絶対UFZに入りたくないバルタンVS絶対加入させたいゼロ 作:スターク(元:はぎほぎ)
「この私が解雇ですって!?」
突きつけられた縁切りを前に、仮面の下から声を荒げる。しかし対峙するスクリーン、その中の雇い主からの反応は冷ややかだった。
《そうだよ魔導卿。契約は今季で終了、更新する意思はこちらには無い。アドバイザーとしての勤め、ご苦労だった》
「寝言は寝て言いなさい!私あっての“マイナスジェネレーション”でしょう!?」
雇用関係とはいえ、マイナスジェネレーションは私とモネラ星が共同で立ち上げた戦争ビジネスだ。陰から銀河社会の悪感情とそれによる混乱を煽り、巻き起こった対立における両陣営へ多種多様な支援を高額で売り払う。モネラ星人が入手していた
《違うな。要は君ではなく“TUFIR”の方だ。より高利益を出す為にはむしろ邪魔なんだよ》
「よく言う!USAに加盟できたのは誰の手回しのお陰だと思って……ッ」
《その点に関しては感謝している。礼と言ってはなんだが、最後となる今季報酬の倍加で手を打たないか?》
「そんなもので埋め合わせになるとでも!」
取りつく島もない、その理由は恐らくヤプールの存在だろうか。
ビジネスが軌道に乗った後から唐突に参入してきた異次元人とやら、まさか私の積み重ねた実績より素性の知れぬ奴らの方をモネラが選ぶとは思わなかった。見る目の無い無能はこれだから…!
《では通信を切るよ。最後まで抜かりなく頼むぞ》
「待っ!?」
呼び止める間も無く通信途絶。やらせない憤懣を胸に、私は映写機を叩き潰すしか無かった。
しかしどうする?悔しいがビジネスの要がTUFIRである事は事実、それ以上の存在価値を当ビジネスモデル内で示すのは困難極まるだろう。そもそも信用出来る実績を度外視して
(………待てよ?)
そもそも。そもそもだ。権限とかそれ以前に、だ。
(私の手元にTUFIRがあれば、もうそれで良くないか?)
コレはむしろ
どちらかと言えば、不要なのは所有者の地位に胡座をかいてなにもしなかったモネラの方だ。断じて私ではない。いっそ離脱に乗じてTUFIRを退職金代わりに持って行ってしまえば、万事万歳ではないか。
となれば、兵は拙速を尊ぶともいう。残された期間を最大限活用しなければ、そういえばヤプールより超獣が支給されていたか?これも利用して……これならば!
「何事も捉えように考えよう……楽しくなって参りましたねぇ!」
惑星リンクに厳密な政府は無い。代わりにあるのは、複数の企業が連立で立ち上げた仲介ギルドである。
元より星間物流の要所、当然それに付随する諍いも多い。不要なそれらを出来る限り避け、より滑らかな経済活動を推進するべくギルドは作られた。権限範囲は広く強く、実質的にギルドこそがリンクを統治していると言える。
で、そこの窓口にて。
「いやーそれを見るには権限認証が必須なのでちょっと……」
「そっかー」
スゴスゴと外へ引き返す男性が1人。路地裏で待ち構えていた若い青年と合流し、そのションボリ具合を揶揄われていた。
「上手く行かんかったようじゃのう(笑)」
「元よりダメ元だ。そちらの方は?」
「はっ。聞いて驚け、目撃証言ゼロじゃ。モネラ共め、よほど後ろめたい事をしてるようじゃのう」
「上手くいかなかったようだなwww」
ハッハッハッ、と笑い合った次の瞬間に交わされたのは拳。バカ2人による醜い喧嘩である。
……哀れ、USA及びエスメラルダ。こんな2人に治められる事になる組織と国家に未来はあるのだろうか。
「お主!やる気あるのか!!」
「貴殿こそ!その無駄なイケメンで有力な女目撃者とか引っ掛けられないのか!!」
「王族じゃぞ!?言っとくけどワシ王族じゃぞ!?1人2人ならまだしも、大当たり引くまで手当たり次第漁っとったら流石に面が割れるわい!お主こそ使えるツテとか程々に金握らせるとか無かったのか?!」
「使ったさ、何の勝算も無く単身参入するわきゃ無いだろ!!それでもダメだったんだから仕方が無いじゃないか!」
