絶対UFZに入りたくないバルタンVS絶対加入させたいゼロ 作:スターク(元:はぎほぎ)
────猿は、嫌いだ。
差し伸べられた手から掠取する事、それしか考えられぬ野蛮な猿など。
大嫌いだ。
「さてどうしようか」
「どうするかのう」
トンネルに引き摺り込まれて早一日。この暴走気味なUSA准将と共に、余は気付けば地下深くまで迷い込んでしまっておった。真っ暗闇の中で地表からの振動に揉まれておったら、いつの間にかこのザマじゃ。
「地表の民は大丈夫じゃろうか」
「あんな大惨事だ、流石にUSA軍が介入し鎮圧している筈……が、電波妨害か何かの所為で情報が入って来ん」
「そりゃあそうじゃろうて」
言いながら見上げれば、目に映るのは真っ白な廊下。どう考えても排水トンネルと地続きに存在してはいけないそれが、我らの前から遠く先まで続いておる。
……
「来たぞ。“アレ”を出せぃ」
「すでに用意しているぞ」
エスメラルダ王家に伝わる気配感知術、それにより捉えた何者かの接近。対し、余らはマントを被り隅に控えた。
近付いて来るは、モネラ星人。個体数にして3人。
「凄いのう。
「名だたる戦争リクルーター。奴が関わっていたのなら、この規模も頷ける……どうやら仲違いの末に拘束されたようだが」
すぐ隣を通り過ぎるが、尚も奴らは我々に気付きはしない。それもその筈、このマントは
「彼奴め、問答無用で引き摺り込んだ割には手厚いのう」
「こんな高性能なステルスマントは未だ見た事がありませんな」
余をこの深層へ誘った謎の男。暗闇の中で手渡された荷物の中に、この不可思議な潜入道具は仕込まれておった。
それだけではない、光学カメラに暗視スコープ、なんなら組み立て式の爆弾に携行銃火器まで。加えて1週間分の食料までと、いっそ至れり尽くせりと言っても良いぐらいの潜入キットじゃ。用意良過ぎじゃろ。
「シッ。音までは消せない、注意を」
「スマヌ」
(ほう、バレットとな)
裏の事情に一定以上馴染みがあれば、その名はスライ以上によく聞く物。というか、思いっきり“表”でも聞いたりする程の人物じゃ。
本業は暗殺、得意とする手法は狙撃。依頼遂行確率は99%で、残り1%だって依頼側の不義理で意図的に失敗した物しか無い。そもそも受ける依頼を選り好みしているので件数が少ないという側面もあるものの。
じゃがそれ以上に……彼奴は“学者”として名を馳せておるのが異常と言えた。
(最新の論文はバラージ伝説の出自についてじゃったか。その前は次元波動超弦励起縮退半径跳躍重力波超光速航法*1……専門がどこなのか分からん奴じゃ)
裏社会の人間なのに、ふとした時にスルッと公の学会へ研究成果を発表しとる矛盾塊。しかも無駄に画期的じゃから無碍にもし辛い、何を考えとるのか意味分からん!
でもまぁ、表立って秩序の破壊に与するような事はしてないので、警戒こそされどマークされもせず。そんな奴が本当に戦乱を好まず、かつ陰謀を企てるモネラ共と敵対するというのなら……交渉の機会を得たいものじゃの。
「……行ったようだ」
「気配が無い方に進むか。あの部屋じゃ」
クリアリングを行う准将の後に続き、入った先にはコンピュータらしき資機材が立ち並ぶ無機質な部屋。これは……ハッキングチャンスじゃな?
「繋ぐZOY」
「至れり尽くせりで逆に気味が悪くなってくるな……」
これまた謎の男から押し付けられた荷物に入っていた、圧巻の全機種対応を誇るデータ抽出機を手近な穴へ挿入してやった。いやもう、准将が言ったように気味が悪いとかそういうレベル……というか、余達絶対いいように動かされとるよな?むちゃくちゃ利用されとるよなコレ?
