片腕と片眼を喪失した鈴仙。
ネクタイで腕の傷口を縛り簡易的な止血を施す。
痛覚は遮断している為に感じないが止血を施してもなお夥しく流れ出る血液の量を視認して鈴仙は考える。
(この出血量を鑑みると失血死までは10分、気を失うまでは8分……諸々の初期症状が出るまでに3分、失血で動けなくなるのに6分と言った所……それまでに色々と間に合うといいが)
冷静に分析しつつマスカレイドへの対処を行うも波長操作を常にストックされており千日手になっていた。
しかし、突如として維持していた痛覚遮断と視界の拡張が解除され片腕と片眼を喪失した痛みが全身を駆け巡り、波長操作で行っていた感覚制御-
痛みに堪えながら波長を通して視ていた左半分の視界が打ち消された影響で何も見えなくなり、残された右半分の視界で見た視線の先には……私の血液を一滴残らず回収して、その個性により私に変身したトガヒミコが居た。
「ッ‼︎ トガヒミコ……痛ッ‼︎」
マスカレイド同様に神経伝達や波長操作で弄れるのだろう、マスカレイドとの相違点は私の姿にもなれる事。
鈴仙はこの状況に追い込まれた事を歯噛みしつつ呟く。
「厄介ここに極まれり……」
ルナティックガンを撃ち込みコンプレスやムーンフィッシュを牽制しつつ
トガヒミコは鈴仙の痛覚遮断の妨害を、マスカレイドは
切断された片腕に通っている筋肉と神経を波長操作で操作して飛び道具として操っているが状況は芳しくはない。
山荘の3階であり窓から飛び降りるにしても傭兵部隊が外を固めており無策のまま飛び出せば蜂の巣は確定的。
しかし、ここにいても何一つとして状況は好転しない。
インファイトはマスキュラーが、中遠距離はムーンフィッシュが圧倒的な手数と質で攻めてくる。
壁を形成しつつ倒れている傭兵の装備しているグレネードをチラリと見るとムーンフィッシュの攻撃を回避した瞬間に飛び道具と化している切断された自身の腕を使い傭兵の腰からグレネードを抜き取ってグレネードのピンを歯で引き抜くと投擲する。
そして響く爆発音と爆煙。
床に転がっていたAA-12を空中に蹴り上げてキャッチすると装填されている事を一瞬で確認して躊躇う事なく
勿論、切断された片腕も一緒に追従させる。
眼前には完全武装の傭兵が数人いるが鈴仙は眼前の全員の波長を操作して肉体の自由を奪い掌握するとFN SCARとAA-12を確認しフルオートで自身を追ってくる
先頭にマスカレイドとトガヒミコがいる為に牽制にもならないが数秒稼げるだけでもいい。
しかし、激しく走り回り、戦闘という極限行為の最中……心拍が上昇し血流も速くなる。
それは当然、傷口からの出血も増加するという事。
鈴仙は通路に設置されている窓ガラスに映る自身を視認して顔色を確認する。
「あまり良い兆候とは言えませんね……リミットは2分……既に初期症状が……」
そう呟いた刹那、ルナティックガンを素早く抜き反転、構えると其処には死柄木弔とマスカレイド、それにその数メートル背後には
ルナティックガンを撃つがマスカレイドの波長操作で効きが悪い。
自身の切断された片腕を飛び道具にしつつ反撃の糸口を探すが血を大量に流しすぎて視界がぼやける。
霞む視界に対して波長操作で無理矢理に視界を得て切断された片腕とルナティックガン、それと波長操作で立ち回るがリミットは刻一刻と迫って来ており余裕は無い、余裕が無くなればミスを誘発し取り返しようの無い失態を犯す。
片腕の波長操作に回す余裕が段々と無くなり……1分も経たない内に死柄木弔が鈴仙の切断された片腕を掴みチリに帰す。
「いい加減逃げ回るのは辞めてくれよ……こっちはバカみたいなタフネスの化け物とやり合った後でクソ疲れてんだ……」
死柄木弔の記憶を波長操作で読み取る鈴仙。
「成程、大体の事情は察しました……だったら、尚の事ここで捕まる訳にはいかない」
そう呟くも最早歩くどころか脚を動かす事すらも叶わない程に血を流した鈴仙は壁にもたれかかり荒い息を整えつつ呟く。
「チェックです」
その言葉に対して意味が分からず鸚鵡返しになる死柄木弔。
対して、チェスや将棋を嗜んでいるのかマスカレイドはそれを聞いて即座に鈴仙を気絶させようとしたが……チェックの言葉通り……詰み寸前であった。
マスカレイドが死柄木弔達に警告を発した瞬間、壁が破砕され相澤先生やギャングオルカ、クレア・ボヤンスに八意永琳が突入してくる。
そちらに気を取られた
相澤先生の抹消によりマスカレイドとトガヒミコの個性が一時的に抹消された為に鈴仙は波長操作とルナティックガンによる弾幕を発生させて
それを波長を通して確認した鈴仙は浅い呼吸でため息を吐きながら
「
鈴仙の安全を確保したギャングオルカや相澤先生、そして八意永琳。
八意永琳は鈴仙の傷の具合を確認して即座に持参した救急バッグから医療器具を取り出して応急処置を行いつつ相澤先生らに指示を出す。
「今すぐに手術しないと……ドクターヘリの要請‼︎ 鈴仙‼︎ しっかり‼︎」
薄れゆく意識の中、八意永琳の言葉が嫌にしっかりと耳に届いたが鈴仙にはもはや返事をする気力はない。
ゆっくりと眠るように眼を閉じて、意識を失った。