そして全試合が終了し結果は2勝2敗1引き分け。
ブラドキング先生からも相澤先生からも各自の反省点を告げられた後……10分間の休憩を挟んで鈴仙とのスペシャルマッチが宣告される。
鈴仙は一佳に背中を押してもらいゆっくりと柔軟をしながら語る。
「楽しみです、皆がどれだけ強くなっているのか……ふふふふふふ」
三日月を模した装飾が施された眼帯を装着している鈴仙。
眼帯の下には八意永琳と発目明とメリッサの3人の才女が持っている最新技術の粋を尽くして鈴仙の為に造った義眼が嵌め込まれている。
特別製の義眼であり、戦闘はもとより視神経に直接接続している作りである為に本物の眼球と遜色ないクリアな視界を眼帯越しからでも得る事が出来る。
何よりも……鈴仙の戦闘スタイルに合わせた作りをしているこの義眼は、そもそも鈴仙の個性による様々な運用を前提に造られている。
生半可な攻撃では絶対に破損も損壊もしない堅牢な合金や素材で造られた義眼である、この義眼を機能停止にするには少なくとも全盛期のオールマイトの様な常識の埒外にある力が必要だと。
その義眼は八意永琳の持つ知識と技術、そして稀少な素材に加えて……八意永琳やメリッサでは思いつかない発目明の思考、そしてメリッサは2人には無い莫大なリソースを以って作成された。
腕の方も鋭意製作中とのお言葉をいただいた。
ストレッチを終えて41人は所定の位置へと着く。
スタートの宣告が為される。
鈴仙はゆっくりと動き始めた。
場面は40人の方へ移る。
演習開始直後……爆豪が苛立ちながら叫ぶ。
「とりあえず主軸決めるぞッ‼︎ 近距離戦闘と声や音の個性持ってるヤツは全員用無しだ‼︎ すっこんどけ‼︎」
あまりにもな物言いに鉄哲や切島からの反感が起きるが爆豪は一言で黙らせる。
「近距離戦闘はそもそも誰1人として鈴仙に勝ててねーだろうが‼︎ 音や声を使用する個性の奴らなんて微塵も役に立たないだろうが‼︎ 鈴仙の個性がなんだったか忘れたんか‼︎」
鈴仙の個性。
波長を操り支配する個性。
あらゆる波を操り、支配する能力である。
極端なまでに汎用性に長けている。
物理的な音波や電磁波などから、精神的な人間の精神の波など、鈴仙はあらゆる存在が持つ波を操れる。
これを知性を持った存在に感情操作目的で使うと、意識を狂気に振り切らせる事も逆に落ち着かせる事も、強弱を弄って怒りっぽくさせる事も悲しませる事も自由自在。
相手の知覚を操作し、本来見える筈の物を見えなくしたり、聞こえる筈のものを聞こえなくしたり、触れる筈の物を触れなくしたり、
逆に本来見えない筈の姿や感じない筈の痛みを認識させる「幻覚」を見せる事も可能。
その他、レーダーや嘘発見器の如く相手の位置・感情を感知する事もできるなど、恐ろしく応用の効く便利能力である。
鈴仙自身の精神にも能力を適用できるらしく鈴仙は『戦闘中とそれ以外で性格が大幅に異なる』『全て自分の都合で性格をコロコロと変える』
そして、狂気の赤い瞳と謳われるその眼を合わせれば対象の波長をより強力に支配できるが必須条件ではなく、操っているのは「波長」そのものなので距離も全く関係ない。
鈴仙の周辺は特に意識しない場合能力が漏れているのか常に波長が乱れており、同じように波長、つまり音や光を操る能力系とは相性が良い、つまり……相手にしてみれば鈴仙は相手としては最悪。
葉隠透が光の屈折を操り姿を消しても、何の変哲もないかのように葉隠透本来の姿形と視界を見抜き、青山優雅のレーザーを霧散させる。
耳郎響香がそのイヤホンジャックを用いてレーダー能力を使い探知しようとしても、彼女の「耳」に鈴仙の存在は全く聴こえない。
心操人使の洗脳も一方的に無効化し、逆に鈴仙が相手を洗脳を自由自在に操作可能。
無意識下でも一定の機能が働く性質からか睡眠中や気絶中でも鈴仙をレーダーやそれに類する機構や個性を用いて捉える事は非常に難しいというか、ほぼ不可能と言わざるを得ない。
そして、光も音も「波長」なので、鈴仙がその気になれば、視覚や聴覚に頼って外界を捉える存在は彼女の能力支配から逃れる事はできない。
もっと言えば、脳波や脈拍、神経の電気信号なども重要な波であり、もしこれらを止められれば、感覚云々以前のレベルで機能停止および即死も有り得る。
まぁそんな事は心拍の停止や脳波の停止は脳無くらいにしか行わないが……ただ神経伝達阻害は相手を無傷で捕縛するのに重宝しているらしい。
もちろん遠距離通信も波である。交信相手がいれば、地上から火星までだろうとその身一つでタイムラグ無しの通信が可能。
そう考えながら爆豪勝己は思う。
このように「理屈の上では」汎用性も支配力も結構なチートの筈なのだが、鈴仙本人のメンタルも相まって便利な能力レベルに見えがちだと。
鈴仙本来の性格……それを踏まえて爆豪は考える。
根が臆病で自分勝手。戦闘においては八意永琳に認められる才能を持つ実力者にもかかわらず、人間を怖がる程の人見知り。
一方で調子に乗りやすい面もあり、乗るとよく舌が回る。
基本的に身内以外の人間はやや見下しているがこの通りなので微妙にへっぽこ感がある。
要するに一種のコミュニケーション障害。41人の中でもかなり心が弱い方。
それ故に、周囲の友人達にいじられやすい傾向がある。
話しがズレた。
戦闘においてこそ鈴仙の波長操作は真価を発揮する。
戦闘・弾幕展開の際には、レーザーや弾の波長・位相を操作して「見えなくする」「軌道を歪める」「ブレさせて複製する」等の形で存分に自身の能力を利用する戦法を好んでおり、師匠である八意永琳の戦い方に習って搦手を最も得意としている。
斥力や引力を持った波動の発生を応用してバリアによるガードや波動による衝撃波、光の操作によるレーザー攻撃、
幻視で自身への視認を撹乱する、自身の位置自体をずらす、位相を変えて敵の攻撃が一切当たらなくする等、その活用の幅は無限にも思える。
搦手により相手の戦略や戦術を無に帰しつつ、波長操作により思考の混乱・忘却状態に陥れる精神破壊攻撃も行う。
それを踏まえて攻略しなければならない。
隻眼隻腕になろうとも、微塵も弱くはなっていない。
鈴仙自身がそう言っていた……。
それを思い返して爆豪勝己はギュッと拳を握り、今回の戦闘訓練の軸を決めた。
そうして、視点は再び鈴仙の視点に戻る。
ゆらりゆらりと歩きながら鈴仙は呟く。
「さて、行きますか……」