そんな醜態を繰り広げること数分。互いの脳天にタンコブを5つ程重ね合ったところで、ようやく両者は息を荒げながらも拳を下ろす。あまりにも無意味過ぎる喧嘩に流石に理性が働いたのだった。遅過ぎるが。
「……こう見えて、かなり深部まで探れる交渉材料を持ってきてたつもりだ。それがコレ」
不機嫌そうに取り出したのは一枚の書状。それを目にしたエメリグは目を丸くする。
「複数の国家高官からの連判委任状ではないか!なるほど、お主の捜査はコレに後押しされての事だったのだな」
「私がZ-Pへの潜入を決めた時、その高官らの代表から託された物だ。恐らくは私と同じ結論に辿り着いた者達……だが、USAではなく私個人に調査を頼んできた」
「そしてその委任状を盾にした打診も跳ね除けられた。そんな権限があるのは……」
どの国家も大国ではなく、しかしその影響力は決して無視されてはいけないものである。そして共通点として、近年多発した突発的戦乱によって被害を受けたことが挙げられるだろう。
そんな彼らの口を噤ませられるとしたら、もう。
「「
一部の議員の汚職か、上層部全体の腐敗かは分からない。だかロジックとしては理解出来る、実際戦乱の平定にUSA側が派遣される事でその勢力を強めている側面もあるからだ。世を憂う若き男児達にとっては考えたくもない可能性だったが、最早そうも言っていられない。
「今となっては、お主の提言が聞き入れられなかったのも納得じゃの。こりゃ相当根深いぞ」
「……覚悟はあります。王太子殿下、ご助力願いたい」
「その言葉を待っておった。エスメラルダとして
改めて頭を下げた将校に対し、青年は個人ではなく次代の王として手を握る。新たな同盟が締結され、しかし調査が行き詰まった現状自体は何も変わりはしない。
2人して次の手を考え始めた、その時の事だった。
「へ?」
「えっ」
何気なく、気配無く通り過ぎる人影。周囲に気を配り続けていたというのに、何の予兆も感じられなかった。只者ではない人物の去来で呆気に取られた2人は、数拍の間を置いてから再起動する。
「ぇ……ゑ?!待て待て待て!!!」
「ストップストップ!お主何者!?」
「名乗る程の者じゃない」
「「返答するなら立ち止まってからにしろ!!」」
走っている訳でもないのに絶妙に距離を保って逃走する謎の男を全力で追跡。男の素性は勿論のこと、やっと見つけた情報源を逃す訳にはいかない。
そんなこんなで掃き溜めを駆け抜け飛び越え、辿り着いた先は。
「……下水道?」
「ここに入れと言いたげだの」
誰からも忘れ去られたようなドブ川に繋がる排水トンネル。待っていたようにその入り口で佇む人影を目にし、2人の足が止まる。
ここに来るまでで冷えていた頭が、やっとコレが罠である可能性を見据えて踏み留まらせていた。幾ら貴重な相手だとして、無策で閉所に誘い込まれる危険性は流石に把握している。
「どうする」
「虎穴に入らずんば虎子を得ず、とも言うがなぁ」
「それは何処の星の諺で?」
「チキュー*1。現地のアルテスタイガーという動物が非常に美しくての、飼いたいのじゃが父が許してくれん」
「入るのか入らないのかどっちなんだ」
「「ごめんちょっと時間ちょうだい」」
心なしか苛立ちを増す声に押され、2人は真面目に思案。相手の堪忍袋の緒が切れないよう超速思考とアイコンタクトで意思を纏め、結論を下そうとした。
しかし、遅かった。状況変化の方が一瞬だけ先んじた。
『ギィオオオァアア!!!』
「「「!!!」」」
想像を絶する大音響。三者三様に顔を上げた先には、
砕けたその中に、巨獣の冷たい眼光が揺らめく。雄叫びと共に、その口の中から現れるはミサイル砲台。
「来い!」
「ぬわ!?」
「のっ──?!」
男が出した光の鞭に体を縛られ、エメルグ達はトンネルに引き摺り込まれる。彼らの身体が暗闇の中に消えた瞬間、弾体の直撃によりトンネルは崩落。
それを見届けてから、というよりその流れに乗るように、巨獣はミサイルの雨を逃げ惑う他の市民にもブチ撒けていったのである。
───最早言うまでも無い事だろうが、この巨獣の正体はつまり超獣だ。ヤプールの先遣隊が造り、モネラ星人に提供した物。それがエメルグ達に攻撃した1体の他に4体残っている。
