鈴仙は考える。
唯一、この状況下で渡り合えるのは恐らく物間寧人のみだろうと。
コピーと言うその個性の強み故に。
ほぼ100%……物間寧人は鈴仙の個性をコピーしにくる。
集中し……全ての波長を感じとる、そして……自分自身の波長の伝達速度を跳ね上げる。
自身の波長を10倍速で伝達させる。
刹那、鈴仙の心臓は恐ろしい速度で脈を打ち、鈴仙の眼球は視神経の酷使により強膜は破れた毛細血管から流れ出た血の色に染まり、まるで彼岸花の様に赤く染まる。
そして、鈴仙の神経伝達の速度が10倍に跳ね上がった事により体感速度が10倍に引き伸ばされ、神経伝達の速度も10倍であるが故に10倍の速度で動ける。
自身の波長操作を更に深く、更に広く、更に強く扱えるようになった事により行える様になった現時点での最高精度で繰り出す鈴仙のみ扱える技。
「
鈴仙が
認識時間そのものが拡張していることから、脳内麻薬を意図的に過剰分泌させての、非常意識状態への強制移行をも行っておりこれらによって得られる超速反応によって、より的確な“後の先”を取るという、絶大なメリットを享受できる。
爆豪勝己がクラスターによる強襲を仕掛けてきたが10倍に引き伸ばされた体感時間ではほぼ止まって見える。
普通ならば見切る事が出来ないであろうクラスターという爆破の極致。
現にコレに対応する事が出来るのは一握りであり、また……その一握りの中でも上澄みの者のみだろう。
しかし、
クラスターにより爆進してきた爆豪勝己の顔面にタイミング良く膝蹴りをぶち当て、蹴り飛ばした瞬間に持続限界がくる。
追撃する事は叶わず、早鐘の様に叩く鼓動と限界まで酷使している身体は酸素を取り込もうと激しく息を吸う様に鈴仙の肉体に指示を出す。
「ゼェ……ハッ……はぁっ」
滝のような汗を流してコンクリートの床にしゃがみ込む鈴仙、視界が歪む。
現時点では持続が効かない、精々3秒が限界である。
10倍に引き上げられた体感時間なので鈴仙からしてみれば10倍であるがそれを加味しても持続時間に難がある。
しかし、使いこなせればこれほど頼もしい物はない。
荒い息を整えて、心拍を安定させると鈴仙は自身の眼前に飛び込んでハートビートファズを放って来た耳郎響香に対して波長操作を行うも首に下げられた装置を見て理解する、八百万百が創り出した波長操作無効化装置が下げられているという事に。
波長操作で音の波長を支配してハートビートファズを逆位相で打ち消す。
そして、耳郎響香の攻撃に気を取られていると思い込んだ者が1人。
見えない事を熟知して、それを踏まえて鈴仙の背後より透明化の個性でスニーキングと近接格闘術を用いた戦法を編み出した葉隠透が鈴仙を絞め落とさんとその腕を鈴仙の首に伸ばそうとしたが逆に首を掴まれて鳩尾に掌底を喰らい仰け反る。
「残念、私にとっては波長は視る物ではなく、身体全体で感じ取る者です……死角なんて物は私には無い」
しかし、葉隠さんも鈴仙とのブートキャンプや近接格闘訓練で徹底的にしごかれており、すぐに体勢を立て直すと自身の背後より飛んできたネビルレーザーを屈折させて鈴仙に当てようとする。
それを見て鈴仙は光の波長を操作してネビルレーザーを霧散させる。
光線の屈折を行える葉隠透が青山優雅とのバディを組んでおりネビルレーザーによる攻撃を仕掛けて来たが鈴仙に取っては非常に相性が良い。
という事は……青山と葉隠から見たら相性は最悪の一言、近接格闘で押し切るしかないのだが隻眼隻腕になってもなお、弱体化したとは微塵も感じさせない。
義眼があるとはいえ生体に備わった元々の眼とはやはり根本から異なる。
特に鈴仙の場合は生来の眼球でなければ眼を合わせても波長操作の支配をより強力な物にする事は能わない。
「隻腕隻眼とは思えないねッ‼︎」
そう叫びながら青山はネビルレーザーを連射しながら葉隠透と共に近接格闘を行うが2人とも一瞬の隙を突かれて頭部に重い一撃を顎に喰らい脳震盪を起こして倒れ伏す。
倒れ伏した2人の足を掴んで引き摺りながら見通しの悪い場所に放置する鈴仙。
反響定位で全員の位置を確認すると鈴仙は腰に下げられたルナティックガンを振り抜いてアサルトライフルのモードに変換する。
反響定位にて測定した居場所にルナティックガンを構えてレーザー弾幕を貼ると、刹那……八百万百によるFNカービンによる銃撃が為される。
ゴム弾ではなく実弾である為にルナティックガンの
見通しの悪い配管を縦横無尽に飛び回ってマガジンを交換しながら八百万百は叫ぶ。
「鈴仙さんっ‼︎ 勝たせていただきますわ‼︎ 必ず‼︎」
「八百万百‼︎ 貴女が脅威だよ‼︎ 今この瞬間は特にね‼︎」
八百万百が構えているアサルトライフルの撃針のみを衝撃波で破壊して撃発するがない様にするも即座に腰に隠し持っていたフルオートにカスタムメイド済みのstaccato P を引き抜いて迷わず全弾を撃ってくる。
実銃におけるリコイル制御も鈴仙が教え込んだ通りにしっかりと抑えており成長を感じとる。
「今ですわ‼︎ 皆さん‼︎」
そう八百万百が叫んだ刹那。
鈴仙を取り囲むようにして40人が姿を現す。
青山や葉隠透、爆豪勝己を相手取っている間に鈴仙の牢屋は凡戸と瀬呂範太によってガチガチに封鎖されており砕き割らないと牢屋にぶち込まない為に手間が掛かる。
それに……ワン・フォー・オールを85%まで制御出来るようになった緑谷はそれなりに脅威である。
物間寧人は……爆豪勝己に掴まれている? 何故……まさか⁉︎
「
物間寧人が
クラスターの威力のまま投擲された物間寧人。
避けようとした瞬間、緑谷が息を合わせたように黒鞭とワン・フォー・オールを使い鈴仙の動きを抑制する。
その他、39人全員が……鈴仙の動きを徹底して封じ込める。
そして、物間寧人のその指が、ほんの僅か鈴仙の頬に触れた。
これにより波長操作というアドバンテージの面ではイーブンになったが鈴仙は動じる事なく呟く。
「お見事……この一瞬の為に他の全てを犠牲にするとは……訓練の成果は素晴らしく出ていますね、しかし……まだ負けてやるわけには行かない……Are You Ready?」
鈴仙の半径2mからバチバチと爆ぜる様に音が響く。
鈴仙は個性の都合上、サポートに徹する事が多いが前線に出て相手を瞬殺する事も出来るオールラウンダーである。
そして、その戦法はヒーローオタクである緑谷曰く……八意永琳のモノを踏襲しており搦手を最も得意とする。
蜘蛛の巣に絡め取られる獲物のように……追い詰めて完封するのを得意とする。
ならば、そうさせないように対策をするだけである。
なんの事はない……物間寧人によるコピーを用いて鈴仙の個性をコピーした後で……数的有利に物を言わせて徹底的に封じ込める。
「行くよ‼︎ 鈴仙さん‼︎」
そう叫び……それを皮切りにして全員が鈴仙へと襲いかかった。