羽根飾りに花を添えて 作:閖谷
――翼がくすぐったい。
冬休みに入ったトリニティ総合学園。
聖誕祭では学園内で様々なイベントがあり相応の盛り上がりを見せていた。今日はその翌日ということもあり、比較的落ち着いた雰囲気が広がっている。
学校のとある空き教室。そこで私は聖園ミカに羽根飾りのメンテナンスをしてもらっていた。
事の発端は二週間前。
補習授業部の教室にやってきたミカは私を廊下に呼び出すと「アズサちゃん、聖誕祭の翌日って空いてるかな?」と切り出してきた。でもその日は補習授業部のみんなから『予定を空けておいて欲しい』と頼まれていた。
ミカはそれを聞くと「そっか……」と呟いて真剣な表情で少し考え込むと、わざとらしく頬を膨らませ「じゃあその予定の前!空いてる時間教えて!」と迫ってきた。補習授業部の予定は午後からだったから、午前なら可能な旨を伝えた。どうやら他の日だとダメだったらしい。
「今日じゃないといけなかったのか?」
ミカに羽根飾りを弄られながら、少し気になっていたことを訊ねてみた。
「えへへ……そうだね。私は今日、こうしたかったかな」
ミカは少し困ったような顔で笑ってみせる。困らせるつもりはなかった。
「何か気に障るようなことを訊いてしまったか? それならすまない……」
「いやいや! そんなことないよ! 私がしたかったからこうしてるだけ。ごめんね、忙しいのに時間取らせちゃって」
「それに関しては問題ない。時間には余裕がある、それに……」
「それに?」
「こうしてミカに羽根飾りやアクセサリーを付けてもらってる時間、それが私は好きだ」
「わ、わーお……ダイレクトに伝えられると照れちゃうね……でも、うん。私もこの時間、とても大切に思えるよ」
会話の途中で翼に視線を戻し話を続けるミカを見ていると、少しそわそわした感覚が湧き上がってきた。翼を触れられる感覚と相まってこそばゆい。
「しかし、みんな今日にこだわってる気がするな……むしろ昨日の方が大切な日だと思うんだけど」
「……それはこの後分かるんじゃないかな。よし、前できたから後ろ向いて」
促されるまま後ろを向いて、思考を巡らせる。
補習授業部のみんなもやけに今日の私の予定を気にしていたな。でもミカが言う通り、この後分かるならそれでいいか。それなら今気にしてもしょうがないことだ。
翼の後ろの飾りを色々と触られる感覚を覚えながら、自分の疑問に対して一旦の結論を出した。
「オッケー、羽根飾り完了! あとは……」
正面を向かされた私の服やリボンを、ミカは軽く整えた。
「よし、ばっちり! それじゃあアズサちゃん、いってらっしゃい☆」
ミカと別れた後、補習授業部の教室に向かう。
ここに向けてミカに送り出されたように感じてしまった。この後何があるのだろうか。
待ち合わせの時間より少し早く、いつも教室の前につくと既に人の気配がした。待たせてしまったかと心配になりながらも扉を開き教室に入ろうとする。と、
――パパパンッ
小気味よく爆発音がして、リボンと鮮やかな色紙が吹雪のように舞った。
昨日まで聖誕祭仕様だった部屋の内装が、モモフレンズ、それもスカルマンが多めの内装へと様変わりしていた。
そして横断幕が掲げられ、そこに書かれた内容と同じことを、にこやかに笑うみんな――ヒフミ、ハナコ、コハル――が口を揃えて声に出した。
「「「アズサちゃんお誕生日おめでとう」」」
戸惑いながらも、いつか聞いた話が頭によぎる。
『トリニティでは生まれた日――誕生日をお祝いする習慣がある』そのようなことを聞いたことがあった。
でも、それを自分に対して向けられると。そんなことは考えもしなかった。
私はいっぱいになりそうな感情を受け止めて、なんとか言葉を返す。
「……嬉しい。ありがとう、みんな」
◇
お誕生日会が終わると、外はすっかり真っ暗だった。月も星も見えなくて、少し寂しい気持ちになる。海から帰るクルセイダー戦車の中の時、それと似た気持ちだと思った。
補習授業部のみんなといつもの道で帰路に着く。いつもと同じように、だけども特別な感じがする。悪くない。
――はらり。鼻先に冷たいものが付く。
雪が降り始めてきた。
雪は好きじゃなかった。それは身を切るような、鋭い痛みをもたらすだけのものだった。でも今はもう、そんなことは気にならない。
はらはらと降る雪が羽根飾りに薄く積もり、綺麗な薄化粧として翼をさらに彩っていく。まるで、小さく真っ白で、精妙な花が添えられるように。
みんな何も言わなかったけど、示し合わせたように空からの贈り物を眺めていた。
しばらくすると雲が風に流されていき、その場所から徐々に光が漏れ出す。タイミングを見計らったかのように周囲を少し明るくしながら月が顔を出した。
雪が光る。
まるで星を散りばめたように。
月の光を反射して、光る。
雲をキャンバスにして描かれた星空が広がっていた。
幻想的なその光景に息を呑んで仰ぎ見る。そうしていると、ふと月と目が合った気がした。
欠けた月がにっこり笑ってこちらを見てるような、そんな気がして、幼な子に向けた絵本のような自分の感性にくすぐったくなった。
「あれ、アズサちゃん。羽根飾りの中に何か付いてますよ?」
不意に、私の後ろにいたヒフミが何かに気がつく。
ハナコとコハルは少し離れたところで、雪を眺めながら二人で何かお話ししていた。
「む。気が付かなかった」
「ちょっと待って下さいね、花の飾りの裏に黒い物があって、……あっ」
ヒフミが少し笑った気がした。
「今取りますね」
優しい手つきで、翼と飾りの間から何かを外すような感覚。
「アズサちゃん、これがついてましたよ」
ヒフミがとても優しく笑って差し出した手には、スカルマンのキーホルダーが座っていた。
「これ、百個しか生産されてない限定生産品じゃないですか……」
そう、これは激レアな限定品。もちろん私も知っていた。欲しいと思ったけど手に入らなかったもの。でも今はそれ以上に、気になることがあった。
「ありがとう、ヒフミ」
お礼を述べながらスカルマンをそっと受け取り、くるりと回し見てみる。そうすると後ろの翼の間に、折り畳まれた小さな紙切れが挟まっていた。それを抜き取り、少しかじかんだ手で丁寧に開く。すると中には丸っこい字で、私へのメッセージが書いてあった。
『お誕生日おめでとう☆』
贈り主の名前は書いていなかった。でも、私の胸の中には暖かいものが広がっていく。
私は月に向かって笑い返す。
身に纏わりつく雪が、とても心地よかった。
お読み頂き、ありがとうございます。
前話、”羽根飾りに花を添えて”の後でのお話になります。
そもそも前作が初投稿の作品で、完成が見えてきたタイミングがアズサの誕生日に近かったので合わせて完成させようと思って書いておりました。しかし、いざ書き終わってみると誕生日の下りが出るものの「"たんじょうび" というものは何だ?」という下りだけで終わってしまってました。
誕生日に投稿するお話がこれでいいのか。ってなってしまったので別作品の構想にあった誕生日のお祝い部分を持ってきて、急遽書き上げた作品になります。
誕生日のお祝いに作品を投稿したかったというのもありますが、
なにより、ミカに「お誕生日おめでとう」って言わせたくって。……ね。