そうして……作戦が開始された。
スライス対応部隊・飯田天哉、常闇踏陰、芦戸三奈、切島鋭児郎、瀬呂範太。
キメラ対応部隊・轟焦凍、爆豪勝己、緑谷出久、上鳴電気、八百万百、心操人使、耳郎響香、蛙吹梅雨。
ナイン、カンデラ、エコー対応……鈴仙。
島民及び観光客保護部隊・葉隠透、麗日お茶子、峰田実、砂藤力道、尾白猿夫、障子目蔵、青山優雅。
潮の満ち引きによって一定時間のみ現れる城跡に続く天然の道を悠々と歩いてくる3人を波長を通して確認した鈴仙は分断作戦の要を担っていた。
即ち……攻撃を避けて分断せざるを得ない状況に追い込む役目。
「
空中に壁を展開して宙を自由自在に揺蕩う鈴仙。
四方八方からレーザーの弾幕を放ち弾幕の密度を上げていき無理矢理分断すると鈴仙は呟く。
「第一段階……完了……後は……ッ‼︎
爪の弾丸を『障壁』を展開する事で回避する鈴仙。
カンデラとエコーも臨戦体制に入っており光と音を操ろうとしたがそれをさせる鈴仙ではない。
波長操作は鈴仙の独壇場、故に他者が入り込める余地など与えない。
鈴仙は自身の精神の波長を操作しつつカンデラとエコー、そしてナインへと言の葉を叫ぶ。
「波長を操り支配する……私の個性を舐めてもらっては困る‼︎ 現実と夢の狭間の世界を彷徨うがいい‼︎
……
精神操作に関して鈴仙の右に出るものは居ない。
この
無限に続く楽園と、自身の感じる最上級の悦楽の牢獄に閉じ込められて……人はそこから抜け出そうなんて気力はあるだろうか……答えはほぼ不可能である。
楽園の悦楽により夢と認識するのですら至難の業……。
「さて……もっと強力な夢見せておこうかな、カンデラとエコーはともかくとしてナインの精神構造はだいぶ強固だ……」
そう1人呟き完全に夢へと誘われているカンデラとエコー、ナインに近づく鈴仙。
その刹那……ナインの丸太の様に太い腕が鈴仙の細い首を捻じ切らんと動く。
咄嗟の事に回避が遅れた鈴仙。
「ガッ……な……んで……夢の……か……確実に夢幻の悦楽世界へと誘った筈‼︎」
ギュゥゥゥゥッと凄まじい握力で首を絞められており鈴仙は口の端から呼吸ができない苦しみから唾液を垂らしつつ手足をバタバタと動かしてジタバタともがくが抜け出せる様な状況ではない。
意識が遠のいて気絶する前に鈴仙は腰に下げているルナティックガンを構えて撃ち込む。
散弾状に展開された波長の弾丸は正確にナインの神経を阻害して鈴仙の首を絞めている腕を使えなくさせる。
そうしてネックハンキングツリー地味た状態から解放された鈴仙だが今のルナティックガンによる銃撃で目醒めたナインが語る。
「……やはりアレは夢の世界か、良い個性だな……奪う価値がある‼︎」
そう呟いたナインはカンデラとエコーを叩き起こすと鈴仙を空気に壁で押し潰そうとするがそれをさせる程甘くはない。
カンデラとエコーは光と音を操る故に鈴仙が完全にその個性を無効化しており素の身体能力で戦うしかない状況だがそれにしても……波長操作の効きが悪い……というよりも光と音の波長操作が先程よりも格段に効力が跳ね上がっている。
ナインの攻撃を避けつつ透視によりカンデラとエコーのポケット内に薬液が入ったアンプルを見た鈴仙はそれが何なのかを一目で理解する。
「極度の依存性や尋常じゃない副作用から違法とされた個性効力増幅薬……」
鈴仙は過去に八意永琳より教え込まれた違法薬物の種類を記憶から引っ張り出して効果時間と効能を推測する。
確か……スプレッドとかいう名称の薬物だった筈。
不純物がとても多いゴミの様な粗悪品ですら7桁の金額から取引されており最低2週間は効能を持つし劇的に……個性を強化する……。
アンプルに僅かながら残った薬液の成分を識別するに純正品……しかも最高級品の純度……どこから仕入れたのだそんな代物を。
素人の推測だが恐らく3ヶ月は効能を発揮するし鈴仙の波長操作には及ばずとも相当の脅威になるであろう。