「ほぼほぼ無準備でここまで来てしまった我々の落ち度だ。甘受して、逆に利用してやる気概で臨む他あるまい」
「まーそれはそうなんじゃが……お、取れたぞ。見るか?」
「見る見る」
そうしてる間にコピー&ペーストが終わり、マントを被りながら2人して画面を覗き込んだ。
この時までは、窮地での開き直りでどこか高揚していた。なるようになれと、そう意気込んでいた。
「……え?」
「は」
背筋が冷える。
肝が縮れる。
そこに記された内容は、この銀河を揺るがして余りある物だった故に。
記憶の中の故郷は栄華に満ちていた。
天に届く摩天楼、星を繋ぐ橋、空を駆ける道。想像し得る総てを現実化する叡知が、この星にはあった。
「爺や!」
「おや殿下、今日も麗しゅう御座いまして」
「
付き人を置き去りにして道から飛び降り、慣れ親しんだ腹心の元へ。衝撃など微塵も感じさせない軟着陸は、偏に重力を完全制御する技術の恩恵だ。
そんな一族を、星を統治し、開発の最前線を往く存在。今しがた跳んで跳ねた少女の父こそがそれだった。
「王は最新発明の進捗をご覧になられております。ここからでも見えますよ、ほら」
「もしかして、アレのこと?」
「左様に」
指さした先、地上の大工場から次々出てくる物達。しかしどれも金属質な肌を持ち、彼女の姿とは似ても似つかない。
「えーっと、検索検索……“マシンミュータント”っていうのね」
「我々は元来貧弱。それを補う形で知能が発達してきましたが、当発明はそれを開発し得るポテンシャルを秘めていると言えるでしょう。アレは我々の
「肉体を量子化して機械の体に転送・遺伝子情報を回路に焼き付ける事で動かすのね。でもこれ、倫理的な側面に不安が残るのじゃなくて?自己同一性の確認試験が行われてないようだけど」
「そこは後から幾らでも改善できます。何よりこの技術が確立されれば、我々は“猿共”を恐れる必要がなくなりますので」
そう話し合う頭上を、人影が高速で通り過ぎて行った。箸も道も使わない、道具に頼らない生身での飛翔。その有様は、叡知による発展を嘲るようですらある。
100年以上前、母星を失った流浪の異邦人。10代前の王がその境遇を憐れみ、この地への居住を許した超人達だ。
その手は岩を砕き、その蹴りは真空を生み出し、その瞳は満ちた月から狂気を注がれる種族。全てにおいてまるで彼らと真逆な、野蛮な“猿”──と、王とその腹心達は評している。
「同じ星に生きる方々なんですから、見下すのはいけませんよ。貴重な労働の担い手となってくれてる訳ですし……と、お母様が言ってました」
「妃殿下は宥和派に御座いますからなぁ」
憎々しげに見上げる爺やと飛び去る移民。少女はその両方を交互に見遣ってから一つ息を吐く。
受け入れるか拒むか、市民権を与えるべきか否か。それで社会が紛糾する現状、その狭間に彼女は生まれた。未だ成人には程遠い幼児だけれど、この断絶が禍根を産み得る物で、そしてそれらの間を取り持つ事が将来の自身の役割だとも。
「難しいね」
「ご安心くだされ。このライチー、猿共の魔の手から姫様を必ずお守り致しましょう」
「えーっ?爺やはもうヨボヨボじゃない、頼れないわよ」
未来を憂いながらも、今目の前の談笑に身を委ねていた。そんな折の事だった。
無限に聳え立つ軌道エレベーターが、一つの
「───ぇ」
「!!」
見遣ればそこには宙を舞う一団。屈強な肉体と、煙を上げる掌を都市に不埒者達の姿があった。
それは、歴とした“反乱”で。
「ひ、姫様!ライチー閣下!各地で一斉に暴動が……諜報部によれば、暴徒の中心には“3世”の存在!!」
「……猿がッ!!」
崩れゆく繁栄の象徴と、それに押し潰され逃げ惑う民達。それを眺めるしか無かった無力な幼子は果たして、その後何をしただろうか。
確か、爺やに逃がされ、母を殺され、父と
故郷を蹂躙される痛み、我が物とされる辱め、誰も助けられない苦しみを抱えて、
そして、無様なまま追い出され───
───あ。
これ、私だ。
・
・
・
(カッ…ぃ゛、ゥぁあ゛……ッ!!)
脳神経をほじくり返されれば、苦痛で逃避もしたくなる。知らず回顧していた走馬灯もその一環だ──敢えなく現実へ引き戻されたけれど。
そんな苦悶など度外視するかのように、この唇はひとりでに言の葉を紡ぐ。私の意思とは関係なく、私の尊厳など介在する余地も無く。
全てはそう、ただ利益を。他者を傷付け、搾取し、
(──カ、ハッ……)
「さて、我らがTUFILの仰せのままに。とでも言いましょうかね」
「施策指南に関しては変わらず冴え渡っているな。お陰で儲けものだ」
ようやくその時間が終わり、髄を蝕んでいた苦痛から解放される。私から出力された提言を受け、
……が、しかし。
「だからこそ失う訳にはいかん。TUFILよ、次の質問だ。“USAからの追及を逃れる手段を導き出せ”」
(お、ぇえッ…!)
「駄目だ駄目だ駄目だ!あの星には我らの毒ガス工場がある、他の手を用意しろ!!」
(
「まさか暗殺しろと……!?」
「絶対安全でない手法など要らん。我々が欲しいのは綱渡りでない完全勝利だ、それが出るまで検索し直せ!!」
(そんな……!)
欲望は留まる事を知らない。連続での質問提起も常の事で、けれど私にとっては終わらない地獄への合図そのものだ。特に無理難題を突き付けられた時の演算は長時間かかり、その間ずっと苦痛を味わう事になる。
でも私は拒めない。悲鳴を口に出す事すら許されない。
何故なら救いようの無い事に……この有様は、私自身が
「無駄な負荷をかけてはいけません。また脳洗浄する羽目になりますよ」
「リーダー!しかし……」
その時、苦痛が止まる。けどそれが終わった訳ではない事など痛いほどに分からされてしまっているので、安堵は皆無。
でもいつだって、不幸は、苦難は、絶望は、想定を超えて迫ってくるものだ。何度味わっても慣れる事の無い痛みは、幾度も私をドン底へ突き落してくる。底など無い。
「優先度の高い質問からです──“バレットの排除”。その方法を教えなさい」
……嗚呼。
だから、こうなるから、この星へ来て欲しくなかったのに。
この星へ呼びたくなかったのに。
「バレットの戦闘データは既に取ってあるでしょう?オマケに避難船を誤発進までさせて収集させたんです、足りないとは言わせません」
催促する声に、抗えない。
彼を殺す手段を考える脳を、止められない。
いっそ意識を絶ってしまえば、瞳を閉じて現実から目を逸らせてしまえれば──それすら、出来はしない。
口が動く。彼の息の根を止める手段を告げる。その結論に至った経緯すら赤裸々に。
「……なにぃ?」
止められない。
殺したくなんかない。
死なせたくない、のに。
バルタン星人←