鈴仙の個性、波長操作の暴走によって出来た半円形の電磁バリア。
バリア自体が尋常じゃなく強固な物理的な障壁も兼ねている為に物理的に打ち抜くにはここにいる者では全く持って火力が足りない。
良くも悪くも後方支援を主体とした個性持ちしかここには居ない。
肉弾戦も出来ない事はないがミサイルすら弾き返す強固な電磁バリアを突破するには至らず、ましてや普通の電磁バリアと異なり……突破した後の事象が問題である。
電磁バリア自体に近寄ることがままならない熱量を保持している。
その熱はコンクリートを少しずつではあるが融解させて周囲の鉄製の物が赤熱化を通り越して融解する程の熱量が込められている為に生半な熱耐性では火傷どころでは済まない。
そして、よしんば電磁バリアを突破したとて、その瞬間に文字通り狂気に染まった波長操作を喰らい生存に必要な波長を全て狂わされる。
心操人使の洗脳も試したが波長操作で打ち消されてそもそも声が届いていない。
何も出来ない、何も対抗策が思い浮かばない。
しかし、ここに居ても状況が好転する事は絶対にない。
寧ろ悪化する一方である。
尋常じゃない熱を有しているという事は部屋の温度もそれに比例して上昇する。
既に室内の気温は温度計を確認すると部屋の温度は75℃……大量の発汗により水分がどんどん失われていき脱水一歩手前に陥る4人。
水分の不足が起こり眩暈がする。
心操人使は火傷を防ぐ為に金属製のマスクを外しており操縛布も床に置いている。
4人は壁にもたれかかりながら現状を理解して話し合う。
「どうやって鈴仙さんを止める? ……止める以前に脱水でやられそうだけど」
そう語る心操人使。
チラリと鈴仙がいるであろう電磁バリアの中心を見ると、そこは閃光により真っ白に染まっておりもはや鈴仙の姿も何も見えない。
物間は鈴仙に手渡されたルナティックガンを見て一つの方策を思いつく。
成功すれば鈴仙さんを正気に戻せるし全てが好転する。
しかし、失敗すれば自分は確実に死ぬだろう。
だが……惚れた相手を救う為に死ねるなら……まぁ悪くはないと思える。
ただ、死ぬ気は毛頭ないが……。
鈴仙との初めての出会いを思い返す物間。
瞼を閉じてふっと笑う。
しかしこれは余りにも分の悪い賭けだ。
意外にも分の悪いギャンブルは好きなんだなと自嘲してゆっくりと立ち上がる。
自身がコピーした波長操作の個性を発動すると物間にも波長が感じ取れた。
熱、光、音、電気信号、様々な波長が鈴仙を中心にして乱れ狂う様にめちゃくちゃな動きをしている。
中心に居る鈴仙はペタンッと座り込んで虚な表情を浮かべて涙を流して泣いていた。
そこから感じ取れる波長は……私を救けてという鈴仙の声無き声の叫びであり……悲痛で沈痛な
「……さて、と頑張るかな……心操君、10秒間……オッドアイとそのサイドキック、と君に波長操作を行うから全力で出口まで駆け抜けて脱出してくれ」
そう呟く。
心操君は僕の言葉を聞いて何かを察した様でジッとこちらを見つめて……そして、告げてくる。
「物間、あの一人ぼっちで絶望に苛まれて、自分にも、世界に絶望して泣いている、過去に囚われているお姫様を救ってやってくれ……あの状態の鈴仙さんは……過去の自分を観ている様だよ、壁を作って、誰かを近づく事すらさせない……救ってやってくれ……それと、A組もB組も皆が鈴仙に頼り過ぎて、便利な個性で、豊富な知識を持って、大概の技術を有している、頼み事も、訓練も、何もかもを頼めば全部笑顔で承諾して断らないから……鈴仙1人に負担をかけ過ぎてる……鈴仙が弱みを吐露出来ない状況に俺達が追い込んだんだ、どうにかしないとな」
そう告げられる。
