絶対UFZに入りたくないバルタンVS絶対加入させたいゼロ 作:スターク(元:はぎほぎ)
「君は誰だ?」
彼女は突如現れた。翡翠の髪をふわりと広げ、真っ暗闇の中に輝きながら。
その手が翳されれば、瞬く間に拘束は解かれ。
触れられた傷は、痛みを訴えなくなり。
その眼差しに見つめられるだけで、心の奥底から安らぎさえ湧き上がってくる。
「生命エネルギーに異常は見られん。此奴もまた
そんな彼女の背中を追えば、倒れていた青年を見つけて保護する事にも成功。その間にも彼女は宙に佇み、我々を穏やかに見下ろしていた。
まるで窮地に立たされた人々を導く天の遣い……天使だ。
「……」
「しかし会話は儘ならんようじゃの。残念じゃ、妃に迎えたい美しさなんじゃが」
「発情してる場合かウツケ王」
「初対面で天使呼びするお主も大概じゃろが」
だが何を話し掛けても、何を問うても彼女は首を横に振るばかり。どうやら言語能力に欠くようだ。
一方で機械にハッキングする能力があるようで、次いで彼女が起動したモニターに映ったのは地上。
更にそれと戦い、人々を救助する巨影──まさか、アレが噂に聞く“バレット”か!?死んだと聞いていたが生きていたのか!!
「しかしどうするのじゃ。このままだと此処もいつ押し潰される分からんぞ」
「実際、一度潰されたようだからな。しかしあの地獄絵図にノコノコ出ていくのも余計危険、叶うならこの地下基地でシェルター代わりになる物があれば良いが……っ!?」
「うぉっ?!!」
今後の動きを決めかねていたその時、まるで瞬間移動したように……否、瞬間移動してきたのだろう、天使の瞳が目と鼻の先から俺達を凝視していた。今の逡巡に対し、まるで名案がある事を示してくるかのようにだ。
そしてその勘を裏付けるように彼女は舞う。我らが充分追い付けるスピードで宙を舞い、基地の更に奥深くへと消えていく。
「──っ、追おう!」
「じゃの!!」
今、彼女の救いの手以外に頼れる者は無い。それを信じて、土埃の湧く一室から要救護者を背負い飛び出した。
光を、それを纏う天使を、希望を追う。追って、走って、降りて潜って、そして────
「ここは……?」
辿り着いたのは──モネラが擁したこの地下基地の、再深部。
培養カプセルが立ち並ぶ、異様な一室だった。
カプセルの前で天使は笑う。ここなら大丈夫だと、我々を元気づけて……その姿を消す。礼を伝えさせてくれる暇も無く。
「なっ」
エメリグが驚いたのは天使の消失に対してではない。いやそれもあるが、主要因ではない。
天使が佇んでいた一個のカプセル。その中に漂っていたモノを目の当たりにしたからだった。
134!
135!!
136!!!これで此処は全部──いやまだだ、137!
(キリが、無いッ!!)
リンク地上での超獣対応は困難を極めていた、なんてレベルをとうに超えていた。なんせ因子反応はそこらじゅうで活発化してて数え切れないし、超獣の大きさも2mから70m、なんなら大量に摂取しただろう奴は100m級まで多種多様ときている!大きければ索敵も拘束も容易いものの、小さいと見つけるのも一苦労だっ!!
「ありがとう、ありがとう!!」
「どこへ連れて行くの?!」
「ママぁ、どこぉ!!?」
(避難民を鋏に詰め込んで飛び回るのも限界か!どこか安全な場所に一旦降ろして、ッあぁ!?』
考えている間にも攻撃は来る。左足を触手に絡めとられ、飛行中にバランスを崩してしまった。
暴走状態にあっても元から戦闘姿勢をプログラミングされているのか、超獣達はその隙を見逃してくれない。高度を下げた俺に容赦なく飛び掛かり、取り付いてくる。
『この、放せ──!!』
もがきながら、しかし目の当たりにしてしまった。至近距離で組み付いてきた超獣の顔面、無意識に目を逸らしてきたそれを。
「おォぎゃああああッ」
(人間の、顔……ッ)
「たずけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
苦悶に歪んだ面影を残し、涙の残滓すら振り撒いて獣が吠える。一体だけでは済まない。オレにしがみついてきた超獣も遠目に取り巻く超獣も、全て。
かつてこの星で、真っ当に命を営んでいた者達だ。もしくは他所の星で平和に暮らし、祭りを機に訪れた無辜の者達だった筈だ。そんな彼らは今、俺達の陰謀に巻き込まれて、地獄に泣いている。
そんな彼らを、俺は死なせるのか?
命を奪う権利があるのか?
殺せる、のか?