舌打ちをしつつ鈴仙は冷静に落ち着いて対処を行う。
落ち着け……鈴仙、そう鈴仙は自身に言い聞かせる。
決して闇雲になるな、決して冷静さを欠くな、いつだって攻め手は激烈に、されと守りは堅固に、心は熱く太陽の如く燃やせ、しかし頭は極寒のブリザードの様に冷静に……。
そう呟き弾幕を維持しつつ空中に退避してナイン、カンデラ、エコーの3人を見据える鈴仙。
その赤い瞳は真っ直ぐに……3人を見据えていた。
それと時を同じくして……キメラ対応部隊が分断されたキメラの対応に当たっていた。
蛙吹梅雨がその舌をキメラの脚へと絡ませて深い水源に叩き落とし轟焦凍が動きを取らせる間も無く氷漬けにする。
しかし苦もなく脱出して軽口を叩くキメラ。
「おいおい……辞めてくれよ、お気に入りのトレンチコートがずぶ濡れだ、寒いのは苦手なんだ……それに、今日の俺は本気だぜ?」
高級そうな葉巻を口に咥えて火を吹いて着火するキメラ。
それを見たA組のメンバーは轟焦凍、緑谷出久、爆豪勝己を筆頭に攻撃の手を休める事なく攻め続ける。
轟焦凍は半冷半燃で、緑谷出久はワン・フォー・オール45%の打撃で、爆豪勝己は鈴仙に勝つ為に練り上げたクラスターで……。
そして、3人以外の皆もキメラを倒す為に全力を賭していた。
心操人使は鈴仙の教授により自身を洗脳する事でワン・フォー・オール25%に匹敵する身体能力を引き出しての打撃や操縛布でのサポートを行い。
八百万百は50口径狙撃銃を創造してゴム弾での狙撃でのサポートを行い。
耳郎響香は爆音による精神的なストレスによる疲弊と並行して鼓膜などを狙い撃ちして直接的な肉体への攻撃を仕掛ける。
上鳴電気は電撃による攻撃を行う。
しかし、異常なまでのタフネスを有しており全く効いている様子は見られない。
それを見て上鳴電気がぼやく。
「鈴仙が……クラスでも攻撃に特に秀でた奴らを固めた理由が分かった気がするよ‼︎」
そう叫びつつ電撃を更に放つ上鳴電気に対して電撃を煩わしく感じたキメラは岩盤を抉り取り上鳴電気へと投擲してきた。
爆豪勝己は粗野で乱暴に……粗雑に、しかし的確な指示を告げつつ投擲された岩盤に対処する。
「チッ‼︎ ウサギ女の言う通り異常なまでのタフネス‼︎ クラスターを何発も撃ってんのにまるで効いてねぇ‼︎」
爆破を繰り返し続けてジクジクと痛みが増してくる両掌……そして爆破による衝撃により筋肉疲労による激痛が襲いかかる爆豪勝己。
しかし、それは轟焦凍や上鳴電気、心操人使、八百万百、耳郎響香も同様であった。
轟焦凍は半冷半燃とはいえ未だに炎はコントロールがブレる事がある……最早凍傷とも言う程に自身の肉体を冷やしすぎてしまっておりその身体と吐息は大技を撃てて残り2〜3発といった感じであった。
心操人使も自身の洗脳する事により本来なら出せない力を無理やりリミッターを外して出力しているもののリミッターを解除していると言う事は本来想定していない出力という事……心操人使の身体も限界を迎えていた。
上鳴電気も電撃を放ちすぎて限界が近くなってきており。
八百万百も脂質を代償に50口径の弾薬を創造していたが10マガジン目となると疲弊が重なってきて動けない状況となる。
現状、未だ余力が有るのは緑谷出久と耳郎響香……それに爆豪勝己と轟焦凍のみ。
後のメンバーはサポートに回るので精一杯であった。
爆豪勝己がその腕に装着した籠手で吹き飛ばしてもキメラは何ら問題なく耐えていた。
轟焦凍が氷漬けにしても数秒で抜け出した……。
しかし、A組のメンバーは常日頃から自分達に言い聞かせている。
Plus Ultraと……。
限界を超えた限界を、本気を超えた本気で以って打ち勝てと。
それに……ここにいる全員が鈴仙より指導を受けその個性を、その力を格段に向上させているのだ。
「ここで負けたら……鈴仙さんに会わせる顔がない‼︎ ここで負けたら……学んだ意味がない‼︎」