それに対して物間はフッと笑みをこぼしながら呟く。
「あぁ……それは帰ってから八百万さんと拳藤、A組委員長と話し合うさ……行ってくれ、後はなんとかする」
その言葉を最後に……視線で会話し言葉無くして意図を汲み取り理解して頷きあう。
他者の心を先んじて読み取り理解する事に長けた2人は言葉を交わさずともフィスト・バンプを交わし互いの意図を告げ合う。
そして、オッドアイ、オッドアイのサイドキック、心操人使に波長操作を行い潜り抜けられる様に狂った波長操作を受けない様に保護膜として4人に波長のバリアを張る。
「……死ぬなよ? 物間」
「ふっ、死ぬ気はないよ……さて時間がない、行ってくれ、後は任せろ」
そう告げると心操と3人は出入り口へと駆ける。
4人の姿が見えなくなり、波長を感じ取って脱出した事を確認すると4人にかけた波長操作を解除する。
物間はコスチュームに備え付けられた3つの懐中時計の内1つをチラリと残り時間を確認する。
残された時間は241秒。
たったの241秒で鈴仙さんをどうにかしないといけない。
その手に握り締められたルナティックガンに視線を移すがこれは最終手段に取っておくべきであろう。
あの時の鈴仙さんがコレを託したという言葉の意味を今なら裏側に込められた意味まで理解ができた。
(それはあまりにも酷い選択肢だと思っているよ? 鈴仙さん……確かにコレを使えば簡単に、それこそ何の被害も出す事無く締め括れる……だけど、鈴仙さんは帰ってこないだろう?)
信じて託されたルナティックガンを見てそう思考する物間。
ルナティックガンは波長操作を出来る鈴仙か物間にしか扱えない。
鈴仙はルナティックガンを自身に撃ってくれと告げた。
しかし、ルナティックガンを撃ったら鈴仙に撃ったら鈴仙の波長は永遠に再始動する事は無いだろう。
波長を通してルナティックガンを確認した物間にはそれが理解できた。
……鈴仙は自分の暴走に際して確実に『自分を終了』させる手順を組んでいると。
ここでいう『終了』とは個性の暴走を収めるとか、そう言う軽いものじゃない。
恐らく、99.99%ルナティックガンを鈴仙さんに向けて撃ったら2度と鈴仙さんは目醒めない。
確信にも似た感覚が物間を包む。
だから、故に……ルナティックガンを使用せずに終わらせなければならない。
意を決して電磁バリアの中心部へと歩みを進める。
普通ならば視界が白一色に染まる程眩い閃光、身体が融解する程の熱、気絶する程に脳内に響く不快な爆音、そして神経伝達物質の阻害、脈拍や心拍といった電気信号を阻害する波長に包まれるが残り225秒間といった限られた時間のみ物間はそれらの影響を一切受けない。
故に……ただ歩くだけでペタンッの座り込んで涙を流している鈴仙の元に辿り着く。
そうして……物間は鈴仙の事をギュッと抱きしめて肩を揺り動かして語る。
「鈴仙さん、正気に戻ってくれ、らしくないじゃないか……」
しかし鈴仙の反応はない。
物間は眼を閉じて……意を決する。
鈴仙を抱き寄せて……ゆっくりと唇を重ね合わせる。
その瞬間、鈴仙の眼に光が戻り辺りを見回して呟いた。
「……? 物間さん? なんで……? 私は……そっか、私はまた……暴走したんですね、物間さん……ありがとう」
鈴仙が発した短いその言葉に込められた意味を波長を通して理解する物間。
完全に元に戻った鈴仙を見て抱きしめていた腕を離して出入り口へとエスコートしようとすると呼び止められる。
鈴仙の方へ顔を向けると……鈴仙の唇が物間の唇を奪う。
長い長いキスを行い……鈴仙はゆっくりとその唇を離す。
「助けてくれて……ありがとう、私のヒーロー」