『────恨めよ』
殺せる。
ハサミ以外の全身から小型分身を射出し、相手全員を跳ね飛ばして脱出。一瞬遅れてのオールレンジ射撃で全員を叩き落とした。
権利ではない、義務だ。罪を重ねて贖うべき物だ。俺は今その中に在る事を忘れるな。
だからせめて……
『これで……ッ』
地表でもがく超獣達へロックオン。両腕以外の全方向からフルバーストを放ち、その命を奪おうと俺は────
────できなかっ、た。
眼前に割り込んできた小さな、でも強い光。その美しさに制されたから。
『ウォルナ!?なんで、』
『だがやらなきゃいけないんだ!!』
片や身長1.5m強、片や50m。そのサイズ差を逆転するかのように、ウォルナの意志が俺を圧倒する。押されて二の句を継げない俺に、彼女は一転して笑い掛けた。
「……お前、それってつまり……」
「?────
そうして、彼女の掌が頬に触れた瞬間……世界が、
赤はより赤い赤色に。
青はより青い青色に。
黄色も、緑色も。
目に映る総ての事象の輪郭がクッキリと浮き立って、耳に入る総ての音が騒がしいのに煩くない。五感どころか第六感まで冴え渡るようだ、まるで宇宙が視えるかのような。
そうだ。
何もかもを掌握した、まさに全知その物。そうか、これがお前の……“力”!!
……なるほど。モネラが驕る訳だ、スライが欲する訳だ、ヤプールが自棄になる訳だ。星系丸ごと一瞬で把握し、全ての情報を統合する知能だなんて。
だが俺は奴らとは違う。何がって?
ウォルナは道具なんかじゃない事実を、それ故の
その心強さを証明するように、放たれた弾丸──赤色冷凍光線の嵐が吹き荒れる。空を裂き、地を這い、障害物の隙間を縫うように潜り抜け……
爆音が止む。その中を小型分身の群れが派遣され、隠れていた避難者を確保。安全地帯へと移送していった。
俺達は次の戦場へ。肩に乗る彼女と一緒なら……誰も敵じゃない!
・
・
・
バルタンに生まれて初めてだった。ここまで高揚し、希望をこの胸に体現できたのは。こんなに熱くなったのは。
俺に欠けていたピース、それがウォルナだと確信できた。それが
何だって超えていける気がした。実際、立ちはだかる総ての障壁を、俺達は難なく越え切ったように思えた。
制圧したんだ。惑星リンクを。
総ての
したかったんだ。
『《……》』
二人黙して、相対するのは凍結停止した人々と超獣の山。もう意味は無いので、ウォルナとの精神共有も切っていた。
仮死状態にある彼らを、元に戻す手段を探さねばならない段階だ。
けれど。
《……凍結状態は、》
『半日も
人間を日常の状態に回復させる最大限度は12時間。
超獣が仮死から復活するまでの最大猶予も12時間。
とてもじゃないが、時間が足りなかった。俺達が最後にぶつかって、壊せなかった壁がこれだった。
そして問題はそれだけじゃない。人間達を分析すれば、その全員に僅かな──だが、今も着実に強くなりつつある
彼らは感染を免れていた訳じゃなかった。ただ、因子オーバーロードでも即座に反応しない程度に、超獣化が遅れていただけだったんだ。
つまり。この場にいる全員、手遅れ。
それだけじゃない。まだ終わらない。
超獣因子は、
《惑星リンク……地核にて因子反応増大。この星も、もう》
『……!!』
星が超獣化しかねない。あり得ない話、と笑えればどれほど良かっただろう。
こんなの、もう…………
『諦めるな!!』
折れそうになった自分を即座に戒めた。ここで放り出してどうする、折角あの苦境を不殺で切り抜けたんだぞ!ここで結局元の木阿弥だなんて、そんなバカげた話で終わらせて堪るか!!
考えろ、考えろ!頭だけは無駄に良いんだろバレット、バルタンの叡智を活かせ!
殺す以外の、壊す以外のハッピーエンドの道を、ここまで導いてくれたウォルナの為にも絶対に────
《あるじゃないですか、簡単な方法が》
──ウォルナ。
違うんだ。
《ほら、そこと……》
無いんだよ。ここには。
俺が持ってる
だから。
《……
違う。
自分を指差すな。
違う、違う、違う違う違う違う違う……!
《プロトコアの自爆で、全てを時間流の遅い異次元空間へ封印します。その制御をどうか、私に》
「ふざけるなッ!!!」
その手だけは取れなかった。取りたくなかった、絶対に。
でもウォルナの決意は、強い覚悟はその瞳に宿っていて。俺の駄々では到底、止まりそうも無く。
夕暮れの紅が照らす中。暗い沈黙が俺達を、永久に