そう叫ぶ緑谷出久。
それに呼応する様に心操人使は自身を更に深く更に強く洗脳する。
「せっかくヒーロー科に編入出来る程に鍛えてもらった……鈴仙に認められた……鈴仙に鍛えてもらって、鈴仙に師事したんだ……ここで負けてどーすんだ」
そう呟いて操縛布を更に強く握りしめて深い所まで更に深く深く洗脳して出力を底上げする為に自身の奥底へと潜る心操人使。
「常に言ってますもの……Plus Ultraって‼︎」
八百万百がありったけの脂質を代償に更に追加で50口径弾薬を8マガジン分創造する。
「ここで負けてたらウチは鈴仙に師事した意味がない‼︎」
耳郎響香がイヤホンジャックを展開してそう叫ぶ。
「ここでやらなきゃ……いけないんだよ‼︎ 鈴仙は1対3の不利な状況で頑張ってんだ‼︎ 数的有利である俺らが弱音吐くわけにはいかないっしょ‼︎」
上鳴電気がそう叫びつつ電撃を放ちキメラの動きを数秒ながら封じ込め。
「絶対負けねぇ‼︎」
轟焦凍が自身の凍傷を無視して更に氷漬けにする為に氷結を放ち。
「俺ァ……あのウサギ女に敗北の2文字を叩きつけるまでは他の奴には死んでも負けらんねぇ‼︎ やるぞテメェら‼︎」
爆豪勝己が己も含めた皆を鼓舞する。
そうして……1時間後……クラスターを限界まで放ち、氷結で足止めをし、ワン・フォー・オールを限界以上に放って……ズタボロになりながらも辛くも勝利を収めた面々であった。
しかし……もはや動ける者はおらず皆地面に倒れ伏していた。
スライス対応部隊。
飯田天哉、常闇踏陰、芦戸三奈、切島鋭児郎、瀬呂範太。
こちらに示された作戦は非常に単純だ。
相手が何かする前に数的有利を生かして攻めさせずに立ち回る。
暗い洞窟内ならば……常闇踏陰の世界だ。
ダークシャドウをその身に纏い攻撃を仕掛け、中遠距離で立ち回る事が可能な瀬呂範太がテープでスライスの髪を束縛し……芦戸三奈が援護をし……切島が真正面からの殴り合いを行い……飯田天哉が鍛え上げた脚による重い一撃をぶちかます。
そうして……スライスはいとも呆気なく捕縛された。
そうして、再び鈴仙への視点へと戻る。
個性増幅薬で完全にトリップしているカンデラとエコーの猛攻を凌ぎつつナインの攻撃を回避している鈴仙。
「くっ⁉︎ ドーピングとは実に厄介ですね‼︎
カンデラとエコーへの対処をし再度気絶させると雷撃による広範囲攻撃が鈴仙を襲うが一瞬でも把握出来れば対処できる。
位相を操作して回避を行う鈴仙。
使い魔を出してきたがそれら全てをルナティックガンによる早撃ちで撃滅すると流石にナインも使い魔による攻撃は自身の身を滅ぼすだけと理解したのか使用せずに純粋な肉弾戦と複数個性による攻撃を織り交ぜてきた。
「ヒーロー風情が……邪魔をするなァァァァァァ‼︎」
細胞の死滅が進み余裕が消え去ったのかそう叫び空気の壁+衝撃波+爪の弾丸の複合攻撃を鈴仙に叩きつけるナイン。
「
そう叫んで撃ち込む……。
しかし、
ナインからして見れば避けずとも勝手に輪っかが広がっていく為に避ける動作を取る意味がない。
そのまま輪っか状のソレを潜り抜けた刹那……ナインの身体に異変が起きた。
身体の動きが鈍くなっていき……‥5秒もすると完全に動かなくなってしまう。
個性を使おうにも意識するだけで鋭い痛みが間断なく襲いかかり気絶に追いやられる。
そうして……悶えていると荒い呼吸を繰り返す鈴仙の姿が見えて……ルナティックガンの引き金を引く音と共にナインの意識は暗闇へと落ちていった。
「……な……何とか勝てましたか……他の皆は……勝てたようですね」
そう呟いた鈴仙はルナティックガンを口元に添えてメーデーメーデーメーデーと3回告げた後で救助要請を放つ。
そうして……事態を感知した雄英高校とヒーロー達が……那歩島へと救助に来て……怪我人と
そうして、数日後、那歩島の復興作業を終えたA組の面々は……最後までやり切って……那歩島を後にしたのだった。