いや、“残っている”という表現も正しくないだろう。何故なら
「なんだ!!怪獣か!」
「見た事も無いぞ!?護衛は仕事しろ、大事な荷が燃やされてしまう!!」
「無理だ、こんな巨大な相手なんか契約対象外に決まってるだろ?!」
「リンクに巨大生物はいない筈なのに!!」
『ガァァ!!!』
実弾、レーザー砲、火炎放射。焼き尽くされる一般市民や訪れた商人の悲鳴が聞こえては消え、それを崩壊する街並みの瓦礫が塗りつぶしていった。惑星リンクにおいて、記録史上存在しない大被害だ。
ところでこの超獣、かつてヤプールが地球に送り込んだ物とはどの個体も似ていない。
とはいえ製造者であるヤプールの弱体化により、そのクオリティも所詮は粗製。地球活動時代のそれとは比べ物にならず、性能はオイルドリンカーにも劣る。
……が、しかし。元より兵器を上回る怪獣、そしてその怪獣において“生殖”に割くリソースを全て“破壊”に回したのが超獣である。その加害性の高さたるや、数秒後には火の海に帰した街並みを見れば瞭然だろう。
「ほう、これは……ヤプールもバカにできませんねぇ」
内1体、中空に浮かび燃える街を俯瞰する指揮官
《ヤプールさん!貴方の超獣が暴走していますが、コレはどういう事なのですか!?……え?ちゃんと操縦権は此方に移してある筈?嘘を仰らないでください、全ての命令を受け付けませんが?!》
(ものの見事にテンヤワンヤ。いい気味ですよ)
入ってくる通信から聞こえる元雇い主の声は状況を掴めていない様子。それも当然、魔導卿は“待機状態の超獣達が突如暴れ出し、自分以外の管理者を踏み潰した。自分ももうダメだ”という旨の通達を残して情報を途絶したからである。
全ては地下に眠るTUFIRを独占する為、今後の利益という利益を総取りするため。その為に手中の駒には最大限暴れて貰わなければならない。出来る限り深い爪痕を、出来る限り色濃く残す形で!
(自分の責任下にある超獣であれば、モネラも無視なんか出来ませんでしょうからねぇ……む?
)
その最中、魔導卿の視界に入ったのは逃げ惑う子供。自分たちの方向を向いた超獣に恐れおののき、腰を抜かしながら遠ざかろうとしていた。
その様子に、魔導卿は都合が良いとばかりにほくそ笑む。
『悲劇は甚大であればある程に人の心を叩く。モネラ共の心証を下げる為にも、幼子には惨たらしい遺体になってもらいましょうッ』
爆死はさせない、死体が残るようにと実弾を選択しわざとズレた位置へ照準するいやらしさ。1秒後にスクリーンに映し出される惨状を予見し、魔導卿が引き金を引こうとしたその刹那、
一閃。
「ァああ!?」
発射の瞬間、天上より貫通狙撃。機能を停止したメインカメラからの信号が途絶え、戸惑ったその瞬間を突いて
魔導卿には未だ分からない。この一連の二撃が、たった1人の人物によって行われた事を。
その人物がたった今、大気圏外より急降下し──狙われていた子供達を庇うように、急制動を掛け空中に静止した事を。
『……ここまでの騒ぎ、流石に看過する訳にはいかんからな』
そう告げるやいなや、外套を翻し内蔵火器を展開。全砲門を超獣、その急所と思われる全部位にロックオン。
忘れてはならないが、彼の本業は殺し屋である。暗殺者である。紛う事なき影の仕事、ならば素顔を晒すのは本来悪手だ。
なのに彼は出てきた。リスクを冒して出てきた、それは何故なのか。
義憤?
ヒーローごっこ?
自己満足?
それとも、リスクを天秤にかけても得るべき利益がそこにあったから?
『よく見ておけよウォルナ。コレが
答えは誰にも分からない。彼が何を考え、何を思い、その愚行に及んだのか──しかし、過程はともかく、齎された“結果”は誰の目にも明らかであった。
閃く数多の砲火。それが超獣達の巨躯を穿ち、地に体を打ち据えさせたのだから。
瓦礫の上に立ち、天使は一部始終を記録する。これから起こりうる総て、知覚し得る森羅万象を蒼き瞳に修めながら。
【BGM】Meteor-ミーティア-