操作を行いこちらの言葉を少しの間聴こえない様にする。
そして雄英高校ヒーロー科出張事務所にいるメンバーに告げる。
「離岸流に巻き込まれて沖合の離れ小島に漂着した子供と母親からの救難の波長を感知しました……蛙吹さん、砂藤さんとお願いします……」
そう告げると波長操作を解除して自身の声を飛ばす。
メモを取りつつ対応を行う。
「えぇ、状態を詳しく教えて下さい……えぇ……強く頭を打ったのですね? 気分を教えて下さい、眩暈と吐き気……手足の痺れ……安心して下さい、娘さんは必ず助けます、蛙吹さん、砂藤さん、行きがけにDr.マイアミを拾ってから行って下さい……後これをDr.マイアミに見せてください」
怪我をした状態を記した問診表とメモ書きと必要な物品のメモを手渡す鈴仙。
那歩島で3週間の実務的ヒーロー候補生育成プロジェクト……それに雄英高校1-A組21名は参加していた。
まぁ実務的ヒーロー候補生育成プロジェクトと言っても本土からかなり遠い島、
島民の耕作機が故障したり農作業などの最中にぎっくり腰になったりと……海水浴や自然を満喫する観光客のトラブルだったり海での海難事故だったりだ。
PCのキーボードをカタカタと叩いて報告書を纏め上げた鈴仙はグイ〜っと伸びをして八百万百に語る。
「さて……パトロールも兼ねてちょっと外に出てきます」
そう告げて出て行こうとした鈴仙は手元の電話が鳴ったので受話器を取ると焦った様な子供の声音が聞こえてきた。
『お姉ちゃんが何処にも居ないんだっ‼︎ 助けて……』
そう告げられて鈴仙は子供の電話から聴こえる波の音と鈴仙達のヒーロー事務所に届く波の音の時間差や漁港に停船している船舶にぶつかる波やその他色々な情報から子供の今いる位置を特定した。
そして腰に下げたルナティックガンを介して音波を今子供が電話をかけている位置から半径10km圏内を波長操作を応用して精査する。
鈴仙はため息を吐きながら受話器を置いて該当の場所へと移動する。
空中で波長操作の応用で透明な壁を作ってそれを利用して跳躍と音による高速移動を繰り返して移動し到着すると帽子を被った男の子と目が合う鈴仙。
鈴仙は目線が合う様にしゃがみ込んでにっこりと笑みを浮かべて挨拶をする。
「電話口で対応した鈴仙です、お姉ちゃんが居なくなったのはほんと? 写真とかあるかな?」
そう安心させる様に笑みを浮かべて対応する鈴仙。
それに対して子供がコクリッと頷く。
スマホの写真を見た鈴仙は腰に下げたルナティックガンに触れて波長を介して那歩島全域に波長を張り巡らせてソナーの様に波長を張り巡らせる。
すると……見つかった。
子供を抱き抱えてそこへと向かう。
どうやらお姉ちゃんは島に来た雄英高校1年A組21名を快く思っては無いらしく弟の手を引いて行ってしまった……。
行ってしまう直前に『思ったよりも早かった』という言葉を溢したのでまぁ……虚偽通報か怪しい線引きではあるが……一応注意はしとくかな。
音による振動を利用して高速移動、そして跳躍して姉と弟に追いつく。
「さてさて……ちょーっとお話ししましょうか、大丈夫……怒ったりはしません」
そう前置きして鈴仙は『イソップ物語』の一節の童話を引き合いに出して諭す。
2分程度の話しではあるが
「嘘をつくと、どうなるか……これで分かったでしょ? さっきの通報は嘘ではないにしてもギリギリの所なの、例えば家が火事になったり、家に泥棒が入ったって嘘の通報をして……それが何度も何度も起こったら本当の事態の時に『あぁ、またあそこの通報か……後回しでって』……嘘をついて困るのは巡り巡って自分達になっちゃうんだよ」
そう優しく諭す鈴仙。
弟の方は何となく分かってくれているが姉の方は『そんなの知らないッ』と叫んで弟を連れて家へと行ってしまった。
難しい年頃……まぁ周囲の大人達もいるし悪い方向には進まないだろう。
鈴仙は高台から見える景色をしばし堪能し5分程ゆっくりと見ながら事務所へと戻った。
芦戸三奈から問いかけられる。
「迷子見つかった?」
スーツを脱いでネクタイを緩めた鈴仙はPCと睨めっこし報告書を纏め上げながら言葉を返す。
「えぇ、まぁ……結果としてこちらを試す様な結果だったので軽い注意を行いましたが……芦戸さんは道路の土砂崩れの対処に当たってたんですよね? どうでした?」
そう返すと芦戸三奈はサムズアップとキラリッとした笑顔で答えを返す。
酸で溶かして青山のレーザーで撃ち砕いたらしい。
そうこうしていると島民の人達がとれたての魚を捌いて刺身や煮付け塩焼きにしたり新鮮な野菜を使った煮物やサラダなどを差し入れに来てくれた。
それを見聞きして一気にテンションが上がる皆。
夕飯となり差し入れで貰った食事を頂き鈴仙は洗い物の担当であった為に洗い物を済ませて夜風に当たっていると隣に耳郎響香がきた。
「隣いいかな? 鈴仙……」
おずおずとそう問いかけてきた耳郎響香。
別に許可を取る程の事でもないのにと、そう思いながら笑顔で了承する。
「いいですよ、どうしましたか? 浮かない顔をして……」
何となく……悩みがある様な、少し暗い顔をしていたので鈴仙は耳郎響香へと問いかけると耳郎響香は自身の個性についての悩みを吐露しはじめた。
「ウチはさ……この
それを聞いて……鈴仙は耳郎響香の眼を見ながら語る。
「……耳郎響香さん、それは誰だって思う事です……私だって私より応急処置や個性の使い方や応用をずっと上手く出来る人とどうしても比べてしまう事だってあります……ですが自分の事を誰よりも信じる事が出来るのは世界中で自分だけです……何よりも私にはないものを耳郎響香さんは持っています……それをどうか忘れないで……」
そう告げると少し物悲しそうな顔をしたまま耳郎響香は事務所へと戻っていった。